10年後、思い出したくなる物語


しまった。

その話を聞いた事は内緒って言われてたんだ。


「出どころは予想つくけど」

そう言って沢崎くんは笑った。



「いや、えーっと…あ、アイロンしなきゃ」


私が誤魔化すようにアイロンに手を伸ばすと、慌てたからか、熱くなったプレートに手の甲が一瞬触れてしまう。


「熱っ」


「え?何してんの…」


沢崎くんが、すぐに作業台の隣にあった水道まで私の手を引いて、勢いよく蛇口を捻った。

沢崎くんの手も一緒に冷やされていて、制服の袖が水浸しだ。


「ごめん、袖がベタベタに…」


「いいよ別に。痛い?」


「大丈夫…」


本当は少しヒリヒリするけれど。



しばらく流水で手を冷やしながら、握られたままの手首と沢崎くんの上履きが同時に視界に入った。

すごく近距離にいることに、急に心拍数が上がる。

チラッと沢崎くんを見上げると目が合ったので、

「あの…別に、沢崎くんの過去を探ろうとしたとかじゃなくて…」と、何も言われてないのにまるで言い訳してるような台詞がこぼれた。


「分かってるよ。どうせ末次さんが意味深な言い方したんでしょ。
大した過去でもないし聞かれたら答えるっていうか…別に隠してないんだけど」



「そうなんだ…」



「うん。ていうかさ、国枝さん」



再び沢崎くんと目が合った。