わたしは顔をしかめた。
 それはどう考えたって、マズイでしょ。知らない男の家についていけるわけがないじゃない。
 おせちを食べるだけで終わるとは思えないし、ついてく時点で何をされても文句を言えなくなる。

「気にせんでも、変なことはせえへんよ。ゆきずりの女抱くほど、女に困ってへんし」

 その言い草にカチンときた。腰に手をあて、偉そうに言い返してしまう。

「あっそう。じゃあ、連れてってもらおうじゃないの」

 売り言葉に買い言葉ってやつだ。
 わたしだってゆきずりの男なんかとどうこうなりたいわけじゃないけど、女としての価値がないと言われてるようで、むかついた。

 そりゃあ、普段はトレーナーにジーンズなどカジュアルな格好で、仕事に行くときはブラウスにカーディガン、パンツなどで、どちらかと言うと手抜きな格好ばかりだけど、今日は違う。
 久々のデート、しかも年初めだから、気合いを入れてオシャレしたんだ。

 明るめのカラシ色のセーターに、灰色と黒のチェックのスカート、白いコートを着ている。足元は薄手の黒タイツと黒のストレッチブーツ。
 髪の毛だって、クリスマスの直前に美容院に駆け込んで、腰まで伸びた髪を切りそろえ、ふんわりとパーマをあてて、赤系の焦げ茶に染めた。
 眉も整え、化粧もいつも以上に気合いを入れた。
 女として見れないほど、ひどくはないはずだ。

 男はふっと笑うと、背を向けて歩き出した。
 ついて来いってこと?
 重箱はわたしが持ったままだ。受け取らないことで、わたしが逃げ出さないように計算してるように思えて、一層、むかついた。
 このまま、男の後を追わずに、自宅に帰ってやろうかしら。

 歩いて5分ほどのところにわたしの住んでいるマンションがある。
 でも、逃げだしたと思われるのは癪だし、この男について来られても困る。
 仕方なく、男の一歩後ろをついて歩いた。