伸ばした腕をどうしたらいいのかわからなくて、戸惑った。

「あの、だから、これ……」

 男は顔をわたしの前に戻すと、ポケットの両手を突っ込んで訊いた。

「ここやと寒いし、どうする」
「ここやとって?」

 どうする、と訊かれても、彼が何を尋ねてるのかわからなかった。
 ここだと寒いってことは、食べる場所を探してる?

「おせちはいらないから、家に持って帰って、全部食べてくれていいよ」

 食べてもらいたかった人には受け取ってもらえなかった。
 それどころか、おせちを作る女なん重いって、そんな家庭的な女なんて求めてないって言われたんだ。
  当分は作ろうなんて思わないだろうし、こんな嫌な思い出のこもった重箱もいらない。

 わたし達のあいだを、びゅっと冷たい風が吹き抜ける。
 手袋をしていない手から体が冷える。
 早く家に帰りたくなって、受け取ってもらえない包みを男の胸に押しつけた。

「入れ物ごと持って帰ってくれて構わないから!」

 それでも、男は受け取らない。
 欲しいって言っておいて、一体、何なの?
 顔をあげていぶかしげに男を見ると、白い歯を見せて笑っていた。

「そんな冷たいこと言うな。一人で食べるんは寂しいし、付き合ってくれや。それがここにあるってことは、あんたもまだおせち食べてないんやろ」

 図星だった。
 今年は一人寂しく食べなくていいんだと思ってたんだもん。健吾と食べるのを楽しみにしてたから、家でも食べてきてない。
 せいぜい、作ってるときに少し、味見でつまんだくらい。

「……わかったわ。でも、ここじゃなかったら、どこで食べるの? 店に持ち込んだら、怒られるわよ」
「だよなぁ」

 男は顎に手をあてて、考える仕草をした。

「……仕方ない。俺の部屋に来るか」
「は?」

 悩んだ末に男の出した結論の驚き、ぽかんと口を開けた。

「あなたの、家?」