誠司さんはまじめな顔をして言う。
 その言葉の意味をすぐには理解できなくて、頭のなかで繰り返した。

「……もしかして、いないの?」
「ああ」

 頷く彼を見て、体の力が抜けた。

「当たり前やん。そこまでデリカシーのない男ちゃうつもりやで。もちろん、女遊びだってせえへん。好きな女がそばにいてくれたら、それでええ」

 誠司さんは仏頂面で言った。かすかに眉が上がっていて、怒っているようだ。

「あ、あの、初めて会った日に女に困ってないって言ってたから、てっきり……」

 彼女なのか、遊びの女なのかわからないけど、誰かがいるんだということを、あの綺麗な女性を見たときに思い出したんだ。

「それ、フォローになってへんやん。俺のこと、そんな最低な男やと思ってたってことか」
「あ、ごめんなさい!」

 口を開けば開くほど、どつぼにはまる気がして、謝ると口をつぐんだ。
 誠司さんははぁっと息をはいて、わたしから手を離すと、スーパーの袋を代わりに持ってくれた。

「あんなん嘘や」

 言いながら、わたしに背を向けて歩き出す。

「嘘?」
「ああ、ほんまはそういうこと、彼女おらへんこの一年はしてへん。正直にそう言うたら、俺が襲うんじゃないかってカスミは不安になるやろ」
「う……うん」

 それはそうかも。実際、あの時は誠司さんの言うことを信用していいのか、かなり疑った。

「俺はよう知らん女抱く気ならへんけど、会ったばかりのカスミに信じてもらうんも無茶やし。そやから、女に困ってないように言ったほうがカスミは安心すると思ったんや。それに、気強そうな女に見えたから、怒らすような言い方したほうがついてくるかもってな」

 話を聞きながら、夜に溶け込んでいまいそうな彼の広い背中を眺めていた。
 どんな顔で話しているのかはわからない。

「どうしてそこまでして、一緒に食べようと思ったの?」
「最初は、捨てられるおせちがもったいなくて声かけたんや。ずっとお正月らしいことしてへんかったから、あのとき言ったとおり、捨てられるくらいなら俺が食べたいって思った」

 誠司さんがゆっくりと振り向き、わたしの瞳を見つめた。
 たった1メートル先から彼に見られていると思うと、血が騒ぎ、喉がからからになった。