その後は思った以上に簡単だった。
 彼からのメールは胸が痛むので見ないようにして、電話はもちろん取らない。
 朝は何本か早い電車に乗るようにして、定時で会社を出る。

 誠司さんの仕事は相変わらず忙しいのか、行きを誠司さんが家を出る時間より早くすれば、帰りに駅ではち合わせすることはない。
 2日前に1度だけ、帰りにショッピングをしていていつもより遅くなったけど、その時も会わなかった。

 ショッピングの戦利品は黒のシンプルなスカート、紺色のストライプスカート、裾に小花模様のついた茶色のスカートの3着だ。だいたいは日替わりで履くようにしている。トップスもレースがついたものなど、可愛いブラウスを何枚か増やした。

 メールを送った日から数日は夜に誠司さんが訪ねてきて、しつこくチャイムを鳴らしてくれたけど、それも無視した。
 わたしのことを気にしてくれて、とても嬉しいのに、あのとき見た女性の顔を思い出すと胸がわしづかみにされたように痛んで辛い。

 彼のことは好きなのに、彼の一番になれないからといって拒否してしまっている自分になんだか笑えた。
 バカなことをしてる。
 そんなことはわかっている。
 だけど、もっと自信がつくまでは。あの彼女から奪えると思えるくらいにならなくては、と変にこだわってしまうんだ。


 そうこうして、メールを送ってから5日が過ぎ、金曜日。
 仕事を終えてマンションに帰りついた。

 部屋に入ってすぐにテレビをつけると、ニュース番組が流れた。定時に仕事が終わってまっすぐに帰ったので、18時半から19時までのニュースの時間に間に合ったのだ。
 テレビをつけたまま、部屋着であるグレーのシンプルなコットンワンピースに着替えていると、ニュースキャスターが桜情報を読み上げた。
 もう関係ないと思っていても、耳はその情報を拾ってしまう。

『月曜日の天気は雨。満開の桜の見ごろは今週いっぱいまでとなりそうです。お花見をされる方はどうぞお早めに』

 やはり今週末が最後のお花見日和。
 ドキンと心臓がはやる。
 でも、関係ない。わたしにはもう関係ないんだ。
 落ち着け、落ち着け。
 顔を横に振って、心を落ち着けようとした。
 何か、考えないと、何か、いつも通りなことをしないと、頭は桜と誠司さんでいっぱいになってしまう。

 そうだ、晩ごはん。
 気を紛らす術を思いつき、早速立ち上がった。

「あ」