その返答は予想外なもので、彼はあぐらをくんだ両膝の上に手をおき、「お願いします」と頭を下げた。思わず、わたしも頭を下げ返す。

「こ、こちらこそ」

 誠司さんは頭を上げると、和やかにお雑煮を食べ出した。
 しかし、わたしはそれどころじゃない。
 出会ったばかりの男にとんでもないことを言ってしまったんだ。

 ど、ど、ど、どうしよう。
 考えれば考えるほど、自分への呆れと羞恥心でいっぱいだった。
 どうしてご飯を作ってあげたいなんて、また会いたいなんて、思ってしまったんだろう。

 誠司さんのことは気になっている。それは自覚がある。でも、もしかして、もう気になっているなんてレベルではなく、本気で誠司さんに惚れた?
 いや、そんなわけない。会った日に惚れるなんて、どれだけ惚れっぽいんだ。

 考えを振り切るように、お雑煮を一気にたいらげると、「ごちそうさま」と声をかけて、キッチンへ立った。
 椀を洗い終わり、部屋に戻ると、入れ替わりに誠司さんが立つ。
 それを横目で見ながら、コートを羽織り、かばんをもった。

「誠司さん、ありがとうございました。もう帰りますね」

 誠司さんに一声かけて、彼の横を通る。
 すると、椀を洗っていた彼は水を止めて、わたしを見た。

「送っていくよ」
「いえ、近所ですから大丈夫です」

 断ると、日中ということもあり、誠司さんはあっさり引き下がった。
 靴を履こうとしたとき、不意に忘れ物に気づいた。

「あ、そうだ。余った材料は持って帰りますね」
「おう、悪いな」
「いえ」

 そういう約束だった。誠司さんはここで料理をしないので、置いていても腐らすだけだ。
 冷蔵庫の前まで戻って、そこに置いていた買い物袋を持った。

「お雑煮の汁は残ってるので、よかったら餅を入れて温めて、明日にでも食べてください。餅は冷凍庫に入れてます」
「ああ、ありがとう」
「あと、お弁当は4日からでいいですか?」

 会社によって仕事はじめの日が違うので、確認をとった。

「そやな、4日からでお願いできるか」
「わかりました。朝の7時くらいには持ってこれると思いますが、時間は大丈夫ですか?」
「家を出るのは8時くらいやから、カスミがはよせなあかんってわけじゃないなら、もっとゆっくりでもええで」
「それなら8時前に持ってきます」

 会社はそう遠いわけじゃないので、ゆっくりできるなら、その方がいい。
 最後にまた頭を下げて、部屋を後にした。

 なんとなくブラブラしたくて、自分のマンションを通りすぎ、昨日の公園まで足をのばした。
 昨日は気付かなかったけど、黒っぽい緑の草木に混じって山茶花が赤い花をつけていて、冬の公園も悪くなかった。

 かばんから携帯を取り出すと、電源を入れた。着信の一覧を開くと、やはり健吾の名前が並んでいる。
 今なら、健吾に何を言われたって流されない自信がある。
 わたしは今度こそ本当にきっちり終わりにするために、リダイヤルボタンを押した。