椀に盛りつけると、それを持ってテーブルに向かう。気づいた誠司さんがやってきて、代わりに運んでくれた。
 テーブルを見ると、昨日のおせちの残りも広げられている。

「すっげえ! ホンマにうまそうや」

 彼は歩きながら椀を覗き込むと、興奮した様子を見せた。わたしはそんな後ろ姿を眺めながら、彼の笑顔が想像できてしまって、クスッと笑みがこぼれた。

「一応、味見しましたけど、食べたことないのでちゃんと大阪のお雑煮の味になってるかわかりませんよ」
「どんな味だって、作ってくれただけで嬉しいねん」

 そう言いながらテーブルに椀を置き、座るとそわそわと肩を揺らした。
 わたしが向かいに座ったことを確認すると、すぐに「いただきます」と手を合わせた。わたしはそんな彼の様子を見守る。
 誠司さんは汁を一口すすると、顔をあげた。

「うまいやん! いつも食べてた雑煮と同じ味がする」

 顔を輝かせたかと思うと、椀に視線を落とした。

「……おかんの雑煮を思い出すな」

 口元はうれしそうに緩み、でも、目もとは寂しそうな彼を見ていたら、わたしも胸がぎゅっとなった。
 彼の故郷の味に近いものを作れたことは純粋に嬉しい。でも、彼に故郷のお母さんを思い出させてしまったことは良かったのかどうか。

 彼の食べたい『故郷の味』、それは母親の味。それを食べたことのないわたしがどんなに似せようと思っても、似るわけがない。誠司さんは同じ味と言ってくれたけど、本当に同じものではないに決まっている。
 わたしは余計なことをしてしまったんじゃないかな。
 不安になっていると、彼はほほ笑んだ。

「ありがとう」

 悲しさ、寂しさではない笑顔。落ち込みかけた気持ちは一気に浮上し、わたしもお雑煮を食べ出した。