「でも、こっちでは丸い方が珍しいですからね。もっと大きなスーパーだったらあるとは思うんだけど」

 このスーパーは一通りの物を置いてはいるけど、ひとつひとつの種類が豊富なわけではなかった。

「大きいスーパーなあ。わざわざそこまで行くのもあれやし……」

 誠司さんは諦めると、角餅をカゴに入れた。
 その手の動きを追いかけるようにカゴの中を見ると、彼の言ったものはそろっていた。

 あとは――出汁よね。
 乾物売り場で花かつおとダシ用の昆布を探した。

「出汁をちゃんととるねんな」
「うん、せっかくのお雑煮だし、あんまり手抜きしたくないのよね。お弁当とか手早く作りたいときは粉末の出汁の素を使うけど、やっぱちゃんと出汁をとったほうが美味しいもの」
「せやな、ありがとう。ますます楽しみになったよ」
「ううん、気にしないで」

 誠司さんのはにかみ顔を見るだけでも、手間をかける価値があるように思える。いつもは自分のための料理ばかりだけど、人のために作る料理って準備段階から楽しいんだ。

 全てそろったのでレジへと向かいながら、ふと思い出した。
 そういえば、亡くなった母は料理にこだわりがあったのか、きっちり出汁をとる人だった。お弁当にも冷凍食品を一切使わなかったので、わたしは今でも冷凍食品を食べることができない。美味しい手料理に舌が慣れると、冷凍食品の味が美味しいと思えなくなるんだ。

 そういった母の料理の影響もあって、化学調味料を使った出汁の素よりも、きちんと出汁をとる方が好きなのかもしれない。もちろん、最近は便利なもので、化学調味料無添加の出汁の素もあり、そういうのはまだマシなんだけど。

 そんなことを考えながらもレジに並び、清算を済ませた。
 お金はお礼なんだから払うと言ったのに、誠司さんに払われてしまった。これではお礼と言えるのかどうか怪しいけど、その分、がんばって美味しいお雑煮を作ろう。