「買い物行って、作ってだから、朝ごはんと言うより昼ごはんになっちゃうけどね」
「それはしゃーないよ。もう10時やしな。久々にのんびり寝てもうたわ」

 その言葉にクスッと笑いをもらした。確かに、どう考えても寝過ぎだった。
 誠司さんが何時に寝たのか知らないけど、わたしはアルコールの影響なのか、疲れがたまっていたのか、1日の半分は眠っていたはずだ。

「それじゃ、車出すから、一緒に買いに行くか」
「うん、ありがとう。じゃあ、洗面台借りるね」

 荷物を一人で持つよりは楽だから、ありがたく乗せてもらうことにする。

 彼氏の家に泊まるつもりでかばんに入れていた化粧ポーチとフェイスタオルを持つと、誠司さんに洗面所の場所を教えてもらった。部屋を出てすぐ左の扉だ。
 洗面所は、右側手前に洗濯機、その奥に鏡と洗面台、一番奥に浴室の扉がある。
 鏡を覗き込むと、目の周りのアイライナーやマスカラがとれて、パンダのような目になっていた。

「……ひどい顔」

 化粧は薄いほうだと思うけど、昨日は久々に気合いを入れてメイクしたせいか、化粧くずれがひどい。
 これを誠司さんに見られたのかと思うと恥ずかしい。
 幸い、ポーチにはメイク落としが入ってる。落とせばいいんだ。
 メイクと一緒に、健吾との思い出もすべて流し去ってやる。

 何度も何度もすすぎ、フェイスタオルで顔を拭いた。
 そうして現れたのは、腫れぼったい顔をしたノーメイクの自分。ため息をつきたくなる。
 誠司さんを待たせてはいるけど、むくんだ素顔を見られるのも嫌だ。軽く化粧はしよう。

 粗は隠したいけど、誠司さんには散々情けない姿を見られているので、彼氏の前でしていたようながっつりメイクである必要はないだろう。
 ささっと薄化粧をして、誠司さんの元へ戻った。

 入れ替わりで、誠司さんは洗面台へ消える。
 わたしは今のうちにと思い、かばんを持ってトイレへ向かった。

「誠司さん、トイレ借りるね」
「おお」

 昨日はトイレの場所を聞かずじまいだったけど、キッチンの向いのドアを開けると、思った通り、そこがトイレだった。
 扉を閉め、かばんから替えの下着を取り出す。
 彼氏でもない男性の家で下着を脱ぐことは抵抗を感じるけど、同じ下着を身につけているのも嫌だ。
 下着をかえてトイレを出たあとは、何食わぬ顔で上着を羽織って待った。

 ほどなくして、誠司さんが戻ってきた。
 はねていたはずの髪の毛はワックスで整えられている。
 彼は用意の整ったわたしを見ると、「行こか」と促して背中を向けた。