「スポーツ、好きなんですか」

 あまりに体がすごいから、話しかけられたこととは関係ないことを訊き返していた。

「ああ、我ながらすごいやろ」

 こっちを振り向くと、胸をパンと叩いた。

「触ってみるか、硬いで」
「え」

 さ、触る?

「ほら」

 腕を取られて、胸へもっていかれる。
 そっと触れた胸は温かく、そして硬かった。

「うわ、すごっ」

 思わず何度も押すように触る。
 健吾の胸はこんなに硬くなかった。胸ってこんなに硬くなるの?

「やろ?」

 誠司さんは嬉しそうにはにかんだ。

「俺、体動かすんが好きでな。暇な日はジム行ったり、平日もここで簡単な筋トレしてんねん」

 そう言うと、誠司さんは箪笥から黒いセーターを取り出し、着替えた。

「んで、何が食べたいんや」
「良かったら何か作りますよ」

 ベッドから立ち上がると、持ったままだったグラスと水をキッチンに持っていく。

「作るって、冷蔵庫の中には何もないで」

 グラスを洗おうと蛇口に伸ばしかけた手を止め、振り返る。

「何もないの?」
「ああ」
「えーと、開けてもいい?」

 わたしは2ドアの少し小さめの冷蔵庫を指さして訊いた。誠司さんが頷いたので、冷蔵庫の大きい方のドアを開けて中を見た。

 ……なんだ、この冷蔵庫は。

 そこには、缶ビールがぎっしり詰まっていた。
 冷蔵庫の中がほぼいっぱいになる量ということは、1ダース以上ありそうだ。
 ビール以外のものは醤油やソース、ケチャップ、マヨネーズといった調味料の類に、水のペットボトル、牛乳などで、食材は見当たらない。

 誠司さんの言った通りではあるけど、本当に何もないのも珍しい気がする。
 そういえば、いつの間にか片付けられているから忘れていたけど、昨日はキッチンにカップ麺の空カップや弁当の空き箱があったんだった。
 本当に全然自炊してないんだ。

「ねぇ、ちゃんと家でご飯を作らないと、体に悪いよ」

 振り返って誠司さんを見る。
 彼は着替え終わっていて、ジーンズを穿いていた。

「作らなって言われても、ろくに作ったことないから、一人ではよう作らんよ。実家にいるときにも、料理の手伝いをしたことないねん。それに、仕事終わりで疲れてるときに自炊する気おきへんし」

 誠司さんは頭をかき、視線を宙にさまよわせた。その姿を見て、そっと溜息をつく。

「とにかく、おせちを食べてもらって、泊めてももらったから、そのお礼も兼ねて、今日は何か作るわ。今からスーパーで食材を買ってきて、余ったものはわたしが家に持って帰るから」
「マジで!? ありがとう」

 わたしが言い終わるより一息早くのタイミングで、彼がわたしの手を取った。
 その顔はとても嬉しそうに輝いてる。そんな顔をされると、わたしまで頬が緩む。