「電話はたぶん元カレですけど、今は連絡をとる気にならないので」

 視線をおとし、前髪を触りながら、うすく笑った。

「……だからか」
「だからか?」

 何が『だから』なのかわからなくて、オウム返しに問うた。

「いや、料理な。和食作れる若い女の子なんて、今どき珍しいやん。俺の今までの彼女はせいぜいオムライス、焼き飯レベルや。おせちなんて、たとえ本を見ながらでも、よう作らんと思うわ」
「両親が事故で亡くなったのが高校2年のときで、それから一人で生活してきましたからね」

 仲のよかった祖父母は先に他界していたし、他の親戚は遠方に住んでいて、ろくに会ったこともなく、その家族の一員にはなれなかった。
 ただ、奨学金とバイト代だけで学費と生活費をまかなうことは厳しかったので、卒業までのお金は出してもらった。
 それだけでも、十分にありがたい。
 高校を卒業後は今の会社に入社して、がむしゃらに働いて、生活してきた。

「やっぱり外食は高くつくので、食費を浮かすために、もう8年くらいはずっと自炊してます。そりゃあ、多少はうまくもなりますよ」
「うん、いいんやないか」

 そらしていた視線を誠司さんに合わせる。

「そういう生活を恥じる必要はないやん。俺やったら、彼女がうまいご飯作ってくれたら嬉しいし、やっぱ嫁さんも下手よりうまい人がなってくれたらいいやろうなって思うで」

 その言葉に救われたと感じた。
 誠司さんの顔を見つめる。
 こういう人のそばにいたい。誠司さんがわたしを好きになってくれたら――。

「さてと」

 誠司さんの声で我に返って焦る。
 わたし、今、何を考えてたんだろう。会ったばかりの人だというのに。
 会って1日で好きになった経験はなく、自分で自分に戸惑う。

「腹減らへん? どっか食べに行こか」

 誠司さんはトレーナーを脱いで、よく鍛えられた肌を出した。
 ほどよく厚い胸板、割れたお腹、引き締まった腕。
 マッチョというよりはカッコいいと思えるような、ほどほどの筋肉がついてる。細マッチョというやつだろうか。
 わたしは思わず、誠司さんの体をじろじろと見てしまった。