味見では普通だったけど、冷めて辛くなったのかな。
筑前煮をとって食べてみた。その味はいたって普通。甘辛くて美味しい。辛すぎるということはない。今までの彼氏にだって辛いと言われたことないのに、誠司さんの口には合わないのだろうか。
食べながら考えてるうちに、眉間にしわが寄っていたようで、誠司さんが慌てて、大袈裟すぎるほどに手を横に振った。
「ちゃう、ちゃう、カスミの味付けが悪いんやない。しゃーないねん」
必死になって言ってくれてるのは伝わるけど、その意味がわからなくて、首をかしげた。
誠司さんは苦笑する。
「カスミのせいじゃないって言ったねん。これがカスミの生まれ育った味やろ。俺は大阪育ちやから、どうしてもこっちの関東の味付けは濃く感じるねん。お出汁も効いてないやん」
その言葉がストンと胸に落ちた。
「そっか。関西って薄味なんですよね。お出汁も使って」
「せやな。まあ、おせちは傷みにくいように濃いめの味付けにしてたと思うんやけど、それでもうちのはもうちょっとだけ薄かったねん。俺はそれが普通やけど、こっちの人には関西で食べた飯が味せえへんかったって言われたことあるし、好みは人それぞれなんやけどな」
誠司さんはそう言いながら、寂しそうな顔で笑う。わたしは胸が痛くなった。
気づいてしまった。
彼はこのおせちを食べたいんじゃない。本当に食べたいのは故郷の味。実家のおせちなんだ。
故郷の味なら、どんな顔をして食べるんだろう。
トクンと小さく胸が鳴った。
その顔を見てみたい気が……する。
会ったばかりの人に、しかも、ついさっきまで別の彼氏がいたというのに、こんなことを思うのは変だ。自分で自分に戸惑う。
「関西の味じゃないけど、それでも食べてもらえて嬉しいです。ありがとうございます」
「俺やなくて、彼氏が食べてくれてたら一番やったねんけどな」
「そう……ですね」
眉間にしわを寄せて「重い」と言った健吾の顔を思い出して、わたしは俯いた。
「でも、仕方ないんです。21歳の男におせちは重いんですって。家庭的すぎて、結婚をせかしてるみたいに思われたのかも」
筑前煮をとって食べてみた。その味はいたって普通。甘辛くて美味しい。辛すぎるということはない。今までの彼氏にだって辛いと言われたことないのに、誠司さんの口には合わないのだろうか。
食べながら考えてるうちに、眉間にしわが寄っていたようで、誠司さんが慌てて、大袈裟すぎるほどに手を横に振った。
「ちゃう、ちゃう、カスミの味付けが悪いんやない。しゃーないねん」
必死になって言ってくれてるのは伝わるけど、その意味がわからなくて、首をかしげた。
誠司さんは苦笑する。
「カスミのせいじゃないって言ったねん。これがカスミの生まれ育った味やろ。俺は大阪育ちやから、どうしてもこっちの関東の味付けは濃く感じるねん。お出汁も効いてないやん」
その言葉がストンと胸に落ちた。
「そっか。関西って薄味なんですよね。お出汁も使って」
「せやな。まあ、おせちは傷みにくいように濃いめの味付けにしてたと思うんやけど、それでもうちのはもうちょっとだけ薄かったねん。俺はそれが普通やけど、こっちの人には関西で食べた飯が味せえへんかったって言われたことあるし、好みは人それぞれなんやけどな」
誠司さんはそう言いながら、寂しそうな顔で笑う。わたしは胸が痛くなった。
気づいてしまった。
彼はこのおせちを食べたいんじゃない。本当に食べたいのは故郷の味。実家のおせちなんだ。
故郷の味なら、どんな顔をして食べるんだろう。
トクンと小さく胸が鳴った。
その顔を見てみたい気が……する。
会ったばかりの人に、しかも、ついさっきまで別の彼氏がいたというのに、こんなことを思うのは変だ。自分で自分に戸惑う。
「関西の味じゃないけど、それでも食べてもらえて嬉しいです。ありがとうございます」
「俺やなくて、彼氏が食べてくれてたら一番やったねんけどな」
「そう……ですね」
眉間にしわを寄せて「重い」と言った健吾の顔を思い出して、わたしは俯いた。
「でも、仕方ないんです。21歳の男におせちは重いんですって。家庭的すぎて、結婚をせかしてるみたいに思われたのかも」