会計を済ませて外に出ると、どんよりとした曇り空が広がっていた。


もうすぐ梅雨入りだろうけど、梅雨入り前からこんな天気じゃ気分が落ち込む。


雨は体が湿気で気持ち悪いから好きじゃない。


毎年、梅雨入り前から速く明けてほしいと願うんだ。


「ねぇ、どうして私が本屋にいるってわかったの?」


隣を歩く黒崎くんに聞くと、彼は「あとをつけてたから」と、堂々とストーカー発言をした。


「声をかけてくれればあんな大声出してみんなに見られることもなかったのに」


「声かけたじゃん。こーやって背後から」


黒崎くんは、私の後ろに回りそーっと肩から顔を出す。


「やめてよ。本当にストーカーじみてて嫌なんだけど」


私が体をよけながら言うと、彼はまたゲラゲラと笑った。


だけどすぐに真剣な表情になる。


「見てたかったんだよ。古川を」


ドキンっ。

心臓を強く掴まれた。


「1分1秒無駄なく、古川が何をするのか」


黒崎くんに真っ直ぐ見つめられ、立ち止まったままの体が固まっていく。


見てたかったって......なんで?

どうしてそんな切ない目で私を見るの?


やめてよ。

期待なんてさせないで。

後戻りできなくなるから。


この気持ち、隠すって決めたんだから、そんな顔で私を見ないで。


「ほ、本当、ストーカーみたい」


思ってもいないことを言っておかないと気持ちをセーブできない。


「そんなにストーカーストーカー言うならストーカーを極めてやる」


さっきまで真剣だった黒崎くんは突然おどけ出して、私の数歩後ろまでさがった。


「な、何してるの?」


私が眉を寄せると、黒崎くんは、手をヒラヒラとさせ、私に早く歩いてと言う。


「ストーカーみたいにずっと後ろをつけるから。こうなったら、俺、古川のストーカー極めるわ」


『ほら、歩いて』


と、ニヤニヤしながら言う。


わけがわからなかったけど、黒崎くんの変な表情につられて笑ってしまう。


私が走ると彼も走って。

立ち止まると立ち止まって。


振り返ると、彼も振り返る。


隠れる場所が何もないここは、ストーカーには適していない場所だ。


グダグダなストーカーごっこをしながら足早で帰る家路も、悪くはなく、むしろ、すごく楽しかった。