「で?どこに行こうって見てたの?」


やめてほしい話題なのに、彼は空気を読むことなく私の置いた本を手に取った。


「べ、別に行きたいところなんか......ないよ」


「………」


「ただ、京都の雰囲気だけ知っておきたかっただけ」


「ふーん。で?その雰囲気はわかったの?」


「まぁ、大まかには?」


私が顎をつき出して言うと、黒崎くんはイタズラに笑って『じゃ、この本は必要ないな』と、元あった場所に戻した。


あぁ......。

私の京都本が......。


内心悲しみながらなんでもないふりをし、『買ってくれるんじゃなかったのぉぉ』と涙声で訴える本を残して、その場を離れようとした。


だけど、私の気持ちなんて彼にはお見通しなのか、どうせ買うんでしょ?と顔に書いてある。


私は口の端をひきつらせて彼を見て、ぎこちなく本の元に戻ってからソッと京都本を胸に抱えた。


そんな私を見て黒崎くんがゲラゲラと笑う。