先生が先に私の名前を彼に教えたとか?
もしそうだとしても、ただの転校生だと軽く受け流してくれればいい。
こんな廊下の真ん中で、私の名前を大声で呼んだりしないで。
よかった。
廊下に誰もいなかったのが、不幸中の幸いだ。
派手な格好の彼に名前を呼ばれるだけで、目立ってしまいそうだから。
できるだけ静かに、印象を弱く。
この学校では、このことに重点を置くんだから。
「黒崎。今日は教室に入れ。転校生を紹介するから」
派手な彼を“黒崎”と呼んだ先生は、遅刻してきたことを説教することなく穏やかな口調で言った。
「いいよ、俺は。そいつのこと、知ってるから」
し、知ってるって、何が?
今初めて会ったというのに、彼は一体、私の何を知ってるっていうの?
「また適当なことを」
先生がため息混じりに呆れる。