切れる息を整えるまもなく、彼は私を振り返った。
辺りは薄暗い。
ぼんやり見える彼の顔が、今さらだけどあの頃の女の子と重なった。
面影がある......。
そう思う私はおかしいだろうか。
確かに本人なんだけど、真実を知るまでは一致しなかったというのに...。
「そんなに走らなくても、まだホタルのピークには時間があるぞ」
黒崎くんの声は相変わらず優しい。
「さっきまで小雨だったからなぁ。今日、ホタルが見られればいいけど」
「黒崎くん...あの…今さらかもしれないけど、その...」
「なに? 今さら思い出したって?」
私はえ?と眉をあげる。
「小さい頃に会った女の子。俺だって気づいたんだろ?」
どうしてそれを...…。
黒崎くんは、最初からわかっていたの?
「あの時は母さんに女っぽい髪型にされてただけで、俺はれっきとした男だからな」
誤解するなよと言う彼に、少しだけ笑顔になれる。
彼の微笑みと共に、私の目の前を淡い光が横切った。
ホタルだ。
小さくて儚くて。
だけど、自分を主張して光っている。
近づくと脆くて壊れてしまいそうなのに、とても美しい光。
勇気をもらった。