「………」
「女の子だと思うのも不思議じゃないよ。こんな髪型だもんなぁ。だけどこの写真がどうかしたのかい?」
豊田さんの言葉に答えることが出来なかった。
彼女......桜庭さんじゃなかった。
黒崎くんだった。
私たち、あの頃に一度会っていたんだ。
あのおじいさんは、豊田さんだったんだ!
やっぱり、ホタルを見に行かなくちゃ。
あの頃の約束、果たしに行かなくちゃ!
行ったとしてもそこに黒崎くんがいる保証なんてないけど......。
行って、黒崎くんを待たなきゃ!
今から行けば十分間に合う。
黒崎くんと約束したあの川辺に!
「あ!聖菜ちゃん!」
豊田さんの声を背中に受けて、家を飛び出した。
湿気でジメジメする。
汗ばむ肌が風に吹かれる。
走って走って走って。
水分を多く含んだ川辺の草花の香りが、しっとりと鼻にまとわりつく。
日が傾き、群青色を迎える空がとても神秘的だ。
川辺の、ふくらはぎくらいまで伸びた草の中を進むと、石造りの橋付近に、彼がいた。