「おいっ!」
年配の担任の後をついて教室に向かう途中、背後から声をかけられた。
振り返るとそこには、長身で茶髪の、制服を雑に着こなした、外見軽そうな男子が立っていた。
私を呼んだわけではないのに振り返ってしまったことに後悔をし、目を泳がせながら顔を背ける。
「おいっ!」
先生に対して『おい』だなんて、なんて失礼な人。
しかも今はホームルーム中だ。
廊下を歩いている人は誰もいないのに。
「おまえ、古川だろ」
……え?
また勢いよく彼を振り返る。
どうして?
訝しげに寄せた眉が、危機を感じて細かくけいれんする。
「古川、聖菜(フルカワ セナ)。違う?」
なに? なんなの?
どうして彼は、私の名前を、しかもフルネームで知っているの?
まだ、誰にも自己紹介はしていないのに。
どういうこと?