唇を噛んで目を強く閉じたその時、玄関のインターホンが鳴った。


滲んできた涙を拭い、ドアを開ける前に目が赤くなっていないか靴箱の上に置いてある鏡を覗く。


生気の抜けたひどい様だ。


ゆっくりドアノブに手をかけドアを開けると、目の前に立っていた人物に驚いてすぐさまドアを閉めてしまった。


心臓に痛みを感じるほど鼓動が暴れる。


なんで?

どうして黒崎くんがここにいるの?


今は授業中のはず。


「古川、開けて」


突然閉めたことに怒ってしまったかと思ったけれど、彼の声はいつも通りの柔らかい口調だった。


開けるか開けまいか。


考えあぐねていると、今度は向こうから強くドアを開けられ、ドアノブにかけたままだった手に引っ張られ前のめりになって玄関を出た。


居所を失った私は、急に挙動不審になる。


「おはよ」


もう昼前だと言うのに、彼はおはようと挨拶してきた。


私はどう返したらいいのかわからず、ただ頷くだけ。