通されたのは客間。
8畳の部屋の真ん中にテーブルが置かれ、あの頃と何も変わりなくキレイに片付けられていた。
私は部屋の隅にボストンバッグを置き、立ったまま両手を弄ぶ。
「まぁ......座りなさい」
私とは反対側に腰かけたおじさんが、私が座れるように手で『どうぞ』とさしてくれる。
少し遅れて部屋に入ってきたおばさんの手には小さなお盆が握られ、そこには2つの湯呑みがのっていた。
私とおじさんの前に、お茶が出された。
おじさんの横に座ったおばさんは、まだ腰かけられずにいる私を見上げ、そしてそのまま視線はおじさんに向けられる。
「緊張、するよな。久しぶりだから」
おじさんの微笑みが、少しだけ私の壁を薄くしてくれた。
「聖菜ちゃんが来てくれるのを、私たちは待っていたよ」
え......?
待っていてくれたの?
「達也から、聖菜ちゃんに渡すように言われているものがあるから」
おじさんはそう言って、おばさんに『あれを持ってこい』と指示を出した。
おばさんの手に握られていたのは、一冊の手帳。
深い緑色のハードカバーの手帳だった。
生前、黒崎くんがつけていた日記らしい。
だけど、なぜ、今これを?
渡すように頼まれていたのなら、8年前に見せてくれたらよかったのに......。
ズシリと重みのある日記帳を手に、開くことができなかった。
理由はわからない。
ただ、両手に乗る重みを感じていただけ。
この手帳を開く前に、黒崎くんのところに行かなきゃ。
「おじさん、おばさん。あの......仏壇に。黒崎くんの前で、これを読みたいです」
私が言うと、二人の顔は曇り、首を縦にはふってくれなかった。