しばらくは、おばさんのお腹あたりまでした目を向けられなかった。


これが、8年という時間。


近くにいても遠く感じられ、初対面も同様。


二人とも固まってしまい、言葉を出せずにいた。


それもそのはずだ。なんの連絡もせずに突然ポッと現れたのだから。


「お……お父さ~ん!!」


先に震える大声を出したのはおばさんの方だった。


「ちょ......ちょっとここで待っててね」


『こ、ここで。ちょっとね......』と、ぎこちなくとてもパニックになった様子で、両手でここで待つようにと何度もジェスチャーし、廊下の奥へと消えていった。


そのあとすぐだった。部屋の中からまた新しいドタバタと慌ただしい音が聞こえてきて、すぐに、その音の主が顔を覗かせた。


おじさんの顔も、酷く驚いている。


「聖菜......ちゃん」

おじさんの声に私は深く頭を下げることしか出来ず、謝罪の記者会見のように長いお辞儀をしてから、ゆっくり顔をあげた。


「こんにちは......。お久しぶりです」


他に言葉が出なかった。

何を言ったらいいのか......。言葉を探ってみても、いい言葉が出てこない。


黒崎くんの両親もまた、私と同じことを思っていたに違いない。


「か、母さん......。と、とにかく、あがってもらおう」


「う、うん。そうね。そうよね。立ち話もなんですからね」


『さぁ、あがってあがって』と、廊下に私のスリッパを出してくれたおばさんが、私の腰に優しく手をあて、部屋まで連れていってくれた。