「こんにちは~......」


彼の家に到着して、玄関の引き戸を引いておずおずと声をかけた。


8年前と同じで、やはり鍵がかかっていない。


物騒な世の中というのは、田舎では関係ないらしい。


以前、豊田さんがみんな家族みたいなもんだからと言っていた。


「こんにちは~」


中からの返事がないので、先程よりは少し大きめのかすれ声をかけると、奥から「はーい!」の声と、足音が聞こえてきた。


よかった......。留守じゃなくて。

自然と背筋が伸び、ボストンバッグをからだの前で両手でしっかり持つ。


「はーいはいはいはい。お待た……せ......」


腰につけているエプロンで手を拭きながら平屋の廊下を走ってきたおばさんが、玄関で佇む私を見て、みるみる目を丸くしていく。


「聖菜......ちゃん」


おばさんが、小さく震える声で私の名前を呼ぶ。


私は下唇を噛んで、一回俯いてから息を吸った。


「おばさん......お久しぶりです......」


出た声があまりにも小さすぎて、おばさんに聞こえただろうか。