お墓で彼のような優しい風を感じたあと、話す内容を見つけられなかった。


8年という時間のせいか、彼との思い出に触れることに後ろめたさがある。


軽い挨拶をしただけで、私はお墓をあとにし、彼の家へと向かった。


鹿児島は湿度が高い。


お墓と彼の家とはそんなに離れていないのに、すでに梅雨入りをしているどんよりとした天気のせいで、ジトジトと水分が肌にまとわりつく。


ボストンバッグを提げている手とは逆の手で、Tシャツの胸元をパタパタとあおいだ。


山と畑と、車1台ようやく通れる狭い道。


東京だと何かしら変化があるのに、ここは、8年前のあの頃と何一つ変わっていなかった。


彼と何度も歩いた道。


狭い道路の端に少しだけ立ち止まってみようと思ったのも、のんびりと時間の流れる田舎独特の空気のおかげ。


目を閉じて深呼吸をすると、閉じている視界の先に、晴れ渡ったとても暑い日の光景が浮かんできた。


その直後、後ろからバタバタと激しい足音が聞こえ、私の横を猛スピードでかけて行く。


過去の……。

高校2年生の私が、白いシャツに紺色のスカートを翻して走り続けていた。


一人で、黒崎くんを追い求めるように。


田んぼや畑の青い匂いをつれて、過去の私はどこか遠くへ見えなくなっていった。