お母さんの住んでいた田舎は、鹿児島県だった。


それも、市内から車で1時間半ほどのところにある超ど田舎。


高層ビルなんてあるわけもなく、田んぼとお茶畑、そして山に囲まれ、よく言えば大自然の中で、なんのストレスもなく過ごせそうな場所。


だけど、本当に何もない。

肥料のくさい臭いだって洋服に染み付きそうだし、なにより飼われている牛や豚の鳴き声しかしないことが、都会育ちの私からしたら不思議で仕方なかった。


東京と違って遠くまで見渡せる道路には、車ひとつ走っておらず、さらに私の目は奇妙なものを見たように丸くなる。


東京とはあまりにも違う環境に戸惑いはしたものの、これで息の詰まる生活とはおさらばなんだと思うと、少しだけ笑えそうな気がしてきた。