ーーーー□□ーーーー



去年の冬、お母さんが亡くなった。


どんどん細くなっていく体を、いい住みかを見つけたと言わんばかりに、病は居座り蝕んだ。


医者が言うには、お母さんの心臓はとても強かったらしい。


宣言されていた余命よりも5年は生きたから。


だけど、享年40歳。


早すぎる死だった。


生前お母さんは、もし可能なら、今住んでいる東京ではなく、生まれ育った田舎に戻りたいとお父さんに話していたらしい。


だけど、私の学校やお父さんの仕事もあり、なかなかその願いは叶えてあげられなかったけれど、お母さんが亡くなった今、お父さんはお母さんの生まれ育った田舎に行くことを決意した。


今更そんなことを決意しても、お母さんはもうこの世にはいないのだから手遅れだとも思うんだけど、亡くなったからこそ、お父さんは、お母さんの願いを叶えてあげたいと言っていた。


そのお父さんの思いに、私は反対はしなかった。


東京にいたって、別に何一ついいことはないから。


私も、東京じゃない、どこか別の場所に行きたかった。


知人のいない、何もかも知らない世界に。