「古川さん」
ミーティングが終わり廊下に出ると、ふいに声をかけられ、ドキリとして振り返った。
桜庭さんだ。
教室から出てみんなが解散していく中、私は資料を胸に抱きしめぎこちなく視線を落とす。
「古川さん、なんか黒崎くんと仲良いみたいだね」
「……」
「黒崎くん、転校生とかこの町に慣れてなさそうな人にはすごく優しい人だから」
「そ、そうなんだ」
口の端をひきつらせて何とか笑顔を作った。
「だから、期待とかしないほうがいいよ」
うわ......。
きたよ......。
あからさまに近づくなって言ってくる人。
少女マンガとかでよく出てくるタイプ、現実にも存在するんだ。
「このホタルのための掃除だって、別に参加したくなければしなくていいし。どうせ瀬戸くんに無理やり参加させられたんでしょ? 掃除なんて面倒くさいし」
ね!と、首を可愛らしく傾けて笑顔をみせてくるけど、その裏側にはどれだけ黒い塊があるのだろう。
この子にだけは、関わらないほうがいいと、体の細胞が騒いでいる。
「古川!」
なんてタイミングが悪いんだ。
よりにもよって、警告を受けた直後に声をかけられるなんて。
ここは、聞こえなかった振りをして逃げよう。
私は、資料を胸に抱えたまま、身を縮めるようにしてそそくさと踵を返した。