「古川! おはよ!」
まさかとは思ったけど、教室に入るなり声をかけられ全身に不安が被さった。
彼の声は騒がしい教室内を簡単にすり抜け、私のもとにやってきた。
みんなが反応しないわけがない。
昨日は私を興味なさそうにほぼ無視していた人が急に態度を変えて挨拶しているのだから。
それに、昨日思ったけれど、この人は結構人気がある。
多分、クラスの女子半分くらいは彼に好意を寄せていると思う。
特に、桜庭さん……。
廊下側の後ろの席で、取り巻き達に囲まれ座っている。もちろん、私を睨みながら。
私は危機を感じて、俯きながら彼の挨拶を無視して席に座っていた。
「昨日あのあと、ちゃんと帰れた?」
ドキリとしたときにはもう遅かった。
好奇心旺盛な彼の友人がことを大きくする。
「なになに? 昨日って。え? 俺に抜け駆けで二人て会ってたの?」
回りの視線が矢のようにささる。特に桜庭さんの矢は、私の中心を的確に貫いていく。
「お前には関係ねぇよ」
「うっわなんだよ! 俺に隠し事? 俺ら親友なのに?」
「いちいち言う必要ねぇだろが」
彼らが話をしている間にも、私への視線が増していく。
嫉妬。
鋭い眼差しが刺さり、体から流血しそうだ。
「黒崎くん。なんの話し?」
ほら。来た。
笑顔の裏に、私への憎しみがたっぷり込められている。