「古川が今もまだ引きずってるっていうのは、俺知ってるよ」
「.........」
「簡単に忘れられるとも思わないし、忘れてほしくない。だけど......」
彼の奥二重が、悲しげに下がる。
「俺を見る時間も、少しは作ってほしい。かな」
私を見つめていた悲しげな目を無理に優しさに変え、小さく笑いながらペペロンチーノを口にした。
パスタ屋の窓から空を見上げると、梅雨入り間近の、湿気だらけで重い灰色の雲が広がっている。
クールビズの彼の首元も少し湿るほど暑くなってきた。
入社して6年。
彼に告白されて、5年。
断り続ける私に嫌気がささないのか、私の気持ちに変化のないまま5年も経つというのに、今村くんはずっと私の側にいてくれる。
会社のみんなにも、『今村は叶わない恋をしていてかわいそうだ』と言われているのに......。
それでも一緒にいる私が悪い。
自分でよくわかっている。
わかってはいるんだ。
私ももう25。
あの頃のような子供じゃない。
誰か。
誰か私を変えて。
お願いだから......。