私が答えずにいると、豊田さんが首を傾げた。


私は慌てて豊田さんにビニール袋を差し出す。


「あ、あの、これ、父が作ったんです。よかったら、どうぞ」


両手で手渡すと豊田さんは嬉しそうに表情を明るめた。


「うわぁ、嬉しいなぁ。女房に先立たれてひとりだからこうゆうのは心があたたまる」


ありがとう。豊田さんのゆっくりとした口調に私は少しだけ口角をあげた。


「せっかく来てくれたんだ。ちょっと上がっていきなさい」


「あ、いえ。私はこれで。父と残りの家事をしなければならないので」


嘘をついた。

家事はお父さんがやってくれる。

もちろん手伝う時もあるけれど、お父さんは出来るだけひとりでやるからと、私の手を借りようとしないんだ。


だけど今は嘘をついてでもこの場から去りたかった。


クラスメイトと会うのは、学校でだけで十分だ。