豊田さんの家の周りには畑しかない。


引っ越し当日に挨拶に行ったときには昼間だったので田舎だなぁくらいしか思わなかったけれど、夜の真っ暗闇の中訪れると不気味な感じだ。


それに、家一件一件が遠いため、人の気配も感じられない。

豊田さん家の敷地に入る前に立ち止まり、暗闇に沈む畑を見渡した。


やっぱり不気味で身震いする。

私は筑前煮の入ったビニール袋をギュッと握り、豊田さんの玄関に向かい小走りした。


豊田さんは娘夫婦の家族と同じ敷地内に住んでおり、平屋の立派な家が2件並んでいる。


ひとつは築50年程の古びた平屋。そしてもうひとつは少しだけ新しく見えた。


私は築50年程の平屋に向かい、引き戸をノックする。


だけど、中からの反応はない。

すりガラスの向こうにはオレンジ色の淡い灯りが見えるから留守ではなさそうだけど......。


もう一度ノックしてみても、やっぱり静かなまま。


もしかして、お隣に行ってるとか？


私が娘さん夫婦の家に向かおうとした、その時。


「あ、古川」


背後から突然かかった声に飛び上がり、同時に嫌な汗が背中に滲む。


く、黒崎くん！