食事を終えると、お父さんはまたキッチンに向かい鍋から何かをタッパーに移し出した。


冷蔵庫の中の麦茶をコップに注ぎながら見て見ると、それは筑前煮のようだった。


生前、お母さんがよく作っていたものだ。


「これ、豊田さんのところに持って行ってくれないか?」


「え? 今から?」


時刻は19時。


豊田さんというのは、この地で農家をしているおじいちゃんの名前。


東京での仕事を辞めたお父さんは、今はこの農家さんの畑で仕事をしている。


別に遅すぎる時間ではないけど、どうして今なの?


「お世話になってるから筑前煮をおすそ分けしたいんだけど、今日作ったから明日の方が美味しいだろ?」


「まぁ、そうだけど」


「今夜持っていけば、明日の朝ごはんにでも食べてもらえるかもしれないから」