「なぁってば!」


突然私の鼻をつまんだのは、目の前でペペロンチーノを食べている同期の今村くん。


目を開けて寝ていたのかと思うほど不意に現実世界に戻され、状況把握に時間がかかった。


そうか。

そうだった。


私は会社の休憩で、同期の今村くんと近くのパスタ屋に入ったのだった。


自分の手元を見てみると、スプーンとフォークを握ったまま、その二つはカルボナーラに埋もれている。


「ごめん。なんだっけ」


咄嗟に笑って聞いたけど、彼には繕った笑顔だとお見通し。


「そのカルボナーラ、量少なくなったと思わない?」


「え?」


視線を落として見てみるけど、特に何も変わりないような...。


「半分くらい、俺食ったんだけど」


「え......いつの間に」


仕事のストレスでたくさん食べてやろうと思っていたから、大好きなカルボナーラを大盛りで注文したのに......。

食べられていたなんて、全く気がつかなかった。


「古川......。俺との時間、いい加減少しだけ楽しんでほしいな」



彼に言われて、心の古傷がズキリと痛んだ。