変な男子に会ってしまったことは言わなかった。
お母さんは心配性だから。
死んでまでも心配をかけてしまっては、親不孝者だ。
私は小さく息を吐きながら微笑み、合わせた手を下ろす。
そしてしばらくお母さんの優しい笑顔の写真を見てから、ゆっくりと立ち上がった。
その時におきた微風に、線香の匂いがふわりと舞う。
まるで、お母さんが私のあとについてきているかのように。
仏壇のある部屋を出て二階の自分の部屋に向かい、制服を脱いで楽なスウェットに着替える。
もう一度リビングに向かうと、まだお父さんがフライパンと戦っていた。
「何か手伝うよ」
「悪いな。あと5分待って。あ、シンク台の上に置いてあるサラダは運んでいいぞ」
シンク台の上を見ると、木の皿に盛り付けられた色とりどりのサラダがあった。きっと、さっきの不規則な音が響いていた時にこの野菜をカットしていたのだろう。多分、キャベツの千切りに悪戦苦闘していたに違いない。
少し、盛り付けの研究もしたようだ。
「味噌汁も運ぼうか?」
「そうしてくれたら助かる」
火の通り具合を確認しているお父さんがフライパンを覗き込みながら言った。
私は薄揚げとワカメの味噌汁をお茶碗によそい、テーブルまで運ぶ。
「さー、お待たせ。今日はハンバーグだ」
お父さんは両手にハンバーグの乗ったお皿を持って、コトンとテーブルに置く。
デミグラスソースまで手作りしたらしい。
見た目は、悪くはない。