放課後どこにも寄ることなく家に帰ると、お父さんがキッチンで夕食の準備をしていた。
グツグツと鍋の中身が煮え込まれる音と、まな板に当たる包丁の不規則な音にお父さんの必死さが伝わって来て、私は小さく笑う。
お母さんが死ぬまで料理なんてしたことのなかったお父さんは、スマホの料理アプリを使い、不器用に料理をするようになったのだ。
初めはコンビニ弁当や、スーパーの惣菜を買ってきていたけれど、さすがに毎日それでは体を壊すと思ったのだろう。
出来上がった料理の見た目はアプリで紹介されているものとはかけ離れているけれど、味はまぁまぁ悪くはなかった。
「ただいま」
私は料理に集中しているお父さんの背中に声をかけ、隣の部屋に足を進める。
「おー、聖菜、帰ったのか。もうすぐご飯できるからな」
数秒遅れてリビングから返ってきた声に苦笑し、仏壇の前に正座する。
線香に火をつけ、お母さんに手を合わせた。
「何とか無事に初日を終えたよ。何とかね。お母さんは何も心配しないで。ここならうまくやれそうな気がするから」