「何か忘れ物?」
「え?」
また隣から声をかけられ、スクールバックをあさる手をピタリと止めた。
瀬戸キラ。さっき自己紹介をされた派手な男子だ。
まだバッグの中に入れたままの手を見る瞳が、緊張のあまり震える。
垂れる横髪で顔を隠し、どう答えたらいいのか正解を考えた。
反応の遅いコンピューターが必死に動くように、ジジジ、ジジジと頭の中が泣く。
「いやほら、さっきからカバンの中を触ってるから、何か忘れ物でもしたのかなって思って」
まだ何も答えていないのに、どんどん話を進めていく。
「転校してきたばっかだから教科書とかなくても別に先生怒らないっしょ。俺の見せてやるし」
ありがた迷惑。
私は彼を振り返ることなく、横髪をさらに前に垂らすようにして俯いた。
「あ〜! さては、キミ俺のこと信用してないな〜?」
は?
「俺の外見がこうだからって真面目に授業受けてないとか思ってる? それなら残念〜。俺ちゃんと教科書持ってますから〜」
なんなのこの人。
私が答える前に勝手に話を進めないで。
この人、会話する気ないでしょ。
私のことは放っておいて。こんな地味な女、無視していいから。
というか、ぜひそうして。お願いだから。