/*** カズト・ツクモ Side ***/
あの騒動から、3週間。俺は、まだミュルダの街で過ごしている。
カイとウミは、街での生活が気に入っているが、オリヴィエとエリンは、窮屈に感じていたのか、2週間程度滞在して、ログハウスに戻りたいといい出したので、許可した。リーリアは、俺の身の回りの世話係として残っている。
今日の午後は、カイとウミを連れて、街中を散策する予定だったのだが・・・。
俺は今イサークから謝罪を受けている。
「ツクモ殿。申し訳ない。あんなに良くしてもらったのに、ナーシャが原因で迷惑をかけた」
「ん?あぁぁ!!いや、気にしていません。それよりも、ナーシャさんは襲われたりしなかったのですか?」
イサークが、なぜ謝罪に来たのかを改めて説明してくれた。
一連の騒動の発端を知らなかったイサークに、ナーシャが簡単に説明したらしいのだ。
その説明を聞いた、イサークが、俺に謝罪してきたという流れだ。
イサークとしては、ナーシャが、エンリコとつながっているメイドの前で何度もポーチから物を取り出す行為をしたのが、今回の騒動に繋がっていると考えたようだ。
たしかに一端はあるとは思うが、リーリアも使っていたから、ナーシャが使っていなくても、騒動には鳴っていただろうな。
俺としては、どうせ暴発するのなら、手駒が揃っている状態でしてくれて良かったと思っている。
「ナーシャなら大丈夫だったが・・・。ツクモ殿。本当に申し訳ない。リーリア殿が巻き込まれたようだったし、なんと言って詫びればいいのか・・・。」
「いえ、いえ、大丈夫です。それに、ミュルダの新領主ではいろいろと動いていただいたようで、こちらとしても申し訳ない思いですよ」
エンリコを俺が連れて行く事が決定してからの、領主の動きは早かった。
すぐに、街の有力者を集めて、エンリコのしでかした事の説明と謝罪を行った。俺からの情報や、独自に集めていた情報から、アンクラムの情報も合わせて提示された。有力者たちも、独自ルートで情報を仕入れていて、すり合わせが行われて、侵攻は”ほぼ”ないだろうという結論にはなったが、アトフィア教の異端認定は覆らない。
今、ミュルダで発生している問題は、3つに絞られる事になる。
1つは、アンクラムからの難民問題。これは、俺からの提案である。ビックスロープへの移住させる事で、問題は解決しそうだ。移動手段の確保や移動中の食料などの問題は残るが、ビックスロープ・・・実質的には、居住区から、送らせる事で対応できそうだ。
もう1つは、アトフィア教からの異端認定だが、これに関しては、議論してもしょうがないという結論に至った。
もう1つが、エンリコの事を理由に、領主を辞めることに鳴ったのだが、辞める事に関しての反対意見が少なかった。すんなりと辞任できる事になった。
アンクラムからの難民を、ビックスロープに送るのは、反発が少なく、承認されたのだが、獣人族の街との交易には反対意見が多かった。
まずは、新領主を選出してから、その新領主の命令で、獣人族の街へ交流隊を派遣する事が決まった。
新領主の選出も揉めることになったが、イサークたちが、現在の冒険者ギルドを仕切っている。シュイス・ヒュンメルを担ぎ出した。それに、街領隊も追随した。最終的には、商業を仕切っていた長老も味方する事になり、新領主が決定した。
俺は、イサークから頼まれた、ヌラの作った真っ白な布を3枚用意しただけだ。この布が何に使われたのかは聞いていない。今後も聞くつもりもない。
そして、新領主の命令で、獣人族の街へ交流隊の派遣された。
それが2週間前のことだ。
「それよりも、皆さんはこれからどうされるのですか?」
「俺たちは、領主様・・・前領主と一緒に、ビックスロープに移住する事にしましたよ」
「ビックスロープにですか?」
「交流隊がまだ帰ってきていませんが、帰ってきたら、交流・・・いや、商売が始まるでしょう。中心は、ミュルダだとは思いますが、ビックスロープのほうが、俺たちのような者には過ごしやすいですよ」
「そうですか、わかりました。イサークさん達が使った”あの場所”もだいぶ整備しましたので、いつでも来てくださいね」
「それは嬉しい。前領主に聞いたが、ビックスロープから居住区・・・そうだ!ツクモ殿。名称決めてくださいよ・・・」
「名称ですか?居住区でいいと思いますけどね。イサークさん達が使った場所は、宿とでもしておきますよ」
「ツクモ殿がいいのなら、いいのですが・・・誤解されますよ?」
「いいですよ。どうせ、公にするつもりはあまりないですからね。獣人族としても、ビックスロープが獣人族の街だと思われる方が都合がいいですからね」
「まぁたしかに・・・。そうだ!お聞きしたい事があったのですよ。居住区や宿への移動は、許可された者しかできないとお聞きしましたが本当ですか?」
正確には、許可された印を持っていないと、魔蟲たちに襲われてしまうのだ。
ブルーフォレスト内は、俺が許可していない者の移動を制限する。制限する事で、森のめぐみ。公表しないが、ダンジョンの恵みを、獣人族と俺で独占することになる。それを、ビックスロープで販売することにした。
宣言はしなくて大丈夫という事なのでしていないが、アンクラムやサラトガでも、ブルーフォレストの恩恵を受けている。それが、いきなり、魔蟲に襲われるようになるのだ。宣言はしなくて良いと言われたが、スーンに連絡して、両方の街の近くに、立て看板を立てるように指示を出しておいた。
「許可されていない者が、ブルーフォレストに入り込んで、森の恵みを得ようとしたら、魔蟲が襲いかかります」
「魔蟲?」
「そうですね。正式な種族名は忘れましたが、進化したビーナとアントとスパイダーです」
「・・・そうですか?もちろん、単体って事は無いですよね?」
「えぇそうですね。最低でも、1人に3体で当たるように指示していますよ?」
「それは・・・対処が無理だろう・・・」
「少ないですか?」
「いや、逆だ。あっ失礼。逆です。それでなくても、魔蟲の相手は難しいのに・・・数匹同時だと、ほぼ逃げるしか選択肢が無いからな」
「そうですか、それなら大丈夫でしょう。でも、本当にいいのでしょうか?サラトガのダンジョンまでも使えなくなりますよ?」
「俺としては、問題ないと思いますけどね。ビックスロープから魔物の素材や、魔核が流れ始めれば、自然とダンジョンの存在を疑われます。その時に、サラトガのダンジョンが魔蟲に占拠されたとなれば、ビックスロープの素材が、サラトガのダンジョンから出ていると考えるでしょう。そうなれば、居住区や宿がある程度隠せるでしょう」
実際そう考えるのかな?
サラトガのダンジョンと、居住区から行けるダンジョンでは、素材が違うという話だからな。
「そんな雑な考えでいいのですか?」
「うーん。大丈夫だと思いますよ」
うーん。
考えればいろいろ無駄な事や抜け道がありそうだけど、新領主からの条件を考えればしょうがないのだろうな。
「あっそれと、ツクモ殿。本当にいいのか?ビックスロープに、ミュルダの冒険者ギルドが出張所を作っても?」
「問題ないですよ。イサークさんが、ギルド長をするのなら、ビックスロープ独自でギルドを作りますが、そうじゃなければ興味ないですよ」
「それなんですけど・・・。なんで俺なのですか?」
「ナーシャさんを責任者に推すほど無謀じゃないですよ?それに、カスパル=アラリコ・ミュルダ・メーリヒ殿の推薦でもあるのですよ?」
「それは言われました。でも、俺はギルド長なんて柄じゃないですよ」
ビックスロープの1代目の領主というか、管理人に、前ミュルダ領主が務める事になる。
正式な発表の予定はないが、エンリコたちの行為は、新領主の正当性を持たせるために、公表する事になった。その上で、前領主は、ミュルダの領主を引退して、ビックスロープに移住する事を発表する。
前領主が、白狼族である事は有名なはなしなので、獣人族のまとめ役には丁度いいだろうという判断だ。その上、アンクラムの難民をひいてもらうので、新天地が、それほど悪い場所じゃないという事を宣伝する意味もある。
ここまでの状況を揃えたが、俺たちが今ミュルダに留まっているのは、交流隊が帰ってくるのを待っているからだ。
交流隊の報告を、新領主が聞いて、交流が開始される。最初の商隊に混じって帰るためだ。俺たちの存在は、できるだけ秘匿して欲しいというのも、新領主からの要望の範囲だ。ビックスロープの実質的なオーナーが俺である事は、イサークたちは別にして、知っているのは、新領主と、前領主と孫娘だけだ。長老衆には説明していない。
スーンが密かに計画していた、ビックスロープに、俺の像を飾ろうとしていたのは阻止した。阻止したのだが、像が作られていた事が、獣人族にバレて、居住区に飾る事になってしまった。表ではなく、ダンジョンの入り口部分に飾る事になったので許可を出した。
「それで、ツクモ殿、クリスの事はどうするのですか?」
「え?あっ連れていきますよ。前領主にもお願いされましたし、現領主にも人質としてお連れくださいと言われてしまいましたからね」
「そうなのですね」
「それに、クリスからも、”俺たちに着いていく”と言っていますからね」
クリスは、ひとまず預かる事になった。
リーリア達が言っている、”嫁”という事は、却下した。まずは、喘息を治す事に集中させる事になった。
レベル7回復を固定化してから、咳が出たり、体調不良になったりは無いので、うまく機能しているようだ。
実際の所、俺たちについてくると言っているが、ビックスロープで祖父であるメーリヒ殿の所で弟のアーモス殿と生活する事になりそうだ。ミュルダの街で雇っていた、メイドや執事もほぼそのままついていく事が決定している。
スーンからの報告でも、獣人族も協力的で、自分たちが採取したダンジョン産の素材を、ビックスロープに納入し始めている。
前領主も、街領隊と協力して、エンリコの協力者や支援者のあぶり出しを行っている。
3週間経過時点で、かなりの人間が捕縛されている。総て、アトフィア教の信者だ。
アトフィア教の信者全員がこの行為に加担していたわけでは無いし、信者全員が強行な手段に出る者ばかりでは無いのは解っている。わかっているが、アトフィア教を危険視してしまうのは避けられない。
/*** ??? Side ***/
そこは教会にある、枢機卿に与えられた部屋だ。
男性と女性が、薄汚れた法衣を身に着けた男の話を聞いていた。
「そちの言うことが正しければ、ミュルダとかいう街は、アトフィア教の教会だとわかった上で、アンクラムにある教会を襲ったのだな?」
女性が、跪いて報告をしている男に問いかけている。
「はい。間違いありません」
「おかしいではないか?なぜ他の街の連中が、別の街の教会を襲う?」
男性が疑問を投げかける。
「枢機卿、あの街は獣人族が領主をやっています」
枢機卿と呼ばれた二人は、獣人族という言葉を聞いて、眉を顰める。
「それでお主はどうやってここまで来た」
ボロボロの法衣を着た男は、教会を襲うような街を放置してよいのかという訴えをするために、街々の教会から援助を受けつつ、移動してきたを告白した。
「そうか、それはご苦労だった」
「いえ、それで枢機卿。ミュルダ街の救済と、アンクラム街への対応は?」
「確かに、教会との連絡は、1ヶ月前を最後に途絶えておる」
「ならばやはり!」
女性が口を開く
「まぁまて、今聖騎士たちを動かすわけには行かない。ミュルダとかいう獣人族の街は、救済しなければならないのは間違いないのじゃ」
「わかりました」
「お主も遠距離移動で、疲れただろう。湯浴みの準備をさせておる。ゆっくりと休んくれ」
「ありがたき幸せ」
ボロボロの法衣を着た男に、メイド風の女が近づいてきた。
湯浴みの相手をするのだろう。
部屋から男が出ていったのを確認した。二人は
「どう思う?」
「そうだな。嘘では無いだろうが、本当の事でも無いだろう」
「儂もそう思う。それでどうする?」
「どうするとは?」
「お主の聖騎士は動かせんのだろう?」
「あぁ動かん。街の1つの教会が潰れたくらいで動いていたら、それこそ、何人居ても足りない」
「そうだな。暗部だけで始末させるか?」
「その程度が良かろう。あの男は?」
「そうじゃな。たしか、現法皇に繋がる者じゃろ?」
「そうだな」
「病死辺りが良いじゃろうな」
「わかった、そう手配しよう。相手の女と一緒でいいだろう?」
「問題ない」
「わかった」
鈴を二回振った。音がしなかったが、これで全部が終わっている。
/*** カスパル=アラリコ・ミュルダ・メーリヒ Side ***/
息子エンリコが、ツクモ殿を襲撃してから、一ヶ月が経過した。
昨日、ビックスロープに向かっていた、交流隊が帰ってきた。何やら興奮していた。
今回は、交流というよりも、視察の意味合いが強いのは、誰もが解っていた事だ。ツクモ殿を通して、先方にも伝わっているのだろう。視察は成功した。予定よりも、帰ってくるのが遅かったのが気になったので、長老衆を通して聞いてみた。
思っていた以上に、大きな街になっているという。
行政区として、中央に施設がまとめられていて、壁と堀で囲まれていて、その周りに、商売ができるような建物の建築が始まっている。そして、門は全部で三ヶ所あり、ミュルダ方面、アンクラム方面、サラトガ方面となっている。ブルーフォレスト側にも門が有るようだが、こちらは視察できなかったらしい。森の中に入り込む形の場所があり、その場所が、ブルーフォレストからの入口になっている。
交流という名前の取引が正式に決まった。
儂も、荷物をまとめて、ビックスロープ商業街に移動する事になる。
二人の孫と一緒だ。儂と一緒に移動するのは、孫だけではない。護衛でノービスを雇うことになっている。冒険者見習いの身分で、ツクモ殿も一緒に向かう事になっている。最初は、竜族が迎えに来る事になっていたのだが、ツクモ殿が、どのくらい時間がかかるのかを体感するために、馬車での移動になった。
街が作られた場所は、ミュルダのサイレントヒル側から出て、ヒルマウンテンの頂上を目指して一直線に移動すれば到着できるようだ。ツクモ殿の計画では、わかりやすい道標を作ることになっている。
「クリス。準備はできたのか?」
「はい。お祖父様。僕の準備はできました。リーリアお姉ちゃんが全部持っていってくれます」
「そっそうか?アーモスはどうしている?」
「え?知りません。僕は、リーリアお姉ちゃんとカイお兄ちゃんとウミお姉ちゃんと、すぐに使いそうな物を分けていました。イサークさんやピムさんが、アーモスの様子を見てくれていると思いますよ」
クリスは、完全に割り切っているように思える。違うな、父親を切り捨てたのだ。
エンリコ達は、すぐにツクモ殿の眷属だろうか?魔蟲に縛られて、連れて行かれた。その後の事は、儂も聞かされていない。クリスはなにか知っているかも知れないが、話に出さないようにしているようだ。
「お祖父様!」
「あぁすまん。それで、ツクモ殿はどうされている?」
「今日は、カイお兄ちゃんと、ウミお姉ちゃんと、ミュルダの街を散歩するって言っていたよ」
「そうか、クリスには、リーリア殿が付いているのか?」
「そうだよ?ナーシャお姉ちゃんも最初は来るって言っていたけど、イサークさんに連れて行かれたよ」
あれから、ツクモ殿と膝を突き合わせて、話をした。
エンリコの件は、ツクモ殿から、建設的な意見にならないうえに既に謝罪を頂いたから、これ以上の謝罪は必要ないと言われた。
「そうか、クリスは、ビックスロープでの生活でいいのか?」
「うん。まだ早いよ。カズトお兄ちゃんが、来ていいよっていうまで我慢する」
「そうか、すまんな。クリス」
「ううん。お祖父様のおかげで、僕は、カズトお兄ちゃんに会えた。それは間違いないよ。それに、僕、今すごく楽しいよ。なんでも、自分で決めていいのでしょ?」
「あぁそうだ。クリス。お前の人生だ、好きに過ごせ」
「本当?お祖父様。僕、学園街に行きたい!」
学園街。
確かに、前のクリスなら無理だったが、ツクモ殿から、スキルの隠蔽を施されたクリスなら可能かも知れない。
成人前の子供に勉学を教える場所で、16歳になるまで通う事ができる。エンリコも通わせた。ただ、今にして思えば、もしかしたら、学園街で、アトフィア教に触れて、信者になったのかも知れない。
「わかった。でも、クリス。お前の身分は、ツクモ殿預かりになっている。ツクモ殿が承諾する事が条件だがよいか?」
「もちろん。カズトお兄ちゃんがダメって言ったら諦める」
「儂から、ツクモ殿に打診しよう」
「お祖父様。おねがい。でも、無理しなくていいからね」
「あぁ解っておる」
執務室に向かった。執事に頼んでいるが、最終的な確認は、儂がしないとならない。ミュルダに置いていく物と、儂の私物を分けてもらっている。ミュルダのに残していく物は、次の領主に渡す資料にまとめていく。
クリスは、もう大丈夫だろう。準備もできているようだ。
問題は、アーモスだ。父親と母親を失ったのだ。両者とも、アーモスには優しかった。
母親は、エンリコの屋敷で首を絞められて殺されていた。
エンリコが殺したと考えていいだろう。アーモスの目の前で殺したと、メイドが証言している。
「お祖父様」
消えそうな声で、儂を呼びに来た。
「アーモス。どうした?」
「お祖父様。お父様は、どうして、お母様を・・・どうして、僕を残して・・・お姉さまは化物なのですか?」
「えぇそうよ」
アーモスの後ろから、クリスが出てきた。
「アーモス。貴方のお姉さまは”化物”なの。お父様にそう育てられてしまったの。だから、お父様のお考え通り、化物になったわ」
「お姉さま」
「でもね。アーモス。私は、私よ。今までと何も変わらないわ」
「お姉さま。それは?」
「いい。アーモス。貴方は、私の様にならないでね。お父様は、勘違いされていたのよ」
「かんちがい?」
「そう、誰でも”化物”になれるのよ。私のようにね。アーモス。お父様は、私に化物になってほしかったのよ」
「え?」
「お父様にとって、私は、”化物”でなければならなかったのよ。いい。アーモス。人は、何にでもなれるのよ。だから、貴方も、沢山の人を見て、沢山の事を感じて、沢山の事を考えるのよ。私のようにならないためにもね」
「おねえさま?どういう」
クリスは、儂の方を向いた。
「お祖父様」
「なんじゃ?」
「僕、わがままに生きます」
「あぁ」
「カズトさんのお嫁さんになるためにがんばります」
「あぁ・・・え?ん?クリス。この短時間になにがあった?」
クリスのツクモ殿呼び方が、カズトお兄ちゃんから、カズトさんになっている。
それに、お嫁さんって何がどうしたら、短時間でそうなるのか説明して欲しい。ナーシャ辺りの入れ知恵かと思ったが、ナーシャはイサークに連れて行かれて、アーモスの荷造りを手伝っているはずだ。
「アーモス。貴方も自由なのよ?」
「自由?」
「えぇそうよ。お父様やお母様から、言われていたでしょ?」
「はい。ミュルダの領主になるために、勉強しなさい・・・」
「もう、お祖父様もミュルダの領主ではありません。お父様も、お母様もいません。アーモス。貴方は、自分で考えて、行動しなさい」
「え?」
「もう、貴方に命令する人は居ないのよ?アーモス。自由ってそういう事なのよ?」
「お姉さま。僕、自由なんていらない。お父様やお母様が」
「そうね。そう言って、なにかに縋るのもいいでしょう。アーモス!」
クリスが、アーモスの肩を抑える。
「アーモス。耳を塞がない。目をそらさない。もう一度いうわ。お父様もお母様も、貴方に優しい声をかけて、導いてくれた人は、もう居ないのよ。貴方は、1人で考えて、行動しないとならない。それが嫌なら、ミュルダに残って、死ぬまでここで、貴方に優しかったお父様とお母様の事だけ考えていればいいのよ」
クリスは、アーモスに対して、別れの言葉をいいに来たのかもしれん。
「お祖父様」
「なんじゃ?」
「カズトさんへの要請は、僕が、自分で行います。お祖父様は、アーモスとご自分の事だけを考えて下さい。お願いします」
「わかった。でも、いいのか?」
「はい。僕は、僕です。何も変わっていない事がわかっただけです」
そこには、先ほどまでとは違った、女の顔をしたクリスティーネが立っていた。
/*** クリスティーネ=アラリコ・ミュルダ・マッテオ Side ***/
僕は、お祖父様の意図がわからない。
僕に、好きに過ごせといいながら、カズトお兄ちゃんに責任を押し付けるような事を言っている。
お祖父様は、もう疲れてしまったのかも知れない。
『クリス。エンリコをご主人様の実験区に送ります。どうしますか?』
『どうする?そんな人の事よりも、僕は、カズトお兄ちゃんの事を知りたい』
『そうですか?これが最後のチャンスですよ?』
そうか、お父様を殺せる最後のチャンスって事か・・・あんまり興味がないな。
ママを手にかけて殺してしまうような人だから、簡単に死なないで欲しいのだけど、ダメかな?
『リーリアお姉ちゃん。お父様だけど、簡単に死なないようにしてほしいけど、大丈夫かな?』
『大丈夫だと思いますよ。ご主人様は、隷属スキルの実験をされるようですからね』
『隷属?って、奴隷にする時に使う奴?』
『そうですよ?』
『ごめん。僕、隷属スキルの使い方で他に何があるのかわからない』
少し、笑いながら、説明してくれた。
別の人間に隷属している状態で、さらに別の人間に隷属のスキルを使う事ができるのか?
誰かを隷属している状態で、隷属スキルを受けたら、先に隷属している者はどうなるのか?
そんな実験を行うという話だ。
確かに、聞いた事が無い。そもそも、スキルの実験するという発想が今まで生まれてきていなかった。隷属化のスキルカードは、レベル5だ。1枚で宿に連泊できると聞いた事がある。今聞いた実験だけでも、10枚近い枚数の隷属化のスキルカードが必要になる。
その上、僕に固定したように、治療のスキルカードをそれぞれに固定して、死ににくい状況を作るらしい。
魔物にはできる魔核の吸収が、人族にはできないようだ。魔核に付けたスキルカードを発動する事ができるので、それを代用をしているとの事だ。僕なら、魔核の吸収ができるのかな?今度、カズトお兄ちゃんにお願いしようかな?
そうしたら、僕を眷属にしてくれるかな?僕程度じゃ、カズトお兄ちゃんの役に立たないからダメなのかな?
『クリスはこれからどうするのですか?』
『僕?学園街にでも行こうかと思う。勉強して、カズトお兄ちゃんの役に立ちたい』
『そうですか、解りました。クリスは、私やエリンとは違う道を行くのですね』
『え?どういう事?』
『私とエリンは、ご主人様の子を生そうと思っています』
『え?お嫁さんになるの?』
『違います。ご主人様のお情けを貰って、私はドリュアスやエントのために、エリンは竜族のために、ご主人様との繋がりを頂きたいと思っています』
『え?でも、眷属だよね?』
『そうですよ。ご主人様のために、私たちは存在しています。だからこそ、ご主人様のためになんでもします』
うーん
リーリアお姉ちゃんが言っている事がよくわからない。なんで、子供を作る事が、ご主人様のためになるの?
でも解った事もある。なんかヤダ!リーリアお姉ちゃんも、エリンお姉ちゃんも好き。でも、僕はカズトお兄ちゃんの事が好き・・・だと思う。まだ、僕は子供だけど、カズトお兄ちゃんと一緒に居たい!
『僕は、カズトお兄ちゃん・・・ううん。カズトさんと一緒に居たい』
『それなら、伴侶になるか、眷属になるかですよ』
眷属になる・・・それも魅力的だけど・・・。僕は、カズトさんの伴侶になる。眷属ではなく、一緒に居るために、カズトさんのお嫁さんになる。
『僕は、カズトさんのお嫁さんになる。今は、まだ子供だけど、いろんな事を覚えて、カズトさんと一緒に居る』
/*** ??? Side ***/
「奴はどうした?」
「奴?あぁあいつなら、昨日、獣人族の女二人と同衾した状態で、死んでいたぞ」
「そうか、奴も最後に、獣人族を救済できたのなら本望だろう」
「あぁハーフの獣人の女だから、余計に良かったのかも知れないな」
「そうか・・・それで?アンクラムとミュルダはどうなっている?」
「まだだ。後10日程度で報告が上がってくる。それまで待っていろ」
「そうか、なにか解ったら教えてくれ、どうやら、上層部では何か動きが有るようだ」
「ほぉそうなのか?」
「あぁ教皇のご体調がよろしくないようだ」
「それはまた・・・この時期に・・・いや、この時期だからか?」
「あぁ我ら本部の司祭の中から、欠員になっている枢機卿の選出が噂されている」
「・・・そうか、貴様!」
「お互い様だろう?お前も、アンクラムとミュルダの偵察隊の中に、毒婦を忍ばせているではないか?」
「・・・」
「・・・」
男女は睨み合ったまま別れの言葉を口にしないままその場を立ち去った。
/*** カズト・ツクモ Side ***/
ミュルダ街からログハウスに帰って来て、3ヶ月が経過した。
ミュルダ街から、ビックスロープまで約6日間の行程だった。道を通す事も考えたのだが、獣人族や街の人たちに任せる事にした。俺が指示したのは、40kmごとに馬車を駐めて休める場所を作る事だ。感覚的には、高速道路のSAだ。人の手配は、カスパルに丸投げする。20kmごとに小さな休憩所を作る。こちらはPAだ。
PAでは、食事と休憩が行える。寝るための施設も作ってあるが、馬車に関する施設は用意していない。
SAでは、馬車の修繕施設や馬房があり、メンテナンスが可能になっている。食事や休憩と、本格的な宿も用意する。
これらの指示をスーンに出してから、1ヶ月もしないで、ミュルダ方面にPAとSAが出来上がった。
運営は、カスパルに丸投げした。アンクラムの難民たちや、ミュルダからの移住者も、落ち着いてきて、PAやSAでの設営や営業の手伝いをし始めている。獣人族も、商業区での運営を手伝っている。
その中で、鼠族が特殊な能力を発揮している。
鍛冶が得意なのだ。馬車を改良して、連結馬車を作成した。移動手段も、ブルーフォレストの中を、馬車のサイズの轍を作って、馬車を走らせている。動力は、元黒狼族の集落近くに、同じく集落を作って暮らしていた、馬族が協力してくれている。
馬族は、亜人の中でも、魔物よりの種族だという事だ。俺に謁見してきた馬族を見た時に思ったのは、”ケンタウロス”そのものだ。同族との交配しかできないので、集落を作って生活していたのだが、黒狼族が移動してしまった関係で、生活圏内まで魔物が出るようになってしまったので、居住区に保護を求めてきた。気性が戦闘向きではない事や、スキルが移動に特化した物になっているために、保護される事への忌避感はない、保護されてからの仕事として、馬車の運搬を頼んだら、快く承諾してくれた。
馬族が馬車を率いて、商業区まで移動する。
緊急時には、エリンに頼んで、眷属に飛んでもらう事になっている。それ以外では、竜族からログハウス周辺に滞在している竜族に荷物を運んでもらう事になっている。
ログハウスは、俺と眷属だけしか居ない場所になっている。謁見の間も作られているが、客が来る事が殆ど無い。ダミーの街として、商業区があるので、客とは商業区で会う事になりそうだ。
しかし、ログハウスや居住区とは別に、客人を迎えるために作った宿区も大幅に拡大した。
ここまでは大した問題はない。
小さな問題は沢山有ったのだが、スーンたちが対応できない物ではなかった。
今、俺の前で発生している面倒な事に比べれば大したことが無いといい切れる。
「クリス。なんで、お前がここに居る?」
「え?カズトさんの所に押しかけているだけですよ?」
「だから、なんで”押しかけて”来たのか聞いているのだが?」
「それは、もちろんカズトさんのお嫁さんになるためです」
そんなない胸を大きくそらされても、嬉しくもなんともない。
「はぁ・・・だから、この前言ったよな。そのつもりは無いし、婚姻するにしても、10年後くらいで十分だと!」
「うん。僕も、その時に”待ちます”と言ったよ?」
「あぁ聞いた。だから、なんで”ここ”に、クリスが居る?商業区に戻ったのではなかったのか?」
「うーん。商業区に僕の居場所が無いよ。化物の僕が居られるのは、ここだけだよ」
これの繰り返しだ。
確かに、クリスのスキルや種族名は、魔物よりだ。正確には、先祖返りでスキルを得ている可能性が高い。カスパル=アラリコ・ミュルダ・メーリヒと、先祖返りの可能性について話をした。クリスの母親は、種族的には、”人族”で間違いはなかった。母方の父。クリスから見たら祖母に当たる人物の”父親と母親”の種族はわからなかった。深く調べても、幸せになる人がいない事から、クリスの母方にエントやドリュアスが混じっていたのだろうと結論付けた。母方の祖母は、まだ健在だったので、話を聞く事ができた。その中で、曾祖母は、アトフィア教から逃げるように暮らしていたと言っていた。
「クリス!リーリアも、エリンも、とりあえず、自分の部屋に行け!ここで、寝たやつは、明日から風呂は別だからな!」
皆の動きが止まる。
別に、行為を知らないわけではない。経験だって”前世”ではある。しかし、若返って精神が身体の年齢に引きずられている感覚に陥る事が有っても、未発達な子供と行為をしたいとは思えない。
それに、そもそもの問題が解決していない。
ミュルダで、住民たちを失礼だとは思ったが、鑑定を行っていたが、種族で”ヒューム”を見つける事ができなかった。
俺の素体は、転移してきた物をベースにしている可能性が高い。そうなると、この世界の人族と、俺では違うのではないだろうか?しかし、カイやウミだけではなく、鑑定を持っている者が俺を見ても”種族は人族”だと言っている。
そんな俺が子を作って問題ないのだろうか?この辺りを知りたいと思っている。なんとか知る方法を模索したい。
もう一つの目的であった居住区の獣人族の生活の安定と俺が居なくても大丈夫な状態を作る事は、概ね達成できたと思っている。
細かい問題は発生するが、商業区を使った交易で問題が解決するだろう。まだ数回の取引を行っただけだが、大きな問題には至っていない。難民たちも、獣人族に偏見がないか少ない者たちなので、問題は発生していない。ダンジョン産の素材を活かした取引も問題はないと聞いている。
それから、俺が提供した”情報”による甘味や酒は、商業区に移住してきた者たちにも好評だという事だ。アレンジ商品はまだ出ていないが、そのうちアレンジした物も出てくるだろう。
居住区に関しても、妊娠する者が出始めた。そして、ブルーフォレストから、続々と獣人族や亜人族が集まり始めている。
そのための、棲み分けも始まっている。
意識あり、コミュニケーションに問題がない魔物やハーフの存在も認識された。
魔物由来だが、数世代ブルーフォレスト内で生活する事で、集落を形成している者達も居た。馬車仕事をしてもらっている、ケンタウロス族のような存在だ。沼地や水辺を好む、リザードマン。スパイダーの進化でもあるアラクネ。竜族と人が交わって生まれた種族のドラゴニュート。山羊の下半身を持つサテュロス。ハーピーと人が交わって生まれた種族の!有翼人《ユ・ミン・クオ・リャン》。
あとは、(酒の)噂を聞きつけてきたドワーフ種。エルダーエントやドリュアスの事を聞きつけた、エルフ族。
あとは、隠れ住んでいたハーフ種たちが集まってきている。
そのまま居住区の住民になる者や、商業区やSA/PAで商売を始める者。種族でまとまって、ダンジョン内の作業を受け持つ事にした者たちは、そのままダンジョン内に住む事にしたようだ。
そこで、俺が決めたルールは
・居住区/商業区/宿区を含む区内で、種族同士の喧嘩認めない。
・種族の大小は関係なく、種族代表を1人出し、合議制で運営を行う事。
これだけだ。
後は、合議制で作られた、族長会議が決める事になっている。
決まった事は、俺に上申されてくるが、ほぼスルー状態になっている。却下したのは、各部族から、俺に側室に出すという提案だ。そんな事をしなくても、これからもここで生活して恵みを享受してよいと伝えたのだが、族長会議は、手を変え品を変えて、俺に側室(正妻は、クリスかエリンだと思われているらしい)に入れてこようとする。
そこで、俺は、族長をログハウスに呼び出した。
「今の議長は、ヨーン=エーリックでいいのか?」
「はい。ツクモ様」
皆が、頭を下げている。
「そうか、族長会議で決まった事は尊重するが、いい加減に、俺への側室の斡旋は止めないか?まだ、俺は正室も側室も作るつもりはない」
黙って聞いている。これで解ってくれればいいのだが・・・。
「ツクモ様」
「なんだ?」
「族長会議の議長として、ツクモ様には、正妻が無理なら、側室や愛人を作って頂きたい」
「だから、却下だ。それに、俺に差し出される女も、好きな男が居るだろう?俺は、恨まれたくない」
「それは大丈夫です、族長会議で話をして、年齢がツクモ様と同じ位で、自ら望んだ娘の中から、ツクモ様の側室にしていただきたいと思っております。そうしなければ、未婚の女の半数以上が、ツクモ様の所に押しかける事になってしまいます」
「は?」
「いえ、ですから、未婚の半数以上をお相手していただけるのなら、儂らもこれを強くいいません」
「だから、なんでそうなる?俺は、正妻や側室に入ったからと言って、その種族を優遇する事はしないぞ?逆に冷遇すると思うぞ?」
「簡単な事です。ツクモ様。我らは、この地が続く事を祈っております。その上、女は強い者に惹かれます」
「ん?」
「不敬ながら、ツクモ様は跡継がいらっしゃいません。今、この地があるのは、ツクモ様のおかげです。我らが求めるのは、安定なのです」
「だったら、族長会議がこの地を安定に導けばいい」
「それは無理です。ツクモ様がいらっしゃるので、儂ら、族長会議は成り立ちます。ツクモ様がいらっしゃらなくなったら、族長会議は早々に崩壊してしまうのでしょう。これは、族長会議に参加していない。種族も同じ意見です。ですので、ツクモ様には跡継を、ツクモ様の後で、我らが主と仰ぐ方を欲しているのです」
「・・・それは解った。しかし、まだ俺は成人前だ。この議論は、成人後。俺から言い出す事にする。そして、少なくとも、妻は1人だ。側室や愛人は作らない。子供ができない時には、その時に、改めて考える。それでいいか?」
族長たちは、お互いに顔を見合ってから、議長になっているヨーン=エーリックが、俺の前に一歩進み出てきた。
「ツクモ様。ありがとうございます」
族長たちは、それで満足したから良しとしよう。
成人の年齢を定義していないけど・・・揉めそうだから、後で告知だけしておこう。ミュルダで聞いて回った感じでは、15歳が成人として扱われる年齢らしいが、個人的な感覚では、20歳だというのが抜けきれていない。さすがに、20歳というと反発が起こりそうだから、18歳としておこう。
/*** ヨーン=エーリック Side ***/
ふぅ恐ろしかった。
今回は、スーン殿だけじゃなく、眷属の皆さんも協力的だった。竜族の長まで、居住区に来られて、話に加わってくださった。
そこで、儂らの意見としては、跡継は一日でも早いほうがいい。
しかし、どこかの種族に偏ってしまうのは問題である。そこで最初に出たのが、全種族を側室に迎えてもらって、種族別に1人以上の子を作ってもらい、種族代表として迎える事だ。
正妻には人族か竜族から迎えてもらえれば、正妻の子を、儂ら種族が支える事ができる。理想の形ができると考えた。この提案を、スーン殿にした所、多少の変更・・・ドリュアスやハーフ族も加える事が条件に追加されて、ツクモ様に上申され・・・見事に却下された。
そこで、儂らは、側室になる年齢を、ツクモ様に合わせる事にした。希望者を募った所、未婚女性の8割が集まるという自体になってしまった。その中から、スキル構成や、容姿などを考慮して、種族代表を決め、ツクモ様に上申した。
これが二回目の却下だ。
我らは諦めない。次に取った手は、スーン殿から全面的な協力を得て、種族から各3名程度の側室候補を選び出し、ツクモ様の居住区であるログハウスに行儀見習として出す事だ。我らはそれ以上は何もしない。ツクモ様の身の回りの世話をしながら、子を生せればよいと考えた。
しかし、これも却下された。ツクモ様からは、身の回りの世話にそれほどの人は必要ないという事だ。
これが三回目の却下だ。
4回目は、人数が必要ないのなら、持ち回りではどうかという提案にしたが、却下された。基本は、自分で行うからとい事だ。
5回目は、ツクモ様の世話をしているドリュアスの作業を手伝うという事だが、我らの考えを先読みされたのか、却下された。
6回目は、もう一度直接、全種族とは言わないので、1人でも2人でも構わないので、側室を作って欲しいというお願いをしたが、却下された。
7回目を考えている時に、ツクモ様から族長会議全員の呼び出しが入った。
その時に、我らの考えは、すぐにの跡継は難しいと考えるが、我らが跡継を望んでいる事や、その理由をご理解いただく事を目標とした。そして、できれば、ツクモ様から、年齢的な制限を設けていただく事になれば、我らも少しは安心できる。
そして、我らは最大限の成果を上げる事ができた。
ツクモ様から、成人後に妻を迎えるとお約束頂いたのだ。お世継ぎの事も明言された。
妻を1人と言うのは、少ないと思うが、ツクモ様のお考えに従う。
今の所、正妻候補は、ミュルダの領主だった、カスパル=アラリコ・ミュルダ・メーリヒの孫娘のクリスティーネ=アラリコ・ミュルダ・マッテオだろう。種族が人族だと偽装していたという話だが、人族の街で暮らしていた事や、ツクモ様への態度から、正妻候補と考えていいだろう。もうひとりは、眷属だが、竜族の娘エリン・ペス・マリオンだろう。
どちらでも、我らの事は考えてくれるだろう。そして、ツクモ様に却下された、側付きもご許可いただける可能性が高い。領主の孫娘なら、そういった環境にもなれているだろう。竜族も力強いものが側室を作るのは当然と考えてくれる。ツクモ殿の側使いは無理でも、正妻の側使いに獣人族のものを置くことはできるだろう。
これで、族長会議の懸案事項であった、ツクモ様の跡継問題は、ひとまず終結するだろう。
次は、酒問題と、女性陣からの熱烈な要望による甘味問題。
そして、ツクモ様を讃えるまつりの開催問題。
まだまだ、族長会議で決めなければならない事が多い。
もう既に、族長を引退して、後進に譲って自分は悠々自適生活に入った元族長も多い。儂も、任期の1年が終了したら、商業区で店を開く事にしている。
/*** サラトガ領主 Side ***/
どういう事だ。
ダンジョンに向かった者が帰ってこなくなり、ダンジョン入口に作成していた小屋が魔蟲に攻撃され、破壊された。
それから、ダンジョンに入ることさえできなくなってしまった。
最初は、ミュルダの奴らの嫌がらせかと考えたが、奴らは奴らで大変な様子だ。
どうやら、ミュルダ老が引退したようだ。代わりは、ギルド長を努めていたもので、長老衆の承認も得ているらしい。
情報が錯綜していて、何が正しいのかわからない。アンクラムもおかしな状況になっている。アトフィア教が完全撤退したという話まで出てきている。
「領主様」
「なんだ」
「そろそろ・・・」
「あぁそうか、今日は、商会だったか?イヤ、武器商だった?」
「いえ、教会関係者です」
「・・・そうか、お前が・・・わかった、そんな顔をするな。それで、奴らはどこに来ている?」
「あっ本日は、コルッカ教です」
「そうか!」
「ダンジョンの事を含めた、ご報告があるそうです」
「わかった。すぐに行く!」
アトフィア教の奴らとは違う。コルッカ教は、獣人族だけではなく、エルフ族・ドワーフ族・ホビット族も人族と捕らえている。もっと言えば、大陸語であるレヴィラン語を話せる者なら、神の庇護下にあるという考え方だ。
総ての物に神が宿るというのが根本的な考え方で。ダンジョンを神が作った試練と位置づけて、ダンジョンの研究も行っている。
「司祭様。ようこそ」
応接室に入って、すぐに司祭に声をかける。
何度か会談した事があるが、深刻な話でもあるのか、苦虫を噛み潰したような表情をしている。
「領主様。アンクラムの事はお聞きになりましたか?」
アンクラム。半年くらい前に、いきなりミュルダを異端認定をして、サラトガにもそれに追随するように言ってきた。メリットがない事から、ミュルダ街から来ている冒険者を捕縛して、送る事だけを約束した。
「ミュルダの件は聞いている?それ以外の事か?」
獣人族狩りに、ブルーフォレストに向かった事は知っている。それが、ブルーフォレスト内の獣人族の結束に繋がったらしい。その後、どういう経緯かわからないが、獣人街が出来上がった。
「アンクラムで、アトフィア教と領主が全面的な衝突が発生したようです。その余波で、ミュルダが難民で溢れかえっています」
3ヶ月程度前の情報だ。
俺もそれは把握している。わざわざその程度の事をいうために面会を申し込んできたとは思えない。
「知っている。その難民も、サイレントヒルとブルーフォレストの境にできた、獣人族の街に移動したと聞いておるぞ?」
「えぇそうですね」
司祭は何を知ってる?
そして、俺に・・・サラトガに何を求めている。
「司祭殿。腹の探り合いもいいが、毎回だと疲れてしまう。俺も知っている事を話そう。貴殿らコルッカ教は何を求めている」
「ハハハ。そうですね。アンクラムが街としての体裁が保てなくなっている現状を考えまして、率直に言わせていただきます」
ちょっと待て、衝突したとは聞いている。それだけの事で、街としての機能がなくなっているのか?
「あぁそうだな」
「ご存知だとは思いますが、獣人族の街ですが、そこの代表が、前ミュルダ領主なのです。それで不思議なのは、息子は獣人族の街に行っていない。二人の孫の姿は、街で見かけるという事です。アンクラムは、ミュルダを異端認定してしまったために、食料が行き渡らななくなってしまったようです」
「あぁそれで?」
ミュルダの冒険者たちが、俺の所にレベル7回復を求めてきたので知っている。
ミュルダ老の息子は、アトフィア教の信者だ。それもかなり熱心だったと聞いている。老から見たら、孫になるが二人のうちのどちらか、多分孫娘なのだろうが、レベル7回復を必要とする病に侵されていた。それが、数ヶ月前から、屋敷の外に出て、街中で目撃されたりしている。
アンクラムは墓穴をほったのだ。この辺りの食料は、ダンジョンから魔物の肉を確保するか、ブルーフォレストに入って恵みを奪うか、ミュルダから穀物を買うしか無い。
「レベル7回復」
司祭様がぼそっと言葉を発した。
「え?」
「ミュルダが、貴殿たちが持っている、レベル7回復を求めていたのは間違いないようですな」
「・・・隠してもしょうがないようだな。確かに、何度か交換の交渉を持ちかけられた。断ったがな」
「えぇレベル7回復ですが、もう必要なさそうですよ。ミュルダ前領主の孫娘は、元気にしているそうですからね」
「・・・そうか、どうやって・・・司祭様は、その確認にいらっしゃったのですか?」
「いえ・・・まぁ確かに、それも有ったのですがね。ミュルダというよりも、獣人街がダンジョンを抑えたのかも知れませんね」
「なっそれは・・・」
「どうされましたか?」
「なんでもない」
「そうですか、解りました。我ら、コルッカ教は、本日を持って、サラトガの教会規模を縮小します」
「待て!どういう事だ!規模縮小とは?」
「言葉通りですよ?ダンジョンも入る必要が無くなりそうですし、今後この辺りの中心は、間違いなくミュルダになるでしょう。彼らも、我らを快く迎え入れてくれていますからね」
「待て!今まで散々優遇したではないか?」
「そうでしたか?我らが、ミュルダに教会を作ろうとした時に、不思議とその場所近くに、アトフィア教の関連施設が出来上がったのですが、我らが調べないとでも思いましたか?あぁ治療ができる司祭を1人置いておきます。冒険者たちもミュルダに移動し始めているようですし、それほど多くの人材は必要ないと判断しました」
「なっ!」
「商人たちも、移動を開始したようですよ?ご存知だとは思いますけどね」
どのくらいそうしていたのだろう。
目の前には、空になったカップと、司祭が座っていたソファーがある。
確かに、ミュルダの情報は掴んでいた。アンクラムに関しても、商人を通じて情報はある程度入ってきていた。
出した指示は間違っていない。
どこで間違えた?
獣人街ができたと報告が来た時に、無視したのがダメだったのか?
ミュルダの冒険者ギルドから、ダンジョンに・・・ブルーフォレストに入られなくなった事を聞いた時に、今まで利益を独占してきたのに、”困ったら領主頼み”かと突っぱねたのが悪かったのか?
街のために、ミュルダに教会ができる事を阻止したのがダメだったのか?
獣人街から商人派遣の要請が来た時に、笑い飛ばして利益にならないと拒絶したのが悪かったのか?
「領主様!」
執事が応接室に駆け込んできた。こんな事をする者ではない。
「なんだ!」
「はっはい。申し訳ありません」
「いい。それで何が有った?」
「はい。冒険者ギルドからの報告なのですが・・・」
「だから、なんだ!」
「はい」
執事は、息と整えるように、一端言葉を切った。
「はい。領主様。ダンジョンが、ダンジョンが攻略されました」
「なにぃぃぃ!それは確かなのか?今、ダンジョンは入られないのではないか?」
「はっはい。今朝ほど、ダンジョンの確認に向かった、ギルド所属の冒険者が、ダンジョンに入られるようになっているのを確認して、ダンジョンに入ったそうですが・・・」
「魔物が一匹も出てこなかったのだな」
「はい。それで、コルッカ教の者と、冒険者ギルドで確認に向かった所、ダンジョンの攻略が確認されたという事です」
「・・・わかった。下がって良い。あっ皆を集めてくれ」
「わかりました」
執事が下がっていく。
スキルカードはまだ大量に残っている。1年や2年でなくなったりはしないだろう。問題は、その先だ。
ミュルダと違って、サラトガはブルーフォレストに接している。農耕ができる場所が限られている。ダンジョンの恵みが有ったから、サラトガはやってこれたのだ。希少な素材を求めて、商人が来る。その商人相手の商売が必要になってくる。そして、ダンジョンから持ち返ってくる、スキルカードや素材がサラトガを富ませていた。
そして、コルッカ教の教会も、この辺りだと、サラトガにある教会が本殿の役割を持っていた。そのために、熱心な信者は多くはないが、それでも巡礼に訪れる者は存在していた。固有スキルに治療を持っている者をコルッカ教が提供してくれていたのも大きな理由だ。
総てなくなるのか?
/*** カズト・ツクモ Side ***/
「なぁスーン。なんで、ミュルダや商業区に関する決裁までこっちに回ってくる?」
「それは、大主様が作られた、SAとPAに、小規模の教会を作る許可でございます」
「だから、それは、商業区で判断すればいいだろ?俺の許可は必要ないと思うのだけどな?」
「いえ、SAとPAと商業区と居住区と宿場区とダンジョンと洞窟は、総て大主様の物です」
「だから、それぞれの代表を作って移譲しただろう?」
「いえ、その件に関しては、総ての代表から”自分たちは代理であって、代表はツクモ様”なる返事が来ています」
「それも言っただろう。代理なら、決裁権を渡すから、好きにしてくれと・・・」
「族表会議からは、最終決裁者はツクモ様という上申が来ています。商業区と宿場区からも同じです」
はぁ何を言ってもダメなヤツだな。
「なぁスーン。ここで、申請が来ている、コルッカ教は、獣人族だけじゃなくて、魔物にも寛大なのだろう?」
コルッカ教は、最大の宗教。だが、内部は細かく細分化されている。
例えていうのなら、神への祈りの方法を定義したり、感謝の表し方を定義している。いろんな神を崇める事を推奨している。崇める神ごとに、教典が存在している。唯一存在するコルッカ教の教えは、”他の信仰を否定しない”それだけなのだ。だから、コルッカ教と言っても、いろいろな派閥が存在している。”すべての物に、神が宿る。神に感謝しつつ生活しましょう”が基本的な考えだ。また、魔物にも神が居ると考えていて、必要以上に、魔物を悪と決めつけない。
ダンジョンの研究も進んでいて、ダンジョン魔物とダンジョン外の魔物はしっかり区別している。
ダンジョン魔物は、ダンジョンの中でしか生きられない物である事が解っているので、狩る事が推奨されている。
「はい。ハーフも人族として認めております」
「それならいいか?デメリットはなさそうだけど、メリットもないよな?」
「人族でも、コルッカ教の信者は多いです。その者たちへのアピールにはなろうかと思います」
「あぁそうか、宗教なんて、所詮そんなものだよな。わかった。カスパル=アラリコ・ミュルダ・メーリヒに許可を伝えておいてくれ」
「かしこまりました」
他の決裁した書類を持って、スーンが部屋から出ていく。
「ライ!」
『なぁーに?』
今日は、ライが俺のそばに居る日だ。
俺は、少しだけ、本当に少しだけわがままな事を考えていた。
「カイとウミも近くに居るのか?」
『カイ兄もウミ姉も、洞窟で寝ているよ』
「ライ。悪いけど、二人を起こして、すぐに出られる状態になってもらっておいてくれ。それから、カイにお願いして、あの猫族の子に連絡して、鼠族から馬車を一台内緒で用意しておいてもらってくれ」
『わかった。でも、馬車は連結馬車?』
「普通の馬車で頼む。1番最初に作った奴がまだあるはずだろうからな」
『でも、あれだと、ヌラやヌルたちじゃないとひけないよ?』
「それもあったか・・・ライ。手配頼めるか?」
「うん!わかった!」
黙って出かけるのもいいが、スーンくらいには一声かけておくほうがいいだろうな。
黙って居なくなったら、絶対に、眷属たちを総動員して探し始めるだろうからな。
『スーン』
『はい。何でしょうか?』
『10日くらい、ログハウスを開けるがいいよな』
『かしこまりました。共回りはどういたしましょうか?』
『不要だ。俺と、カイとウミとライと、後、魔蟲を少しだけ連れて行く』
『大主様!』
『決定事項だ。今回は、俺とカイとウミとライだけで行く。ヌラとヌルから数体出させるが、それだけだ。それ以上は認めない』
サラトガに行ってから、ここのダンジョン以外のダンジョンにも入ってみたかったのだよな。
その後で、商業区を通って、アンクラムに行ってみよう。そのまま、ミュルダを通って返ってくればいいよな。
距離的には、数週間だけど、移動時間は魔蟲達が頑張ってくれるから、一日程度って聞いているから、大丈夫だろう。
/*** スーン Side ***/
少し、認識を改めないとダメかもしれない。
私が持っていた知識では、統治者は、周りに異性を大量に置いて、交配行為を行うものと思っていた。
だが、大主様は、交配者は1人で良いと言っている。強き者は、複数の交配相手を持ち、子孫を残すことを求められる。獣人族の族長会議でも同じような事を議論していた。だが、大主様は違った考えをお持ちのようだ。
そもそも、我ら眷属は、大主様を中心にまとまっている。ご子息ができても、ご子息に従う事は無いだろう。種族の長としてお迎えするだけだ。また、大主様からのご依頼で、ご子息をお守りする事はあると思うが、その場合でも、個々の意思を持って行動する事になるだろう。人族のように、大主の子息だからと、我らが従うような事はない。
大主様の安全確保が、我らが第一に考えなければならない事で間違いはない。
その上で、大主様の意思が確認できたので、それに従う事にする。
カイ様とウミ様とライ様と、リーリア殿とオリヴィエ殿とエリン殿と、ヌラ、ヌル、ゼーロを交えた眷属会議を行う事になった。
提案者は、カイ様だ。まとめ役として、私をご指名していただいた。
眷属会議で、先日の居住区から出された提案のお話をさせていただいた。
カイ様とウミ様は、ご存知だったご様子でした。
改めて、リーリア殿とエリン殿に、大主様の交配者は1名だという取り決めになった事を説明した。その上で、クリスティーネ殿を含めた女性陣には、大主様から声がかかるまでは、待つ事をお願いした。
ただし、他にも大主様との交配を狙う者が居るのも確かなので、女性陣や眷属は、気配を察知して、近づけないようにする。
眷属会議なので、クリスティーネ殿は参加されていないが、リーリア殿が説明する事が決定した。
大主様の事を、一般的な統治者と同等に扱った事を含めて、しっかりと反省する事にした。大主様のためといいながら、自分たち種族の事を考えていた事もしっかりと反省する。
『でも、スーン。主様は、僕たちにも、好きに生きろと言ってくれるよ?』
『えぇそうですね』
『うんうん。カイ兄の言う通り、それにスーン。難しく考えすぎ!カズ兄は、”まだ”早いと思っているだけだよ。成人したら、しっかり考えてくれるよ。ね。カイ兄』
『僕もそう思います。スーン。ドリュアスの配置を止めたりしないようにね。やっと、主様が受け入れてくれたのだからな』
『・・・はい。わかりました』
『うん』『お願い!』
『そうだ!カイ兄。ウミ姉。スーンに、眷属代表をやってもらおうよ。獣人族も、族長会議みたいな事をしているよね?』
『それいいな。ライの意見に賛成だけど、スーン。頼めるか?僕たちの意見をまとめて、主様に具申してくれればいい』
『私がですか?』
『そう、スーンが1番適任だと思うよ』
皆の賛成も有って、私が、眷属代表になる事が決定した。
あくまで、眷属間での話しで、序列とかの話ではない。
その後、私が、皆さんを呼ぶ時の呼称も変更される事になった。
リーリア殿と、オリヴィエ殿と、エリン殿から、”殿”はやめて欲しいと言われた。カイ様とウミ様とライ様以外は、同列だという事に決定した。初期の眷属である御三方は別格扱いを受けるべきだというのが、私たちの考えだ。
「リーリア。クリスティーネ殿への説得お願いします」
「わかりました」
「エリン。申し訳ないのですが、小型ワイバーンを数体お貸し願えないでしょうか?」
「ん。いいけど?どうするの?」
「まず、商業区/黒狼区/竜族区との間で定期便として飛ばします」
「どこから飛ばす?居住区?ログハウス?宿区?」
「そうですね。ログハウスですと、大主様のご許可を頂いたほうがいいと思いますし、居住区への連絡が多くなるでしょうから、居住区から飛ばすようにしましょう」
「わかった、手配しておく」
「オリヴィエ。後で、居住区に行きましょう。大主様の護衛になれるように、武器やスキルの構成を考えましょう」
「いいのか!」
「大主様のご許可はいただく事になりますが、獣人族の獅子族や黒狼族や白狼族や熊族の方々から対魔物や人族の戦闘に関して聞くのは無駄では無いでしょう」
私たち眷属は、新たな一歩を踏み出す。
今までは、大主様の庇護下で、大主様にご負担を強いていた部分があった。我らは、我らとして、大主様の事を思って行動すればよいと思っていたが、それは間違っていた、大主様のご意向をしっかりと聞いてから行動に移す。そうしないと、大主様のお考えと違った結果になっています。
私たちのすべては、大主様のためにある事をしっかりと認識する。
/*** カズト・ツクモ Side ***/
拠点の開発も中途半端だけど、方向性だけは示せたと思っている。
ログハウスはまだまだ改良していくし、自重する必要はない。洞窟内部も同じだ。
俺たちが改造した馬車は思った以上に快適だ。
ライが居るので、荷物も少ない。ダミーで荷物は載せている。盗賊に襲われたら、それを捨てて逃げればいいようだ。カイとウミとライにも、同数以上なら逃げるように言ってある。そうしないと、10倍の戦力差でも、戦闘を開始しようとしてしまう。
『ライ』
『あるじ?なに?』
『荷物を載せたのは、スーンだったよな?』
『うん。そうだよ。でも、食事はドリュアスに頼んで作ってもらったよ?』
『あぁわかっている』
そうなると、スーンではないな。
宿区を出る時に、ナーシャに声をかけられて、話し込んだ時が1番可能性が高いな。
不自然に感じたのは、サラトガに近づいた時だ。1つの荷物だけ揺れが少ない。
「ふぅ・・・クリス!」
1つの荷物が揺れる。
「怒らないから出てこい。いつまでもそうしていられないだろう?」
「えへ?」
クリスが荷物から出てくる。魔核を持っている事から、何かしらのスキルを使用していたのだろう。
クリスの容姿は、正直に言えばかなり可愛い。美人になる要素は十分持っている。ドリュアスかエント系の先祖返りで、獣人族の血・・・白狼族だろうけど・・・が混じった、容姿をしている。髪の毛は回復のスキルカードを固定化した時に、もともと白かったものが、白銀に変わった。身長は、今の俺よりも少し小さい。胸は、クリスの名誉のために、これから大きくなるだろうと言っておくが、ナーシャや白狼族を見ると、それもあまり期待できないだろう。ドリュアスやエント系は、美形になりやすいのだと思う。ログハウスに居るドリュアスも、美形揃いだし、リーリアも美形だ。
「カズトさん。ごめんなさい」
「なんで着いてきた!?今から、魔蟲を付けるから、宿区に帰れ」
「イヤ!カズトさんと離れたくないのもだけど・・・・僕もいろんな所に行きたい!」
そうか、クリスは病弱だった事もあって、部屋からほとんど出た事がなかったらしい。カスパル=アラリコ・ミュルダ・メーリヒが、時々街に連れ出していた程度だ。
「クリス。それはわかった」
「じゃぁ一緒に!」
どうする。
今から帰すと言っても、かなりの場所まで来てしまっている。俺も一緒に戻ればいいのだが、結局ついて行くと言い出すに決っている。
「カイ。ウミ。ライ。クリスが一緒でも大丈夫か?」
「え!」
『大丈夫だと思いますが、安全を考えるのなら、魔蟲か、魔物を眷属として付けるのが良いかと思います』
『うーん。カズ兄。大丈夫だと思うよ』
『あるじ。僕が眷属呼び出して置くよ』
概ね大丈夫なようだ。
クリスも、やっと普通に生活できる環境になったのだし、好きに生きろと進めたのも俺たちだ。クリスに、眷属を付けるのも、1つの解決方法だな。適当な魔物が居た時に、進めてみる事にするか?
クリスがここに居るのも、スーン辺りがナーシャかイサークに依頼したのかも知れないな。
まぁ半日ちょっとだけど、カイとウミとライと過ごせたからな。ちょうどいい気分転換ができたな。
「ふぅ・・それで、クリス。誰の手引きだ?」
「えぇ・・・とぉ?」
「スーンか、族長会議辺りか?」
「え?あっ違う。僕が、偶然、居住区に行った時に、ミーシャがいろいろ準備していて、大変そうだったから手伝った時に、カイ兄に頼まれたと話していて、これは、カズトさんがどこかに行こうとしていると思っていたら、鼠族が居住区の奥から、馬車を動かしていたから、見張っていたの・・・そうしたら、ナーシャお姉ちゃんが来て協力してくれたの」
『主様。ミーシャが、猫族の娘です』
『スーン関係でも、リーリアでも無いのだな』
手引きした者が居たのは間違いないと思っていたけど、クリスが自分で見つけて、考えたのならしょうがないな。誰かから教えられたのなら、連れていなかいという選択肢も考えられたのだが、自分で考えたのならしょうがないよな。
『うん。みんな反省している』『ウミ!』『ウミ姉。それは内緒って約束!』
眷属で何かしらの会議をしているのは知っていたけど、反省会でも開いていたのか?
「クリス。危ないと思ったら、帰すからな。俺の指示には従えよ?」
「うん!ありがとう。カズトさん」
クリスが飛びついてきたが、ウミがガードした。
「ひどぉい。ウミ姉。僕も、カズトさんに甘えたい!」
賑やかになる。
この感じも嫌いではない。強要しないのなら、許容範囲だな。
ウミの話から眷属で会議をして、反省したのならリーリアやオリヴィエやエリンが居ても俺の邪魔をする事は無いだろう。
スーンやエントやドリュアスたちも、3人を連れて居ると知ったら、安心してくれるだろう。
「ライ。スーンに連絡して、リーリアとオリヴィエとエリンをこちらによこせ。呼び寄せるよりも、エリンが運んだほうがいいだろう。その時に、魔核や攻撃系のスキルを中心にスキルカードをもたせるように言ってくれ」
『わかった!』
馬車を駐めて、エリンの到着を待つことにした。
クリスがなにか、ブツブツ言っていたが無視する事にした。
ライから、到着には3時間程度かかりそうと言われたので、馬車の中で仮眠を取る事にした。クリスは近くを少し散策したいと言っていたので、ウミに付いていってもらう事にした。ウミがいれば、この辺りの魔物なら大丈夫だろう。
「カイ!」
『主様』
「久しぶりに一緒に寝るか?」
『よろしいのですか?』
「あぁライも居るし大丈夫だろう」
『あるじ。大丈夫。カイ兄にも休んで!』
「ライ。リーリアたちが来たら起こしてくれ」
『わかった!』
馬車の中に作っている休憩スペースで身体を休める事にした。
「ご主人様!」
「あっリーリアか、悪いな急に呼び出して」
「いえ、嬉しいです!それで、どういたしましょうか?」
「そう言えば、オリヴィエとエリンは?」
「エリンは、クリスを連れ戻しに行っています。オリヴィエは、今日は、ここでお休みになるのだと思って、野営の準備をしております」
「おっそうか、頼もうと思っていたから、丁度良かった」
馬車から降りると、野営の準備・・・なのか?オリヴィエが、木々を操って、簡易的な小屋を作っていた。
「オリヴィエそれは?」
「え?あっマスター。これは、マスターとカイ様とウミ様とライ様がお休みになる場所です」
「お前たちは?」
「あとで、クリスに、スキルの使い方を教えながら、もう一個作ります。そこで、クリスに休んでもらって、僕と、リーリアと、エリンで、交代で見張りをやります」
「オリヴィエ。それは、お前の考えか?」
「いえ、僕とリーリアとエリンで話をして決めました」
「そうか、でも、俺もカイもウミもライも交代で見張りに入るぞ?」
「ダメです!こればかりは、マスターのご命令でも聞けません。お願いします」
”お願いします”まで言われたらそれ以上強く言えない。
今日一晩だし、明日は、サラトガ経由でダンジョンに入る予定だからな。そうしたら、話し合って順番を決めればいいよな。
「わかった。お前たちには負担をかけるが、今晩は頼む」
エリンが、クリスとウミを連れて返ってきた。
どうやら、ウミがクリスにスキルの使い方を教えながら、狩りをしていたようだ。
「カズトさん!これ!」
クリスが嬉しそうに、レベル2のスキルカードを渡してきた。それと、レベル2の魔核もだ。
「クリス。これどうした?」
「僕が、初めて倒した、ゴブリンから出てきた!ウミ姉に、スキルの使い方を教わっていたら、近くに居たから倒した!」
ほぉいきなりの実戦をしたのか・・・大丈夫だったようだな。
見た感じ、怪我もしていない。ウミが居たようだし、ゴブリン程度では大丈夫だろう。
「それでね。それでね。ウミ姉に言われて、魔眼でゴブリンを見たら、右肩辺りに、魔力が集中していた場所があったから、そこをさけて攻撃したら、魔核が出現したの!」
テンションが高いのは、初めての狩りで興奮しているのだろう。
「え?あっクリス。ゴブリンは、その一体だけだったのか?」
「うん!倒して、スキルカードと魔核が出た時に、エリンちゃんが迎えに来てくれたの!」
クリスの魔眼は、魔力の流れを見る事ができると言っていた。
ちょうどいい。サラトガのダンジョンでいろいろ実験してみるか?
/*** カズト・ツクモ Side ***/
どうやら、夜の見張りは、カイとウミとライも参加することで、決着したようだ。
それから、クリスが、オリヴィエとリーリアから、樹木のスキルを教わりながら、小屋を作成した。初めてにしては、なかなかうまく作れたと思う。樹木のスキルは、エントとドリュアスの種族スキルだが、野営地を作ったりする時には重宝する。
クリスは、魔眼という特殊なスキルを持っているので、スキルを使う時に、なるべく並列で使うようにさせてみた。魔力の流れが見えるのなら、スキルを使う時に役立つだろうと思ったが、想像以上に疲れるようだ。今、自分が作った小屋でぐっすり寝てしまっている。
「ご主人様。お休み下さい。後は、私たちが見張りを行います」
「そうか・・・リーリア。絶対に無理するなよ。オリヴィエも、エリンも、なにかあればすぐにおこせよ。起こされる事よりも、お前たちが傷ついたほうが俺は怒るからな」
「はい」「マスター。解りました」「うん!パパ。わかった!」
俺も、オリヴィエが作った小屋に入って休む事にした。
中は、それほど広くないが、今の俺が休むには十分なスペースがある。すでに、ウミが丸くなって寝ている。カイが見張りに出るようだ。ライも俺の後からついてくる。
『あるじ。布団と枕だす?』
「そうだな。頼めるか?」
『わかった!』
草木で作られたベッドだから、弾力は十分だが、やはり布団が有ったほうが寝やすいのは間違いない。
ウミを抱きかかえて、ライに布団を敷いてもらう。布団に横になると、さっきまで感じていなかった睡魔が襲ってきた。
1人になりたいとか思っていたけど、カイやウミやライと一緒の行動は楽しかった。勝手に、馬車から飛び出して、魔物を狩って、自分では持って帰られなくて、ライを呼びに来るウミとか、カイやライとスキルの実験をしたり・・・。洞窟を手に入れたばかりの頃を思い出す。最初の頃と比べて、かなり周りの環境は変わった。
洞窟の入口は、崖の正面からは岩で塞いで滝で目隠ししているから、空気穴と魔蟲が外に出るくらいにしか使っていない。ログハウスへの抜ける竪穴は、俺たちが使うだけだ。それも改造に次ぐ改造で遂にエレベータのような物まで作成できた。まだ、魔蟲力?での運用だが、スキルの組み合わせでうまくできないか考えている。
洞窟に繋がるもう一つの通路は、居住区に繋がっている。
アルベルタとフィリーネが、居住区の担当として動いてもらっているが、二人からは問題はないと報告を受けている。時々、ナーシャがダンジョンに潜る時に、ヨーン=エーリックと言い争いをするそうだが、最初は皆が相手していたが、あまりにも馬鹿らしい事情だったのが判明して、最近では誰も相手にしていない。
イサーク達も、当初は商業区を拠点にするつもりだったらしいが、クリスの護衛というもっともらしい理由で、居住区に来て、いつの間にか宿区を拠点にして、ダンジョンに潜っているそうだ。
イサーク達が言うには、俺たちが潜っているダンジョンはやはり特殊なようだ。
通常のダンジョン(サラトガのダンジョン)では、階層踏破時にスキルカードをもらえたりする事が無いと話していた。あと、転移場所も、ダンジョンの入口から離れているのも不思議だと言っていた。サラトガのダンジョンだと、転移はできるらしいが、できる階層も決まっていて、俺たちのダンジョンの様に、階層ごとに転移場所がある事が無いのだと説明された。
帰ったら・・・宿区を取り仕切る者たちに、名前をあげないとな・・・。
宿区には、10店舗ほどの宿があるが、未だに名前を着けていないからな・・・管理するエントやドリュアスに名前を与えて、それをそのまま宿の名前にすればいいよな。
/*** カイ Side ***/
『ライ。主様は寝られたか?』
『うーん。ちょっと待って?』
野営地で、警戒しているが、主様の周りを取り囲むように、アントやビーナたちが警戒している。
そのために、この場所の警戒は、主に、クリスの暴走を止めると事に有るのだが、そのクリスから、先程謝罪が入ってきた。
僕たちと主様の旅を邪魔した事への謝罪だった。主様が、お認めになった事を、僕たちが文句を言う事はない。その事を伝えたら、安心して眠られたようだ。
スーンや、獣人族の族長会議が言っている事もわかる。確かに、主様の跡継は、あの場所を維持するためには必要なことだろう。でも、僕とウミとライの考えは違う。主様は主様だけなのだ。跡継ができようが、僕たちがお使えするのは、主様だけだ。
『カイ兄。あるじは寝ているよ』
『ライ。主様を中心に結界を展開できるか?』
『うん!できるよ。スキル使うね』
『頼む』
これで大丈夫だ。
ウミが一緒に寝ているだろうから、結界が破られるような事が有っても対処できるだろう。
『ライ。リーリアとオリヴィエとエリンの所に行きますけど、どうします?』
『一緒に行くよ!』
ライが小屋から出てきた。
一緒に、隣にある。もう一つの小屋まで行ってから、リーリアに話しかける。
すぐに、リーリアは小屋から出てきた。
「カイ兄さま。なにかありましたか?」
『クリスは寝ているのか?』
「はい。ぐっすりです」
『そうか、オリヴィエとエリンはどうしている?』
「・・・」
『どうしている?』
「はい。近くで、ボアの気配を感じたと言って、明日の朝食に、ご主人様にと申しまして・・・」
『そうですか・・・それで、リーリアが残ったのですね』
「はい」
『ライ。クリスにも結界を展開しておいて下さい。傷ついたら、主様が気になさりますからね』
『わかった!』
『リーリア』
「はい!」
『何を緊張しているのですか?』
「・・・カイ兄さまが、なにか怒っていらっしゃる・・・のでは無いかと・・・」
『はぁ・・・怒っていませんよ。それよりも、明日以降の事を話しておきましょう』
「はい」
明日以降。
食事や身の回りの世話は、リーリアとオリヴィエが行う。クリスが手伝いたいと言った場合には、リーリアの判断に任せる事になった。明日は、サラトガの街に入ってから、ダンジョンに向かう事になるのだが、宿区に来ている冒険者たちの話では、難易度はそれほど高くないだろう。
踏破もできるだろう。ダンジョンの最奥の情報は無いらしいが、それでも僕たちなら行けるだろうと思っている。
オリヴィエとエリンが戻ってきた。
フォレストボアを数体倒したようだ。2体を残して、ライが保管する事にした。一体は、解体を行う。もう1体は明日サラトガに入った時に、街で交換できないか交渉する。スキルカードには、余裕があるが、無理に使う必要はない。今まで聞いている情報だと、サラトガも食料に困り始めているらしいので、フォレストボア程度でも、喜ばれるだろう。残りの、フォレストボアは、宿区に必要な分量を渡して、残りは居住区にわたす事になった。宿区ではクリスが滞在しているので、その料金代わりにすればいいだろう。
/*** リーリア・ファン・デル・ヘイデン Side ***/
カイ兄さまから呼び出しがあった。今から行くと言われた。なにか、すごく怒っているように感じる。
やっぱり怒っている。
クリスの事で怒っているのか?それとも、私やオリヴィエやエリンの事でしょうか?
ライ兄さまも一緒に来られている。
ご主人様とお会いするよりも、カイ兄さまと対峙するほうが緊張する。正直、私なんて、カイ兄さまが本気を出されたら瞬殺されてしまいます。確かに、種族的には、イリーガルを持たさせていただいていますが、スキル構成があまりにも違いすぎます。それだけではなく、小さなフォレストキャットの体躯のままいらっしゃいますが、実際には、5mを越える大きさが本来の大きさです。ご主人様の近くに居るために、身体の大きさを調整していらっしゃるのです。
私も、一度だけカイ兄さまとウミ姉さまの狩りに同行した事があります。
ライ兄さまが、SA/PAの整備のために出ていった時に、荷物持ち兼私の踏破履歴の更新のためについていく事になりました。
あの時の事は二度と忘れません。
最初は、私がカイ兄さまやウミ姉さまを守らないとと思っていたのですが、必要なかったです。60階層までそれこそ一気に駆け抜けたのです。雑魚は必要ないと言わんばかりに、前に立ちふさがる魔物だけを倒していきました。それも、ほぼ一撃です。私は、後ろから付いていって、落ちたスキルカードと魔核を回収していっただけです。
それでも、カイ兄さまとウミ姉さまは、レベル5以下の魔核は、私が吸収して良いと言っていました。最初、吸収を戸惑っていたら、邪魔だからさっさと吸収しろと言われてしまいました。
その後、61-65階層を繰り返し周りました。
レベル7魔核やレベル7のスキルカードが大量に手に入りました。カイ兄さまとウミ姉さまの狙いは、レベル7詠唱破棄と帰還と即死のスキルカードを眷属分得る事でした。あと、レベル6変体のスキルカードは、ご主人様がいろいろ実験をされるので、かなりの枚数が必要になるのだと言っていました。
1日程度、ダンジョンの中に居たと思いますが、やっとレベル7の3種類のスキルカードが、眷属分手に入りました。
カイ兄さまもウミ姉さまも、簡単に倒していますが、61階層以降に出てくる魔物は、私たちレベルの”イリーガル”が数体で倒すのがやっとではないでしょうか。多分、私とオリヴィエとエリンでは、死なないとは思いますが、何回かの戦闘で限界が来てしまう可能性があります。そうしたら、逃げるしかありません。
そうカイ兄さまに告げると、笑いながら、それでは、順番に鍛えると言われてしまいました。
/*** カズト・ツクモ Side ***/
カイとウミの重さで目が覚めた。
さて、今日はサラトガに入って、そのままダンジョンに向かう事にしている。
『主様』
「あっ悪い起こしたか?」
『いえ、大丈夫です。お願いがあります』
「ん?なに?」
『まずは、ライが一緒にサラトガに行けるように、普通の袋があると嬉しいです』
「あぁそうだな。収納袋になっていない物が有っただろう。あれを、肩掛けカバン風に変更するか?」
『はい。お願いします。それから、僕たちのスキルの調整と、偽装と隠蔽をお願いしたいのですがよろしいですか?』
「そうだな。確かに、そうしたほうがいいだろうな。眷属化よりも、隷属のほうが一般的なのだろう?」
『そう聞いています。偽装した上で、隠蔽すればよろしいかと思います』
「あぁそうか、そうすれば、疑い深い奴や、鑑定を持っている奴は解るけど、それ以上調べようとはしないだろうな」
『はい』
「解った、まずは誰からやる?」
『僕、ウミ、ライ。その後は、順番に呼んできます』
「わかった。スキルカード・・・は、これを使えばいいのか?魔核吸収でいいのか?」
『はい』
イマイチ、固有スキルになるのか、スキル枠が使われるのか解っていない。鑑定したり、ステータスを見たりする時には、全部”固有スキル”と表示されているので、問題は無いだろうけど、あまり頻繁にできる実験でも無いからな。
スキルのほとんどを、偽装を使って隠蔽しておく、隷属は人族で実験した時に、どうなるのが一般的なのか調べたから、どういう記述にするのがいいのか解っている。称号に関しても、全部隠しておく。
// 名前:カイ
// 種族:フォレスト・キャット
// 隷属:カズト・ツクモ
// 固有スキル:変体
// 固有スキル:即死
// 固有スキル:超向上スキル
// 固有スキル:超低下スキル
// 固有スキル:水系スキル
// 固有スキル:氷系スキル
// 固有スキル:物理攻撃半減
// 固有スキル:スキル攻撃半減
// 固有スキル:状態異常半減
// 固有スキル:詠唱破棄
// 固有スキル:帰還
// スキル枠:念話
// 体力:A
// 魔力:C
// 名前:ウミ
// 種族:フォレスト・キャット
// 隷属:カズト・ツクモ
// 固有スキル:変体
// 固有スキル:水系スキル
// 固有スキル:氷系スキル
// 固有スキル:炎系スキル
// 固有スキル:岩系スキル
// 固有スキル:風系スキル
// 固有スキル:雷系スキル
// 固有スキル:異常系スキル
// 固有スキル:半減系スキル
// 固有スキル:即死
// 固有スキル:詠唱破棄
// 固有スキル:帰還
// スキル枠:念話
// スキル枠:治療
// 体力:C
// 魔力:B
// 名前:ライ
// 種族:フォレスト・スライム
// 隷属:カズト・ツクモ
// 固有スキル:巨大化
// 固有スキル:収納
// 固有スキル:融解
// 固有スキル:分裂
// 固有スキル:物理攻撃半減
// 固有スキル:スキル攻撃半減
// 固有スキル:状態異常半減
// 固有スキル:超向上スキル
// 固有スキル:即死
// 固有スキル:詠唱破棄
// 固有スキル:帰還
// スキル枠:念話
// スキル枠:岩弾(酸弾)
// スキル枠:眷属化
// スキル枠:治療
// スキル枠:呼子
// 体力:B
// 魔力:C
// 名前:リーリア・ファン・デル・ヘイデン
// 種族:ハーフ・ホビット
// 隷属:カズト・ツクモ
// 固有スキル:人化
// 固有スキル:樹木
// 固有スキル:清掃
// 固有スキル:遠見
// 固有スキル:操作
// 固有スキル:即死
// 固有スキル:詠唱破棄
// 固有スキル:帰還
// スキル枠:隷属化
// スキル枠:隠蔽
// スキル枠:念話
// スキル枠:影移動
// スキル枠:隠密
// スキル枠:結界
// スキル枠:収納
// スキル枠:治療
// 体力:D
// 魔力:B-
// 名前:オリヴィエ・ユリハルシラ
// 種族:ハーフ・エルフ
// 隷属:カズト・ツクモ
// 固有スキル:人化
// 固有スキル:樹木
// 固有スキル:体力超強化
// 固有スキル:速度超向上
// 固有スキル:攻撃力超向上
// 固有スキル:探索
// 固有スキル:索敵
// 固有スキル:速駆
// 固有スキル:即死
// 固有スキル:詠唱破棄
// 固有スキル:帰還
// スキル枠:念話
// スキル枠:収納
// スキル枠:治療
// 体力:B
// 魔力:C
// 名前:エリン・ペス・マリオン
// 種族:ハーフ・ドラゴン
// 隷属:カズト・ツクモ
// 固有スキル:人化
// 固有スキル:ブレス
// 固有スキル:飛行
// 固有スキル:上位竜
// 固有スキル:水・氷系スキル
// 固有スキル:火・炎系スキル
// 固有スキル:風・雷系スキル
// 固有スキル:念話
// 固有スキル:帰還
// スキル枠:即死
// スキル枠:超向上スキル
// スキル枠:超低下スキル
// スキル枠:異常スキル
// スキル枠:詠唱破棄
// 体力:C+
// 魔力:C
うーん。
これでいいのかわからないけど、リーリアとオリヴィエとエリンは、ハーフを望んだけど、これでいいのか?
特に、エリンに関しては、ハーフ・ドラゴンってなんだよってツッコミを入れたくなってしまった。
/*** カズト・ツクモ Side ***/
サラトガの街に入った。
ミュルダ発行の身分証で問題なかったようなので、俺とカイとウミとリーリアとクリスは、身分証を見せる。カイとウミの身分証を確認した時に、少し苦笑したのを忘れない。別に、眷属が身分証作ってもいいだろう・・・って、今、カイとウミは、眷属ではなく、隷属している魔物に見えるのを忘れていた。
クリスの身分証を確認した時に、少し戸惑ったが、お忍びで来たと言う言葉とレベル5魔核を1個握らせたら、そのまま通してくれた。
これでいいのか?
サラトガの街は、ミュルダの街よりも、煩雑とした印象だ。
冒険者が多いと聞くが、それほど大通りに冒険者風の者たちが居るようには思えない。露天も、もう少し賑やかな感じを想像していたが、ほとんど店が開いていない。
少し歩いて、屋台で串焼きを焼いているおばちゃんを見つけた。
「お姉さん。一本いくら?」
「お姉さんなんて嬉しいね。坊や。レベル3を二枚だよ」
坊や呼ばわりか・・・まぁそうなるよな。
リーリアと、クリスとエリンは別行動をしている。馬車を預けられる所を探してくると言っていた。ダンジョンには、馬車は持っていけないので、どこかに預けなければならない。魔蟲を街中で連れ回すのはまずいので、エリンが小型の竜形態になって馬車を引いていく事になった。最初は、いろいろと言って着いてこようとしていた、リーリアとクリスも、エリン1人だけを残して行くのは申し訳ないという事で留守番する事になりそうだ。
「それじゃ、俺が2本でオリヴィエも2本でいいよな。カイとウミは」『いらないです』『いらない!』「お姉さん4本だから、レベル3が8枚だよね」
「そうだよ」
「はい。これ!」
レベル4を一枚出す。
「おつりは、レベル3を2枚だね」
「あっお釣りはいらないから、ここで、食べながら、お姉さんの話を聞きたいけどダメ?僕たち、今日街に着いたばかりで、街の事がわからないから、いろいろ教えて欲しい」
お釣りはいらないと言って、そのかわり、今日この街に着いたばかりだから、街の事が知りたいと言ったら、おまけで1本づつ違う味付けの串をくれた。食べている間にいろいろ話しが聞けた。
串の味については、多くは語らない。もう少し、濃い味付けにするか、肉の臭みを取る事を考えないとダメだろうな。
やはり、アンクラムの件から始まった事が影響しているようだ。
ダンジョンに入られなくなった関係で、冒険者の数が徐々に減っていって、冒険者が減ると必然的にそれを相手にしていた宿屋や料理屋も減り始める。悪循環になってしまっている。
「領主は何もしていないのですか?」
「あぁダメダメ。お坊ちゃまは、レベル7回復のスキルカードを持っているのが自慢だけで、ほかにも何もできないからね」
「え?そんなんで、大丈夫なの?」
「大丈夫じゃないから、こんな状況になっているのさ」
おばちゃんは、豪快に笑っては居るが、かなりまずい状況なのは把握しているのだろう。
ダンジョンが永遠にあると思いこんでいたのだろうけど、地球でも炭鉱の街とかがそうだよな。鉱夫で賑わっている時に、次の施策を取れるか取れないかで未来が変わってくる。ダンジョンと炭鉱は違うけど、金が回っている最中に、次の施策を行わないと・・・衰退が始まってからでは間に合わない。
「お姉さんはどうするの?」
「私かい?娘夫婦が、ミュルダに居るからな。向こうは、なんだか景気が良い話をしていたから、もう少ししたら、ミュルダに移ろうと思っているよ」
「そうなんだ」
おばちゃんに礼を言って次の店を探して話を聞いたが、似たような話を聞くだけだ。
どうやら、サラトガの領主は、レベルの高いスキルカードを持っていれば、皆が言うことを聞いてくれると勘違いしてたようだ。権力を、代々受け継いでいるので、自分の周りも変化しないものと考えていたのだろう。
価値として考えても、100万程度だろう・・・レベル7回復だと、それ一枚で何が変えられると言うのだろう?
現金100万=レベル7相当ではないという事なのだろう。
「よし、ダンジョンに向かうか?」
「マスター。それなのですが、クリスティーネをお連れして頂けませんか?」
「ん?オリヴィエどうして?」
「はい。本人が居ない所での話ですが、お聞きいただければ嬉しいです」
「いいよ?なに?」
「マスター。リーリア姉や、エリンとも話をしたのですが、今後クリスティーネを連れて行くには、スキルだけではなく、いろいろな物が足りません」
そりゃぁそうだよな。
イリーガルの名称を持つ者たちと比較してもしょうがないと思うけどな。
「そうだな。だからこそ、置いていこうと思ったのだけどな」
「マスターのお考えは解ります。解りますが、クリスティーネが現状が把握できれば、今後、無理に着いてこようとしないのでは無いでしょうか?それに、お聞きした限りでは、サラトガのダンジョンならば、カイ兄さまやウミ姉さまがいれば、誰かが傷つくような事はなさそうです」
一考の価値がありそうだな。
クリスは、ハーフ・・・というよりも、魔物よりのスキルを持っている。リーリアやオリヴィエと同じ事ができるだろう。魔核の吸収ができれば、飛躍的に強くなれるだろう。理由は、わからないが、本人が魔核の吸収ができないと言っている事から、何かしらの理由が有るのだろう。
それが取り除かれれば、魔核の吸収が行えて、より強く安全に行動できるようになるだろう。魔核の吸収ができなくても、ダンジョンの中で”差”をはっきりと認識してくれれば、今回のような無茶は控えてくれる・・・・ようになれば嬉しい。
スキル魔眼も気になっていた。安易に実験できるものでもないが、ダンジョン内なら実験できるかもしれない。
「それなら、全員で行ったほうがいいのではないか?」
「マスター。僕と、リーリア姉で、サラトガの街で情報収集をしたいと思います。半日から1日程度になると思うのですが、ご許可を頂きたい」
「情報収集?」
「はい。ミュルダは、どちらかと言うと獣人族が中心になっている街でした」
「そうだな」
「アンクラムは、間違いなく人族・・・アトフィア教の連中の街でした」
「あぁ」
「サラトガは、冒険者中心の街だったと、先程話を聞きました」
「そうだな」
「マスター。居住区や宿区は、ダンジョン中心になっている街です。商業区は、ダンジョンの恵みとブルーフォレストの恵みを半々に扱っています」
「あぁ」
「サラトガの衰退は、マスターはなにか感じ取られているようですが、僕にも、リーリア姉にも、エリンにもわかりません」
「なんだ、それなら俺の考えを教えるぞ?合っているかはわからないけどな」
「はい。それも嬉しいのですが、僕たちが自分で考えてみたいのです。そのための、情報収集をお許し願えればと考えております」
さっきの屋台で話を聞いている最中に、リーリアやエリンと念話で話をしたのだろう。
もしかしたら、クリスも加わっていたのかも知れない。ダンジョンで俺がやっている実験的な施策を考えれば、自ずと結論に辿り着けそうだけどな。全部を話した事がなかったし、表面的な事しか話してこなかったからな。
今の、オリヴィエからの話を聞いて、リーリアとオリヴィエとエリンがどんな結論を出すのか興味も出てきた。
「そうか・・・やってみないとわからないよな。解った、クリスと連絡を付けてくれ!」
「はい。マスター」
それから、10分くらいしてから、クリスが走ってきた。
「クリス。そんなに急がないでも、スキル回復を使いながら走ったのか?」
「うん。カズトさんとダンジョンに入られると聞いて、それに、リーリアお姉ちゃんから、スキルはなるべく使ったほうがいいって聞いていたから、僕が今使えるスキルは、回復だけだったから・・・ダメですか?」
「まぁしょうがないな。でも、今からダンジョン行くから、魔力は温存しておけよ」
「はい!」
// 名前:クリスティーネ=アラリコ・ミュルダ・マッテオ
// 種族:人族
// 固有スキル:魔眼
// 固有スキル:樹木
// 固有スキル:獣化
// 固有スキル:念話
// スキル枠:回復
// スキル枠:---
// スキル枠:---
// スキル枠:---
// スキル枠:---
// スキル枠:---
// スキル枠:---
// 体力:G
// 魔力:D
確かに、クリスのスキルは戦闘にも、後方支援にも向かない。空いている枠は6つ。魔核の吸収ができない現状では、6種類のスキルしか付与できない。
そう言えば・・・。
// 固有スキル:創造
// 融合:複数(レベル依存)の物体を一つにまとめる。
// :複数(レベル依存)のスキルを、一つのスキルにまとめる。スキルの発動条件は、融合時に付与する
// 分離:一つの物体を、複数(レベル依存)の物体に分ける
// 変形:物体を変形させる
俺のスキルで、スキルをまとめる事ができるな。少しやってみるか?
街中では、目立ちそうだから、ダンジョンの中に入ってからだな。
「クリス。獣化のスキルの使い方はわかったのか?」
「ごめんなさい。お祖父様も知らないし、僕の知り合いはそんなに多くなくて・・・」
「そうか」
「教会に聞ければ、ヒントくらいは貰えると思うけど・・・あっアトフィア教じゃなくて、コルッカ教ですけど・・・」
「コルッカ教か・・そうだ、ライ。スーンに連絡して、”コルッカ教の教会をSA/PAに作る”条件の追加を頼みたい。
『なんて言うの?』
「スキルに詳しい奴を最低1人、商業区に常駐させろと追加しておいてくれ!」
『わかった!』
バッグの中からライが答える。
今更だけど、無理なら無理でなにか反応が有るだろう。最悪、スキルに関しての問い合わせができればいいだけだからな。
「クリス。獣化は暫く置いておいて、まずは、武器と防具だけど・・・持ってきているようだな」
「うん。リーリアお姉ちゃんが、僕に会うものを見繕ってくれたから大丈夫です」
リーリアが選んだのなら大丈夫だろう。
スキルスロットもあるだろうから、相性が良さそうなスキルを付与すればいい。
「そうか、わかった。カイ。ウミ。クリス。ダンジョンに行くか?場所は解るか?」
「僕が知っている!イサークさんやナーシャお姉ちゃんから聞いた!」
『あるじ。眷属たちが、ダンジョンに居るから、誘導が可能だよ』
『わかった。最初は、クリスに案内させるけど、途中で大きくなった、ライが誘導してくれ』
『わかった!』
「クリス。それじゃ頼むな」
「はい!カズトさん!」
ダンジョンは、半日程度の距離に存在しているようだ。サラトガからダンジョンまでは馬車が使えないようだ。使わないのではなく、使えないという事らしいのだが、詳しい事は知らされていない。
「カズトさん。それで、ダンジョンに入ってどうされるのですか?」
「そうだな。難易度がどのくらいか知りたいのと、できそうなら、攻略した時に発生する事象を観察してみたいかな」
「攻略されるのですか?」
「できるだろう?イサークたちも言っていたけど、居住区から行けるダンジョンよりも難易度が低いらしいからな」
「いいのですか?」
「ん?なにが?」
「サラトガの人たち・・・」
「あぁそれこそ、領主が考える事だろう?」
「・・・・そうですね」
それにしても、馬車でも行けそうだけどな。
街から離れたから、そろそろいいだろう。
「ライ。頼む!」
『はぁい』
ライが、バッグから出てきて、大きくなる。
「え?」
「そうか、クリスは初めてか?」
「うん。ライ兄。こんなに大きくなれるの?」
『ううん。もっと大きくなれるよ?あるじ。このくらいでいいよね?』
「あぁ。ほら、クリスも乗れよ」
「え?あっうん」
驚いたりすると、クリスの口調がもとに戻る。
皆が、ライに乗った事を確認してから
「ライ。ダンジョンは解るか?」
『うん!大丈夫』
「それじゃ全速力で頼む。クリス。結界の魔核は持っているよな?結界を発動しておいてくれ」
「うん!」
『はっしん!』
クリスが結界を発動してからすぐに、ライが移動を始める。
速度的には、カイの全速力よりは遅いが、馬車の数倍の速度は出る。
半日の距離を、1時間程度で到着してしまうくらいだ。
「あ!あれが、ダンジョンの入口だよ。カズトさん」
「お!クリス。ありがとう。ライ。近くまで行ったら止まってくれ」
『わかった』
ライが入口で止まる。
順番にライから降りた。ライがいつもの大きさになって、バッグの中に飛び込んできた。
洞窟の入口って感じだな。
入口に立て看板を作ってある。
『ブルーフォレストは、獣人街が資源の宣言をした。よって、ダンジョンも獣人街が管理下に置く、中に入りし者の安全は保証しない』
あぁ怖い怖い。
ダンジョン怖い。
さて、攻略に取り掛かるか!
/*** クリスティーネ=アラリコ・ミュルダ・マッテオ Side ***/
話には聞いていた。リーリアお姉ちゃんからも、カイ兄やウミ姉は別格だと・・・。
サラトガのダンジョンに入ったのは、2時間くらい前だと思う。
既に、5階層まで降りてきている。その間、僕がやった事は、魔眼を使って、魔力の流れを読んだ事だけだ。それも、カズトさんから言われてやってみたら見えただけだ。
イサークさんやナーシャお姉ちゃんから、5階層には、フロアボスが居る部屋があって、その部屋の前には、セーフエリアがあるという事だ。そこまで、一気に向かう事になった。カイ兄も、ウミ姉も、カズトさんも、問題なくダンジョンを駆け抜けていく。
僕は、勘違いしていたかも知れない。
レベル7回復という貴重なスキルを身に宿した事で、なんでもできるようになったと思ってしまっていた。思い上がっていたのだろう。カイ兄やウミ姉のスキルと見ると、確かに即死スキルや詠唱破棄の強力なスキルを持っている。
でも、使っているのは、レベル3やレベル4の物を組み合わせて使っているだけだ。それでも、前を塞いでいる魔物たちが、あっという間に倒されていく。確かに、まだ低階層だから、苦労する事は無いだろうとは思っていたけど、ライ兄も、カズトさんも、攻撃に参加さえしていない。僕も、カズトさんの横に居るだけだ。
5階層の、セーフエリアに到着した。
「クリス。大丈夫か?」
カズトさんが声をかけてくれる。すごく嬉しい。
「うん。僕、何もしていないから、平気です」
少し、卑屈になっている。
カズトさんの役に立ちたいと思いながら、足手まといどころか・・・お荷物になってしまっている。
「魔眼を連続で使っていたけど、大丈夫か?」
使っているけど、疲れていない。カズトさんに言われたのは、ダンジョンは魔力で動いているのなら、”魔力の流れがあるはずだ”それを、魔眼で見られないかという事だった。魔眼を発動すると、魔力の流れが見えるのは間違いない。
ダンジョンで魔力が湧き出している方向があるという話をしたら、そっちが下に向かう場所だろうという事で、向かったら、階段が有った。5階層まで、僕が示した方向に進んだら、階段が存在していた。カズトさんが言った通りに、ダンジョンには魔力の流れが有るのだろう。僕は、それを見ただけなので、疲れては居ない。
「うん。大丈夫。疲れていないよ」
「そうか、少し休憩したら、クリスのスキルの調整をするか」
「え?僕?」
「今のままだと辛いだろう?スキルの練習にもならないからな」
「あ・・・でも、僕、魔核の吸収がうまくできないから・・・」
「あぁ大丈夫だ。その問題は、今後考えよう。まずは、空いているスロットと、武器に付与しよう」
「え?スロット?」
「あぁ説明は難しいな・・・クリスには、あと6個のスキルが付けられる事が、俺には解るって事で、今は満足しておいてくれ」
「え?あっうん。それで武器にも?」
「あぁリーリアが選んだのだろう?」
「うん。居住区の武器庫に言って、何個か武器と防具を出してくれて、僕が使いやすい物を選んだ」
僕が選んだのは、短槍だ。剣は、うまく使える自身がなかった。実際に、持って振ってみても、リーリアお姉ちゃんの様にはできなかった。長槍も有ったが、短槍のほうが持った時にしっくりと来た。
防具は、それほど種類がなかった。でも、リーリアお姉ちゃんから、最初だけだと思うと言われた。カズトさんに、正直に言えば防具は考えてくれるからと言われている。そのために、魔物の皮で作られた装備を身に着けている。
「防具は?」
「魔物の装備だけど、いいのが無かった・・・です」
「あぁそうか、居住区の倉庫だったよな?」
「うん」
「そうか、クリス。下着は、いつもの奴を持ってきているのか?」
いきなり下着の話?
子供下着だけど、カズトさんから貰ったものだよ。誰にも渡したり、捨てたりしないよ!
「・・・うん」
「あぁごめん。ごめん。あの下着を身に付けているのなら、装備も合わせたほうがいいよな。ライ。有るか?」
『うん。前に、あるじが着ていた物でいい?』
「そうだな。出して貰えるか?クリスにサイズが合えばいいけどな」
え?カズトさんが前に使っていた物?
ライ兄が、上着とシャツとジャケットと、ズボンを出してくれた。
受け取って、思わず匂いを嗅いでしまった。カズトさんの匂いがすると思ったけど・・・ダメだった。
「クリス。これを着てもらえるか?」
よく見ると、本当に一式有るようだ。
靴まである。下着以外全部揃っている。それも、今、カズトさんが着ている物と同じデザインで、色も同じだ。リーリアお姉ちゃんが言っていたのはこれだったのだ!後は、僕が着られれば、これを僕の装備にする事ができる!
もどかしい。皮装備を外して、下着姿になって、カズトさんが着ていた、装備を身につける。
「クリス!」
カズトさんがなにか言いたさそうにしているが気にしていられない。
シャツを着て、ジャケットを羽織る形でいいのかな?ズボンは、そのまま履けばいいのかな?中になにか履いたほうがいいのかな?でも、何も無いから、下着の上からズボンを履いて、紐で縛る。少し大きいが、このくらいなら大丈夫。ジャケットも袖が少しだけ長いが、折れば大丈夫!
「あぁもう!クリス」
/*** カズト・ツクモ Side ***/
クリスに、俺が身に付けていたプロテクターとシャツやら一式を渡す事にした。
確かに、居住区の倉庫に有った物だと、リーリアが満足できるものは無いだろう。俺も、間違いなく満足できない。
ライが、上下とジャケットとプロテクターを出した。クリスが受け取って、何を思ったのか、下着姿になって着替え始める。
違うと言おうと思った時には遅かった。
ヌラたちの糸で作られた下着は確かに着心地もいいのだが、染めるのが面倒で、糸の色そのままで布にしてしまっている。染めればよかったと思わないことも無いが、身内だけにしか出していないので・・・いいわけだな。クリスが今身に付けている物は、そのヌラの糸の色のままだ。
蜘蛛の糸だから、半透明になってしまっている。全部では無いが見えてしまっている。子供の身体に欲情する性癖はないので、大丈夫だが、目のやり場に困ってしまうのもたしかだ。
それに、プロテクターを付けないで、ジャケットやズボンを身に付けてしまっている。
それでは防具の役目にならない。
「あぁもう!クリス」
「え?」
「いいから、こっちに来い着せてやる」
「え!僕、間違っていた?」
「あぁ下着の上からズボンやシャツを着てどうする?お前が着ていた、インナーの上から、プロテクターを付けて、その上から、シャツを身に着けろ、ジャケットもだ。ズボンは、プロテクターを付けてから履け!いいから、一度脱げ!俺は後ろ向いているから、自分が着ていたインナーを着たら教えろよ」
「うん!いいよ。カズトさんなら全部見ていいよ。それよりも、着替えさせて!」
あぁもう面倒だ!
ジャケットを脱がして、シャツを脱がして、インナーを着せる。肩から肘までのプロテクターを付けて、紐で軽く締める。
「痛くないか?」
「うん。大丈夫!これなら、自分でできそう!」
「そうだな。反対側は自分でやってみるか?」
「うん!カズトさん。見ていて!」
少し戸惑いながらも、肩から肘にかけてのプロテクターを装着した。胸と背中を守る物を着せる。これも、脇の部分で紐で調整できる。
「・・・カズトさん」
「なんだ?」
「僕、おっぱい大きくなるかな」
「なるんじゃないか?よくわからん」
「えぇぇ・・・カズトさんは、おっぱい、大きいのが好きなの?」
「どうでもいい質問だな。苦しくないか?」
「・・・うん。苦しくない。カズトさんが着けていた物が、僕にピッタリって少しだけ、女として残念」
「まだこれからだろう?」
「そうなの?」
「あぁそうだと思うぞ。どうでもいいから、手甲を付けるぞ。手首を少し締める感じになるから、着けてから動かしてみろよ」
「ぶぅ・・・あっうん。わかった」
「これを、腰の部分に巻きつけて、膝の上で固定するからな。自分でやるよな?」
「カズトさん。やって!」
「クリス。自分でやるよな?」
「最初だけ付けて下さい。次から自分でやります」
「解った。解った」
腰の部分をガードするプロテクターを固定して、そのまま腿を覆うようにする。内側で紐で固定する。最後は、膝の少し上で固定する。
「クリス。動けるか?」
少し、腰を動かしてみてみるが大丈夫なようだな
「うん。大丈夫」
顔を真赤にさせている。やっと意味がわかったのだろう。
「膝のプロテクターと、スネと、足甲を付けてから、ズボンを履けば終わりだ」
「うん。カズトさん。ここまで見られたのなら、全部お願いします」
「はい。はい。大丈夫。見ていないからな。それに、クリスは、まだまだ子供だな」
「え?あっうっ・・・カズトさんのイジワル」
手早く、プロテクターを付けた。
実際、俺もダンジョンに入る時にしか使っていなかったけど、それほど傷んでないようで良かった。
「クリス。ズボンはどうする?少し裾が長いし、ウエスト部分が太かっただろう?」
「うん。でも、ズボンを履きたい」
「そうだな。スキルも付いているし、シャツとジャケットもそのまま着るか?」
「うん」
「少し、不格好だけど、調整は、リーリアができるから、後でしてもらえよ」
「わかった!スキルが付いているの?」
「あぁ今から説明する」
各部のプロテクターには、レベル6物理攻撃半減を付与してある。あと、全部ではないが、レベル6状態異常半減と、レベル3体力強化/レベル3攻撃力向上/レベル3速度向上/レベル4体調管理を付与してある。
「え?」
「あと、ジャケットには、レベル5収納とレベル5結界を付与してある。シャツには、レベル4清潔が付与してある。ズボンにも、レベル4清潔とレベル5結界を付与してある」
「え?なに?すごい」
「でも、ジャケットの収納は、ポケットに入る程度の大きさだからな。魔核を入れたりするくらいしか役立たないぞ?」
「え?無制限?」
「あぁそうだよ。全部無制限で、常に発動しているけど、クリスの魔力なら十分運用できると思うぞ?辛かったら言えよ。スキルを外すからな」
「え?うん。わかった」
「あぁぁそうそう、材質は、クリスが大好きで毎日身に付けている下着と同じだから安心していいぞ」
「え?うそ。だってこれ・・」
「そうだな。ジャケットやシャツやプロテクターやズボンは、着色しているから、透けることは無いぞ?」
「えぇぇぇやっぱり・・・下着透けていたのぉぉぉ?カズトさん。見たの?」
「いいや。見えていないよ」
「・・・もう・・・僕・・・でも、いいや。カズトさんなら!そうだ!カズトさん。僕のスキル調整してくれるのですよね?」
そうだな。武器・・・短槍にもスキルを付けないとな。
短槍には、2つのスキルが付与できるから、それを考慮すればいいよな。
「あぁクリスは、戦うのなら、どうしたい?」
「僕・・・わからないです」
「そうだよな。ダンジョンに来るのも、戦うのも初めてなのだろうからな」
「うん」
クリスがうつむいてしまう。
『カズ兄。クリスだけどね。僕と同じでいいと思う』
『ん?スキルを使って攻撃するって事か?』
『うん。魔眼があるから、魔力の流れを読める。物理攻撃より、スキル攻撃向き。カズ兄の昔の装備を着けるのなら、防御系も少なくていい。何ならスロットが3つある腕輪があったはず。あれに結界と障壁と防壁をつければいい』
『ライ。腕輪持っている?』
『あるよ!』
「クリス。聞こえていただろう?ウミの提案だけどどうする?」
「ウミ姉ありがとう。僕、スキルで攻撃する。後、後、カズトさん。わがまま言うけどいい?」
「ん?何?」
「僕も、収納スキルが欲しい。自分の荷物は持っていたい(あと・・・下着に色・・・)」
「ん?収納を付けると、5つか・・・なんとかなるか・・・やって見ないとわからないな」
5つか・・・
スキルを融合してみたら、同系列のスキルがうまい具合にまとまった。
スキル炎系(スキル炎/スキル炎弾/スキル爆炎)
スキル水・氷系(スキル水/スキル水弾/スキル爆水/スキル氷/スキル氷弾)
スキル岩系(スキル岩/スキル岩弾/スキル爆岩)
スキル風・雷系(スキル風/スキル雷/スキル雷弾)
樹木との相性を考えると、スキル水・氷系とスキル岩系だな。クリスの短槍に、スキル炎系とスキル風・雷系をつければ、雷槍とか、炎槍とかできそうだな。
状態異常で、そこまで組み込めるか・・・毒/麻痺/睡眠/拘束/停止/石化 までは融合できた。即死だけはダメだった。
これであと2つ
詠唱破棄は付けておいたほうがいいだろう。
あと1つ
// 名前:クリスティーネ=アラリコ・ミュルダ・マッテオ
// 種族:人族
// 固有スキル:魔眼
// 固有スキル:樹木
// 固有スキル:獣化
// 固有スキル:念話
// スキル枠:回復
// スキル枠:水・氷系
// スキル枠:岩系
// スキル枠:状態異常系
// スキル枠:詠唱破棄
// スキル枠:収納
// スキル枠:---
// 体力:G
// 魔力:D
短槍にもスキルを付与した。
スキル枠を1つ空けておく事にした。即死スキルまでは必要ないだろうけど、これから戦う時に、速度重視で行くか、移動時の速度を上げるのかはわからないからな。
「クリス。確認してみてくれ!」
「うん!カズトさんありがとう!!!これで、僕も立派な化物の仲間入りができた!カズトさんと一緒に戦える!」
「クリスは、化物じゃないよ。はじめから、クリスはクリスだろう?それでいいと思うぞ?」
/*** カズト・ツクモ Side ***/
スキル調整も終わったし、クリスのスキル確認の意味もあるから、ダンジョン探索を開始するか。
『あるじ!』
「ん?どうした?」
『うん。ダンジョン。攻略すると、ダンジョンの魔物たちが溢れるけどどうする?』
「あぁ・・・そんな事を言っていたな。ライ。眷属を呼び出して配置させておく事はできるか?」
『うん。大丈夫だよ。エントやドリュアスも呼んでおく?』
「そのほうがいいだろうな。意識芽生えた魔物なら、話ができるかも知れないからな。それ以外は、狩り尽くしても問題ないだろう。魔物の動きなんかも観察させておいてくれよな」
『わかった!スーンに言っておくね。あと、ヌラやヌルやゼーロも働きたいみたいだけどいい?』
「あぁログハウスが問題なければいいぞ」
『ありがとう。皆で話し合って決めさせるね』
「頼むな」
クリスが不思議そうな顔をしている。
「クリスどうした?」
「ううん。ただ、カズトさん達は、ダンジョンが攻略された時に、何が発生するのか知っていそうだったから不思議に思っただけ」
「ん?」
「だって、ダンジョンを攻略した時に、何が発生するのか調べるつもりだったと思ったから・・・」
「あぁそういう事か、俺たちも、実際に何が起こるのかはわからない。ただ、魔物が意識を持って、ダンジョン・・・元ダンジョンから外に出ようとするだろうとは思っているだけだぞ」
「へぇ・・・そうなの?」
「あぁそうだよ。それよりも、クリス。5階層のボス戦はどうする?見ているか?」
話をそらさないと、納得するまで質問されそうだ。
俺が話をそらせばそれ異常は突っ込んでこないくらいの分別を持っているのはありがたい。
「ウミ姉。スキルの使い方を教えて!」
『いいよ。カイ兄。任せていい?』
『いいですよ5階層だし、まだ余裕が有るでしょうからね。低階層の間に、クリスにはスキルの使い方を覚えてもらいましょう』
「わかった!ありがとう。カイ兄。ウミ姉」
話がまとまったようだな。
ライは、今回もお休みのようだ。バッグから出てくる様子がない。
5階層のボス部屋に入る。うーん。余裕かな?ゴブリンの集団のようだ。クリスを狙ってきているが、結界に阻まれている間に、短槍に炎をまとったもので突かれて倒れていく。
その間、クリスの横で、ウミがスキルを発動させている。
カイは、俺の横で警戒しているに留まっている。
すべてを、ウミとクリスが倒した。
最後の1体も、クリスがスキルを使って倒した。
「カズトさん!」
「あぁうまくできたな」
「うん!」
クリスが抱きついてくる。
今回ばかりは、カイもウミも邪魔しない。抱きしめてやれという事だろう。クリスを抱きしめて、頭をなでてやる。
大きく振られる白いしっぽが見えるのではないかと思うくらいに喜んでいる感情が伝わってくる。
「ウミ。クリスはどんな感じだ?」
『うーん。まだ、無駄が多いかな?それと、魔眼に頼りすぎていて、魔眼で確認してから発動しているから、今くらいの魔物なら大丈夫だけど、魔蟲とかだと苦労する。何回か、結界まで迫られていた』
「えぇウミ姉厳しい・・・でも、そうだよね。まだまだ、僕は強くなれる!」
「あぁそうだな。さて、回収する物だけ回収して、先に進むか」
「カズトさん。ここのゴブリンはどうするの?」
「あぁライ!」
『ん。わかった!』
ライが、バッグから飛び出して、ゴブリンの死骸を収納していく。
階層に降りる。このダンジョンは、居住区のダンジョンと違って、洞窟のような物が続いている。ダンジョンという作りだ。通路の幅という制限が有るので、対峙する魔物の数もそれほど多くない。今の所、最多でも3体だ。これなら、クリスの訓練に丁度いいだろう。
カイも前から下がってきている。クリスと、ウミが、全面に出て、魔物と対峙している。最初は、手間取っていたが、6階層が終わる頃には、だいぶ戦闘にもなれてきたようだ。
「ライ。収納は大丈夫か?」
『うん。まだまだ大丈夫!』
「無理そうなら、ゴブリンとか低位の魔物は吸収するなり、魔蟲に与えていいからな」
『うーん。せっかく、クリスが倒したから、クリスに吸収させたいけど』
「ライ兄。僕、吸収できないから・・・」
そもそも、魔物やハーフが、魔素や魔核を吸収しているなんて話を、イサークたちは知らなかった。リーリアの話では、いろいろ実験しているらしい、アトフィア教もたどり着いていないらしい。
「クリス。魔物倒した時に、魔素が出るらしいけど、見えるか?」
「うーん。次見てみる」
「あぁ頼む」
俺の推測が当たっていれば、人族も魔素の吸収ができる事になる。
そうでないと、ダンジョンに潜ったり、ブルーフォレストで魔物を狩って、体力や魔力が上がる事の説明が難しい。
次の魔物はすぐに見つかった。
クリスの魔眼で、魔力の流れを調べる事ができるのは解ってきている。それと同じ要領で、魔力の塊が有る場所を探させたら、ゴブリンが溜まっている部屋が見つかった。モンスターハウスの様になっている。部屋の入口部分は大丈夫だが、中に入ると、20体近いゴブリンが襲ってくるようになっているようだ。
皆で突撃して、あっさりとゴブリン共を倒す事ができた。この程度の魔物では苦労はしない。
「クリス。ゴブリンたちが倒れた後の魔力はどうなっている?」
「え?あっうん」
今まさに倒されたゴブリンにクリスが集中する。
「あ!え?」
クリスが見えている物を説明する。
ゴブリンが倒されると、死骸から、魔力が漏れ出す。全部ではなく、一部のようだ。その一部が、空中を漂って、俺やカイやウミやライに吸い込まれていくように入っていった。ダンジョンの壁にも一部吸い込まれていったようだ。
近くに居た者が多いのかわからないと言っている。次は、量に関しての考察だな。
でも、やはりというか、想像していたとおりだ。
そして、ゴブリンの死骸の中に残った魔力が固まっていれば、魔核やスキルカードになるし、そこまでの量がなければ、徐々に溢れ出て行くだけなのだろう。
俺が、一般的な人族と同じかは置いておくとして、人族でも魔素を吸収できる事が解った。魔核の吸収ができるかどうかはわからない。リーリアやオリヴィエ辺りと話をすればやり方が見えてくるかも知れない。クリスに、魔核の吸収を見せるのも1つの方法かも知れない。
まだまだ、俺は強くなれる、安全に過ごせる様になる方針が見つかったのは嬉しい事だ。
「クリス。次は、魔物から出た魔素を意識して、取り込むようにしてみろ」
「わかった!」
魔素と吸収に関して、調べる方向性が決まったから、ダンジョン攻略を進める事にする。
次の休憩は、10階層のボス部屋前のセーフエリアとした。
このダンジョンは、1つのフロアがそれほど広くない。イサークたちが言っていたとおりだ。
最下層はわからないが、イサークたちが攻略したと言っていた階層までなら、さほど苦労なく行けそうだ。クリスの魔眼だよりだが、道も迷わないで行ける。無理に魔物を倒さないで、最短ルートを進むように切り替えた。
魔素の吸収に関しても、だいぶわかってきた。
この世界には、ギルドで、パーティー申請を行う事ができるようだが、今回俺たちはそれをしていない。クリスと俺はソロでダンジョンに入っている事になる。パーティーがどんな権能を持っているのかは、後日仕組みと合わせて調べる事にして、クリスにスキルを使わせて、熟練度を上げる事に集中する。
クリスが言うには、意識して魔素を多く取り込むのはできないようだ。取り込もうとしても、素通りしたり、飛散してしまうようだ。
10階層のセーフエリアに到着した。
「クリス。体力や魔力は大丈夫か?」
「うん。僕、疲れていないよ。スキル回復があるからなのか、本当に疲れない」
「そうか、疲れていないのなら、いいよな。カイ。ウミ」
カイとウミは、わかっているのか、俺の膝の上で丸くなった。
「クリス。立っていないで、座れよ。10分くらい休んだら、ボス部屋に入るからな」
「え?あっうん。ねぇカズトさん。僕がつかれたと言ったらどうしたの?」
「あぁライから、布団を出してもらって、一眠りしようとは思っていたけどな、今このダンジョンには、俺たちしか居ないから、寝ていても大丈夫だろう?」
「え?お布団?」
「あぁライが持っているからな」
『うん。あるじのお布団を持っているよ!』
「え?カズトさんが使っているお布団?」
「あぁライ。他は持ってきているか?」
『ううん。リーリアにあずけてある。リーリアが、あるじのだけ持っていけば大丈夫と言ったからそうした』
「リーリア・・・。まぁいいか?だってよ・・・どうした?クリス?」
つらそうな顔をしているが、口元が緩んでいる。
「はい。はい。疲れたフリしなくていいからな。サラトガのダンジョンも、だんだん狭くなっていくらしいからな。少し休んだら、攻略を始めるぞ」
「・・・うん!でも、次の休憩では、お布団で休みたい」
「わかった。わかった。次は、20階層のセーフエリアまで一気に行くからな」
「わかった!」
「カイ。ウミ。大丈夫だよな?」
『主様。30階層でも大丈夫です』『うん。カズ兄。手応えがないから、早く進もう!』
そうだな。
結局、まだウミとクリスだけで進めているからな。
「そうだな。カイかライが参戦するようにならなければ、30階層を目指してみるか?」
「え?」
『かしこまりました』『わかった。クリス。頑張るよ!』
ライは、バッグの中でおとなしくしているようだ。
10階層のボスも、ゴブリンだった。
このダンジョンは、ゴブリンしか出ないのか?鑑定したら、ゴブリンはゴブリンでも、ゴブリン・アーチャーやファイターやタンクとか出ている。カズが多いだけではなく、種族が違うのだろうか、もたせた武器で種族名が変わるのか、種族名が変わって、持つ武器が変わったのか、すごく興味がある。検証したい。検証したいが、方法が思いつかない。
棚上げだ。
クソぉスマホがあれば、ToDoリストに追加しておくのに・・・。
考え事をしていたら戦闘が終わっていた。
やはり、ウミとクリスだけでまだ大丈夫なようだ。居住区のダンジョンから学んだ事だが、フロアボスから次のフロアボスまでは、それほど魔物が強くならない。ここだと、5階層ごとに、出てくる魔物が強くなるのだろう。
「あぁぁぁぁぁ!!!そうかぁ!!!」
「え?カズトさん!どうしたの?僕、なにかやっちゃった?」
「あぁ悪い。クリス。カイもウミもライも悪い。考え事していて、前に疑問に思っていた事がわかっただけだ」
「え。なに?カズトさんが疑問に思っていたこと?」
俺は、クリスに説明する事で、自分の考えをまとめる事にした。
ダンジョンが、最下層から、徐々に魔物が強くなっている。これに関して、不思議だった。人や餌になる”物”をおびき寄せて、喰らうモノかと思っていた。それなら、フロアボスをいきなり強くすれば、楽勝なのに、そうなっていない。それどころか、餌が徐々に強くなるようになっている。
そして、1番の疑問だったのが、フロア内に居る魔物たちは、他の魔物が倒された場合に、魔素や魔核を吸収しないのか?という事だ。簡単に強くなれるだろう?実際に、カイやウミやライが強くなっている所を見ている。
そして、人族は魔物に残された魔素を吸収する事ができない。イサークなどの話から素材になるような魔物なら持ち帰るが、そうじゃなければその場に捨てていくと言っていた。その捨てられた、魔物の死骸に残っている魔素はどうなっているのか?
ダンジョンが吸収していたのだろう。そして、吸収した魔素を使って、新たな魔物が生み出される。
もちろん、それだけでは魔素は足りないだろう。”なんらかの方法”で魔素を作り出すか、魔素を調達する手段が有るのだろう。それが、ダンジョンコアの役目なのだろう。
フロアに居る魔物は、魔素が吸収できないから、強くなることも、意識を持つことも、そして、俺たちが何度も実験していた、ダンジョンの魔物をダンジョンの外で飼育する事ができなかったのだ。強くなる必要がないのか、ダンジョンコアとの関係なのかはわからないが、ダンジョンが攻略された時に、ダンジョン内の魔物が意識を持つと言われている事から、ダンジョンコアが魔物を縛っているのだろう。
フロアごとに魔物が産まれるのは、ダンジョンコアが魔物を作っているわけではなく、魔素濃度によって作られる魔物が決まっているのではないかと考えるのが自然なことだ。
よくあるゲームの設定だが、ダンジョンの魔物たちが何を食べているのかではなく、魔物たちは、ダンジョンコアの一部だと考えれば、いろいろ納得できる。
ここまで説明した。
「カズトさん」
「なに?」
「それ・・・一部は、コルッカ教が既に公表している内容ですよ?」
「は?え?そうなの?」
「はい・・・ダンジョンの攻略後の話と、魔物が魔素を吸収しているとかは、知っているかはわからないけど、ダンジョンコアが、魔物を操っている事や、ダンジョンの魔物を連れ出しても、死んでしまう事とかは、一般的にしられている事ですよ?それから、ダンジョン魔物の強さの検証もやっていて、カズトさんが説明してくれた徐々に強くなる事や、フロアボスと同等の強さになっているのも、魔素が関係しているだろうという結論になっていましたよ」
車輪の再開発のような事をしてしまったようだ。ログハウスに帰ったら、コルッカ教に話を聞きに行こう。
うん多分・・・無駄じゃなかったと思いたい。何か、新しい発見が有ったかも知れない。交配実験とか・・・・はぁまぁいいか、楽しかったから・・・。