/*** リーリア Side ***/
ご主人様から、武器携帯のご許可を頂いた。
そして、人族が多く住む、アンクラムの街に向かっている。ご主人様が、私のスキルを隠蔽してくれて、種族も隠蔽してくれた。偽装じゃないので、種族が見えない状態になっているので、怪しまれる可能性があると言われたが、仲良くなった、ナーシャさんが言うには、人族でも、種族を隠蔽している人は居るので、それほど不自然ではないと言われた。
ただ、アンクラムでは、面倒な事になるかも知れないと言われてしまった。
ご主人様にも同じような事を言われて、そのときには、司祭を操作して、擁護すればいいと教えてもらった。擁護させる時の、”決まりごと”と、いうのが有るらしいので、それをもしっかりとおぼえた。
それに、街の門番をしているような人族は、よほどの正義感の塊みたいな奴で無い限り、”偉い人”と”袖の下”には逆らわない。らしい。袖の下がわからなかったので、教えていただいた。ようするに、レベルの高いスキルカードや、それに変わる物を渡せば、見逃してもらえるという事だ。
そのために、スーン様から、レベル5魔核を50個ほど持たされた。門番がなにかいいそうだったら、護衛のリーダーを操作して、魔核を2~3個渡すように言われた。安全を見るのなら、5個くらい渡せばいいだろうと言われた。
「リーリアちゃん!」
「はい!」
ナーシャさんとは、すごく仲良くなったとおもう。私と模擬戦をしてくれる。最初は、手も足も出なかった。スキルを使えば、勝てるだろうけど、武器だけの模擬戦では、技術の差や経験の差は大きい。カイ兄やウミ姉とは違った経験が必要になる。ナーシャさんの”いい人”は、イサークさんで、イサークさんにも模擬戦でいろいろ教えてもらった。特に、フェイントに対する対策だ。魔物は、上位種でも無い限り、フェイントなんて使ってこない。でも、人族は、どんな弱い人でもフェイントを織り交ぜてくるらしい。
そんなお二人ですが、時々お二人でどこかに行って、居なくなってしまう。似たような匂いになって帰ってくる。その間、ピムさんから斥候の方法や、罠の発見や解除に付いて教えてもらう。ガーラントさんには、模擬戦をお願いしたり、スキルの事や、街での一般的な事を教えてもらっている。
そんな事をしていると、ナーシャさんとイサークさんが戻ってくる。
私は知っています。お二人が何をしているのか・・・。でも、聞いてはダメだと言われました。気が付かない”ふり”をするようにと教えられました。そして、スーン様の眷属たちからは、同じことで、ご主人様のお相手をするようにと強く言われています。
「今日のご飯は?」
「はい。先程倒した、グリーン・ラビットの肉がありますから、それを焼こうかと思っています」
「いいね!手伝うよ」
「ありがとうございます。それでは、奴らに餌もお願いしていいですか?」
「はい。はい」
人族は、2~3日でも食べないと、弱ってしまうようなのです。
ハーフである私も、人族に近いのですが、1ヶ月くらいなら大丈夫なのですが、不思議です。ナーシャさんたちも、2~3日なら平気だけど、それ以上だと、ちょっとつらいとおっしゃっていました。獣人族は、3日に一度程度の食事でも大丈夫だという事ですので忘れそうになってしまいます。
最初は、ナーシャさんたちに合わせていたのですが、操作している人族の意識から、飢餓感が漂ってきて、慌てて、ガーラントさんに聞いたら、そう教えてもらいました。それから、明るくなってからと、暗くなる前に、食事をする事にしました。
なんでも食べると教えられましたが、好みが有るようです。
司祭とか言っている人族は、本当にわがままばかりでしたが、操作して無理やり食べさせてからは、多少おとなしくなりました。
明日には、アンクラムに到着できそうです。
人族から、喜びの感情が出ています。数名、心が壊れている者も居ますが、操作しているだけなら困る事はありません。
ちなみに、ナーシャさんたちは、人族を私が操作している事は知りません。ご主人様から、スキルはできるだけ隠すように言われています。そのために、私のステータスは
名前:リーリア・ファン・デル・ヘイデン
称号:カズト・ツクモの眷属
固有スキル:清掃
固有スキル:治療
固有スキル:雷弾
体力:E
魔力:C+
こんな感じに見えます。
ご主人様は、称号まで隠蔽しようとしましたが、全力で抵抗させてもらいました。ご主人様からは、アンクラムでステータスを確認されそうになったら、称号を隠蔽するように言われて、隠蔽のスキルカードを渡されました。
治療を残したままなのは、司祭が連れている理由を作るためです。
「リーリアちゃん。ご飯にしよう!」
「はい」
お肉の焼き方もだいぶ上手くなってきました。まだまだ、ドリュアスの姉さまたちには敵わないのですが、ナーシャさんたちは美味しいと食べてくれます。それから、ガーラントさんからは、私が清掃スキルを持っていると言った所、少し変わった使い方を教えてくれました。
魔物の皮に、清掃スキルを使用すると、皮が綺麗になるのです。普段は、掃除の仕上げに使うくらいなのですが、こういう使い方も有るのだと笑いながら、教えてくれた。同じように、寝る前などに、身体や着ていた服や下着に清掃をかける事を勧められた。確かに、お風呂には負けますが、十分綺麗になった感じがします。
このために、冒険者は数枚から多い時には、数十枚は、清掃のスキルカードを持ち歩くようにしている。らしいです。
清掃は、離れていても発動するので、皆さんにも清掃スキルを発動しましたら、喜んで頂けました。
汗や排泄物の匂いが気になっていた、人族にもかける事にしました。ナーシャさんたちは驚いていましたが、操作しているのが私なので、清潔にしておきたかったので、丁度良かったです。
食事も終わって、今パンケーキを焼いています。
安価な食材で料理ができるようにと言われて、試行錯誤している物です。素材は、ご主人様のログハウス周り(エント兄さまやドリュアス姉さまが世話をしている)の物ではなく、ダンジョン内で見つけた比較的一般的に食べられている物を使っています。
比較的と言うのは、これ以上、安価な物が見つからなかったということなのです。ナーシャさんたちが言うには、十分高級品だと言われましたが、今使っている物でしたら、ナーシャさんたちも、2~3ヶ月に一度は入手できるくらいの品質だと言われました。
ナーシャさんは、ご主人様からポーチを頂いて、その中に、甘い物を隠しています。他にも、いろいろと女の子に必要な物を入れていると笑って教えてくれました。イサークさんたちも、ご主人様から収納袋を預かっています。こちらは、貸し与えられたのらしいのです。ご主人様としては、報酬とこれからもよろしくという意味で、渡したらしいのだが、イサークさんたちは借り受ける事に決めたようなのです。
スーン様に後で聞いたら、返してきたら、いろいろ言って、そのままもたせるつもりだと言われました。高級品を、簡単に貸す事になんの意味が有るのかと疑問に思っていたのですが、”感謝の気持ちで縛る”と、教えられました。私には、わけがわかりませんが、ご主人様やスーン様がなにか考えておられるのでしょう。
ナーシャさんたちとはここでお別れです。
ただ、ナーシャさんやイサークさんは、ミュルダのご領主に面談したあとで、また、ご主人様の所に戻るとおっしゃっていました。
「リーリアちゃん。これすごく美味しいよ!」
「ありがとうございます。少し多めに作ったので、よかったらお持ちになりますか?」
「え?いいの?ありがとう!」
「ナーシャ!」
「なに?イサーク?」
「リーリアさん。申し訳ない」
「いえ、問題ありません。それに、ナーシャさんやイサークさんたちには、餌を作ってもらっています。私にはわからない事なので助かっています」
「イサーク。リーリアちゃんもいいって言ってくれているのだから、問題ないよ」
「ナーシャ!」
イサークさんやガーラントさん。ピムさんが、遠慮する理由がわからないのです。聞いてみても、”高価な物”や”貴重な物”と言われますが、確かに、ご主人様にしか作る事ができない物は、貴重な物かも知れませんが、素材は、ダンジョンに半日程度入れば、見つけることができる物です。
食事で、貴重な物は確かに有りました。”蜂蜜”などがそれですが、それ以外では、胡椒や砂糖は、量産が可能な物です。酒精が入った飲み物は、作るのに時間がかかるのですが、素材自体は、ダンジョンの低下層で量産可能な物です。
ご主人様の五稜郭内で作られた物は、皆でご主人様に食べてもらおうと、全力で作業した物ですので、イサークさんたちにも、ご主人様のご許可がなければ差し上げていません。
簡単に言えば、収納袋以外は、私たちにとっては、価値が無いものなのです。スキルや魔核も同じです。私みたいなハーフでも、ご主人様が皆さんに提供するようなレベル3以下の魔核では、数百個吸収しても進化しません。価値が無いのです。ご主人様の実験でお使いになる量を確保しておけばよいのです。レベル5の魔核でも、既に吸収しても進化する事ができません。私以外のほとんどの物が同じような状況です。新たに眷属になったり、産まれたばかりの者なら別ですが、それでも、ダンジョンの魔物をそのまま吸収した方が効率が良いのです。
食事を終えて、片付けをしていると、ガーランドさんとピムさんから話しかけられた。
「リーリア殿はこれから、アンクラムに行くのだよな?」
「はい」
「大丈夫だとはおもうが、困った事があったら、鍛冶屋のヤルノという奴を訪ねて、”これ”を見せれば、力を貸してくれるだろう」
ガーラントさんから、木片を渡されました。細工が施されている物だが、持った感じでは、ただの木の様です。
「これは?」
「儂が修行した時のお師匠さんから渡された物で、半分をヤルノが持っている」
「え?貴重なものなのでは?」
「そうだな。だから、貸しておく。ツクモ殿の所に無事に戻ったら返してくれ、儂もミュルダでの用事を終わらせたら、行く予定じゃ」
「え?あっはい。ありがとうございます」
「なぁに。このくらいしかしてやれんからな。それに、返してくれるのだろうからな」
ガーラントさんは、そういいながら、私の肩を叩いて、もともと居た場所に戻って行きました。
「次は僕だね。リーリアちゃんは、アンクラムで情報収集するのだよね?」
「あっはい。そうなります」
「そう、それじゃ”これ”を持っていって」
スキルカードのようですが、レベル6?が3枚のようです。
「これは?」
「”探索”と”索敵”と”目印”のカードだよ。必要ないかも知れなけどね。一応持っていってよ。使い方はわかる?」
「前に、スーン様が使っている所見ていますのでわかります」
「それなら大丈夫だね。アンクラムは、獣人族には辛い場所だけど、リーリアちゃんなら人族だと言い張れるとおもうからね。もし、少しでも怪しまれていると思ったら、逃げ出してね」
「はい。ありがとうございます。ご主人様からも”絶対に無理しないようにしろ”と言われています」
「うんうん。リーリアちゃんが大事なのだろうね」
え?ご主人様が私の事が大事?そんな事・・・だったら
「え?それなら、すごく嬉しいです」
ピムさんも、笑いながら、握手を求めてきました。手を握ってから、軽く言葉を交わすが、何を話したのかわかりません。ご主人様が、私の事を大事に思っている。その事が、頭から離れません。
私たちがご主人様を大事にするのは当たり前。でも、ご主人様が私たちを?
いつの間にか、ピムさんもガーラントさんの所に戻って、なにやら作業をしてらっしゃいます。
明日からの事を相談されているのでしょう。
イサークさんが近づいてきました。
「リーリアさん。ナーシャが申し訳ない」
「いえ、私も楽しいから大丈夫です」
「そうですか。あっそれで、明日からの事ですが」
「はい。明日は、日が昇る前に、出立いたします」
「・・・そうですか・・・。アンクラムが近いですからね」
「そうですね。それに、俺たちは、ミュルダの冒険者ですから、アンクラムに奴らに捕まると、偵察に来たと思われてしまいますからね」
「そうなのですか?それは、申し訳ありません」
「いえ、それこそ、リーリアさんが謝る事ではありません。俺たちが、ツクモ殿に少しでもお返しできればと思って、申し出た事です」
「それでもありがとうございます。私だけでしたら、もっと手間取ったかも知れません」
明日の朝には、1人でアンクラムに行かなければならない。
少しだけ心細い気持ちになりますが、ご主人様のご期待にこたえるためにも、無理しない範囲でがんばりましょう。
/*** リア(リーリアの偽名) Side ***/
「リア様」
人族に、ご主人様が私のために考えてくださった、名前を呼ばせるのは、業腹なので、”リア”と呼ばせる事にしています。
獣人族を襲っていた冒険者のリーダーの男です。名前は忘れてしまいました、人族1とでも呼んでおきましょう。人族1の中の私が、話しかけてきます。
「どうしました?」
「近くに、人族の集団が居ます。どうしますか?」
「敵ですか?」
「この者が言うには、アンクラムの兵の様です」
「わかりました。使える人族は何人ですか?」
「この者を入れて、6名です」
「わかりました。その者たちを使って、辺りを警戒しなさい」
「はい。リア様」
中身は、自分だと解っていても人族と話すのはストレスを感じます。
早く慣れないとダメですね。
さて・・・。イサークさんとナーシャさんが、どこで何をやっているのか解っています。緊急事態なので、ピムさんかガーラントさんには、貧乏くじをひいてもらいましょう。
「ピムさん。ガーラントさん。すみません」
「どうした?」
「近くに居た者から、アンクラムの兵が近づいてきているようです」
「何?本当・・・なのだろうな。解った、ピム!」
「えぇぇでも、しょうがないよね」
どうやら、ピムさんが呼びに行くようだ。”こと”が終わっている事をお祈りしています。
ガーラントさんに今解っている事を伝えます。実際には、”私”を通して情報が集まってきています。こちらを目指している雰囲気ではなく、何かを探しているようだという事です。近くのエント兄さまからも同じような念話が入ってきます。
10分後、慌てた雰囲気を出しながら、イサークさんとナーシャさんが近づいてきます。
私が話した事を、ガーラントさんが説明してくれています。
「それでどうする?リーダー?」
「っ!」
あっ私の事を気にされているようです。もともと、明日の朝には別れるはずだったのが、少し早まるだけの事です。実際、私よりも、暗くなってしまった状態で、移動しなければならない、イサークさんたちの方が心配です。エント兄さまにご相談したら、近くにいるアントやスパイダーが護衛に回ってくれるようです。
私が心配そうな顔をしていたのでしょうか?
「リーリアさん。大丈夫ですよ。アンクラムの兵なら、5人や10人なら逃げるだけなら、俺たちでも大丈夫だ。それに、ツクモ殿から借りている、収納袋があるから、荷物が少ないから、逃げるだけなら本当に大丈夫だ。俺たちよりも、リーリアさんの方が心配だぞ」
「うんうん。私だけでも残ろうか?」
「ナーシャさん。お言葉ありがとうございます。でも、私は、好都合だと思っております」
「好都合?」
「はい。このまま、兵に発見してもらって、アンクラム街まで連れて行ってもらおうかと思っています。司祭とかいう奴も、着替えさせて、馬車の中に居ますし、怪しまれたら、獣人族との戦闘で心が壊れているとでも言ってみます」
「そっそうだね」
それから、少しだけ会話をして、イサークさんたちには、この場を立ち去ってもらいました。
これで、全開で操作できます。
人族3が、兵と接触したようです。
オートモード対応です。人族3は、一番意識がしっかりしているので、対応は大丈夫でしょう。自分たちが、操作されていることは知りません。
「誰だ!」
「ブルーフォレストの獣人族の確保に向かった者です。アトフィア教の司祭の護衛です」
「何?司祭様がご無事なのか?」
「はい。貴殿は?」
「失礼致しました。私は、アンクラム領事兵。ルバルカといいます。それで司祭様は?」
「こちらです」
疑いもしないで案内させます。
刺客だったとしても、人族が殺されるだけです。私は、そのときに、ここで捕らえられていた子供を演じる予定です。触ってきたときに、この兵も操ればいいだけの簡単な作業なのです。操作が弾かれたら、エント兄さまやドリュアス姉さまにお願いして心を折るまで痛めつければいいだけなのです。
人族3を操作して、ルバルカと名乗った人族を、馬車まで案内させます。
馬車は、しっかり動くまで兎族に修理してもらっていますが、傷の状態から、かなり激しい戦闘が行われたと見えるでしょう。人族13~15までは心が壊れてしまっていて、操作してもまともに動きません。ですので、今は、オートモードでなく、疲れ切った顔で座らせています。
「これほど・・・」
「はい。私たちも、司祭様を守って、戦場を離脱するのがやっとでございました。ルバルカ殿?」
「あっ申し訳ない。それでなんですか?」
「私たち以外には?」
沈黙がその答えだ。
「そうですか?」
「いえ、全滅では無いのです、私たち以外で成果を出している者たちも居ます」
「そうなのですね!」
少し喜んで見る。
その表情を、ルバルカは察したのだろう
「あっいえ、無傷の者は皆無で、どうやったのかわからないのですが、隷属化されている者も居ます。そして、ほとんどの者が、全裸状態で、武器や防具だけではなく、スキルカードも奪われていたのです」
「え?そうなのですか?」
「・・・はい。それで、男は、殺されるか、腕を切り落とされたり・・・女は、ナイフや短剣だけを持っていましたが、正常な状態では無いものが多いのです。話ができた者も、大量のスパイダーに襲われたや、殺されて当然だ・・・とか、言っておりまして、アトフィア教にすがったのですが、復調の兆しが見えません」
「それは・・でも、わかります。私たちは、司祭様のご英断で、救済すべき、獣人族を逃して、獣人族が逃げていった方角と反対方向に転進したのです」
「そうだったのですか?相手は?」
「わかりません。獣人族だとはおもうのですが、アイツラは卑怯にも、夜中に襲ってきたのです」
獣人族の方々から聞いた話では、逆ですが、獣人族がやられた話をしてあげれば、ボロボロなのも納得してくれるでしょう。
馬車まで誘導が終わった。
次は、司祭とかいう奴の出番です。私の事を、違和感なく紹介させる事ができればいいし、できなければ、このルバルカを殺してしまうのがいいでしょう。
馬車には、人族1が護衛として立っている。
リーダーだったやつだ。母様から聞いている、人族そのもので、すぐにでも殺してしまいたが、ご主人様の所有物を無闇に傷つける事は良くない。
「司祭様」
ルバルカが、跪いて呼びかける。
私は、司祭と呼ばれている、ボアの前に身体を割り込ませて、手を広げる。これは、ご主人様に教わった”三文芝居”と呼ばれる手法で、お約束という物らしい。よくわからないが、ご主人様がおっしゃってくれた事なので、間違いは無いのです
ルバルカは、ぎょっとした顔で私を見上げる。
「よい。リアよ。この者は味方じゃ」
「でも、司祭様。この者から、獣人共の匂いがします。血の匂いも・・・それに」
「よいのだ。リア」
「でも・・・」
「リア。控えよ」
3度目で言うことを聞く。これも、お約束だと教えられたことです。
ボアの横に戻って、武器を取り出す。威嚇するように、武器を構えて、スキルカードを数枚取り出す。
「すまんな。リアは、儂が助けた少女でな。獣人どもに慰み者いにされそうな所を、儂が助け出した。獣人共は、このリアを取り返すために、夜襲をかけてきたのじゃ」
矛盾しているが、偉い人が言っている矛盾を追求できる人は居ないと教えられました。
「いえ、私こそ、申し訳ありません。アンクラムの街から連れ出した、奴隷が暴れまして・・・」
「そうだったのだな。しっかりと救済したのだな?」
「もちろんでございます」
やはり、人族は害悪でしかない。
ご主人様以外の人族は、殲滅した方がいいのかも知れない。
ルバルカは、それから、司祭に状況説明を始めた、私を通して、私の中に話が入ってくる。それを、近くのエント兄さまにお伝えする。難しい話や判断は、ご主人様はスーン様がしてくださる。
あらかた喋らせられたとおもう。
さて、仕上げに入りましょう。
「ルバルカ殿。リアは、儂を必要としている。儂が責任持って、アトフィア教の教会まで導きたいのじゃが問題はあるか?」
「・・・アンクラムの・・・いえ、大丈夫です。私が責任持って、リア殿を、アトフィア教会までお連れいたします」
「そうか、そうか、しかし、儂も、今こんな状態でな。馬車から出る事が困難じゃ。それに、最近では、リアに治療をしてもらわないと辛くてな」
「え?リア殿は、治療のスキルが?」
うなずく
「それならば、聖女様なのでしょうか?」
聖女。それは面倒な響きがします。回避しておきたい所ですね
「リアは、儂のために行きたいと言っておる。そのように手配しなければならない。儂のそばから離れたくないと言うのでな」
「そうなのですか?アンクラムには、司祭様の従者として入っていただくのが良いかと思います」
「そうだな。それがいいだろうな。おぉそうだった。他にも、儂を守って、心を壊してしまった者たちもいる。移動の手配を頼まれてくれるか?」
「もちろんです。本体が少し離れた所に来ております。早速、司祭様がご無事だったことを含めて、報告してまいります。その後、移動でよろしいでしょうか?」
「ルバルカ殿に委細任せる。儂は、無事アトフィア教会に、リアと共にたどり着ければよい」
「はっ!」
ルバルカが馬車から出ていった。
人族1となにか言葉を交わしている。どうやら、私の事を聞いているようだ。人族1は、事情があり、事情は、司祭しか知らないと答えている。偉い人には、偉い人しか意見できないという言葉通りに、私の事を怪しいいと思っても、偉い人に守られている状況では、手出しはできないのでしょう。
これで、街には潜入できそうですね。
第一段階は、成功と言ってもいいでしょう。
人族3を伴って、自分たちの本陣に向かうようです。
操作の距離が気になったのですが、大丈夫でした。少し、ノイズが入りますが、操作はできていますし、念話も通じます。
私の事を疑っているようですが、司祭のお手つきを無下にするわけには行かないという事になった。
その上で、”治療のスキル持ち”は貴重な存在だという事です。そのために、アンクラムの街で囲う事はできないかと相談しているようです。無様ですね。人族3は、私は司祭の側を離れないと話しています。
話がまとまったようです。私は、司祭の従者として、特別に許可して、確認なしで街に入れる事になりました。そのかわりに、馬車は徹底的にチェックするようです。問題になりそうな物は、私の収納に確保しているので、問題はありません。
移動を開始するようですね。
人族1が、司祭に報告をしてきました。馬車が動き始めます。面倒なので、司祭から、誰も近づけるなと命令させてから、司祭を黙らせます。さっきの、ルバルカという人族に、人族1から交渉して、食事の世話をしてもらう事になりました。暫くは、私の料理は封印です。
さっそくいろいろな情報が入ってきます。
操作している人族を見て、”まし”だと言っています。ゴブリンに犯されて、精神を壊してしまった、女性が多数見つかったそうです。ゴブリンどもも役に立つ事も有るのですね。
それにしても、ゴブリンは本当に、不思議な生き物です。通常では、産まれてくるのは、女の種族なんですが、ゴブリンだけは、必ずゴブリンが産まれます。それも、ほとんどが男です。女のゴブリン・・・ゴブリナと言うそうですが、あまり個体数は確認されていません。ですので、ゴブリンは、繁殖に必ず”女”を必要とします。
そのために、全裸の人族が居れば、襲ったり、攫ったりするのは当然行われたことなのでしょう。
ナイフや短剣一本でなんとかなるような相手ではなかったのでしょう。それに、ブルーフォレストの浅い所と言っても、出てくる魔物は、ゴブリンだけではありません。
スライムも手強い相手です。これは、イサークさんたちから聞いた話なのですが、スライムに遭遇したら、1回は攻撃を試みるが、それで倒せなかったら撤退を決め込むと言っていました。特に、ダンジョン以外のスライムは、倒すのに、スキルを使用しないとならないのに、得られる物は、よくてレベル2魔核か、さらに運が良ければ、レベル3のスキルカードだと言う話です。そのために、スライムは、必要がなければ狩らないが、冒険者の鉄則だと言っていました。こんな話をしていたイサークさんたちも、ライ兄をみた時には、震えたと言っていました。
私もそうなのですが、種族名に、”イリーガル”を持っている魔物は、見つかれば、”死”を覚悟しなければならないと教えてもらいました。
私もですし、カイ兄、ウミ姉、ライ兄、スーン様や、ヌラさんや、ゼーロさんや、ヌルさんも、種族名に”イリーガル”が付いています。ご主人様が、”理外の理”になっているのだろうなとおっしゃっていましたが、私には難しくてわかりませんでした。
なによりも、この力を使って、ご主人様のお手伝いができる事が嬉しいのです。
もうすぐ、アンクラムの街に到着するようです。
人族1が、ルバルカからそう言われています。
/*** リア(リーリアの偽名) Side ***/
「司祭様」
「どうした?」
「門番がご挨拶をしたいという事です」
「わかった」
人族1が交渉したのだが、”御尊顔を”とか言っていたようです。ようするに、確認させろって事だと思いました。
門番も人族だが、汚らしい、臭い。ご主人様と同じ種族だとは思えないですね。
馬車に乗り込む事なく終わってホッとしました。
私の事も怪しむ雰囲気が有ったのですが、人族1が”司祭様の”というと納得したようです。その後で、魔核を3つほど握らせることで問題はなくなりました。私が身分証がない事が問題になりそうでしたが、司祭が教会で保証して、後ほど教会で作るということで大丈夫になりました。
大きな問題なく、アンクラムの街に潜入する事ができました。
それにしても、人族の街というから期待してきたのですが、期待はずれですね。広さは、ご主人様がお作りになった(正確には、スーンらのエントだが)獣人族の居住区の方が広いです。建物1つ1つも、ご主人様がお作りになった(正確には、エントとドリュアスや眷属たちだが)ログハウスの方が立派なのです。
酷いのは、下水道が無いのでしょう。排泄物の匂いが酷いことです。さすがに、ボアの住んでいる所には、何かしらのスキルが使われている---風のスキルを一定期間利用する---ようですね。匂いが籠もらないようになっているようです。
ダンジョンが無いので、排泄物の処理もしないまま、近くを流れる川に流しているのですね。本当に酷いですね。害悪しか垂れ流さない人族は、やはり、ご主人様以外を抹殺すべきでしょう。帰ったら、ご主人様に”そう”進言する事を心に決めました。
さて、ご主人様からご命令されている。情報収集ですが、思った以上に簡単に進みそうです。
このボアが思っていた以上に、重要人物だったようです。
教会施設で一番いい部屋を使っています。私は、従者という立場ですが、教会に残った人たちから見たら、ボアが連れてきた大切な人という位置づけになっています。そうなるように、操作しました。部屋も小さいながらも個室が用意され、ここから、人族を操作する事ができます。
この街のトップがボアに面会を申し込んできました。
事情がわからないので、暫くは、無視する事にしました。そのくらいの権力はあるようです。
街の中に散った人族からの情報が集まってきています。
どうやら、アンクラムで雇っていた奴隷商や、冒険者のほとんどが、ご主人様のご領地である(リーリアの誤解)ブルーフォレストに向かったようです。街に残っているのは、街を守れる最低限度の兵だけのようです。
話を聞いていると、最初は、ミュルダを攻めて、ミュルダに豊富にある食料や水資源を奪うことが目的だったようです。ミュルダは、穀倉地帯として、穀物が豊富にあるようです。しかし、ミュルダの領主が、人族ではなかったために、教会は、ミュルダとの取引にいい顔をしません。そこで、ミュルダを攻めて、隷属化する事で、救済するとボアがいい出したそうなのです。それに、同調した一部の狂信者が暴走したのが、始まりです。最初はうまく言ったようです。
アトフィア教に働きかけて---貢物を送って---ミュルダを異端認定する事はできたのですが、思っていた以上に、ミュルダが困らなかった。実際問題として、”薪”の問題だけだったようです。この辺りは、イサークさんたちから詳しい事が聞けることでしょう。
アンクラムの街は、ミュルダを異端認定してしまった事で、自分たちが苦しむ事になってしまったようです。
実際問題として、ミュルダに攻め込むと言っていた人たちも、ブルーフォレストに向かった兵たちが戻ってこない事や、戻ってきても、精神が壊れてしまったり、無傷のものは皆無。スキルも武装もすべて失って帰ってきているのです。そんな状況では、アンクラムに攻め込むのは実質的に不可能になってしまっています。
さらに、協会関係者が、自分たちの失策を隠すために、街に残っている。獣人族---殆どが、隷属化されている。主人が居る状態---を、殺し回っていたのです。街の住人と、教会の関係は悪くなっていく一方なようです。
そんな中に私たちが帰ってきたのです。
ボアは怪我を追っているという設定ですが、今までの中では最良の状態。他の人族に関しても、性格が変わったと言われている者も居ますが、激しい戦闘の結果だと思われています。兵には冷たい街の人達も、私が操作している人族には一定の距離は置いていますが、優しくしてくれます。ご主人様が言っている、”人族全部が悪いわけではない”と、いう事が、なんとなくわかってきました。
「リア様」
「なに?」
人族1の様です。
「そろそろ、司祭様の所に行く、お時間です。いかが致しましょうか?」
「そうね。わかりました。待たせるのも問題でしょう。すぐに伺います」
「ありがとうございます」
ドアの外からの声がけです。
私ですから、入ってきても良かったのですが、スーン様から、序列は大事にしなさいと言われております。
教会の祭壇がある部屋に急ぎます。
人族1には、私が着替えて、祭壇に入ってから、客を案内するように言っています。手順は問題なく守られるでしょう。なんと言っても、私ですので、タイミングを間違えるはずがありません。
今日は、ボアが祭壇で、アトフィア神に祈りを捧げる事になっています。もともと、ボアが最上位である事や、生き残っている唯一の上位者なのです。祈りを捧げて、死者に安らかな眠りの時間を与えなければなりません。
私は、それを手伝う立場なのです。ボアに神具を渡す役目が私なのです。
これで、ボアが私を保護しているのが、皆に印象付けられるわけです。
今日は、これだけですが、明日が大変なのです。
領主との面談が決まってしまいました。ボアが対応することになります。
今日は、そのために、ボアの祈りは1回だけになります。通常は、2回らしいのです。
私が操作していない。人族の神官が、ボアに言ってきます。遠征に出かける前は、ボアの祈りの時間は、祭壇の周りが人族で溢れかえっていたそうです。偉そうにしているボアの独り言を聞いて何が楽しいのかわかりませんが、人族にとっては大事な時間なのでしょう。
教会の仕事はそれだけではなく、癒やしを求める人族への対応を行っているそうです。スキル治療を使うわけではなく、薬草を与えたり、話をきくだけの場合もあるそうです。
ご主人様からは、ミュルダに向かう兵の状態や状況の情報を最優先に調べるように言われています。近くに居る、エント兄さまたちにお伝えしておりますが、すぐの侵攻は難しいようです。獣人族確保に向かった者たちの7割以上を失い、戻ってきた者もほとんどが精神がやんでしまっているためだと思われています。実は、それ以上に問題になっているのが、スキルカードと武具の損失という話なのです。戦闘で使うスキルカードはもちろん、それ以外の生活で必要なカードも持ち出されたようです。それらは、ご主人様の手元に来ているのですが、そんな事は関係ありません。自業自得なのです。
スキルカードの数が減少した上に、今までミュルダとの取引で得ていた物も入ってこなくなっているので、当然いろいろな所が滞ってしまっているのです。
多分、明日の領主からの話は、そういった事への不満だと思われています。
帰還してきた者たちの言葉をまとめると、協会関係者で、ボア以外にも、もう1人生存者が居たとのことです。
この者は、アンクラムに帰らずに、スキルカードや魔物素材や魔核、戦利品を持って、逃げたと噂されています。それでは、どこに逃げた事になっているのかと言えば、アトフィア教の総本山が置かれている街に逃げたのではないかと言われています。
アンクラムの教会で、No.3だった男のようです。そして、獣人刈りを、一番に行っていた、狂信者だと評判です。小さな男子をいたぶるのが好きな下衆野郎で、去勢した男児を側に置いていたようです。声変わりが来る前に、去勢していつまでも幼い状態にしておくようです。夜の世話もさせていたようです。教皇の覚えがよく、政治力が有ったために、ボアを追い落として、自分がアンクラムのNo.1になる事を考えていたようです。部屋に、そのような資料が大量に残されていました。去勢した男児の”物”も保管しているようなクズです。見つけ次第殺したほうがいいでしょう。
ボアは、眠ったようですね。
今日は、教会の周りを、人族4~8が守るようです。通常なら大丈夫な戦力と言われています。
私は、ハーフで眠る必要はあるのですが、ご主人さまから名前を承ってから寝る必要が少なくなりました。以前と比べてです。前は、3日に一度姿を戻して、睡眠を取っていましたが、今では、5日に一度、人の姿のまま眠る事で十分なのです。これが進化した結果なのでしょう。
「リア様」
ご主人様の事を考えていたら、朝になってしまったようです。
「なんでしょう?」
「領主が面談に訪れています。お通ししてよろしいでしょうか?」
「面談室ですよね?」
「はい。その予定でございます」
「わかりました。私も、伺います」
「かしこまりました」
私が、飲み物やつまむものを用意した方がよろしいのでしょうが、教会にアルものと比べて、質が違いすぎたので、教会にある物で対応する事にしました。改めて、思ったのですが、人族が食べている物で、ご主人様にお出しできる物は一切なさそうです。調理方法も、貧弱です。焼くか、煮るかしかありません。人族1に命令して、アンクラムで手に入る、食材や武器や防具や道具を集めさせていますが、あまり良い物がなさそうです。食材では、私たちが知らない物や、種子にも知らない物がありましたので、ご主人様へのお土産になりそうです。
さて、後始末のためのお時間なのです。
「司祭様。よくご無事で」
「ふん。そんな事を言うためにわざわざ着たのか?」
「まずは、司祭様のご様子伺いですよ」
「白々しい・・・それで、何が目的なのじゃ?」
領主がボアをにらみます。
私に目を向けますが、それだけです。
「はぁ・・・わが街は、今危機に瀕しております。それも、今までにない危機です」
「それは大変だな」
「えぇ大変なのです。あなた達が、奴隷である獣人族を殺して廻って、ミュルダに異端認定なんか出したおかげでね。それだけなら、まだ大丈夫だったかも知れないのに、あなた達が先導して、ブルーフォレストに向かったおかげで、我が街の常備兵の9割が使い物にならなくなってしまいました。そして、隷属化していた者が死んで、隷属化が緩んだ獣人共が、蜂起したり、逃げ出したり、それはそれは大変な危機なのです」
「それで?それを言うために来たのか?」
「えぇ現状を、司祭様に知ってもらいたかったのです。貴方様は、1人の少女を救った立派な方です。そんな立派な方に、我が街も救って頂きたいのですよ」
「無理じゃな」
「は?」
「無理と言ったのだ」
「はぁ?」
「儂らが先導した?どこにそんな証拠がある?それに、儂らは、自分たちで雇った冒険者と共に戻ってきた。それも、お主が言っている通り、リアを助けてな。お主が散々自慢していた、その・・・「常備兵」あぁ常備兵は、そんなに弱かったのか?聞いた所によると、スキルカードを無断で持ち出したり、武具を持ち出して、全部を失ったそうじゃないか?男も女も関係なく、全裸にされて、逃げ帰ってきたと聞いておるぞ?獣人どもを救済しないで、勝手に連れ出したのは、お主の常備兵ではないのか?」
領主がテーブルを叩く
「怒る所を見ると図星のようじゃな。なぜ、そんなお主の失策を儂ら教会が補填せねばならない。儂らは、獣人族を捉える事はできなんだが、成果はあげておるぞ?」
「なに?」
「言葉だけでは、信じられないだろう。リア。見せてあげなさい」
「はい。司祭様」
テーブルの上に、ご主人さまから預かっているレベル5の魔核を広げる。
そして、レベル5や6のスキルカードを10枚ずつテーブルの上に出す。そして、ご主人様に作ってもらった、レベル4の魔核に、レベル4体調管理が固定されている魔核と、レベル5魔核に隷属化を回数制限あり(13回)で付与した物を出す。
どのくらいあれば、成果として十分か聞いた所帰ってきた答えの分量だけ出します。
「これは?」
「儂らが、戦闘で得たものじゃ。魔物を狩って出た物や、獣人族が所持していた物を奪った物だ」
「へ?本当・・なのですか?」
「嘘を言ってどうする?」
触らせて欲しいというので、自由にどうぞと伝えさせた。
「これは、どうなさるのですか?」
「どうすると聞かれてもな。儂たちが得たものじゃからな」
「は?!俺の・・・いや失礼、私の街の兵を使っておきながら、その言い方はあまりにも・・・」
「だから?」
「は?」
「お主は、儂が、獣人族を差し出せと言った時になんと言った?同じ事じゃよ」
「な?それでは、どう有っても?」
「そうだな。いくつかの条件次第じゃな」
「条件とは?」
「言わなくてもわかっているだろう?このまちに居る獣人族すべてを渡してもらおう。救済しなければならない。あぁついでに、お主の宝物を、儂の子を産んで貰おうかの?そろそろ、子が産める身体になったであろう?二人おったな?ふたりとも順番にかわいがってやる。なんなら、お主の目の前でかわいがっても良いのだぞ?二人を交互にかわいがっていれば、いずれどちらかが子を産むだろう。そうしたら、お主に返してやろう。その後で、嫁にでも出せばよかろう」
領主は、テーブルのカップを床にたたきつけて、乱暴にテーブルを蹴って、帰っていった。
予想通りの行動に出てくれると嬉しいのだけどな。そうならないと、ボアたちの処分に困ってしまう。
/*** イサーク Side ***/
「大丈夫か?」
後ろから来てる、ナーシャとガーラントとピムを見る。
皆無事のようだ。
「ピム!」
「うん。大丈夫だよ」
ここまで逃げれば大丈夫という事だろう。
少し落ち着こう。ツクモ殿には感謝しなければならないな。収納袋がなければ、こんなに早く移動できなかっただろう。
収納袋の中から、簡易テーブルを出す。
人数分の椅子も用意されている。料理は無いが、食材なら入っている。ガーラントが、なにか簡単に作るようだ。
「ねぇイサーク。イサークってば!!」
「ん。あっナーシャか、なんだ?」
「さっきから呼んでいるのに・・・何考えていたの?」
「ん?あぁどうやって領主に、ツクモ殿の話をしたらいいのかと思ってな」
「え?普通に話せばいいと思うけど?」
「その普通がわからないから考えていたのだけどな」
俺たちが主張すれば、会ってくれる可能性はすごく高い。
でも、警戒から入る会談は成功する確率が低い、それに、アンクラムの近くを通った感じでは、アンクラムはすごく疲弊している。アンクラムにとっては、ブルーフォレストは、ダンジョンと同じくらいの恵みを与えているに違いなかったが、ブルーフォレストに出ている人がいないのだ。
出られないといい換えたほうがいいのかも知れない。
ブルーフォレストの木々は、薪になり、魔物は、スキルカードや素材になる。少し奥に入れば、サラトガのダンジョンの10階層と同じくらいの稼ぎが期待できる。
そんな場所に誰も出ていないとは考えられない。もしかしたら、アンクラムのダメージは俺たちが考えている以上に大きいのではないか?
アントンの事は報告しなければならないだろう。カスパル殿の事もそうだ。気が重いが、これも俺たちの仕事で義務なのだろう。ツクモ殿は、拾ったからと言って、貴重なアイテムでもある”速駆の指輪”も渡してくれた。
街の事なぞ、冒険者である俺程度ではわからない事が多いだろうけど、ツクモ殿の街?と交易できれば、ミュルダの街は安泰だろう。ミュルダから何を出すのかという問題点はあるが、それは領主が考えれば良い事だ。
「イサーク!ナーシャ!ピム!」
ガーラントが呼んでいる。食事ができたのだろう。
「ガーラント!今日はなに?」
「ブルーボアを焼いた。あと、ツクモ殿から頂いた、野菜を付けてある」
「うん!」
リーリア殿と一緒に移動している時に、俺たちは基本的な事を学んだ。
塩や胡椒の使い方だ。それだけで、肉が断然美味しくなる。街のうまいと言われる宿屋で出てくる肉料理と同じくらいだ。あいつら、こんな方法で焼いていたのかと関心した。それに、俺たちには胡椒がある。また、胡椒が使い方も難しい。ただつければいいというものではなかった。多くかければ、それだけ美味しくなると思っていたが、違っていた。適量という物が有ると教わった。
その御蔭で、美味しく食べる事が出来るようになった。
あと、衝撃の事実を俺たちは知ってしまった。
あれは、リーリア殿とツクモ殿の街?を出てから、1日が経過したときだった。
--- 回想
「あっ!ちょっと待ってください」
「どうされた?」
「胡椒を忘れてしまって・・・残り少ないので、調達しようかと思っていたのです」
「胡椒を調達?」
「はい?」
「どうやって?」
「え?」
あの時のリーリア殿の表情を忘れないだろう。知らないのですか?そんな雰囲気さえ有った。
「これが胡椒ですよ?」
---
そう言って示されたのは、ブルーフォレストの浅い地域で見られる植物だ。
その植物の種子を乾燥させたものが、胡椒になると教えられた。つるのように木々に巻き付いていて育つと教えられました。エントやドリュアスが栽培した物には及ばないが、自然の物でも十分美味しいと教えられた。
胡椒は、落ちているのを拾うだけと教えられた。
そのために、数が少ないと・・・。そして、落ちている場所も不確定で、一度見つけた場所は数年は見つけられるらしいが、それでも、1~2kgが限界だと言われていた。それはそうだろう。蔓のように、木々に巻き付いているから、同じ種類の木々を探してみても、胡椒が発見できなかったわけだ。そして、聞いた話では、ミュルダで胡椒を作ろうと思えば出来るのだ。
リーリア殿が、ツクモ殿に確認してくれたが、問題ないとの事だ。栽培方法まで教えてもらった。ただ、エントやドリュアスの栽培方法なので、うまくいかない可能性があるので、試行錯誤してほしいと言われている。
胡椒ができれば、サラトガやアンクラムではなくても、交易先は見つかるだろう。
距離の問題も、ツクモ殿が改良した馬車で、ある程度は解決するだろう。作り方や、改良点は、ガーラントが知っている。ミュルダで量産する許可も貰っている。
俺は、土産となるかわからないと言われたが、レベル1~3の魔核を大量に貰っている。ミュルダは、食料は困らないが、魔核が不足しているかも知れないと言った所。魔核を大量に支援すると言われた。
そして、ぶっちゃけ話として、レベル1~3の魔核なら、多分数千個あると言われた。俺たちを気遣った嘘かもしれないが、ありがたく貰っていくことにした。あと、ピムが獣人族の代表たちと交渉して、低レベルのスキルカードも大量に貰ってきた。これは、ミュルダの奴らを撃退した時に、奴らが持っていた物らしい。
ツクモ殿も必要としないし、獣人族は気分的に使いたくない。それに、獣人族は、ダンジョンに入って、自分たちで必要なスキルカードを取得し始めているようで、全部持っていっても問題ないと言われたらしい。
それでも、ピムは半分だけ残して、レベル4までのスキルカードを貰ってきた。迷惑をかけられているミュルダへの土産としては、ちょうどいいだろう。
しかし、これからの他の街との交易を考えると、一番の土産は、ナーシャのポーチに入っている物だろう。
メイプルシロップと言っていたが、アレの作り方や、パンケーキを作る時に必要になる薄力粉の作り方。卵はツクモ殿も試行錯誤をしている最中らしく量産が出来るようになったら教えてくれると言っていた。それでも、卵を20個ほど貰ってきている。
ミュルダは穀物が大量にあるという話をして、穀物の種類を教えた所、いくつかの物がほしいと言われた。それを買って帰る事になった。同時に、穀物の食べ方や加工方法も教えてもらった。それらが、ナーシャのポーチの中に入っている。レシピ帳だ。
明日には、ミュルダに着けるだろう。どうなっているのか?
それに、リーリア殿ことも気になる。大丈夫だとは思うが、それでも女の子には違いない。
/*** カスパル=アラリコ・ミュルダ・メーリヒ Side ***/
どういう事だ。
アンクラムの常備兵9割の損失。
信じられないような報告が届けられた。そして、その中に、アトフィア教のNo.1~3が行方不明となっていることが告げられていた。
ミュルダへの侵攻は不可能だと結論付けられている。
そうなると怖いのは、サラトガだが、サラトガは怖いくらいに何も言ってこない。異端認定されてから、一度ミュルダ所属の冒険者と商隊のダンジョン及び街への出入りを規制する旨の通達があっただけだ。
それ以降、奴らは沈黙を守っている。
それよりも、今は、アンクラムの情報だ。
タイムラグが有る上に、なぜ?どうして?が先に出てしまう。ブルーフォレストに向かったのはほぼ間違いない。それがどうしたら、9割の損失に繋がる?
「おい。あれから誰も帰ってきていないのか?」
「はい」
「そうか・・・今、何チームを、アンクラムに出している?」
「6チームです」
「そうか・・・増やせないか?」
「ピムが帰ってくれば可能だとは思いますが、ピムは・・・」
そうだな。ピムはダメだろう。
イサークたちに情報を伝えるために、サラトガに走らせた。合流できていればと思うが、ここまで連絡がないとなると、ナーシャを含めて・・・最悪の事を考えなければならないな。
叔父上になんて言って詫びればいい。”生きていてくれるだけでいい”と、叔父上が言った時には驚いた。そのナーシャが、黒狼族の戦士であるイサークとくっつくとは、わからないものだな。でも、その二人もダメだろう。
「すまない。少し1人にしてくれ」
斥候をまとめている部隊長を退出させて、今ある資料をもう一度精査する事にした。
アンクラムがミュルダに対して、異端認定を発令させたのはほぼ間違いないだろう。
やつらが欲したのは、ミュルダの穀物だと考えていいだろう。ミュルダ自体を欲したのかもしれないが、それはわからない。だが、その可能性は皆無ではない。ミュルダの立地を考えた時に、アンクラム・・・と、いうよりも、アトフィア教の奴らが考えたのだろう。
アイツラが、教会の総本山に行こうとしたら、ミュルダを通るしか無い。他にも街道はあるが、賊が出没したり、魔物の生息域を通過しなければならない。比較的安全なルートは、ミュルダから伸びる街道を使うしか無い。
獣人族が、黒狼族に救援をだして、ヒルマウンテンの竜族が助力したと言われない限り、9割の損失を納得させる事ができない。竜族でも、9割の損失はかなりの無理をしなければならないだろう。
それならば、獣人族だけで撃退したのか?それはもっと無理だろう。
魔物の集団が襲った?それなら、考えられなくもないが、それでも、9割は・・・。
「領主様。メーリヒ様!」
「なんだ!ノックもしないで!」
「失礼しました。しかし」
「それでなんだ?」
「はっピムが帰ってきました。イサーク殿と、ナーシャ様と、ガーラント殿も一緒です!」
「何ィィ!本当か?」
「はい。今、門番からの連絡です。イサーク殿は、領主様との面談を希望されています」
「わかった、すぐに準備する。いつもの部屋に通しておいてくれ!」
「はっ!」
吉報か?
ナーシャは別にして、イサークとピムとガーラントが居て、面談を申し込む。何かしらの情報を持って帰ってくれたのかも知れない。
/*** ピム Side ***/
「なぁイサーク?」
「なんだ?」
「間違いじゃないよね?」
「あぁミュルダの街で間違いはないと思うぞ?」
「アンクラムとの紛争中だよね?」
「そう、俺は”お前から”聞いたぞ?」
「そうだよね?」
ミュルダの街は、何も変わった様子はなかった。
門を入る。多少審査が厳しかったがそれだけだ。
顔見知りが居たので、挨拶した。驚かれた。
俺たちは、死んだことになっていたらしい。
領主様に報告するが問題ないかと言われたので、問題ないと答えた。その上で、時間があれば面談を申し込みたい旨も伝えた。
イサークとナーシャは、定宿にしている店に向かった。
ガーラントは馴染みにしている鍛冶屋に顔を出すと言っていた、ツクモ殿から貰った(預かった)素材を試したくてたまらないのだろう。門から入ってからそわそわしていた。
僕は、この時間を利用して、街領隊の屯所に顔をだす事にした。作戦から帰ったら、補給を受けるのが一般的だが、出た時よりも荷物が増えている上に、補給が必要ない状況なのだ。余剰になっている分を置いておきたいと思ったのだ。
屯所に着いた所で、現隊長から呼び出しが掛かった、すぐに領主の所に行って欲しいという事だ。
ガーラントは問題ない。問題は、大変な二人だ。事情はわかっているので、大丈夫だとは思いたいが、我慢してくれているといい。すぐに、定宿に人を飛ばした。ガーラントと合流して、先に領主の館に向かう事にした。最悪は、あの二人は後から合流すればいい。
ガーラントの所にも伝令は走っていたようだ。ガーラントと途中で合流して、イサークとナーシャが遅れてきた時の事を話し合っていた。
僕たちが領主の館前に到着して、5分後にイサークとナーシャが走ってきた。イサークが不満そうな顔をしている所を見ると、やり始める前に踏み込まれたのだろう。節操を守ってくれといいたいが、イサークだからと諦める事にした。
確かに、種族が違うので、なんとも思わないが、ツクモ殿の所行ってから、ナーシャは綺麗になったと思う。毛並みが違う。それは間違いない。もともと、ナーシャの毛並みに惚れていたイサークならしょうがないのだろう。そう思ってあげる事にした。
「イサーク。遅いぞ」
「悪い。悪い。それで?」
「領主様がすぐに面会してくれるという事じゃ」
「ほぉ対応が早いな」
「儂もそう思う。ピムはなにか聞いているか?」
「ううん。小耳に挟んだ程度だけど、アンクラムに6チーム向かわせているらしいよ」
「そうか、まっ俺たちは、俺たちが頼まれた事を優先しよう」
「うん!」
最後に何故か、ナーシャが元気よく答えた。
ナーシャとしては、これが終われば、ツクモ殿の所に戻れると思っているのだろう。もしかしたら、ミュルダでもパンケーキやメイプルシロップが手に入るかもと考えているのかも知れない。
さて、僕はどうしよう。
ツクモ殿の所に戻るのは魅力を感じるけど、街領隊の仕事をないがしろにするわけには行かないだろうからな。隊長と話してみないとわからないな。
/*** カスパル=アラリコ・ミュルダ・メーリヒ Side ***/
ナーシャたちが帰ってきた?
「領主様」
「あぁわかった。それで?」
「はい。4名揃って、ご相談があるとおっしゃっています」
「相談?わかった」
相談?
スキルカードがなくなったか?いや違うな。
会えばわかるか、サラトガに行っていたはずだが・・・。
会議室に向かう。
そこには、馬鹿面の1人の男と、可愛い娘が1人、そして、酒飲みが1人と、街領隊の斥候の1人が座っている。
「ただいま!」
「ただいまじゃない。今まで何をやっていた?」
ふぅ変わった所は・・・違うな。あまりにも変わっていない。
認識しているだけだが、1ヶ月近く放浪していたとは思えない。
「領主様。ナーシャが話し始めると、長いので、俺から話していいですか?」
「イサークか、頼む。その前に、儂からお主に聞きたい事があるが大丈夫か?」
「はい。なんでしょうか?」
「お主たち、あまりにも小奇麗な格好だが、どうやって逃げてきた?まさか?」
少し沈黙が流れる。
イサークたちはお互いの格好を見て、なにか納得している。
そして、ナーシャに関しては、笑いだしてしまった。
そんなにおかしな事なのか?
「失礼しました。領主様。それを含めまして、俺たちがどうやって、ここに帰ってきたのかお話します」
そう切り出したイサークの話は、信じられない話の連続だ。
イリーガル・デス・スパイダーや、イリーガル・デス・アント。イリーガル・デス・ビーナを眷属化している?
エルダー・エント?それだけじゃなくて、イリーガル・デス・ブルー・フォレスト・キャットとイリーガル・ブルー・スキル・フォレスト・キャットに、イリーガル称号を持つ、スライム?
イサークたちが夢を見たとか、集団幻覚のスキルを使われたと言われたほうが信じられる。
しかし、目の前に出された物で”村”が存在しているであろう証拠になりえるかも知れない。
そして、バカ息子のステータスカードと副隊長のステータスカード。それに、バカ息子が持ち出した、速駆の指輪に間違いない。
「イサーク。これは?」
「はい。そこの主ツクモ殿が、洞窟を解放する時に倒したゴブリン共が持っていたそうです」
「そうか・・・しかし」
「はい。ツクモ殿が倒したという事も考えられますが、これを見てください」
そういって出されたのは、ザイデルのステータスカードだ。
あの裏切り者?あいつなら、確かに・・・やりかねない。ザイデルが、バカ息子と副隊長を騙して、闇討ちにして、スキルカードやアイテムを奪おうとしたと考えられる。ステータスカードを、アトフィア教に持っていけば、奴の教団内での発言力も増したのかも知れない。
闇討ちをした状態で、ブルーフォレストの奥地に踏み込んで、”なにか”に襲われたのだろう。
「イサーク。事情はわかった。納得できない事もあるが、お主たちが感じたことだろう。それを尊重する」
「ありがとうございます」
「でも、まだ、お主たちが、小奇麗な状態の説明はできていないぞ?」
「え?あっまずは、カズト・ツクモという人物が居るという事実を信じてください」
「あぁ解った。それで?」
「多数のイリーガル称号だけでなく、属性持ちに進化した魔物を多数従えているのも認識してください」
「あぁ納得しよう」
一息着いた。
イサークとピムがなにやら小声で話している。
「ねぇイサーク。だしていい?」
「まだ待て、さすがに、それはやばすぎる!」
今日の話しは長くなりそうだ。
「領主様。誰か、鑑定が使える者はいませんか?」
「鑑定持ち?おい!」
後ろに控えていた、執事が一歩前に踏み出す。
鑑定にも種類がある。普段は、秘密にしているが、こいつは触らなくても鑑定出来るスキルを持っている。
「はい」
「よかった。触っても、いいですが、絶対に、大きな声を出さないでください。俺たちが、カズト・ツクモ殿に貰った物で、ヤバそうな物をいくつか出します」
まずは、ガーラントが小汚い袋を取り出す。あの中になにか入っているのだろう。
そう思ったが、そのままテーブルの上に置いた。
執事が、ガーラントに触ってもいいかと訪ねている。この袋で間違い無いようだ。
「これは、ツクモ殿から借用している物で、返さなければならないが、異常性がわかっていただけると思う」
ガーラントがの宣言を聞いて、執事が再度鑑定を行っているようだ。
「中を触っても?」
「いいですけど、中身はまだ出さないでください」
執事が中に手をいれる。小汚い袋なのに、大切に触るのだな。
執事が、儂の方を向き直して、袋を儂の方に渡す。
「領主様。我が目を疑いました。今日始めて、スキルの結果を信じないという行動に出てしまいました。何度鑑定しても同じ結果が出ます」
「それで?」
「この袋は、”収納スキルが付与された袋”で、ございます」
収納スキル。別に珍しい物ではない。
商人も使っている物も多い。
「収納スキルなら、商人も使っているだろう?」
「いえ、違います。”収納スキルが付与された袋”で、ございます」
「だから・・・あっ!え?そうなのか?」
「はい。回数無制限の収納スキルが付与されています」
「アーティファクトではないか?」
「そうです。領主様。考えてみてください。アーティファクトでも、スキル収納が着いた袋は・・・」
「商人にしたら、殺してでも欲しいと思うな。しかし」
「はい。アーティファクトとしては、それほど珍しい物ではありません。アーティファクトとしてはです!」
たしかに、アーティファクトとして珍しい物ではない。
それに、このミュルダにも、1つ保管されている。本当に、街の緊急時に放出する物が収められている。
「領主様」
「なんだ?」
「袋を見てください」
「袋・・・・え?これ・・・は?」
「おわかりですよね?」
「あぁこの袋は、ミュルダで買う事が出来る・・・街領隊の装備品ではないか!」
”なぜ?”が頭の中から離れない。
これを作った者が・・・いや、話の流れから、カズト・ツクモという人物が作ったのだろう。
「ご理解頂けましたか?」
「・・・あぁ」
「でも、まだ始まりです」
イサークが、袋を手にとって、1つの魔核を取り出す。
大きさから、レベル5か6程度のものだろう。珍しいと言えば珍しいが、それほどの価値がある物ではない。
イサークが、それを、執事に渡す。
受け取った執事の手が震えている。あの執事が震えるもの?
それほど危ないものなのか?
「イサーク殿。間違いないのですか?」
「ガーラントの鑑定でも、実際に使った俺たちも、疑いましたが、その鑑定結果で間違いないです」
「ふぅ・・・試してみていいですか?」
「問題ないですよ。俺たちも何度も使っていますが、問題はありませんでした」
何度も使っているという事は、あの魔核もアーティファクトの一種なのか?
執事が魔力を流し込んで、魔核に付与されているスキルが発動する。スキルの発動時には、微妙な変化がある。
3回変化が観測できた。
3回?同じスキルを3回かける意味は?
「どういう事だ?」
「領主様。この魔核に付与しているスキルは」
執事はここまで行って、言葉を切った。ガーラントとイサークを見ている。
ふたりとも、うなずいている。
「ふぅー”結界と防壁と障壁”のスキルが着いています。それも、使用制限がありません」
「は?もう一度言ってくれないか?」
「結界と防壁と障壁です。領主様」
少々投げやりになっている執事の声を久しぶりに聞いた。
現実逃避したくなる事実だな。
レベル5のスキルが3つ付いている?それだけでも・・・えぇぇいわからん。価値なんて解るか!
冒険者なら、親を殺してでも欲しがる奴がいるかも知れない。レベル5に付与している事を考えると、街領隊で使わせたら・・・無限の可能性がある。
「イサーク。これも?」
「はい。ツクモ殿の眷属である、ドリュアスが、俺たちに渡してきた物です。どうぞ好きに使ってくださいと渡されました」
「は?貸すだけでも・・・いや、盗んだ・・・違うな」
「そんな事、気にしていないと思うよ。ね」
突然、ナーシャが横から話に加わる。
3人が諦めているような表情を見せるが、納得している所から、考えると、”この程度”の物という認識なのだろうか?
騙して・・・いやダメだ、全部話を聞くまでは結論を急ぐな。
「領主様。落ち着かれましたか?次の話にはいっていいですか?」
「まだ有るのか?」
イサークと、ピムと、ガーラントが、深い溜息をついた。
「”まだ”じゃなくて、始まってもいませんよ?これは、ピムが1人で、ツクモ殿に面会した後の話で、俺たちは会っても居ないときです」
「は?」
「次にうつります」
そう言って、イサークが取り出したのは、よくあるデザインで、今、イサークが着ている物と同じデザインの服の上下だ、綺麗になっているし、かなり上等な素材を使っているのだろう。
「イサーク殿?触っていいですか?」
「えぇもちろんです」
執事が青い顔をしている。それほどのものには見えないのだが?
「・・・。ガーラント殿?」
「あぁ残念ながら本当じゃよ。お主も、あれを見たことが有ったのだな」
「はい。あれは本当に美しかった・・・」
あれ?
何のことを言っている?
「おい。何の事を言っている?」
「その前に、領主様。その服は、俺だけじゃなくて、ピムとガーラントとナーシャも、同じ素材の物を持っています。あぁ下着は、何枚か必要だろうと言われて、複数枚もらいました」
「は?複数?え?あっそう言えば、イリーガル・デス・スパイダーが居るのでしたね?」
「えぇ正式には、イリーガル・グレーター・デス・フォレスト・スパイダーです。それの亜種や、属性種が、それは沢山居ました」
今、なんと言った?
イリーガル・デス・スパイダーだけでも・・・イリーガル・グレーター・デス・フォレスト・スパイダーだと、伝説級の魔蟲ではないか?よく、此奴等生きてかえって・・・あっ!
「まさか・・・そ」
「領主様。そうです。この服は、私の鑑定では、”イリーガル・デス・フォレスト・スパイダー”の糸で作られた布だと出ています」
確か、白い布で、レベル7相当だったはず・・・違っても大差ない。この服だけで、どれだけの価値がある?
それが、人数分、下着も?意味がわからない。
「さて、次の話にうつりましょう」
「まて、イサーク。これが最後ではないのか?」
「は?まだ序の口ですよ?あぁツクモ殿から、俺たちが、ミュルダに帰ると言ったらお土産が必要でしょと言われましてね。下着になってしまいますが、領主とお孫さんのクリスティーネの下着と服も預かっています。どうされますか?」
「クリスのか?」
「はい。ナーシャがツクモ殿にお願いしたそうです。服のデザインはナーシャですので、あまり期待しないでくださいね。あっそれから、この布は、もう暫くは出さないとおっしゃっていました。すみません。俺たちが、価値に関して、いろいろ喋っちゃいまして、市場を混乱させるのはダメだろうという事で、領主様とクリス殿の分で最後になるようです」
「さっきの魔核もか?」
「どうでしょう。価値に関しては、認識されましたが、生活が便利になる物なら提供すると言っていました。でも、レベル1や2の物にするみたいですよ」
「そうか・・・」
イサークは、そう言って袋を取り出した。
こっちは、普通の袋だと笑っていたが、中身が超弩級の爆弾だとは誰も思わないだろう。
「イサークよ。これでおしまいだろうな?」
「そうですね。ピム。ガーラント。そろそろ、ツクモ殿の異常性がわかってもらえたと思うから、いいよな?」
「えぇ大丈夫だと思いますよ」「儂も依存は無いぞ!」
先程の収納袋から、大量の魔核と、大量のスキルカードが出てくる。
魔核は、大きさから、街で不足し始めている、レベル1~3程度のものだろう。数えるのも馬鹿らしくなるくらいの量だ。山になっている。スキルカードもレベル1~4程度だろうか?ざっと見た感じ、2百枚程度あるだろうか?
確かに、価値としてはそんなに高くないが、街として不足し始めている物だ。単純に嬉しい。スキルカードに関しては、数が多いが、街の穀物で支払えるだろう。魔核に関しても同じだ。備蓄してある穀物で払えるだろう。
そういう取引をしたいという事なのだろうか?
「イサークこれは?」
「カズト・ツクモ殿からの”支援”物資です」
「すまん。イサーク。儂は、疲れているかもしれん。もう一度言ってくれ、”支援”と聞こえたのじゃが?」
「えぇ”支援”物資といいました。ツクモ殿は、これだけの物を、ミュルダに無償提供すると言っているのです」
「はぁ?無償?なぜ?これだけの物を?」
いや違うな。先程のことから考えると、カズト・ツクモ殿にとっては、価値がある物と認識していないのだ。
「ねぇイサーク。まだ?」
「もうちょっとだ。待っていてくれよ」
「わかった。あっ!それから、さっき、リーリアちゃんのお姉さんから連絡が入ったよ!それも後で?」
「え?連絡って念話か?」
「うん」
「いい話か?」
「うん。すごくね!」
「そうか、それなら、最後かな?」
「わかった!」
なにやら、イサークとナーシャの会話も気になったのだが・・・。
「イサーク。それで、ツクモ殿は、なにか見返りを期待しておいでなのか?」
「どうでしょう。見返りという感じではないと思いますが・・・そろそろ、本題に入りたいのですがいいですか?」
「まだ本題じゃなかったのか?」
「えぇ残念ながら、でも、本題は、異常性はないですよ。多分」
イサークが語り出した話は、先程の話に輪をかけて信じがたいことだったが、いろいろなパーツを集めて考えると、納得するしか無い。
ツクモ殿が、獣人族を助けた。問題ない。ミュルダにとっては、良い事だ。助ける時に、アンクラムの兵とアトフィア教のほとんどを捕らえるか、殺害した。これも、別にどうでもいい。どうでもいいは間違いだな。ミュルダにとっては良い事だ。
獣人族の集落を作った?
ダンジョンに潜らせている?ダンジョンから得た物を獣人族の自由にさせている?
捕らえた教団関係者・・・司祭だろう・・・を、護衛してアンクラムに届けた?その時に、ツクモ殿配下の人間が、アンクラムに潜入した?
可愛い女の子?とてつもなく強い?治療スキル持ち?清掃スキルも?
情報が多すぎて混乱する。
しかし、アンクラムが、ミュルダへの侵攻を中止したのも、常備兵の9割の損失があったこと。教会のトップ3が全員一時的に不在だったこと。それから、先程のスキルカードのほとんどが、アンクラムの兵が持っていた物だという事だ。武装も全部解除されて、男も女も、全裸でブルーフォレストに放置されたのだと言っている。
生き残れた者も、それでは、死ぬか、精神を壊されて、兵としては使い物にはならないだろう。女には、ナイフを一本だけ渡してあるそうだが、それが同士討ちを招いたのだろう。
儂がほしかった情報が手に入った。
安全になったと宣言するには、イサークたちだけの情報では足りないが、安心できる材料には違いない。
ツクモ殿は、ミュルダの恩人に違いない。
利用しようなどと考えるよりも、もっと違う関係が結べたらと考える事ができそうだ。
/*** カスパル=アラリコ・ミュルダ・メーリヒ Side ***/
「ふぅ」
イサークたちも疲れてきているのだろう。
「おい。飲み物となにか持ってきてくれ」
扉の近くに立つメイドに頼むことにした。
「ちょっと待ったぁ!イサークいいよね?いいよね?」
「あっあぁ。すみません。領主様。そうですね。カップを、執事長とメイド長の物を入れて、2セット6人分と、大きめな皿を4つ持ってきて頂けませんか?フォークとナイフは大丈夫です」
なにか有るのだろう。ここは、イサークたちに任せる事にしよう。
「頼む。イサークたちの言う通りにしてくれ」
何故か、ナーシャがウキウキしている。
イサークたちは諦めの表情を浮かべている。ナーシャが絡む事だから、ろくでもないことになっているのだろう。
カップと皿が用意される。
「ねぇ。メイプルシロップは?」
「後だな」「あとで」「後じゃな」
何やら、ナーシャが言ったが、3人が止める。
ナーシャはそれにブツブツいいながら、自分が持っているポーチから、筒のような物を取り出す。入る大きさではない。
儂は、執事長を見るが、うなずいている。あれも収納袋・・・収納ポーチというべきなのだろう。
筒のような物には、飲み物が入っていたようだ。
黒いな?あれが飲み物なのか?ナーシャは、次に、小瓶を取り出す。真っ白だが、砂糖?なのだろう。あんな綺麗な砂糖は見たことがない。小さいカップに白い液体・・・あれは、乳なのか?わからん。ナーシャが何をしているのかわからない。
それから、皿に、パンだろうか?それにしては固く焼かれているようだもう一つの皿には、今度は違う柔らかそうなパンが置かれる。甘い匂いがこちらまで漂ってくる。次に、なにかわからない。黄色と茶色の間くらいの色で、薄く切られた物と、同じ色だふぁ、なんと表現していいかわからないが、細長い棒のようになった物が置かれて、なにかをふりかけている。最後に、焼かれたパンが置かれる。軽く焼いただけのようだが大丈夫なのか?
「ナーシャ。それは?」
「塩だよ?」
「塩?そんなわけ無いだろう?それに、そんなに無駄に」
「ほら、なめてみてよ!」
ナーシャがひとつまみ。分けてよこす。儂と執事とメイドが小指の先に付けて舐める。
塩だ。こんな白い塩が取れるのか?どうやって?
「うん。どうする?”こうちゃ”にする?”りょくちゃ”にする?」
「そうだな。”りょくちゃ”の方がいいだろう」
「うん。スッキリするしね。後でいいよね?」
「あぁその方がいいな」
どうやらこれで全部らしい。
「領主様。まずは、この黒い飲み物。ツクモ殿は、コーヒーと言っていましたが、そのまま一口飲んでみてください」
言われるがまま口に含む。
「かなり・・・いや、そうでもないな。口の中に心地よい甘さが残るな」
「そうですね。料理を選びますが、朝とかに目をさますのには、ちょうどよろしいかと思います」
執事もメイドも同じ考えのようだ。
「それでは、その白い物。あぁ砂糖ですが、これを中のスプーンで1杯。ナーシャは3杯入れますが、1杯入れてからかき混ぜて飲んでみてください」
言われたようにやってみる。
これが砂糖だというのにもびっくりするが、それを飲み物の中にいれるのか?
かき混ぜてから、一口飲んで見る、味がここまで変わるものなのか?苦味が抑えられている。
「甘みが足りなければ、もう一杯入れてみてください。その後で、そのミルクを入れてかき混ぜて飲んでみてください」
ミルク?乳のようだけど、違うのか?
「ここまで・・・」「すごい」
「これは、うまいな。甘さと苦味がちょうどよくなっておる。それだけではなく、このミルクが入るからなのか?まろやかになっている」
「良かったです。ナーシャ」
「うん!」
ナーシャが、ポーチからなにか取り出す。
1つは、黒い粉だ。多分、このコーヒーの原料だろ、豆はなんだ?黒くも無いし、白っぽい色をしている。そして、最後は、赤豆ではないか?熟して木から落ちる時でも対して甘くならないから、子供が口が寂しい時に咥える程度のものだろう?
「領主様。これはおわかりですよね?」
「あぁ赤豆だな」
「はい。ミュルダから少し行った所に自生して、子供のおやつにしかならない物。そういう認識ですよね?」
「あぁそうだ・・・まさか?!」
「そうです。その赤豆のたねの部分を乾燥させた物が、この白っぽい奴で、その白っぽい奴を”焙煎”した物をすりつぶして、できたのが、この黒い粉であるコーヒーの素です。あとは、お湯をかければ、コーヒーになります。次に」
「まだあるのか?」
「えぇナーシャ」
「うん!」
今度は、ビートではないか?
「ビートだな」
「そうです。そして、これから砂糖を作りました」
「なぁぁにぃ!!え?お前、イサーク。今、”作りました”と言ったな」
「はい。いいました。その話はまた後でお願いします。ミルクに関しては、魔物由来なので、今は省略します」
「あぁいろいろ聞きたいが、今はいい。もしかして、ここに出されているものは・・・」
そんな事が有るはずがない。
有るはずがないが、そうであったらどんなに素晴らしいことか?
「はい。全部ではありませんが、この辺りで栽培したり、自生したりしている物です」
「!!!」
「順番に説明していきます。まず、この焼き固められた物ですが、クッキーと呼んでいました。1つ食べてみてください。思った以上に柔らかくて美味しいですよ。ナーシャ。お前は、さんざん食べただろう?」
「だってぇ・・」
確かに、見た目ではもっと硬いかと思ったが、そんな事がなかった。
「ただ、残念な事に、このクッキーは、卵とバターを使うので、現状量産は難しいと思います。ただ、このクッキーは、小麦から作られています」
「!!!」
「次に、パンケーキと呼んでいますが、食べてみてください」
!!!
なんだこれは?
残っていたコーヒーを飲むとまた格別だ。
「これも、すぐには無理ですが、小麦が原材料です。一個飛ばして、パンを1つ食べてみてください。あぁ大丈夫です。手でちぎれます」
そう言われても、これは本当にパンなのか?
焼けていないのではないか?食べても大丈夫なのか?
手に取ると、指で抑えた所に、へこみが出来るくらいに柔らかい。イサークがいうように手でちぎれる。中は白い。ふわふわしている物を口にいれる。確かに、パンだが、パンではない。これは何だ!甘い。いくらでも食べられる。
「イサーク!」
「俺も、最初に食べた時には、びっくりしましたよ。でも、これ、塩と砂糖と小麦を粉にしたものと、少しなにか発酵した物を入れて焼いた物ですよ」
「なんだと?」
「最後は、ポテチとフライドポテトと呼んでいた食べ物です」
ほぉこれは、なんだか、ほっとする味だな。
止まらない。ナーシャが最後にふりかけていたのは、塩だったな。塩が振られる事で、旨さが違うのだろう。
どんどん食べてしまう。イサークの言葉が正しければ、これも、この辺りで採れるものなのだろう。だが、知らない。執事もメイドも首をかしげているから心当たりが無いのだろう。
「次は、隠し玉というか・・・なんというか・・・ナーシャ」
「うん。メイプルシロップだね、クッキーも補充するね」
「ナーシャ。お前、クッキー全部食べたな!」「だってぇ・・・」
ナーシャが小瓶をクッキーの近くに置いて、クッキーをまた取り出した。どれだけポーチに入れている。
「クッキーの味を確かめた後で、その小瓶の汁を少しだけ付けて食べてみてください。いいですか、少しですよ」
イサークに言われた通り、少しだけつける。雨粒の倍くらいの大きさが。これくらいで味が代わるわけがない。
口に放り込む。びっくりした。圧倒的な甘さ。目を見開いてしまったに違いない。
「イサーク!」
「わかっています。全部食べないで下さい。ナーシャの分が少なくなると怒るのですよ」
執事もメイドもびっくりしている。
儂も正直、わけがわからない。クッキーもそれなりに甘くてうまいが、メイプルシロップはそれを飛び越していく。
「イサーク。これもなのか?」
「はい・・・と、いうよりも、これが本命です」
「なに!」
「ナーシャ」
「はい!」
ナーシャが、ミュルダの近くの森に生えている木の葉っぱを持ち出す。
薪にするにはむかない木で何の取り柄もない。木の液がすごくて、魔蟲がよってきて困る木だ。地域によっては、伐採してしまっていると聞いている。ミュルダは、魔蟲がそれほどひどくないので、放置して、近づかないようにさせている。
全部の種明かしをさせた。
メイプルシロップにも驚いたが、悪魔の実が、あんなに美味い食べ物だったとは・・・同じように見えて、食べると死んでしまう事もあるから、領内では禁止令をだしていた。栽培もしていない。食べ方と調理方法が有ったとは・・・。
それに、小麦だけではなく、大麦にもまだまだ可能性があるという事だな。
ツクモ殿は、なぜ儂らにこんな大事な事を惜しげもなく教えてくれるのじゃ?それがわからん。
「イサーク。ツクモ殿は?」
「そう思いますよね?俺も聞きましたよ。そうしたら、スーン殿が・・・あぁツクモ殿につかえている執事ですがね。彼が答えてくれましたよ。ミュルダが穀倉地帯で、アンクラムやサラトガに商品が売れないのなら、居住区・・・獣人族が固まっている場所ですがね。居住区で買い取る事も出来る。獣人族からは、スキルカードや魔物の素材や肉を出せると思う。と、いう事なんですよ。俺としては、いいと思うのですけどね?」
考えなければならない。
そもそも、”なぜ”が解消されないと、話に乗れない。ツクモ殿に会って話を聞きたいが、これだけの事が出来る御仁だ。呼びつけるわけにはいかないだろう。
「ナーシャ。そう言えば、さっき、念話が来たとか言ってなかったか?」
「あっうん。中継されて来た話だけどね。見つかったって話だよ?」
「見つかった?」
「うん。あれだよあれ!」
「え?あれか?」
どうした?
ナーシャがなにやら見つかったと話している。あの喜びようでは、なにか重大なものなのだろう
「え?見つかったの?」
ピムが驚くような事なのか?
「ナーシャよ。それで、こちらに来られるのか?」
「うーん。ヒルマウンテンに行ってかららしいけど、早ければ5日程度だって言っているけど、10日程度見てくれってさ。それから、リーリアちゃんが、無事潜入できて、後始末が終わって、ログハウスに戻るつもりだったけど、ツクモくんがヒルマウンテンに行っちゃったから、こっちで合流するから、取り計らってほしいそうだよ?」
ツクモくん?
しかし、そんな事を気にする雰囲気ではない。
イサークがこちらを見る。
「領主様。お聞きして、想像していただけると思いますが、カズト・ツクモ殿が、ミュルダに来るそうです。最大級の土産を持って・・・」
「今までの物でも十分すぎると思うが?」
「いや、今までの物は、ミュルダの街を、領民のためのものでしょう。カズト・ツクモ殿が探していたのは、領主様カスパル=アラリコ・ミュルダ・メーリヒ様への土産です」
「それを今聞いて問題ないのか?」
「えぇいいよな?ナーシャ」
「うん。待ちきれなくなるかも知れないけど、教えておいて欲しいと言われたよ。それでもダメなら、それも考えておくって!」
「領主様。俺たちは、ツクモ殿に聞かれました、領主様が”借り”だと感じる最大の物は何だとね。皆で声を揃えて答えました」
まさか、そんな事が?
「レベル7回復」
「っつ!」
「ナーシャ間違いないよな?」
「うん。ツクモくんが、レベル7回復を持って、ミュルダに来てくれるって、それに、リーリアちゃんは、治療のスキルがあるから、先行できたら、治療だけでも受けさせておいて欲しいって言っているよ」
おぉぉぉ神よ!
こんな事が有っていいのか?
まだだ、まだ、レベル7回復を使ってくれるとは限らない。
儂は、儂は、なんとしてでも・・レベル8偽装と交換でもいい。儂に、跪けといわれるのなら、それでも構わない。なんとしてでも・・・。あの娘の為なら・・・。
/*** カズト・ツクモ Side ***/
リーリアを送り出した。
イサーク殿たちがついていってくれるとは思わなかった。道中で、リーリアの事を鍛えてくれると言っていた。確かに、スキル全開で戦えば、リーリアの方が強いだろうが、剣技の経験では、リーリアは敵わないだろう。
リーリア・・・俺たちにとっても、有意義な事だろう。
俺に対して、遠慮があった事も、リーリア相手なら言えるようだ。念話で逐次報告が上がってくる。それらに対して、許可を出していく。
スーンが、イサークたちに語ったようだが、獣人たちは、獣人たちで独立して欲しい。そのためにも、ミュルダとの交易が出来るようにしておきたい。その時に、ミュルダからの穀物や加工品が輸入出来るようになれば、不均等な状態にはならないだろう。穀物は獣人族がミュルダに依存して、ミュルダがスキルカードや魔物素材に関して、獣人族に依存する。
お互いの加工品を、ミュルダか出島(仮)で商人に販売できれば、問題が少なくなりそうだ。
俺も、せっかく異世界に来たのだから、異世界を楽しみたい。ぶっちゃけ、人の街にも行ってみたいし、他に大陸があるのなら、大陸にも行ってみたい。地球と違って、交通手段が発達していないので、一度旅に出ると、数年は帰ってこられないだろう。エントやドリュアスや魔蟲たちは、ログハウスや洞窟の住処の維持を行いながら待っていてくれるだろうが、俺に依存した状態の獣人族では放置するわけにもいかないだろう。
忠誠は貰ったが、統治したり、君臨するつもりはない。自分たちで生活出来る基盤は作るので、後は、自分たちでやって欲しい。
幸いな事に、獣人族は、俺が適当に決めた広さの場所でも広いくらいだと言っているし、そこを、俺が与えた領地だとでも思っているのか、自主的に、領地を守るような動きを見せている。
まだ、できたばかりの場所だし、これからいろいろ変わっていくだろう。
さて、俺も動くか
「カイ。ウミ。ライ。リーリアが帰ってきていないけど、ダンジョンに少し潜るか?目標60階層手前でいいのか?」
『主様。できましたら、魔蟲の属性進化した者たちが勝てる程度の深さまでは行きたいと思います』
「どのくらいが目標だ?」
『65階層くらいを目標にしたいのですが、よろしいですか?』
「いいぞ。早速行くか?スーンはどうする?」
「大主。私ではなく、フィリーネをお連れください」
「わかった。フィリーネ大丈夫か?」
「問題ありません」
「あと、エントを1体お連れください」
「構わないけど、誰がいい?」
「まだ、名前はありませんが、属性進化はできています。若い木ですが、お役に立てると思います」
「ん?この子もハーフなのか?」
スーンに連れてこられた、エントはビクッと身体を震わせる。
「いえ、少し複雑なのですが・・・」
「スーン様。俺から、ご説明していいですか?」
スーンを一歩下がらせて、話を聞くことにした。
複雑だと言っていたが、それほど複雑ではなかった・・・いや違うな、事情は複雑だが、なぜという感情が強かった。本当に、だから、宗教って嫌いなんだよな。宗教のすべてが悪いとは思わないけど、”自分の行いは、神によって承認されている”とかいう奴らを信じる事ができないだけだ。熱心に祈りを捧げる人々をないがしろにしている、一部の宗教家を名乗る扇動者は居なく慣ればいいとさえ思ってしまう。
このハーフエントは、人族のアトフィア教の実験で産まれたらしい。
以前から、魔物と人族のハーフが獣人ではないかと言われていた。そのために、魔物と人間の交配実験が行われているらしい。なぜ、そんな事をするのか?簡単な事だ、自分たちが正しいと証明するために蛮行が行われている。獣人族は、人族と同じで神が作り出した物だといい出す奴らを黙らせるために、魔物と堕落した人族が交わった結果が、獣人族だと証明して、獣人族の排除を正当化しようとしているのだ。
このハーフエントは、そんな実験のさなか産まれたようだ。奴隷になってしまった、人族の女と、捕らえられたエントの交配実験の結果偶然産まれたのだ。エントは、実験後に殺されている。ハーフエントと奴隷の女は、さきの遠征につれてこられて、ブルーフォレストで処分される所を、救った。母親は、すでに息絶えていたらしい。それで、このハーフエントは、スーンたちに保護された。
人族への恨みではなく、母親を殺した、アトフィア教への恨みが強い。人族全部が悪ではないと、母親から教え込まれたらしい。
「それで?スーン。なぜこの者を?」
「はい。大主の従者にと思いました」
「従者ならおまえたちが居るだろう?」
「いえ、私たちは、大主のお帰りを、この地でお待ちするのがお役目だと思っております。それに、私たちでは、言い難いのですが、大主との見た目でのご年齢の差が有りすぎるように思えます」
「そうだな。執事長やメイド長と言った感じになってしまうからな」
「はい。ですので、これからは、リーリアとこの者をお連れください。リーリアは気にしないとは思いますが、男性だけしか行けないような場所にもいかれるようになるかと思います。その時に、男の従者が居ないのでは困ってしまいます」
ハーフエントを見る。小学生を少し大きくした感じだ。中学生に届くか届かないくらいだ。
俺に頭を下げている状態だ。
「お前はいいのか?」
「はい。ですが、アトフィア教と対峙するような事が有った時には、俺にご命令ください”殲滅せよ”と、そのご命令をいただけるのでしたら、どのような事でもいたしたいと思います。カイ様。ウミ様。ライ様。それに、リーリア様と共に、お使えしたいと思います」
「わかった。今の所、アトフィア教の殲滅の予定はないが、手を出されたら叩き潰す。その時が来るまで、しっかり牙を磨け」
「はい」
「眷属化を行う」
「ありがとうございます」
スキルを発動する。
「お前は、オリヴィエ。オリヴィエ・ユリハルシラだ。俺のために、自分の目的のために励め!」
「ありがたき幸せ。マイマスター。俺は、今日より、マスターのために生きます。オリヴィエ・ユリハルシラ。この生命、マスターに捧げます」
// 名前:オリヴィエ・ユリハルシラ
// 種族:ハーフ・エント
// 称号:カズト・ツクモの眷属
// 固有スキル:人化
// 固有スキル:樹木
// スキル枠:---
// スキル枠:---
// 体力:H
// 魔力:I+
まずは、底上げだな。
攻撃系のスキルは、剣に付与して切り替えて使ったほうがいいだろう。せっかく、人化出来るのだし、武具を使ったほうが、効率が良さそうだ。
「カイ。オリヴィエには、お前と一緒に前に出てもらおうかと思うがどうだ?」
『はい。それがよろしいかと思います』
「レベル6魔核は何個ある?あと、体力超強化/速度超向上/攻撃力超向上辺りがいいか?半減系は、防具に、攻撃は剣につければいいよな?」
「そうですね。大主。あと、レベル6を使われるのでしたら、探索と索敵と速駆をお願いいたします。あと、念話も有ったほうがよろしいかと思います」
「そうだな。スーン準備してくれ、あと、枠も増えるだろうから、収納と治療も頼む」
程なく準備がそろった。
レベル6魔核の数は、まだ50はあるという事だ。暫くは困らないだろう。それに、ダンジョンが65階層まで進めば、取得もしやすくなるだろう。
「オリヴィエ。魔核の吸収はした事あるか?」
「ありません」
「ん?それじゃ今までどうやって?」
「食べていました。魔核の吸収や、魔物の吸収を、アトフィア教に教えたくありませんでした」
そうか、魔物が、魔核を吸収したり、魔物を吸収するのは、知らないのだが、確かに、見た目では、”食べている”や”捕食”しているとしか見えないだろうな。
「わかった。スーン。サポートしてやってくれ。俺は、魔核に、スキルを固定する」
「かしこまりました」
レベル6魔核には、スロットが3つ空いていた物も有ったはずだが、今回は、強制進化の意味合いがあるから、スロットが2つ空いている物を3つ用意した。そこに、スキルを固定していく。
準備できた魔核から、オリヴィエに吸収させる。
さすがに、連続3つは辛いのか、最後の魔核吸収後には、じっとして動かなくなってしまった。
// 名前:オリヴィエ・ユリハルシラ
// 種族:イリーガル・スカウト・ローグ・ハーフ・エント
// 称号:カズト・ツクモの眷属
// 固有スキル:人化
// 固有スキル:樹木
// 固有スキル:体力超強化
// 固有スキル:速度超向上
// 固有スキル:攻撃力超向上
// 固有スキル:探索
// 固有スキル:索敵
// 固有スキル:速駆
// スキル枠:念話
// スキル枠:収納
// スキル枠:治療
// スキル枠:---
// スキル枠:---
// スキル枠:---
// 体力:C
// 魔力:E+
相変わらず、進化や種族の法則性がわからない。
イリーガルの称号も得ているし、スカウト・・・斥候だったかな?ローグってはぐれものとかだよな?
気にしてもしょうがないか?
さて、オリヴィエも仲間に加わったし、フィリーネと合わせて、武装を整えてから、ダンジョンに向かうか?
「カイ。30階層くらいからならしていけばいいか?」
『大丈夫だと思います。僕たちも居ますからね』
「わかった。フィリーネは、食事とかも大丈夫なのか?」
「大主。大丈夫です。大主の食事を10日分くらいは持っています」
「そうか、それじゃ二人を、スーンとアルベルタで、武装を整えてやってくれ、アルベルタは、向こうに居るだろう?」
「かしこまりました。それでは、オリヴィエ殿と、フィリーネ。行きますよ」
/*** オリヴィエ・ユリハルシラ Side ***/
マスターのご命令で、今俺は武装を整えるために移動している。
この移動している時間を使って、疑問に思った事を解消しておこう。
「スーン様。1つお聞きしてよろしいですか?」
「なんでしょうか?」
「スーン様は、エルダー・エントですよね?なぜ、マスターの直臣になられないのですか?」
「私たちは、当初、大主様と敵対する行動を取りました。それを、大主様を許してくれたのです。その戒めの意味もありますし、私たちは、戦う事に特化しておりません。大主様の貴重な眷属化の枠を使う事を憚ったのです。ヌラ殿やヌル殿やゼーロ殿も同じ考えです」
「そうなのですか?それでは、俺や・・・リーリアを、直臣に推薦してくれたのですか?」
「貴方は、ハーフ・エントです。珍しいという事もありますが、大主様と私たちを繋ぐには、ふさわしい種族だとは思いませんか?リーリア殿に関しても同じです」
俺とリーリアが、マスターとエント/ドリュアスを繋ぐ?つながっていないのか?
違うのかな?何かが有るのだろう。俺にはまだわからないのかも知れない。何か、心配しているのかも知れない。何かがまだできていないのかも知れない。
わからない事は考えない。
俺は、マスターのために戦う。マスターは約束してくれた。アトフィア教殲滅の時には、俺に命令してくれると・・・俺は、命令を受ける時のために強くなる。自分のために、マスターのために・・・。そして、スーン様たちエントのために!
武器庫に着いた。
獣人族が使っている武器庫ではなく、マスターの武器が置かれている場所だ。防具も合わせて見繕ってもらうが、サイズ的に合うものが無い。身体のサイズを測って、急遽ヌラ殿たちに作ってもらう事になってしまった。
魔物由来の素材で作ってくれるらしい。その間に、しっくりする武器を選んでおく。
1つは、ショートソードを選んだ。マスターの前に立つ時には必要な装備だろう。スモールシールドもあったので、通常の戦闘の時には、ショートソードとスモールシールドで戦う事にする。持った感じがしっくり来た。
もう1つは、速度を活かした戦闘の時に使う剣として、片手で持ち、手抜きが付いている、片刃の剣を二本使う事にした。
あと、攻撃力が欲しくなった時のために、刺突と斬撃が可能な両手で持つ両刃の剣を選んだ。
さらに、何種類の剣と、短弓を持っていく事にした。
この中から自分やカイ様やウミ様やライ様との戦闘時の組み合わせを考えてみよう。
マスターのため。そして、自分のために・・・。
/*** カズト・ツクモ Side ***/
オリヴィエと、フィリーネを加えた。ダンジョン探索は、ピクニックのようになっている。
30階層程度では、俺が指示する事なく、オリヴィエが突っ込んでく、それを、ウミがサポートする。取りこぼしを、カイとライが始末する。
俺は、フィリーネと一緒に後ろで見ているだけだ。
踏破済みのダンジョンだし、下層への道もわかっているので、サクサク進む事にする。
皆には、目的のスキルカードを伝えてある”レベル7回復”だ。あと、出たら嬉しいのが、レベル8偽装とレベル8完全地図だ。
俺の予想だと、51~60階層の初踏破ボーナスで出てくると思うが、安全をみるのなら、61~69階層を回れる状態にしておいたほうがいいだろう。
魔物の吸収は、オリヴィエがメインで行っていく。
ドロップアイテムとなる。素材や肉は、ライが持っていく事にしている。
サクサク進めるのは良い事だ。
広さの確認は、魔蟲たちが行っていた。やはり、だんだん狭くなってるのは間違いないようだ。
感覚的な事だが、円錐上になっていると考えられる。
出てくるスキルカードや魔核から、100階層程度では無いかと思っていたが、このままだと、150階層くらいはありそうな雰囲気だ。途中で終わっている事も考えられるし、定番で考えると100階層だろう。
攻略も半分をすぎれば、数日掛かっていた探索が半日程度で終わるようになってくる。
55階層のフロアボスの前に来ている。
ギガントミノタウロスだ。3mを超す巨漢の癖にやたら早い。
ウミが、スキルを使って足止めをしてから、カイとオリヴィエが削っていく、そこに、ライが遠隔攻撃で支援を行う。
俺は指示を飛ばすだけだ。フィリーネは俺に結界を発動している。ダンジョンに入ってから、進化したフィリーネに頼まれて、固定化したスキルだ。
俺は安全な状況から、指示を出したり、スキルで援助する事に徹している。
流石に、フロアボスだけあって、素材は良い物が取れそうだ。
ここまで大量の魔物が入っているので、ライの収納にも入り切らなくなってきた。56階層で一度戻って、魔物を置いてきて、さらに階層を降りる事にする。
50階層は全体的にダンジョン(っぽい)ステージのようだ。オリヴィエの探索が役立つ。罠の発見も出来るスグレモノなのだ。
そのおかげで、50階層に入ってからも未知の領域でも、迷うことが少なく進む事ができている。草原なんかでも探索は出来るのだが、罠と階層転移の場所が混同してしまうので、なかなか難しいようだ。
ダンジョンステージは、マップが組み上がっていくので、草原ステージよりは楽に進む事が出来る。
戦闘は、カイとウミとライにおまかせという所だ。
ポップする魔物は、殆どが、ゴブリンやコボルトやオークといった魔物の進化した物で、属性を持っている、複数属性を持つ物も珍しくない。
スキル持ちが増えてきたのだ。魔核やスキルが確実と言っていい確率で取得できるが、レベル3~4が多い。5が稀に交じる程度だ。フロアボスも、55階層のギガントミノタウロスは当たりなのだろう。味は課題として残るが食べる事が出来るのは大きい。
51~54階層は酷かった。キングやクイーンの称号を持つゴブリンやコボルトが大量に部下を従えて待っていたのだ。
最低でもオークなら、食べる事ができたので、獣人族のお土産程度にはなったのだが、ゴブリンとコボルトでは、魔蟲の餌か、エントたちの餌にしかならない。それでも十分なのだが、素材が取れないのが悔しい。魔核もそれほど質が良くなく、スロットが無いものがほとんどだ。
「オリヴィエ。この階層も頼むな」
「はい。マイマスター」
どうやら、呼び方が、皆の中で定まっていないようだ。
大主もやっと慣れたと思ったけど、スーンたちは無理しているようだしな。俺がなれるほうがいいかな?
いいや、後回しだ。
今は、レベル7回復を探すことに専念しよう。
でも、話を聞く限り、喘息なんだよな。そうなると、レベル7回復でも、一度は完治するけど、また再発するんじゃないのかな?スキルの不思議とかで、もう二度と発症しないのかな?
『あぁぁ客人』
『スクルドか!』
『いや、ウルズです』
『それで?もしかして、俺が考えていた事を、覗いたりしていませんよね?』
『・・・そんな事・・・』
『はぁ・・・まぁいいです。それで?なにか、助言してくださるのですよね?』
『もちろんじゃ。客人の懸念事項じゃが、レベル7で回復しても、再発するぞ。もし完全に治すとしたら、レベル9完全回復に頼るしかないぞ』
『そうなのですか?でも、それでも、喘息とかだと、環境に依存しますよね?』
『あぁそれなんじゃがな。客人が勘違いしているので、訂正するための神託なのじゃよ』
『勘違い?』
『そうじゃ、レベル7回復は、スキル発動時に、回復させたい症状の回復なのじゃ』
『はぁ・・・それで?』
『だから、客人の固定化を使う事で、再発症する事は抑えられるのじゃ』
『でも、それは、再発症した時に、即座に治せるという事で、再発症を抑える効果では無いですよね?それは、レベル9完全回復でも同じでは無いのですか?』
『それが違うのじゃ。スキルの使用はその時限りで終わり。これはいいじゃろ?』
『はい』
『客人の固定化の場合には、固定化したスキルは、客人にわかりやすくいうと、固定化したスキルはパッシブスキルになる。だから、レベル7回復を固定化した場合には、同じ症状の場合には自動的に対処が行われる。これは、再発症しないと言ってもいいじゃろ?』
『まぁそうですね。もしかして、レベル9完全回復の場合には、未知の症状でも対処出来るという事ですか?』
『そうじゃ。あぁあと、気にしていた、”イリーガル”は、客人が考えている通りでほぼ間違いないぞ』
『・・・そうなると、本来着くはずでなかったスキルを付けてしまったためですか?』
『そうじゃが、気にする事はないぞ、自然界でも、突然変異種として産まれる事が多いからな』
『イリーガルは少ないと聞いていますが?』
『当然なのじゃ、イリーガルとして産まれても、育つ確率はごくわずかで、魔核にスキルが固定されるのも数億分の1程度なのじゃぞ?途中から、イリーガルに進化するのは珍しい由縁じゃ』
『そうなのですか・・・それじゃ問題は無いのですね』
『ない!客人には、スクルドも言っておった通り、好きに生きてくれればいい』
『わかりました。それから、人族や獣人族に、スキルを固定しても、イリーガルになる事はないですよね?』
『ない・・・と思う。そんな事をした者はいないからな』
『・・・わかりました。やたら実験できない事なので、どうするか考えます』
『そうか、そうしてくれ。なのじゃ』
『あぁそれから、1つ教えてください。俺の種族のヒュームとはなんですか?』
『あっ!えぇーー!すまぬ。時間じゃ。それではまたな』
あっ逃げた。
ヒュームはなにか隠されていそうだ。
「マイマスター?」
「あぁすまん。少し考え事をしていた。カイ。ウミ。ライ。問題ないから大丈夫だ。先に進もう」
56階層を進む。罠もえげつない物が増えてきているが、見つけ次第。凍らせる方法で突破している。破壊しても良かったのだ、他にどんな仕組みが有るのか調べる時間がもったいなかったので、凍らせる事で、突破している。
56階層のボスは、属性持ちのギガントミノタウロスだ。
一体ならそれほど困る事はない。オリヴィエには、両刃の剣(バスターソード?)を使うように指示した。カイとウミはそれに合わせるような攻撃を繰り出して、ライには遠距離からの攻撃の指示を出した。
5分後、ギガントミノタウロスは、ライの放った、酸弾で沈んだ。
頭部は溶けてしまっているが、身体は無事だったので、そのままライが持ち帰る事になる。
57階層・58階層・59階層と、スキルカードや魔核は手に入るが、目的のものではない。
「大主様。あっ大主」
「フィリーネ。いいよ。呼び直さなくて」
「え?よろしいのですか?」
「裏で、そう呼ばれるくらいなら、認めた方が気が楽だよ」
「申し訳ございません。でも嬉しいです。ありがとうございます」
「それで?」
「あっはい。大主様。そろそろ、お時間もかなり経っていますので、お食事にされる頃だと思いますが、このままダンジョン内でお食事の用意をいたしますか?それとも、一旦お戻りになりますか?」
「そうだね。戻るのも馬鹿らしいし、ここで食事を摂って、60階層超えたら、一旦。部屋に戻って休むか?」
「かしこまりました」
収納からテーブルを取り出している。一気に、昼下がりのピクニックになる。ダンジョンの59階層ですることではないが、フィリーネからしたら、ダンジョン踏破よりも、俺の食事や休息の方が大事ということだ。
スーンから強く言われているらしい。確かに、食事を忘れた事や、ものづくりに夢中になって睡眠を忘れそうになった事が、無いとは言わない。
食事は軽く食べる事にした。カイ。ウミ。ライ。は、倒した魔物を吸収すると言っている。フィリーネとオリヴィエは、一緒に食事をしてもらう。1人で食べるのは楽しくない。パンに葉物野菜と魔物の肉をボイルした物を挟んで、塩と胡椒で味を整えた物だ。
アプルジュースを飲み干した所で、ピクニック終了。ダンジョン攻略に戻る事になる。
60階層のフロアボスは、そのままエリアボスなのだろう。
今までのパターンで行けば・・・・
ドアを開けて中に入る。やっぱりだ
ギガントミノタウロスが5体。属性持ちだろう。それに、従うように、オークやゴブリンやコボルトが、推定50体。合計150体。それに、多分、キングの称号持ちだろう。ギガントミノタウロスよりも、二回り程度大きいミノタウロスが1体。
本当に、ゲームバランスが悪いよな。レベルアップしていないのに、いきなり強くなる。
「フィリーネ。結界を展開。俺の後ろで、結界をキープ」
「はい」
「オリヴィエ。自由に動け、先に、ギガントミノタウロスを狙え!ゴブリンとコボルトは、俺がスキルで倒す」
「イエス。マイマスター」
「カイ。自由に動け。出来る範囲で、オリヴィエのサポート!」
『はい。ボス狙って?』
「いいぞ!ウミ。俺の横で、スキルで支援。一緒にゴブリンとコボルトをやるぞ」
『うん。わかった!』
「ライ。オークを美味しく頂け!終わったら、カイとオリヴィエのサポート!」
『りょうかい!』
「よし!行くぞ!」
俺は、あえてゆっくりと歩く。前から、ゴブリンやコボルトが殺到してくる。スキル結界がどの程度の強度なのかわからないが、今の所は攻撃をふせいでいる。スキルを使いそうな奴から、倒していく。
俺の後ろから、フィリーネが余裕が有る時に、弓矢で攻撃をしている。徐々に数を減らしていく。カイとオリヴィエが無双状態になっている。ウミがスキルをかけ続けることによって、阻害される事が無いようだ。
ライは、既にオークを片付けて、ギガントミノタウロスに取り掛かっている。
キング種というべきなのか・・・動き出した。コボルトの攻撃を交わしながら、視界の端で動き出したのを確認した。
「フィリーネ。ウミ。一気に、ゴブリンたちを殲滅するぞ!」
「はい」『了解!』
「カイ。ライ。オリヴィエ。5分耐えろ。そっちに向かう」
『はい』『わかった』「それまでに倒します!」
約4分後に、最後のゴブリンを倒した所で、キングに対峙してたカイたちを見る。
ほぼ趨勢は決してた。最後の一撃は、フィリーネが放った。弓矢に付与したスキルをまとわせての一撃だ。
ゆっくりとした速度で、キング種は倒れた。
後片付けが面倒なんだよな。なんで、この世界のダンジョンでは、魔物が吸収されないのだろうな。俺は、ライが居るから楽な方だとは思うけど、それでも、面倒には違いない。
ライに収納できるだけ収納してもらう事にした。持てそうにないゴブリンは、スキルカードや魔核を回収してから、俺以外の皆が美味しく頂いた。
そして、61階層に降りた。
/*** カズト・ツクモ Side ***/
61階層は、見渡す限りの湿地帯のようだ。
これがもう少し上の階層にあったら、田んぼに開発するのだけどな。さすがに、61階層では、開発も難しそうだ。
属性付きのワニが出てくる。見た感じ、ワニモドキなので、ワニと認識しておけばいいだろう。属性も、水と風が半々という所だろうか?
さすがに、強い。ってよりも戦いにくい。湿地帯で、カイとオリヴィエの機動力が削がれてしまっている。
そのために、スキルの使用を前提に戦う事になってしまっている。湿地帯だから、凍らせて、その上で攻撃とかしているが、効率が悪い。これが暫く続くとなると気が滅入ってくる。
なんとかテンションを保っていられるのは、このワニモドキが食べられるという事実があることだ。実食はまだだが、日本に居た時に食べたワニ料理は美味しかった。それを考えると期待ができる。
空中を移動している者に対する攻撃はなさそうなので、進化済みのビーナ達を呼び出して、攻略に協力させる事にした。
逐次、ライが情報を吸い上げる。
下層に向かう魔法陣か、部屋が見つかったら、そこまで誘導させる。
約2時間後に、下層に向かう魔法陣が見つかった。
フロアボスは存在しないようだ。
そのまま、62階層に向かう。多分、この湿地帯フロアは、69階層まで続いているのだろう。
さっさと踏破してしまうほうがいいかも知れない。フロア自体が、上層と比べてかなり狭い。そのために、魔法陣を見つけるのがそれほど手間ではない。戦闘が面倒なだけだ。それも、慣れてくると、楽とは言わないが、倒し方がわかってきた。
スパイダーの糸を紐状にした物を使って、ワニモドキを絡め取る。その後ですぐに、口を縛ってしまえば、後はトドメをさすだけの簡単な”お仕事”になる。スキルに関しては、ワニモドキも詠唱するのかわからないが、口を塞げば、スキルを使用してこない。
「フィリーネ。次、アリゲーターが出た時には、弓矢で口の中を狙ってくれ」
「かしこまりました」
これで、スキルが利用できなくなったら、ワニモドキに関しては、問題は少なくなる。
10回の遭遇で、27匹のワニモドキを倒した。フィリーネが口の中を攻撃できたのは、3匹で、3匹とも、矢が刺さったままでは、スキルを使ってこなかった。何らかの方法で、これでわかったのは、魔物も何らかの方法で、詠唱しているのだろう。
63階層に来ると、ワニモドキがトカゲモドキを従えて出てくる。
トカゲと言っても、コモドドラゴンくらいの大きさがあるので、ワニと遜色ない大きさだ。ワニモドキの方も、一回り大きい奴が交じるようになってきている。倒し方は変わらないので、サクサク進む。
64階層も湿地帯が広がっている。
「カイ。どうしたらいいと思う?セーフエリアはなさそうだよな?」
『はい。無いと思います。一気に駆け抜けますか?』
カイとしては、さっさと深い階層に行きたいのだろう。
「フィリーネ。時間はまだ大丈夫なのか?」
「もう、そろそろ、一旦おやすみして頂きたいです」
もうかなりの時間潜っているからな。
「わかった、今日は、この階層を抜けたら終わりにしよう」
「マスター!明日は?」
オリヴィエは、まだ戦いたいのだろうか?
「そうだな。帰ってから、スキルカードの確認をしてからだな」
最低限の目標を達成できた。
でも、まだレベル7回復は、俺の手元には来ていない。
レベル7即死やレベル7地図は複数枚取得できている。レベル7詠唱破棄なんてスキルも取得した。
「ライ。この辺りだと、魔蟲は少し厳しいよな?」
『うん。でも、でも、スパイダーが、糸で絡めて、アントとビーナで攻撃を行う事で対応は出来る・・・かな?』
「安全マージンを考えると、どのくらいが必要になる?」
『初代がいれば安全かな。僕も一緒なら、ほぼ無傷で倒せると思う』
「どうしよう・・・まずは、この階層を踏破してから考えるか?」
『はい』
ライが初代と呼ぶのは、最初に進化した5匹の事を言っている。
スキル付きの魔核を吸収させて、”イリーガル”に進化している。60階層を超えた辺りから、”イリーガル”でないと無理なのかも知れない。それも、一体ではなくて、複数での連携を取っての対応になるのだろう。
相性の問題も有るだろうが、安全マージンという意味では、相性を気にしないで倒せるくらいで考えておかないとダメだろう。
『あるじ。魔法陣が見つかった』
「わかった、案内頼む」
うん。徐々にだけど、やっぱり狭くなっているのだろうな。
探す時間が短くなってきている。
この階層も、フロアボスは存在していないようだ。
周りに、ワニとトカゲが居るけど、気にしないで、階層を降りよう。
65階層に降りた。
踏破ボーナスのスキルが手に入った。
!!!
レベル7回復が2枚とレベル8偽装がある。
やっとだ。やっと偽装が手に入った。これで、街に行っても大丈夫なように偽装しよう。
早速帰って実験だな。
「よし。帰るか」
洞窟に戻った。
スーンが待っていた。
「大主様。リーリアから、連絡が入りました」
もう”大主様”の情報は回ったようだ。嬉しそうにしているので、もう戻せないだろうな。
「そうか?なにか、問題でも発生したか?」
「いえ、当初の予定通りに、教会が保持していた、書類やスキルカードや素材になりそうな物。あと、書籍と地図を確保したと連絡が入りました」
「お!地図が手に入ったのは想定外だな。まだ、リーリアは、街の中に居るよな?」
「はい」
「魔核を全部、スキルカードに変えてもいい。教会のスキルカードは珍しい物を除いて、全部使っていいから、街の書籍や武器/防具や食料を買い占めさせろ」
「はっどちらを優先しますか?」
「そうだな。書籍が優先だな。武器や防具は、研究用だな。食料は、ミュルダに売るくらいしか役に立たないけど、書籍は情報になるからな。あと、獣人族が隷属化されているようなら、解除してしまえ!」
「かしこまりました。それから、人族の憎悪を煽ったようですが、よろしいですか?」
「ん?俺たちの存在や、獣人族に憎悪が向かなければ問題ない」
「それでしたら、問題ありません。あの司祭とか言う奴に憎悪が集中しているようです」
「そうか、それだと、リーリアがいつまでも教会預かりになるのはまずいか?」
「大丈夫だと思います。領主の爆発も近いですので、リーリアに買い占めを行わせます。その後はどういたしましょうか?」
「そうだな。レベル7回復も見つかったから、俺たちは、この後、ヒルマウンテンに向かう。リーリアは、ミュルダに向かわせろ、たしか1人、念話持ちがいたよな?そいつに連絡してみろ、無理なら俺が行くまで、ミュルダの近くで待機させろ」
「かしこまりました」
リーリアの件はこれで大丈夫だろう。
「スーン。もし、念話が通じるようなら、レベル7回復が見つかったと連絡を入れておいてくれ、そうしたら、ミュルダの領主は俺に会う理由が出来るだろう?」
「わかりました」
「どうした?なにかあるのか?」
「いえ、どのくらいと伝えればよろしいですか?」
「そうだな。4~5日だろうけど、安全を見るなら、10日だな」
「かしこまりました」
ふぅ次は、素材で、食べられる物は、倉庫にしまって、一部は、獣人族に渡せばいいかな?
「ライ。眷属たちの食べ物は足りているか?」
『大丈夫です!でも、60階層以降の魔物があれば進化すると思う!』
「わかった。それじゃ今回の魔物は、眷属たちに渡してくれ、魔核はいつもどおりにするからな」
『はい!』
「カイとウミもいいよな?」
『もちろんです』『うん。大丈夫!』
「スーン。悪いな。エントとドリュアスはその次な」
「いえ、大丈夫です。まずは、ヌラ殿、ゼーロ殿、ヌル殿たちが安全に下層ダンジョンに入られるようになれば、我らも進化が期待できます」
さて、レベル7回復が二枚新たに手に入ったし、やっと”レベル8偽装”が手に入ったからな。
まずは、偽装だな
// レベル8 偽装
// 種族名/称号/スキル/体力/魔力を偽装/隠蔽ができる
// レベル6鑑定では見破れない。
// 触りながら
俺がやりたい事が出来る。
まずは、俺に固定化だな。
// 固有スキル:固定化(レベル6)
// 固有スキル:眷属化(レベル2)
// 固有スキル:創造(レベル2)
// スキル枠:鑑定
// スキル枠:念話
// スキル枠:呼子
// スキル枠:偽装
// スキル枠:----
// スキル枠:----
// スキル枠:----
// スキル枠:----
// スキル枠:----
// 体力:G
// 魔力:A-
まずは、偽装を固定化だな。回復は、レベル9完全回復まで待つか?
称号を、客人から”なし”と書き換えておこう。街に出た時に、人族を見て、種族と称号の変更を行う。後は、魔力を、C+くらいにしておこう。隠蔽も出来るようだから、固定化と創造と念話と呼子と偽装は隠蔽だな。
スッキリした!
名前:カズト・ツクモ
性別:男
種族:人族
称号:なし
固有スキル:眷属化
固有スキル:鑑定
体力:G
魔力:C+
うん。見栄えも良くなった。
カイとウミとライも整理する。特に、種族名を、”フォレスト・キャット”と”フォレスト・スライム”に変更しておく、オリヴィエは、本人の希望もあって、種族は隠蔽する事になった。
称号は、俺のわがままを通して、
カイとウミに関しては、”カズト・ツクモのペット”にした。意味はない。なんとなく、その方が可愛いからだ!
ライは、倉庫番にした。これも意味はない。オリヴィエは、”カズト・ツクモの従者”とした。
さて、ヒルマウンテンの竜族を目指す事になるが、さすがに今日ではなく、あすの朝に向かう事になる。
道案内に、ライの眷属が出てくれるが、黒狼族との面通しに、白狼族の族長がついてくる事になった。
高速移動の方法もなにか考えないとな。
今日は、風呂入って寝よう!
/*** ??? Side ***/
(クソぉ!なんで私がこんな目に、合わなければならない!)
男は、ボロボロになっているとはいえ、法衣をまとっている。
聖職者なのであろう。しかし、法衣は、汗や血や排泄物で汚れて、見る影もない。
連れている従者たちも疲れ切っている。
それもそのはず、彼らは、ブルーフォレスト遠征(獣人族狩り)にでかけた者たちだが、得体の知れない魔物に味方が襲われたと解った瞬間に、逃げ出したのだ。アンクラムには帰られない。
司祭を見捨てて逃げ出したのだ。後方に控えていた、補給部隊を攻撃して、物資や馬車を奪って居るのだ。
実際には、アンクラムに、その事は伝わっていないのだが、かれらは、自分たちの正当性を、アンクラムの教会ではなく、アトフィア教の総本山に出向く事で証明する方法を選んだ。
(総本山にたどりつけさすれば、なんとかなる!野蛮な獣人族が大量に居る街なぞすぐに駆逐してくれる。私にこんな惨めな思いをさせたのだ、それそれ相応の報いをうけさせてやる)
逃げなければ、殺されるか、のたれ死んでいたか、よくても、リーリアの操作をうけていた事になる。
そう考えると、生きているだけで良かったのかも知れないが、彼が、その事実を知ることはない。
彼は、生きている事を喜んで神に感謝すべきだった。
彼がすべき事は、このまま何もせずに、生きることだったのかも知れない。
しかし、彼は総本山にたどり着けさえすれば、教皇への面談ができてしまう身分なのだ。
そして、現教皇は、彼の事をよく知っている人物だ。彼を、アンクラムに派遣するのを決めたのも、教皇だったのだ。そして、アンクラムで、数年過ごしてから、本部に呼び戻して、枢機卿の1人に名前を連ねさせるつもりでいたのだ。
彼は、ただひたすら、総本山を目指して、従者たちに命令を飛ばすのだった。