「マスター。マスター」

 もう起きる時間か?
 シロは、起きているようだ。寝るときに感じていた暖かさがない。

「オリヴィエ。皆、起きているのか?」
「はい」

 律儀に馬車の外から話しかけてくれている。

「そうか、悪かったな」
「いえ、お休みの所申し訳ありません」
「いや、問題ない。それよりも、何か有ったのか?」

『我が主よ』
「オリヴィエ。すまん。少しペネムがなにかあるようだ」
「はい」

『なんだよ。急に、何か有ったのか?それに、我が主ってなんだよ?』
『ダメなのか?』
『別に呼び方なんて何でもいいけど、それよりも何か有ったのか?』
『そうであった。何度か対峙していた、黒い珠が有っただろう?』
『あぁ階層主と一緒に出てきた奴な』
『我が主よ。勘違いなんじゃよ』

 言葉遣いが試行錯誤している状態なのか?
 安定しないやつだな。威厳を持ちたいのか、それとも、いろんな奴と話して、ごちゃまぜになってしまったのか?

『勘違い?』
『あの黒い珠が階層主なのじゃよ』
『え?』
『我も知らなかったが、20階層のときに、エリン殿が破壊した後で魔物の動きが変わっただろう?』
『そうか?感じなかったけどな?』

 ペネムの説明では、黒い珠が階層主で、あれがスタンピード(モドキ)を引き起こしているのではないかと予測されている。
 階層主との戦いの時に、観察していたペネムが言うには、黒い珠を壊すまでは、魔物は統率されていたのだが、壊された途端に、統率が崩れたという事だ。

 黒い珠が何者かわからないのだが、仮称としてイミテーション・コアと名付けておこう。
 ペネムには作る事ができない魔物?だという事だ。

『わかった。30階層の階層主との戦いのときに注意してみるよ』

 ペネムの情報は、魔の森で発生している問題の核心じゃないのか?

「オリヴィエ。それで何か有ったのか?」

 着替えを終わらせて、馬車を出る。

「マスター。ペネム支配下の外側に魔物が溢れています。このまま解除すれば、後方から魔物に襲われる可能性があります」

 ダンジョン・コアが回復をおこなったのか、それともペネムからの報告にあったイミテーション・コアから魔物が溢れ出したのか?
 このまま解除して、ボス戦に入ってもいいが、ボス部屋に入られなかった者たち戦う事を考慮すると、対処しておいたほうがいいだろう。

「食事をしてから、対応だな」
「はい」

 皆を見ると、完全武装している。魔物の対処が先だと思って、武装を整えていたのだな。
 それにしても厄介なダンジョンだな。俺達じゃなければ攻略は難しいだろうな。これで出てくる魔物がもう少し美味しければ残しておいても良かったのだけどな。ゴブリンとオークとオーガとその上位種だけだからな。
 イミテーション・コアの作成方法?をペネムが習得できれば、ペネムダンジョンが面白く改造できるとは思うけど、難しいのだろう。
 ”ナイトメア”モードでも作って、永遠と魔物と戦い続けるようなダンジョンがあっても面白いとは思うけど、死者が大量に出そうだから決められた者しか行けないようにする必要はあるな。

「カイ。ウミ。エリンとオリヴィエ。後方の魔物を頼む」
「はい!」
「かしこまりました」

 カイとウミからも了承が伝えられる。

「マスター」
「解っているよ。後方が落ち着くまで、階層主の部屋には入らないよ」
「お願いします」

 エリンはすぐにでも後方の魔物の退治を行いたいようだ。

 食事を軽くしてから、ペネムに支配領域の解除を行わせた。
 解除しなくても良かったのだが、1ヶ所にまとまっているよりも、少しでもバラけたほうが戦いやすいだろうという判断だ。

 カイとウミとエリンには、必要がない気遣いだったようだ。

 どのくらいの魔物が居たのかわからないが、20分くらいしてから戻ってきた。
 戻ってきたオリヴィエに状況を確認したが、黒い珠(イミテーション・コア)はなかったようだ。もしかしたら、もっと先に存在しているのかもしれないが、見つからないものはしょうがない。

 気を取り直して、階層主に挑む事にする。
 30階層の階層主は、オーガと上位種になってくるのだろう。問題は数だが、今までと同じ程度なら大丈夫だろう。

 前回の約束通り
 エリンとウミ。俺とシロ。オリヴィエとステファナが入る事になったのだが、オリヴィエが連続になるために、代わりにライを入れる事になった。

 作戦は同じでいいだろう。
 エリンとウミが後方に回って、黒い珠(イミテーション・コア)を破壊すると同時に上位種を倒す。
 それまで、俺とシロとライとステファナがオーガの通常種を倒す。

 淡い期待を持っていたが、6人(?)が入った時点で扉がしまった。ライも一人と数えるらしい。

 部屋に入られなかった者には、後方の警戒を頼んでいる。
 カイが居るから大丈夫だろうと思いたい。

「ウミ。エリン。頼む」
「うん!」
『うん』

 ウミとエリンは、襲ってくるオーガの後方に有るであろう黒い珠(イミテーション・コア)の破壊を行う。
 オーガは目の前に居るだけでも、200を越えそうな勢いだ。黒い珠(イミテーション・コア)の破壊が遅くなればなるほど、オーガの数が増えていくのだろう。上位種の出現は最初だけでそれ以降は通常種だけのようだ。

「ライ。ステファナを頼む」
『はぁーい』

「ステファナは、ライと一緒に居て、シロに補助スキルをかけろ」
「はい!」

「シロ!」
「はい。カズトさんのフォローをします」
「頼む」

 前回は、線で支えたのだが、今回は点で支える。ライが前線に出れば大丈夫だろうとは思うが、少し、オーガ達を観察していたいので、今回は点で支える事にした。

 上位種の一体が倒れた。
 続いてすぐにもう一体も倒れた。

「パパ。黒い珠壊すよ!」

 エリンには、壊す前に声をかけるように指示を出している。しっかり覚えていてくれたようだ。

「わかった。頼む!」

 オーガ達のうめき声や挑発しているであろう声を上回るように大きな声で、エリンに伝える。

「わかった!せーの!」

「壊した!」

 確かに壊した直後に一瞬動きが止まった。
 動きが止まったのだが、それ以外の違いを見つける事ができない。

 相変わらず、手に持った武器を振り回すだけの攻撃だ。
 ペネムダンジョンやチアルダンジョンに出てくるオーガの方がまだ知性的だと思う。

「シロ。ステファナ。何か気がついたか?」

 2人には、階層主の部屋にはいる前に、ペネムの仮説を話してある。

「何も」

 やはりシロはダメか。
 結構脳筋の所があるからな。あまり期待はしていなかったのだ、やはり想像通りだったわけだな。

「旦那様!」
「どうした?」
「はい。一部のオーガですが、逃げる動作をしました」
「どういう事だ。後で聞かせてくれ」
「かしこまりました」

 流石に、戦闘中に詳細に話を聞くわけには行かない。
 ”逃げる”動作と言ったな。回避行動の事か?

 ステファナの言葉を聞いて、観察する様にしてみた。気が付かないレベルだけど、防御を行うようにはなっている。元々、オーガが究極の脳筋のために、防御を取らない。かなり注意して観察しないと、わからないレベルだが、武器でこちらの攻撃を防ごうとする個体を確認できる。
 個体差が出てきているという事は、やはり黒い珠(イミテーション・コア)が支配して、破壊されたら通常の魔物の様になるという事でいいのか?

 戦闘は、挟撃される形になったオーガが数を減らしていく。
 数が減ってきて、俺達にも余裕が産まれてきたので、ステファナとライも前線に立ってもらって、線での防御に切り替える。

 ステファナには負担かもしれないが、俺が感じた事を伝えた。同じ様に感じたようだ。

 包囲網が狭まってきたので、エリンと俺とシロで三角形の陣形を作って、オーガを追い詰める。
 討ちもらしたオーガは、ウミとライとステファナに掃除をしてもらう。

 最後まで残っていたオーガの攻撃をシロが剣で受け流して、体制を崩したオーガの首をエリンが跳ね飛ばして、戦闘が終わった。

 数秒後に、扉が開いた。

 中に入られなかった者たちと合流して話を聞いたが、魔物が現れる事はなかったと言うことだ。

『我が主』
『なんだよ?』
『・・・。我にだけ何故か冷たく感じるのですが?』
『気にするな。お前の勘違いだ』
『わかりました・・・。それで、我が主』
『だから、なんだよ』
『はい。黒い珠。イミテーション・コアですが、魔物では無いようです』
『どういう事だよ?』
『我が主にわかりやすいように言えば、”()()()()()”です』

 スキル道具?
 ダンジョンコアの一部の権能を付けた道具というわけか?

 確かに、それなら・・・でも、どうやって・・・そうか、ここはダンジョンの中だ。

『ペネム。スキル道具ならお前は作る事ができるのか?』
『無理です』
『だろうな。でも、俺がお前の権能を奪って、魔核に付与できればいいわけだな』
『はい。そうなります』
『帰ったらやってみよう。それをダンジョン内に配置して、あとはお前が魔力を流すか、近くで誰かが魔力を流せば発動するという事だな』
『だと思います。自立型かどうかはわかりませんが、概ねあっていると思います』

 よし、モンスターハウスの目処がたった!作ってみたい罠の一つだったのだよな。
 魔物をもっと自由に配置できるようになれば、難易度調整も楽にできる。

 夢が広がる!
 なんとしても、ティリノ・ダンジョンを攻略して、ペネムよりも優秀なダンジョン・コアを配下におさめたい。

『我が主。何か、寒気が・・・』

 31階層に向かう階段を降りながら、今後の楽しみに関して考えをまとめていた。

 面白味がないが、31階層からも地図に書かれてるのと同じようだ。
 この階層は、ゴブリンの上位種が出てくる事になっている。積極的に倒していく事にする。上位種なら、スキルカードや魔核も多少拾う意味が出てくる。今の所、収支は完全に赤字なのだが、この辺りからバランスをとっていけばいいだろう。赤字解消はできないだろうが、命の安全を考えれば、せっかく持っているスキルは使ったほうがいい。

 ようするに、積極的に上位種が出てくる魔物を倒していく事にする。

 分岐点は最初だけだが、全部を踏破する事にした。
 下の階層にまで繋がっている”ハズレ道”は同一階層は探索して、下階層には出ないで戻る事にする。ペネムが説明してくれた、『魔物は階層を越えられない』を、信じたわけではないが、後方を襲われるリスクは階層だけを踏破していれば概ね回避できるだろうという判断だ。

 上位種と言ってもゴブリンだ。
 ここまで来ている俺っちの足止め程度にかならない。階層をなんなく踏破できている。

 進む距離が伸びているので相対的に時間は掛かってしまっているが、なんとか階層主の部屋までたどり着いた。
 今日はここで休んで、明日、突入する事にした。

 後方が安全だと判断できた事から、突入は、
 エリンとオリヴィエ、俺とシロ、カイとウミとする。ステファナとレイニーとライとリーリアは、今回はお休みとなる。
 次は、オリヴィエとリーリアが入れ替わるだけだ。

 翌日、予定通りに40階層を抜けた。
 やはり黒い珠(イミテーション・コア)が存在していて、上位種を生み出してきた。
 指揮個体なのだろうか、進化個体が5体出てきていた。進化は、色付き進化のようだ。

 ブルー・ゴブリン/レッド・ゴブリン/イエロー・ゴブリン/グリーン・ゴブリン/ホワイト・ゴブリンだった。
 ブルー・ゴブリンは水と氷のスキルを使ってきた。
 レッドは、火のスキルだ。イエローは、岩のスキルを使って、グリーンは、風のスキルを使ってくる。
 厄介だったのが、ホワイトで、補助スキルと治療や低下系のスキルを使ってきた。

 一度、エリンが速度低下のスキルを受けてしまった。
 すぐに、ウミが解除したので、問題にはならなかったが、やはり進化個体は手強い。上位種も、100体も集まると流石に脅威だったが、黒い珠(イミテーション・コア)を壊さなければ、防御や回避行動を取らないので、壊すのを極力遅らせる事にした。
 上位種でも、攻撃が単調なら恐れる事はない。進化個体の討伐が終わるまで、数が増えてしまっても対処できるだろう。

 エリンがホワイト・ゴブリンを倒して、進化個体が全部倒された事を確認した。

「エリン。黒い珠(イミテーション・コア)を壊せ」
「うん!」

 ゴブリンの上位種はこのときには150体ほどまで増えていたのだが、問題にならない。
 黒い珠(イミテーション・コア)を壊して、もう増えてこない事を確認して、一斉に倒していく。

 倒し方は、オーガの時と同じだ。
 最初は点で戦いつつ数が減ってきたら線にして、最後は囲んで倒す。

 どのくらい戦っていたのかはわからないが、30階層までとは明らかに戦闘時間が伸びている。
 伸びているが倒せない魔物ではない。

 最後のゴブリン・アーチャーが倒れて戦闘が終了した。

 数は、200を少し超えるくらいだろうか?
 ライに処理を任せる。流石に疲れたので、カイとウミとライの吸収が終わるまで小休憩をする事にした。

 下層になってきて魔物も上位種になっているので、さすがに一日で階層主の部屋まで行けそうにない。途中で、一回休んでから向かったほうがいいだろうな。
 結局、47階層で一泊してから、50階層の階層主にアタックした。

 オークの上位種と進化個体が相手だ。
 同じ様に、ブルー/レッド/イエロー/グリーン/ホワイトだったのだが、ホワイトは防御系のスキルを多用してきたレベル6物理攻撃半減やスキル攻撃半減だ。こちらに向けての状態異常系の攻撃も多くなっていた。今度は、最初から警戒していたので、レジストする事も結界での防御も上手くできた。

 戦闘時間は確実に伸びていた。
 先に進む事も考えたのだが、戦闘時間や疲労から、51階層に出た所で、今日は休む事にした。
 明日、60階層の階層主の手前まで行ければいいだろう。

 オーガの上位種と進化個体だとしたら、万全の体制で挑む必要があるだろう。

 あと、3日程度でダンジョンコアに会うことができそうだな。
 明日、60階層まで行って、翌々日に60階層の階層主を踏破。61階層に入った所で一泊してから、ラスボス戦!って感じだろう。

 ゲームならセーブポイントを作っておく所だろうな。現実だから、そんな事ができない。
 だからこそ、体力だけではなく、気力も充実させる必要もある。

 そりゃぁすんなり踏破とは行かないよな。
 60階層のオーガの上位種と進化体を相手に戦った。

 戦い事態はそれほど困難ではなかったのだが、数が多かった。
 正確には、数が多くなってしまった。オーガの進化体が手ごわかった。ウミとエリンが対応したのだが、元々力が強いオーガが固有スキルを持つのだ厄介になるのは当然だろう。
 ウミとエリンで進化体を相手にしている間に、俺たちは上位種を倒していたのだが、黒い珠(イミテーション・コア)から上位種が産まれ続けていた。
 200を超えた辺りで数えるのが馬鹿らしく思えてしまった。最終的には、300以上になったのは間違いなさそうだ。

 死闘ではなかったが、数の暴力という言葉を思い出すには十分な圧力を感じた。

 死体の吸収を終えて、最終階層に降りる事にした、61階層に降りていきなり戦闘になる事も予測していたが、大丈夫だった事もあり、当初の予定通り、61階層に降りてすぐの場所で休む事にした。

『ペネム、どうだ?』
『我が主よ。広く確保するのは無理な様だ』
『全く出来ないわけじゃないのだな』
『うむ。この部屋くらいが精一杯じゃな』
『十分だ。それで頼む』

 休む場所として、ペネムに支配領域の作成を頼んだら、今までのように広げる事が出来ないと言われた。
 それで、どの程度ならできるのかを聞いた結果、この部屋くらいまでが限界という事だ。休むだけだし、馬車が出せれば問題ない。書類を信じれば、降りた場所は一種のセーフエリアになっている。結界だけでも大丈夫だとは思うが万が一のために、ペネムに支配領域を作ってもらうことにしたのだ。

『我が主よ。支配領域の作成ができました。草原にしなくてよいのか?』
『あぁ今回はこの広さだしな。少しだけ明るくするだけで十分だ』
『わかりました』

 ペネムは俺の指示に従って、ダンジョンの明るさだけを調整した。

「マスター。お食事はどうしましょうか?まだ時間が早いように思えます」
「そうだな。もう少ししたら軽い食事にしよう。あとは、各々身体を休めるように」
「かしこまりました」

 オリヴィエが何か言いたい様子だ

「どうした?何かあるのか?」
「いえ、湯浴みはどうされますか?」
「そうだな。面倒でなければ頼む」
「かしこまりました。リーリアと作成します」
「それほど広くなくてもいいからな」
「はい」

 オリヴィエが、リーリアの所に走り寄ってなにやら話している。
 リーリアは、食事の支度を始めようとしていたのを一旦やめて、湯浴み・・・浴槽を作る事にしたようだ。食事は、ステファナとレイニーが作る事になったようだ。
 指示されている所を見ると、ホットドッグもどきの様だ。軽いし丁度いいだろう。ガッツリ食べたくなったら、数を食べればいいだけだけだし、調整がしやすいのだろう。ステファナがホットドッグの仕上げをしている横で、レイニーがスープを作り始めている。
 ダンジョンの中で気温の変化はさほど無いのだが、疲れた身体には温かいスープはありがたい。

 疲れたわけでは無いのだろうが、やる事が無いので、カイとウミとライとエリンは1ヶ所にまとまって寝てしまっている。
 食事になれば起き出すだろうし、今はそっとしておく事にしよう。

「カズトさん」
「手入れは終わったのか?」
「はい。カズトさんから貰った剣は殆ど手入れが必要ないのですが、確認だけはしておきました」
「ありがとうな」
「いえ、つ、妻として当然の事です!」

 ”フンス”とでも表現した方がいいのか?
 かなり気合を入れて手入れをしてくれたようだ。
 言葉では大した事はしていない様に話しているが、皆が野営の準備を始めたときに、やることがないと言ってきた時とは比べ物にならないくらいに気合が入っている。

「そうか、俺は、いい奥さんを得たのだな」
「え・・・。あっうん。カズトさん」

 照れるのなら言わなければいいのに、照れている顔が可愛いから許すけど・・・。

「シロ。風呂が出来たようだから、一緒に入るか?」
「はい!」

 そっちは照れないのだよな。
 シロが照れる基準がわからない。

「マスター。準備が出来ました」
「ありがとう」
「奥様が先でお願いします」
「わかった。シロ。先に入ってくれ」
「はい」

 同じく、食事の準備を終えた、ステファナとレイニーがシロを脱がして、風呂に入れるようだ。
 身体を洗うのを手伝うのだろう。シロが自分でできると言っても、2人は自分たちの特権だと言わんばかりに、それだけは譲らない。

 シロが先に入るのは、ステファナとレイニーも全裸になって入るための配慮なのだろう。
 2人とも、俺に裸を見られるのは抵抗無いようだが、シロが少しだけ嫌がったので、先に入るようにさせたようだ。

「オリヴィエ。悪いな」
「いえ、ステファナとレイニーから相談されましたので、マスターにはご不快かと思いますがご容赦ください」
「いや別にかまわない。それに、シロが順番を決めたような感じだからな、俺としてはそれに従うだけだ」
「はい」
「そうだ、オリヴィエ。明日は、最終戦になるだろうから、スキルカードの調整を行うぞ」
「かしこまりました。マスター。リーリアと一緒にやっておきますか?」
「そうか、任せていいか?」
「もちろんでございます」
「わかった。それじゃ、俺が預かったスキルカードだけ渡しておく、ウミとリーリアと話しをして分配を決めてくれ」
「はい」

 オリヴィエとリーリアならしっかりやってくれるだろう。
 最終確認は必要にはなるだろうが、全面的に任せるのもいいだろう。今回の探索で一番の収穫はもしかしたら、オリヴィエの成長なのかもしれない。先回りして準備しておくのはまだ出来ていないが、俺の意図した事を汲み取って動いてくれている。スーンが全体を見てくれている状態で、オリヴィエが俺の周りの事を片付けてくれれば、だいぶ楽になるのは間違いない。

「マスター」
「あぁもう大丈夫なのか?」
「そのようです。出られましたら、すぐお休みになりますか?」
「そのつもりだ」
「かしこまりました」

 一礼してから、ライの所に移動した。
 休むと言っただけで、馬車を用意して寝具の準備をしてくれるのだろう。

 風呂から出たらすぐにでも休めるようにしてくれるようだ。

 浴室に向かうと、満足した顔のステファナとすれ違った。レイニーは少し疲れているのが印象的だ。

「そうだ。レイニー」
「はっはい」

 そんなに身構えなくてもいいのにな

「ダンジョンから出て、ログハウスに戻ったら、カイとウミを風呂に入れてくれ、遠征で汚れているだろうからな」
「はい!でも、よろしいのですか?」
「ん?なんで?」
「私が、その、カイ様とウミ様に、あの・・・」
「俺から、カイとウミには言っておくから大丈夫だ。それに、ブラッシングとかはさせてくれるのだろう?」
「はい!」
「それなら、その延長で風呂に入れてしっかり洗わせてくれるだろう」
「はい!承ります」

 ステファナが少しだけ羨ましそうな顔をする。

「ステファナ。ログハウスに戻ったら、スーンを交えて、新しいスキルの実験の相談をするから、お前も参加するか?」
「よろしいのですか?」
「興味が有るのだろう?」
「はい。でも・・・」

 ステファナは、最初こそ戸惑っていたが、スキルカードを上手く使いこなす事ができるようだ。
 湯水のようにとはいいすぎかもしれないがスキルカードの利用に制限を設けていないので、戦闘時にいろいろ工夫しながらスキルカードを使っているのは解っていた。
 俺とスーンが進めている実験に関しても、興味を持っているようだ。
 実験区は少し特殊なので、あそこに入れるのかは別問題だが、スキルカードの使い方の実験をしている場所はスキル道具の工房なんかは入っても問題ないだろう。

 シロが待っているだろう。風呂に急ぐ。ステファナとレイニーと少しだけだけど話し込んでしまった。

「シロ、入るぞ?」
「はい!」

 なんでこの娘は風呂になると大胆になるのかわからない。
 今も、全裸でこちらを向いている。全部見えている。体毛も綺麗にしたようだ。

「カズトさん。今日は、僕が洗います。いいですよね?」
「そうだな。任せる」
「はい!」

 嬉しそうにしているので、全部任せる事にした。
 一通り身体を洗ってもらってから、湯船に身体を預ける。シロも、再度湯で身体を洗い流してから湯船に入ってくる。

「なぁシロ」
「なんでしょう?」
「ごめんな」
「??」

 そんなに首を傾げなくてもいいのに、計算なのか?
 可愛く見せるための計算なのか?

 違うのは解っている。シロは本当に自分の容姿が可愛いと思っていない。
 エリンやクリスの事を可愛いと感じているようだ。

「正式な結婚を先延ばしにしてしまっているからな」
「あっ・・・。大丈夫です。こうして、一緒に入られます」
「そうだな。それでもな」
「大丈夫です。僕は、いつでも、カズトさんのお考えに従います」
「そうか、タイミング的には落ち着いてからとは思っている。チアルダンジョンを攻略してからになるとはおもうがいいよな」
「はい!もちろん、僕もチアルダンジョンには一緒に行きます。足手まといになるかもしれないのだけど」

 シロが申し訳なさそうに言葉少なげに不安な真情を吐露する。

「大丈夫だ。シロ。十分()()になっているぞ?」
「え?そんな事ないと思いますが?」
「本当にそう思うか?」
「御免なさい。嘘です。でも、カズトさんやエリンちゃんを見ていると、僕はまだまだだと思えてしまって」
「そりゃぁ下地が違うからな。でも、シロも十分戦えているよな?」
「はい!それは実感しています」
「うん。それで十分じゃないのか?」
「はい。カズトさん。あの・・・僕、奥さんとしてはどうですか?何も出来ていないと思うのです」

 これも、何度も聞かされている。
 その都度否定しているのだが、自分の中で折り合いがついていないようだ。
 簡単にいうと、身体を重ねていないのが原因なのだ。心の片隅に、何かが引っかかっているようだ。それは、いままで”教皇の孫娘”として政略の道具としか見られていなかった事が原因なのだ。

 抱く事はできる、シロはそれで一時的には安心もできるだろう。
 そうしたら、今度は子供が出来ない事を悩む事になるかもしれない。正直、今子供ができると戦力的に困ってしまう。シロは遠征には必須な人材なのだ。

 シロの頭を軽く叩いてから
「俺は、シロに助けられている。確かに、少し考えすぎのところはあるが、俺はシロに依存しているぞ?」
「・・・」
「それに、シロの事が大好きだ」
「・・・。はい。僕も、カズトさんの事が、好きです」
「今はこれで我慢してくれな」

 シロを抱き寄せてキスをする。
 全裸の胸が身体に当たる。感触を感じてしまう。反応するのが抑えられない。シロも解っているのだろう。少しだけ嬉しそうにして、舌を絡めてくる。どのくらいキスを交わしていのかわからないくらいキスをしてから、身体を離した。

「カズトさん。大好きです!」

 そういって、シロは俺の上にまたがるようにして身体を預けてくる。
 しっかり抱きしめてそのままシロの感触を楽しむ事にした。

 お互いに少し落ち着いたので、身体を離して、湯船を出てお互いの身体を拭いてから、寝巻きを着て馬車に入った。
 時間的には早いのは解っているが、身体を横にすることにした。他愛もない話をしていると、シロから可愛い寝息が聞こえ始めた。俺も、シロの寝息を子守唄代わりにして目を閉じた。

---

 どのくらい寝たのかわからないが、気分よく目覚める事ができた。
 シロはまだ寝ていたようだが、俺が起き上がった事でシロも起きた。

 俺が起きた事が解ったのかオリヴィエが話しかけてくる。
「マスター。皆の準備はできております」

 早いな
 違うな。俺とシロが遅くなってしまったのだな。

「わかった。ステファナとレイニーにシロの支度を手伝わせろ」
「はっ」

 ステファナとレイニーが馬車の中に入ってきて、シロを連れてもう一つの馬車に向かう。
「オリヴィエ。リーリア。撤収を頼む。それから、昨日の残りでいい。軽く食べてから、ティリノに会いに行くぞ!」
「はい!」

 それからは早かった。
 シロの武装もそれほど時間がかからない。普段からなれているので、ドレスを着るよりも早く着替えて準備を整える。気持ちの準備も問題ないようだ。馬車の撤収もライに収納を頼むだけだ。中の片付けは一応行うのだが、あまり意味が無いのは経験則で解っている。

『ペネム。支配領域の解除はできるか?』
『問題ないです』
『頼む!』

 支配領域が消えて、ダンジョンの雰囲気がガラッと変わる。

 正確には、元に戻った。

 皆で少し移動すると扉があるのがわかる。
 61階層に降りてきた部屋からは一本道になっている。武装とスキルカードの確認を行う。突入順番は、俺とシロが先に入る。オリヴィエとリーリアが続く、その後ろにステファナとレイニーがつづく、前回の60階層のときに試したのだが、カイとウミとライとエリンは俺の眷属なので、呼子で呼び寄せる事が解っている。人数制限を超える事ができる。

 扉を開けて中に入る。
 全員入っても扉が閉まらない。カイとウミもライもエリンも問題なく入る事ができた。

”勇敢なる挑戦者よ。最期の試練を乗り越えてみせよ!”

 声がどこからともなく聞こえてきた。話し終えると、扉が閉まった。

 三方向に黒い珠(イミテーション・コア)が出現した。
 合計で、9つの黒い珠(イミテーション・コア)が見える。右側から、ゴブリンと上位種と進化体のようだ。真ん中がオーガ。左側がオークになっている。そして、よく見ると、中央の最奥にローブをまとった”()”が存在している。
 あれが最終ボスなのだろう。まずは前哨戦を行う。

 ゴブリンをステファナとリーリアとカイとウミで相手をさせる。
 オークをオリヴィエとリーリアとライで相手をさせる。
 中央のオーガを、俺とシロとエリンで相手をする。

 正直、俺の所が一番しんどいとは思うけど、負けそうになったらエリンに竜体になってもらう事も考える。

「よし!いくぞ!」

 戦闘が始まる。
 他の所にも気を配らなければならないのは解るが、そんな余裕はない。

「シロ、オーガの標準種は任せる。スキルを存分に使って倒せ」
「はい。早く片付けて、カズトさんの所に行きます」
「頼む!」

 シロには標準種の相手を頼む。多分、ギリギリだとは思うが、スキルカードを上手く使ってしのいでもらう。

「エリン。上位種を頼む」
「わかった!」

 エリンは心配していない。
 今日はなれない武器ではなく、素手で倒している。エリンの種族がバレても問題ないとおもったので、全力で対応するように伝えてある。サイズの問題から竜体になるときには、俺からお願いする事にしているだけだ。

 俺は、進化体を相手にする。
 数こそ少ないが、手強さではかなりの部類だろう。

 まずは、ゴブリンに向かっていたカイとウミが黒い珠(イミテーション・コア)を壊したようだ。これで、一気に楽になる。
 上位種と進化体を倒してから、標準種ならステファナとレイニーで大丈夫と判断して、オークの進化体を倒しに向かう。ウミはエリンと合流したようだ。これで、だいぶ楽になる。

 次に黒い珠(イミテーション・コア)を破壊したのはシロだ。無茶な突撃で標準種を無視して、黒い珠(イミテーション・コア)だけを狙ったのだ。シロはそのまま標準種を無視して上位種に突撃する。
 エリンとウミは、上位種が見せたすきを見逃さないで、黒い珠(イミテーション・コア)を破壊する。その後、シロとエリンで掃討に入るようだ。ウミは、俺が相手していたブルー・オーガの背後から襲いかかった。

 どのくらい戦っていたかわからないが、徐々に圧力が弱くなっていくのが解る。
 戦況を見回す余裕が出てきた。後方のローブを身にまとった者は動きを見せていない。黒い珠(イミテーション・コア)も全て破壊できたようだ。ゴブリン/オーク/オーガの残敵を掃討する事にした。

 最期に残っていたグリーン・オーガに俺の刀が届いた。

 グリーン・オーガが倒れたのを見て、ローブに刀を向ける。

「ティリノ。後はお前だけだ!俺の軍門に下れ!」

 え?無反応?

 リッチ的な何かかと思ったのだけど違うのか?

 カイとウミとライが、倒した魔物の処理を始めている。

 ローブをまとっている者を、カイやウミやライだけではなくオリヴィエもリーリアも脅威とは見ていない様子だ。

 どうしようかな?
 シロを見る。シロは、ローブを凝視している。

「シロ?シロ?」
「カズトさん。あのローブ。アトフィア教の司祭が身につける物に似ています」
「似ているのだな?」
「はい。僕が知っている物と大きくは違わないのですが、細部が違っています」
「そうか、年代が古いとか、そういう事なのかもしれないな」
「そう思います」

 シロを見るが、アトフィア教に関しては、単なる知識になっているようだ。

『我が主。あの者は、ティリノでは無いようです』
『どういう事だ?』
『我が主。鑑定で確認してみてください』

 そうだった。
 スキル鑑定を使えばよかった。

// 名前:アズリ・フェデリーゴ
// 種族:エルダー・リッチ
// 年齢:256歳
// 固有スキル:魔物核生成(レベル3)
// 固有スキル:眷属召喚(レベル1)
// 固有スキル:憑依(レベル1)
// スキル枠:鑑定
// スキル枠:---
// スキル枠:---
// スキル枠:---
// スキル枠:---
// スキル枠:---
// スキル枠:---
// 体力:D
// 魔力:D
// 眷属:ティリノ

// 固有スキル:魔物核生成
// 特定の魔物を魔力が続く限り生み出す珠を生成する
// 込められる魔力に依存して生成される魔物が確定する

 さてどうしたものか?
 ダンジョンマスターという感じだけど、肝心のティリノが見当たらないし、エルダー・リッチが何も行動に出てこないのも気になってしまう。

「あのローブの魔物は、アズリというようだ。エルダー・リッチだと出ているな」
「エルダー・リッチ?」
「どうした?ステファナ?」

 少しだけ興奮したステファナが説明してくれた所では、エルダー・リッチは死霊系の魔物の王となる魔物だと言っている。エントやドリュアスの、スーンのような存在だと話している。
 そう言われると少しだけ納得してしまう。

 でも、それではゴブリンとオークとオーガしか魔物が出てこないのは不思議だ。
 意思疎通ができない事には何も始まらないな。倒すにしろ、浄化するにしろ、何か対応を考える必要がある。

『アズリ』

 念話で話しかけてみる。

『・・・』

 反応があった

『アズリ。貴殿は、アトフィア教の関係者なのか?』

 アトフィア教の所で反応があった。

『ここいるシロは元アトフィア教の聖騎士だ。浄化を望むのなら手伝おう』

『ア・・・トフィ・・・ア・・・教。聖騎・・・士さ・・・ま?浄・・・化?』

『そうだ。俺は違うが、シロが、俺の妻が、元聖騎士だ』

『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!』

 どうした急にテンションが上がったようだ。

「我が名は、アズリ・フェデリーゴ」

 シロがビクッと身体を震わせる。
 驚いたという雰囲気が出ている。

「シロ。フェデリーゴという姓に覚えはあるのか?」
「はい。アトフィア教の聖騎士になる時に、”フェデリーゴ”は”魔の力”を持って、教会から追放されたと教えられました。そして、フェデリーゴの様になるなとも言われます」

 どうやら、このエルダー・リッチは、シロが説明された”フェデリーゴ”で間違いないようだ。
 シロが一歩前に出る。アズリがふらぁと動いたからだ。

 なんだ動けるのか?
 ステファナとレイニーはことの成り行きを観察するような目で見ている。

「シロ様。聖騎士様!!!!」

 どうした?
 本当に、何がどうなっているのかわからない。

「わかった、興奮するな。説明しろ」
「お前は?」

「貴様!僕の旦那様に向かって!僕は()聖騎士だ!」

 シロが、アズリに殺気を込めた言葉を投げかける。
 殺気に当てられたのだろう、少しだけたじろいだが、シロの前まで進み出た。

 移動もできるようだ。
 玉座でいいのかな?アズリが座っていた場所には、一つの珠が残されていた。

 ローブの影になって気が付かなかった。存在を完全に消している。

// 名前:ティリノ
// 種族:ダンジョン・コア
// 固有スキル:ダンジョン創造
// 称号:アズリの眷属
// 体力:H
// 魔力:B+
// 状態:混濁

 間違いないようだ。
 ただ、状態異常になってしまっているようだ。アズリの眷属という所から、問題はティリノではなく、アズリ側に有ったのかもしれない。

『ティリノ!ティリノ!』

 呼びかけてみるが反応がない。

 どうしよう。
 やってみるか?

 一つの可能性を試してみる事にした。
 それで壊れてしまったのなら、それはそれで考えればいい。

 皆には結界を発動してもらう。

 スキル眷属を発動して、アズリからティリノを切り離す。上手く行けば、ティリノから事情が聞けるかもしれない。その上で、眷属化する事ができれば、魔の森に出現する魔物の対応を含めて対処できる可能性だってある。

『ペネム。ティリノを見ていてくれ』
『承りました』

 スキル眷属を発動。
 アズリからティリノを引き剥がす。

 まずは、眷属状態を解除する。

 問題なく実行された。
 ティリノに向かって眷属化を行う。

 失敗した。
 意識が混濁している状態だからなのか?

 それなら、魔の森の異変やダンジョンを終息させるために壊してしまったら?

『ペネム。ティリノ状態は?』
『眷属状態が外れましたが、それ以外は代わりありません』

「カズトさん!」

 今度は、シロの方か?
 アズリになにか有ったのか?

 シロを見ると、シロの前で、アズリが五体投地の状態になっている。
 司祭と聖騎士だと、聖騎士の方が身分は上だったよな。それか、鑑定でシロの種族を見てしまったのか?
 ヒュームに関して今と違った(信仰)だったのかもしれない。

「シロ。アズリの話を聞いてみろ」
「え?あっわかりました」

 これで、シロの方はひとまず放置して問題ないだろう。
 五体投地状態になっている者から攻撃を受ける事は考えられない。そもそも、シロをどうにかできるわけがない。

『我が主、スキル隷属はお持ちですか?』
『レベル5隷属化でいいのか?』
『はい。ティリノに発動してください』
『わかった』

 失敗しても、レベル5程度なら問題はない。

 スキルを発動した。
 今度は、上手くできたようだ。鑑定で確認すると、ティリノが隷属化された事が認識できた。

『我が主。ティリノが隷属できましたので、スキル治療を使ってください』
『おっおぉ』

 ペネムが積極的だ。弟分ができると思っているのか?
 スキル治療もまだ持っている。取り出して使う。

// 名前:ティリノ
// 種族:ダンジョン・コア
// 称号:カズトの奴隷
// 固有スキル:ダンジョン創造
// 体力:H
// 魔力:B+

 状態異常が消えた。
 これで問題はないのかな?奴隷を解除する。

// 名前:ティリノ
// 種族:ダンジョン・コア
// 固有スキル:ダンジョン創造
// 体力:H
// 魔力:A-

 よし!
 シロを見ると、アズリと何か話しているようだ。

 もう一度、ティリノを見る。
 黒かった珠が、白濁色の珠に変わっている。浄化でもされたかのようだ

『わっはははは!愚かなる者よ。我に従え!』

 破壊されるのを望むのかな?
 それとも、ダンジョン・コアってみんな馬鹿なの?

 ペネムから恥ずかしいと言った感情が伝わってくる。
 自分の黒歴史でも刺激されたのだろうか?

 とりあえず、刀を取り出して、魔力を込めてから、ティリノに刀を触れるか触れないかの距離で止める。

「さて、ダンジョン・コアのティリノ。俺に従うか、破壊されるか?すきな方を選べ」
『マイロード!貴方様に従います』

 早いな。

『おい。ペネム。ダンジョン・コアはこんなに脆弱なのか?』
『我が主。申し訳なく、でも、我とティリノでは、我のほうが』『デタラメを申すな。お主は、チアル様の近くから離れられなくて、あのような場所でダンジョンを作った軟弱者ではないか!』

『2人とも醜い争いはするな。壊すぞ!』
『かしこまりました。我が主』『かしこまりました。マイロード』

『ティリノ。俺の眷属になるのだな』
『はい!お許しいただけるのなら、眷属の列に加わる許可をいただきたい』

『いい心がけじゃなティリノ。我の『ペネム。少し黙ろうか?』はい。我が主』

 スキル眷属を発動する。
 今度は、成功した。

// 名前:ティリノ
// 種族:ダンジョン・コア
// 称号:カズトの眷属
// 固有スキル:ダンジョン創造
// スキル:念話
// スキル:変体
// 体力:H
// 魔力:B+

 ペネムに合わせるように、スキルも付与する。これで、ティリノから話しかける事ができるだろう。

「カズトさん」

 シロが困った声をあげている。

「どうした?」
「アズリさんが」「シロ様。私の事に、”さん”など必要ありません。アズリと呼び捨てにしてください」

「え?アズリ?が、僕の眷属になりたいみたいだけどどうしたらいい?僕、カイ兄様やウミ姉さまのような、もふもふがいい・・・。こんな、骨と皮とローブだけなんてヤダ!」

 アズリから、”ゲフッ”とダメージが通る音が聞こえてきそうな。ピンポイントなディスり方だ。
 確かに、俺も眷属にするのなら、カイやウミの方がいいな。アズリが知性があっても、アンデッドだからな。エルダー・リッチは眷属にしたほうがいいのだけど、ライを見ると、跳ねてどっかに言ってしまった。
 ライも嫌なようだ。それに、スーンがいるから必要性も感じないのだろうな。エリンも興味なしという雰囲気だし、オリヴィエとリーリアも、終わったかのような雰囲気を出している。ステファナとレイニーも、魔物のドロップ品の整理をしている。

「カズトさん・・・」

 シロが情けない声を出している。

「アズリ。俺ではダメなのか?」
「ツクモ様にはすでに優秀な眷属がいらっしゃいます」
「まぁそうだな」

「カズトさん!!」
「シロ。アズリがこう言っているのだし眷属化を行ってみるのもいいかもしれないぞ?」
「え?」「!!」

 それにしても、アズリは表現豊かだな。
 だんだんと意識が戻ってきたのか?

「アズリ。シロが眷属化する前に、なんでお前がダンジョンマスターのような事をしていたのだ?」
「話せば長くなります」
「短めで頼む」
「・・・はい。私は、アトフィア教の司祭でしたが、司祭として地方の布教活動をしていたのですが・・・」

 今と変わらない活動方針で、人族に布教活動をしていたのだが、地方に出かければ魔物も出る頻度が多くなっている。聖騎士と一緒に魔物を倒していたら、固有スキルが産まれてしまった。
 それが”魔物核生成”だった。これが教会のトップにバレて、異端児や魔物の手先と言われて、アトフィア教から追放された。
 行き着いたのが、魔の森だったと言う話だ。それから、ダンジョンコアにどうやって会ったかは覚えて居ないそうだ。それでも何らかの交渉があって、眷属化したのだと言っている。
 その後、ダンジョンマスターになるときに、エルダー・リッチになってしまったということらしい。

 大事な部分がかなり抜けているのだが、本人が覚えていないという事なので、深掘りしないようにしておこう。

 シロじゃ無いけど、エルダー・リッチが近くにいたら嫌だよな。

「なぁアズリ。お前、生前の姿にはなれないのか?」
「え?できますが?この方が、ダンジョンマスターっぽいと言われたのですが?」
「誰に?いや、答えなくてもいい。ティリノだな」
「はい。私が、生前の姿でいると、舐められると言われて、それにこの姿なら食事が必要ないので・・・」

 ティリノへの説教は後回しで、アズリが無事シロの眷属になる事ができるようにサポートしよう。

「わかった。ティリノには後でしっかり、きっちり説明しておく」
「はい。そういう事でしたら」

 エルダー・リッチの姿では、身長?は、190くらい有ったのだが、元の姿に戻ると、身長140センチくらいの小さい男の子にみえる。女の子になった。

「え?アズリって女の子だったのか?」
「酷いですぅ」

 酷いと言われても、あの見た目で性別を判断しろというのが無理な話だ。

「シロ。これならどうだ?アズリ。後で種族を偽装するけど問題ないよな?」

 シロがアズリを見ている。
 ガン見している。

 シロは見た目も可愛いのだが、可愛い物が大好きなのだ。エリンの事をかわいがったのも、”可愛い”がすきに由来している。

「可愛い!!!!!!」

 シロが生前の姿に戻ったティリノに抱きつきそうになったのを、ステファナとレイニーが止めた。
 2人ともタイミングといい”グッド”だ。

 これなら問題ないだろう。

 シロは、眷属化の方法を俺に聞きながら実行した。
 アズリもそれを受け入れた。シロに初めての眷属ができた事になる。

 そして、魔の森が全部ダンジョン化しているのに、転移門がなかった理由もわかった。ティリノの魔力では転移門の設置ができないようだ。

 魔の森の異変は、アズリの意識が混濁して暴走したのが原因だったようだ。
 孤独に耐えられなくなったのだと言っている。真相はわからないままだが問題は解決したと思って間違いないだろう。

 魔物生成核(イミテーション・モンスター・コア)は全部アズリが回収した。これで、魔物が新しく湧き出る事はない。自然発生も有るのだが、魔物生成核(イミテーション・モンスター・コア)がなければ生態系が崩れるような事は少ないだろう。

 地上に一気に戻れると思っていたので、残念で仕方がない。
 最下層で一泊してから、一気に駆け上がる事にした。

 久しぶりの地上のような気がする。
 アズリは、ステファナとレイニーに預けられる事になる。まずは、メイドの仕事を覚えるのだと息巻いていた。


 通常の生活が戻ってきた。洞窟に戻ってきて数日が経過した。
 風呂は作って入っていても、やはり自分の部屋の風呂が一番にきまっている。

「ご主人様。お風呂の準備を致しましょうか?」
「頼めるか?」
「はい」

 リーリアがステファナとレイニーを連れて、風呂の用意を始める。
 この間に、少しやっておく事がある。

「アズリ!」
「はい。旦那様」

 アズリも、ステファナとレイニーに習って、シロを奥様。俺を旦那様と呼ぶことにしたようだ。最初は、シロを聖女様と呼んで居て、改める事から始めたのだが、なんとか問題ないレベルまで落ち着かせる事ができた。

// 名前:アズリ・フェデリーゴ
// 種族:ヒト族
// 年齢:26歳
// 称号:シロ・ヴェネッサ・ヴェサージュの眷属
// 固有スキル:魔物核生成(レベル3)
// 固有スキル:眷属召喚(レベル1)
// 固有スキル:憑依(レベル1)
// スキル枠:鑑定
// スキル枠:---
// スキル枠:---
// スキル枠:---
// スキル枠:---
// スキル枠:---
// スキル枠:---
// 体力:D
// 魔力:D

 洞窟にたどり着いた時のステータスがこうなっていた。
 見た目がエルダー・リッチではなくなったから、ヒト族に偽装している。年齢も偽装できそうだったので、偽装している。

「そう言えば、アズリ。エルダー・リッチの寿命?は、どのくらいなのだ?」
「さぁ?私もエルダー・リッチになったのは、ダンジョン・コアのティリノと一緒になってからですからわかりません」
「そうか、300年近くは生きているようだし、気にしてもしょうがないのかな?」
「多分、そうだと思います」
「わかった、お前も俺やシロや他の眷属と一緒で、ある程度したら隠居決定だな」
「はい。お供いたします」

 スキル眷属召喚を試させた所、アンデッドやゾンビなどが召喚された。
 なぜ使わないかと聞いた所、”かわいくないから”だと言われた。まぁそうだな。

 スキル憑依は、言葉の通り憑依して操作する事ができる。意識が無い状態だとなんでもできるという事だ。
 実験区の者たちとの相性はばっちりという事だ。今度、実験区に連れて行ってみても良いかもしれない。

 スキル魔物核生成で、ゴブリン/オーク/オーガの上位種と進化体しか出していなかった理由も判明した。
 ティリノが、そうさせていたからだ。本人は、可愛いモフモフが良かったらしいのだが、弱そうだし、ダンジョンに似合わないという事で却下されていたらしい。呼び出せるのはアズリがしっかりと認識した魔物だけだと言っていた。
 微妙に使い勝手が悪そうだが、スキルカードも魔核も落とす魔物が生成できるので、金の卵を産むニワトリ程度には重要な事なのだろう。
 魔の森から帰って確認したのだが、収支的には赤字だが、大量のスキルカードと魔核が手に入っている。特に、低レベルの魔核は使う場面が増えているので嬉しい。

 そして、アズリにはシロの従者兼相談役兼眷属筆頭になってもらう事が俺の中で確定している。
 シロとアズリが相談して、俺の眷属にもなれないかと相談してきて、試しにやってみた。シロの眷属化を解除しない状態で、俺からの眷属化を受け入れさせた。シロとの繋がりを維持できたままアズリが俺の眷属になった。
 二重契約ではなく、シロがファーストで俺がセカンドだということのようだ。眷属化ができたので、問題ないとしておこう。深く考えると、いろいろ調べたくなってしまう。

 カイやウミやライとの会話の問題や、命令系統維持のために、アズリにも念話を固定する。
 従者と言ってもエルダー・リッチの特性を活かして、攻撃系に特化する事が決まった。

 ステファナとレイニー達と違って魔核の吸収ができるので強化計画が立てやすい。

 オリヴィエやリーリアを強化した時とは魔核の在庫量も違っている。
 それに、シロの初めての眷属で従者なのだ、アズリの生前の姿にも強いこだわりがあるようで、小さい女の子の姿から変わろうとしない。シロの護衛を任せるのにそれでは困ると説得した。
 フラビアとリカルダをシロが慕っているのを見て決心したようだ。フラビアとリカルダよりは少し年上に見える状態で落ち着いたようだ。

 姿が確定するまで3日掛かった。
 やっとスキルを付与できる。

「アズリ」
「はい!」

 魔核の吸収を始める。
 念話は、レベル5魔核につけている。呼子は、同じような権能を持つ召喚があるので使う必要はなさそうだ。

 爆炎/爆岩/爆水を一つの魔核に固定した物を吸収させた。
 結界/障壁/防壁も同じく一つの魔核に固定した。
 超向上系と半減系と超低下系も付与して、状態異常系も全部付与した。詠唱破棄は、種族特性でできるという事なので、排除した。即死と地図と遠見も調子に乗って吸収させた。

 レベルの低い攻撃を行う事ができるように、炎/水/岩/風/氷/雷も付与した。

 シロについていてもらうのに妥協なんてしてられない。

// 名前:アズリ・フェデリーゴ
// 種族:イリーガル・デス・エルダー・エンペラー・リッチ
// 年齢:26歳
// 称号:シロ・ヴェネッサ・ヴェサージュの眷属/カズト・ツクモの眷属
// 固有スキル:魔物核生成(レベル3)
// 固有スキル:眷属召喚(レベル1)
// 固有スキル:憑依(レベル1)
// 固有スキル:吸収(レベル1)
// スキル枠:鑑定
// スキル枠:超向上系
// スキル枠:半減系
// スキル枠:状態異常攻撃
// スキル枠:状態異常耐性
// スキル枠:即死
// スキル枠:地図
// スキル枠:念話
// スキル枠:遠見
// スキル枠:爆(炎/岩/水)
// スキル枠:弾(炎/岩/風/氷/雷)
// スキル枠:結界
// スキル枠:障壁
// スキル枠:防壁
// スキル枠:炎
// スキル枠:水
// スキル枠:岩
// スキル枠:風
// スキル枠:氷
// スキル枠:雷
// スキル枠:体調管理
// 体力:D
// 魔力:A

 種族も、せっかくヒト族に偽装したのに、種族進化に成功して種族が表示されてしまった。
 種族が意味不明なのだけど?

 まぁヒト族に偽装して問題ないよな。
 スキルも偽装で隠しまくってしまえばいい。

 固有スキルが一つ増えている。進化したときに取得したのだろうか?

// 固有スキル:吸収(レベル1)
 生命力を吸収して、アンデッド化する。アンデッドは、眷属となる。
 一度に吸収できる生命力はレベル依存になる。吸収した対象は、魔物核生成/眷属召喚で使役する事ができる。

 実験が必要なスキルだな。
 チアルダンジョンで実験をしてみよう。

 シロとアズリと話をしながら、偽装する項目を検討した結果

// 名前:アズリ・フェデリーゴ
// 種族:ヒト族
// 年齢:22歳
// 称号:シロ・ヴェネッサ・ヴェサージュの眷属/カズト・ツクモの眷属
// スキル枠:鑑定
// スキル枠:---
// スキル枠:---
// スキル枠:---
// スキル枠:---
// スキル枠:---
// 体力:F
// 魔力:E

 となった。年齢をまた微妙に下げたのは、アズリがこれだけは譲らなかったからだ。
 本当は、19歳とかいい出したのでそれは却下できた。256歳が19歳はさすがに許せない気分になったからだ。22歳でもかなりなのだし、姿形も変えられる事から、その時々で見えるようにするスキルを変えてもいいのだろう。

 アズリの部屋は暫くはログハウス内に用意する事が決まった。
 執事(エント)メイド(ドリュアス)が一通り仕込む事になる。

 風呂の準備はかなり前に終わっているようなので、今日もシロと2人で入る事にした。
 あまり、アズリばっかりかまっていると、可愛く拗ねるのが愛おしい。

 風呂に入って、部屋に戻ると、スーンからの連絡が入る。
 休暇が終わったという事だろうか?

『どうした?』
『お休みの所申し訳ありません』
『いや、かまわない。それよりも、何か有ったのか?』
『いえ、明日からのご予定の確認と、全体会議のお打ち合わせと、魔の森から退避させた魔物たちの処遇に関してのご相談です』

 いろいろ詰まってきそうだな。

『明日からは通常状態に戻ったと思っていいぞ。昼前には、ログハウスか迎賓館に行く』
『かしこまりました』

 会議は、例の全体会議だな。
 各区とSAやPAから代官たちが集まるのだな。魔の森が支配領域に入った事を話すには丁度いいな。暫くは、直轄領にしておいて状況が安定してきたら、代官を置いて任せるようにしたい。
 ロックハンド港の事は、ルートガーとスーンを交えて相談だな。

 魔の森からの退避させた魔物たちは、もうかえしても問題ないよな。

 ティリノは俺の眷属となった。
 ペネムと同じ立場だ。シロに渡す事も考えたのだが、シロから固辞された。使い切れない上に、俺が持っているのがベストだという意見だ。

 ペネムも俺が常に持つことになった、クリスとルートガーにはダンジョンを操作する権限を与えたダンジョンのサブ・コアを渡しているので大丈夫という事だ。最上位権限はやはり俺が持つべきだという事だ。ルートガーとクリスにも相談したが、ペネムの意見が正しいという事になった。

 ペネムとして譲れない事が有るようだ。
 ティリノが俺と一緒に行動するのが許せないらしい。それに、俺だけではなくカイやウミやライやアズリから漏れる魔素が心地よいのだと話している。何が違うのかは説明してくれなかったが、一緒に居たいの一点張りだった。

 両方共、イヤーカフスの状態になってもらって、右耳につける事にした。
 同じデザインの物を作成して、シロの右耳にもつける事にした。

 魔の森の魔物から意志有る者には後で会うことになった。
 シロの眷属候補がいたら嬉しい。シロの眷属枠を調べたら、4つの枠が有るようだ。
 何に依存しているのか一切わからないが、枠が4つあって一つがアズリと契約しているので、後3つだ。シロは、スライムとモフモフと言っているがどうなるのやら・・・。

『詳細は、明日ログハウスで聞く』
『かしこまりました。大主様』

 スーンとの念話を切ってから。
 ベッドに入って休む事にした。

 シロが先にベッドに入って待っている。

 俺が布団に入ると、シロが抱きついてきて、可愛く”おやすみなさい”と言ってから目を閉じる。
 おでこに軽くキスをしてから、”おやすみ”と返してから俺も目を閉じる。シロの体温を感じながら、いつの間にか寝てしまった。

---

 アズリに起こされる。
 ステファナとレイニーとオリヴィエとリーリアと話をして決めたようだ。側付きをローテーションで行うようだ。全員が居ても困るという意見が採用された結果だ。オリヴィエは、従者筆頭という事でローテーションには加わらない。俺との連絡係のような感じになる。
 今までスーンが行っていた事だ。
 プライベートな事は、オリヴィエが管理を行って、行政に関わる事がスーンが行う事になる。

 暫くは、アズリは見習い扱いになる。
 明日から暫くは、カイとウミとライと一緒にダンジョンでの戦闘訓練を行うようだ。
 特に、スキル周りの調整や実戦での訓練を行う事になっている。

 俺とシロは、スーンが待っているログハウスの執務室に急ぐ。
 時間を約束しているわけではないが、スーンの事だから、早めに来て待っているだろう。待ち時間を短くする意味もあるが、待たせていて急がないのは気持ちが落ち着かない。

「大主様。お疲れ様でした。魔の森が鎮静したと報告が来ています」
「そうか、魔物たちの移動は任せていいか?」
「はい。それに関する事ですが、フォレスト・フォックスの一部とフォレスト・イーグルの一部とフォレスト・アウルの一部が、チアルダンジョンに残りたいと言っています。また、できれば大主様にお仕えしたいと言っています」
(フォックス)(イーグル)(アウル)か、進化体なのか?」
「いえ、通常種です。フォレストを付けていますが、魔の森産まれだというレベルです。種族の固有スキル以外は持っていないようです」
「わかった。シロ。どうだ?会ってみるか?」

 シロが欲しがっていた眷属にぴったりだろう。
 スライムに関しては、ライがいるので、ライの分身体を付ければいいと思っている。

 モフモフの条件には有ってくると思うのだけどな。

「僕、会ってみます」
「スーン。手配を頼む」
「かしこまりました」

 これで、決まればシロの眷属もほぼ決まりだ。
 どれか二体を眷属できればいい。残りの一体・・・できれば、梟を俺の眷属にする事を考えよう。

 シロの残りの1枠は、ロックハンドができた後で使う事を考えている。
 海の魔物を眷属化しておく事を考えなくてはならない。

「スーン。それで、代官はどのくらい集まりそうだ?」
「ゼーウ街と港を除く全ての代官が集まります」
「おおごとだな」
「はい。しかし、大主様が魔の森を攻略された事で、チアル大陸の全域が大主様の物になりました。代官たちも今後の事が気になるでしょうし、大主様に拝謁する機会を逃すとは思えません」
「拝謁って・・・。違うだろう?」
「いえ、違いません。彼らからみたら、拝謁なのです。代官の権力は、大主様から委任されているからこそなのです。その大主様が偉業を成したのです。集まるのは当然の事です」

 なんだか、スーンが熱く熱く語ってくれている。
 そういうものかと思って納得しておく事にしよう。

「わかった。わかった。会議は、来週でいいのだな?」
「はい。大主様のご都合をおっしゃっていただければ、それに合わせさせます」

 なんか、違うように思えるが、これがここでのやり方なのだろう。

「そうだな。全員が集まるのはいつだ?」
「遅くても、3日後です」
「わかった。それでは、7日後に開催する。それまでに各区とSA/PAの現状の資料をまとめておいてくれ」
「かしこまりました」
「それから、会議までの間、希望者を連れて視察に出かけてくれ、フードコートやダンジョン内の街を中心に頼む」
「かしこまりました」

 細かい指示を出してから、スーンが退室していった。

 シロと一緒にチアルダンジョンに向かう。アズリとカイとウミとライとエリンを連れて、眷属探しに出かける事にする。

 (フォックス)(イーグル)(アウル)か、楽しみだな。
 小動物がいたらもっと良かったのだけどな。リスとか・・・兎とか・・・。完全にペットになってしまうだろうけどな。

「大主様。チアルダンジョンに残ると申し出た者たちです」

 今、俺の前で(フォックス)(イーグル)(アウル)が少し緊張した感じで、俺の言葉を待っている。

// 名前:---
// 性別:メス
// 種族:フォレストフォックス
// 固有スキル:魅了・誘引(レベル1)
// 固有スキル:憑依(レベル1)
// スキル:---
// スキル:---
// スキル:---
// スキル:---
// スキル:---
// 体力:E
// 魔力:F

 (フォックス)は、メスなのだな。
 固有スキルが、魅了と誘引って、そのまま傾国の美女にでもなりそうだな。憑依を持っているから、シロの代わりを頼むときに、偽シロの操作とかもできそうだな。
 (フォックス)は、アカギツネに特徴が似ているな。よくよく知っているキツネと代わりがない。
 しっぽを綺麗にしているのだろう。モフモフ感が出ているな。

// 名前:---
// 性別:オス
// 種族:フォレストイーグル
// 固有スキル:爪斬撃(レベル1)
// 固有スキル:風鎧(レベル2)
// スキル:---
// スキル:---
// スキル:---
// スキル:---
// 体力:D
// 魔力:G

 (イーグル)は、オスなのだな。
 イヌワシだと思えばいいかな?俺が他に鷲の種別に詳しくないからだけど、地面に立っている状態で、(フォックス)よりも大きい。羽の大きさもかなりありそうだ、広げたら2m程度にはなりそうだな。
 くちばしも鋭いし、種族スキルなのか?爪斬撃は、言葉通りのようだな。
 急降下攻撃で、爪から斬撃を飛ばすって卑怯じゃないのか?実際に見てみないと、どういう攻撃なのかわからない、鑑定の情報からだとかなりの攻撃に見える。風鎧も防具を持てないことのカバーだと考えればかなり優秀だな。風を纏って移動するとなっているけど、もしかしたら防具の意味よりも高速移動のためのスキルなのかもしれないな。

// 名前:---
// 性別:オス
// 種族:フォレストアウル
// 固有スキル:不可視(インビジブル)(レベル1)
// 固有スキル:夜目(レベル2)
// スキル:---
// スキル:---
// スキル:---
// スキル:---
// 体力:D
// 魔力:G

 最後が(アウル)もオスのようだな。
 ミミズクのようだな。それもかなりの大型の様だ。俺がよく知っている梟種のようで安心できる。俺、猛禽類のペットがほしかったのだよな。
 スキルが隠密用だな。これで、スキル即死なんか付けたら完全に暗殺向けになってしまう。スキル夜目も、レベルが上がっているとスキル遠見の権能が入ってくるようだし、かなり優秀なスパイになれそうだよな。
 スキル不可視(インビジブル)もレベルが上がれば、自分だけではなく触れている物にも影響できるようだしな。でも、なんで、梟にインビジブル?カメレオンとかじゃないのか?
 いろいろと優秀なスキルがついているのには間違いないから、深く考える必要はないだろう。

「シロ?」
「・・・。え?」

 さっきから、フォレストフォックスとフォレストイーグルとフォレストアウルを見比べている。
 ここに来る前に、シロには二体を眷属化するようにいってある。選べないのだろう。

「選べるか?相性も有るだろうから、今から説明するな。あっスーン。魔物たちの希望を聞いてくれ」
「はい」
「かしこまりました」

 スーンが、魔物たちに話をしている最中にシロに鑑定結果を伝える。
 このパターンは初めてなので、どうしようかなと思っていた。

「大主様。この者たちが言うには、フォレストフォックスとフォレストイーグルが奥様で、フォレストアウルが大主様の眷属になりたいという事です」
「そうか」

 俺が当初考えていた通りだな。

「はい。そのうえで厚かましい事は承知で、フォレストフォックスには子供が二体。フォレストイーグルとフォレストアウルにはツガイがいるそうです」
「別に問題にはならないと思うぞ?俺の固有眷属はとシロの眷属には枠が有るけど、俺がスキル眷属化を発動しての眷属化なら枠はなさそうだからな」

 俺の言葉を聞いて、3体が喜びの表情?を見せる。

「シロ。本人?たちの意向を優先でいいか?」
「うん。僕が、フォレストフォックスとフォレストイーグルですよね?」
「あぁそうだ」
「もちろん大丈夫です」

「スーン。子供とツガイを連れてこさせろ。それから、眷属化していく」
「はっ」

 俺が念話で話しても良かったのだが、スーンだけではなく、カイやウミやライからも反対されている。
 眷属化していない状態では、俺と直接やり取りはさせないという事だ。リーリアやオリヴィエからもしつこいくらいに言われているので、俺から話しかける事はしない。

 連れてくる事もできたのだが、チアルダンジョン内に作った集落を尋ねる事にした。
 各種族の生活環境を見ておきたかったからだ。皆は消極的な賛成という感じだったので、俺の関心事として強行する事にした。

 まずは、フォレストフォックスの集落だ。
 チアルダンジョン内に作った森の入り口付近に集落?を作って生活をするようだ。低階層なので、自分たちで魔物を飼って生活ができるようだ。ただ、魔物の数が少なくなってしまわないか心配していた。
 低階層なので、魔物はそれほど居ないためにかなり広い場所の探索が必要になってしまっているようだ。

『ティリノ。ここに、アズリが作り出した、魔物核(イミテーション・コア)を置いたらどうなる?』
『わかりません』
『ペネムもか?』
『我が主よ。我たちは他のダンジョンに詳しくない』
『そうだよな』

「旦那様!」
「どうした?」
「私の権能で作り出した魔物核(イミテーション・コア)を旦那様が魔核と融合させれば吸収される事無く動くと思います」

 アズリが答えを出してきた。
 さすがは、エルダー・リッチという所だな。

 実験という意味も込めて、フォレストフォックスの狩りを行う時の獲物を数種類持ってきてもらった。

 ウサギ?とツバメ?とシカ?なのか?
 まぁいい。吸収する許可を貰って、アズリに吸収させる。代わりに持っていた、フォレスト・ボアを一頭そのままフォレストフォックスに提供した。

 ツバメとシカはどうなるかわからないから、ウサギの魔物核を作成して貰ってから、俺がレベル5魔核と融合した。

// ホーン・ラビット核
// 核を中心にした半径5m範囲内に、1-2時間に2-3匹の割合でホーン・ラビットが産まれる。
// 核に魔力を流すと、魔力量に従ってホーン・ラビットが産まれる。
// ダンジョンにふれる事で、ダンジョン所属になる

 ほぼ成功だな。
 これで、餌には困らないだろう。ホーン・ラビット以外が食べたくなったら、それこそ狩りをしてもらえばいい。

 フォレストフォックスの集落の問題はこれでほぼ解決した。
 水場はスーンが作っている。

 シロがそわそわしているのは、早く眷属化したいのだろう。

 シロと先ほどのフォレスト・フォックスの種族長を呼ぶ。シロが付けた名前は、エーファ。
 眷属化ができた事で、スキルを付与するのだが、バランスを取る必要があるので、今日のところは念話だけを付けておく事にする。

// 名前:エーファ・ブルーホルツ
// 性別:メス
// 種族:フォレストフォックス
// 称号:シロ・ヴェネッサ・ヴェサージュの眷属
// 固有スキル:魅了・誘引(レベル1)
// 固有スキル:憑依(レベル1)
// スキル:念話
// スキル:---
// スキル:---
// スキル:---
// スキル:---
// 体力:E
// 魔力:F

 エーファの子供が二体。
 オスとメスの双子だという事だ。

// 名前:ティア・ブルーホルツ
// 性別:オス
// 種族:フォレストフォックス
// 称号:カズト・ツクモの眷属
// スキル:念話
// スキル:---
// スキル:---
// スキル:---
// 体力:F
// 魔力:G

// 名前:ティタ・ブルーホルツ
// 性別:メス
// 種族:フォレストフォックス
// 称号:カズト・ツクモの眷属
// スキル:念話
// スキル:---
// スキル:---
// スキル:---
// 体力:G
// 魔力:F

 俺は二匹のフォレストフォックスに名前を付けた。
 3匹に”ブルーホルツ”の姓を付けさせた。

 細かい調整は、後にすることにして、次はフォレストイーグルの集落に向かう。
 そこは、岩山があり、眼下に森が広がる場所だ。

 やはり餌の問題が出ているという事なので、先程と同じ様にアズリが生成した物を俺が魔核と融合させる。

// 名前:レッチェ・ブルーホルスト
// 性別:オス
// 種族:フォレストイーグル
// 称号:シロ・ヴェネッサ・ヴェサージュの眷属
// 固有スキル:爪斬撃(レベル1)
// 固有スキル:風鎧(レベル2)
// スキル:念話
// スキル:---
// スキル:---
// スキル:---
// 体力:D
// 魔力:G

// 名前:レッシュ・ブルーホルスト
// 性別:メス
// 種族:フォレストイーグル
// 称号:カズト・ツクモの眷属
// スキル:念話
// スキル:---
// スキル:---
// スキル:---
// 体力:D
// 魔力:G

 同じ様に、俺からは”ブルーホルスト”の姓をおくる事にした
 シロの眷属もこれで決まった。後は、アズリと話をしながらスキルを決めてくれればいい。安全が確保できるようになればいいし、フォレストフォックスなら街中に連れて行っても違和感はない。シロの眷属の枠が増えるかわからないけど、増えたら子どもたちや嫁を眷属化させてもいいかもしれない。

 さて、最後は梟だったな。
 集落は少し意外な場所だった。川の中にできた小さな島に集落を作っていた。フクロウたちは餌は魚をついばんでいるので、基本的に大丈夫だという事だ。時々、森に出かけて狩りをするので、フォレストフォックスやフォレストイーグルと狩場が重なる場合にはお互いに伝達するようにしてもらう事になった。
 餌場が重なった場合には、ホーン・ラビットを新たに生成させることという約束事も付け足しておく。
 これで各種族の問題は殆ど無くなる。

// 名前:エルマン・ブルーヴェルト
// 性別:オス
// 種族:フォレストアウル
// 称号:カズト・ツクモの眷属
// 固有スキル:不可視(インビジブル)(レベル1)
// 固有スキル:夜目(レベル2)
// スキル:念話
// スキル:---
// スキル:---
// スキル:---
// 体力:D
// 魔力:G

// 名前:エステル・ブルーヴェルト
// 性別:メス
// 種族:フォレストアウル
// 称号:カズト・ツクモの眷属
// 固有スキル:夜目(レベル1)
// スキル:念話
// スキル:---
// スキル:---
// 体力:D
// 魔力:H

 二匹に、名前と”ブルーヴェルト”の姓を与えた。
 (アウル)は両方共”スキル夜目”を持っている。隠密行動に関しては、かなり強化できそうだな。

 かなり眷属や従者でパーティーが充実した事になる。
 洞窟の拡張も必要だな。

 俺とシロに、カイとウミとライとリーリアとオリヴィエとエリンとステファナとレイニーに、アズリが加わって、今日眷属となった。
 エーファとティアとティタのフォレストフォックス。
 レッチェとレッシュのフォレストイーグル。
 エルマンとエステルのフォレストアウル。

 賑やかになったものだ。
 合計で18名?になる。6人パーティが3組作る事ができる。ボス戦でレイドが組めそうだな。

 新しく眷属になった物は、暫くカイとウミとライの特訓(ブートキャンプ)が待っているのだろう。

 ある程度まで育ってから、特性を考えて、スキルを付与すればいいだろう。

 帰ろうとした所で、スーンが忘れていた事を指摘してくれた。

「大主様。ヌラ殿やゼーロ殿やヌル殿にも面通ししておいたほうがよろしいかと思います」
「あぁそうだな。ライ。呼び出せるか?」
『うん!大丈夫だって』
「それじゃ頼む」

 もう一度、3つの種族を回った。さすがは魔物同士話しが早い。
 格付けも瞬間的に終わって建設的な話しを始めている。種族に話を聞くと、低階層でも問題は無いのだが、眷属達の守りを付けて、少し深い階層での生活がいいと言うことだ。具体的には、9階層辺りでの生活を望んだ。
 9階層なら、眷属の守りは最小限で済む上に独自の防御もできるという事だ。

 その上で、スーンが実験区から実験体を各集落に配置した。
 スキル操作が付いた者が、実験体を操作しながら階層を行き来する事になる。適切な階層を目指す事にした。集落の者たちも、養わられるだけではなく、スキルカードや魔核をおさめたいという事だ。

 俺達は新たな眷属を引き連れて、洞窟に戻る事にした。

エーファ(母親狐)ティア(兄狐)ティタ(妹狐)レッチェ(鷲夫)レッシュ(鷲妻)エルマン(梟夫)エステル(梟妻)狭い所で悪いな」
『マイロード。問題ありません』

 最初、俺とシロの部屋を一つ開放する考えだったのだが、眷属を含めた皆から、反対された。本人たちも、それはできないと言われてしまった。
 妥協案として、オリヴィエとリーリアとステファナとレイニーとアズリがログハウスに移動する事になった。

 洞窟内は、カイとウミとライとエリンと新しく眷属になった者が使う事になった。

「シロ。おつかれ」
「カズトさん。ありがとうございます」
「どうした?」
「僕のために、エーファとレッチェです」
「俺のためでもあるのだからきにするな。今度時間を作って、アズリを交えてスキル構成を考えような」
「はい」

「ステファナとレイニーがいるから戦闘特化にしたいと思います」
「俺も同じ考えだよ。エルマンとエステルは隠密行動が種族的に得意のようだからそっち系だけど、ティアとティタはペット枠だな」
「はい!」

 魔核の在庫を確認しておかないとな。
 レベル5以下の魔核は結構需要があるからな・・・。ん?
 眷属に吸収させるのだから別にレベル5にこだわらなくてもいいのか?もっとレベルの高い普段値段的に釣り合わない魔核を使ってもいいのだな。ひとまず、オリヴィエとレイニーで魔核とスキルカードを集めてもらおう。

 今日は、いろいろあって疲れたし、シロも疲れているようだから、風呂に入って休む事にしよう。

---

「カズトさん」
「ん?」
「カズトさん。ルートガー殿がログハウスでお待ちです」
「あぁわかった。ありがとう」

 いつの間にか寝てしまったようだ。
 シロと、眷属に関して話していたのは覚えている。結論は、カイとウミの耳としっぽが手触りを含めて最高だという事で落ち着いた。ただ、夏場にライを抱きしめて寝るのも最高だと言う話になった・・・。ことまでは覚えている。それ以降何を話したのか覚えていない。覚えていないほどくだらないことだったのだろう。

 頭を振って、記憶を取り払ってから起きる事にする。

 リビングに移動すると、リーリアが待っていた。
 今日の服を持ってきてくれているようだ。

「ご主人様。お食事はどうされますか?」
「ログハウスに用意しておいてくれ」
「はい。奥様はどうされますか?」
「僕も、一緒でお願いします」
「かしこまりました。それから、何度もお伝えしておりますが、奥様。私達に対しては、()()()ください」
「うん・・・。解っているのだけど・・・」
「なら実行してください。お願いします」

「リーリアも、シロがなれるまで時間がかかるから長い目で見てやってくれ」
「はい。ご主人様。しかし、示しがつきませんので、これからもご指摘させていただきます」
「あっうん。頼むな」
「はい」

 リーリアが一礼してから部屋から出ていく。

「シロ。悪いな」
「ううん。でも、僕、リーリアと友達になりたいのだけど・・・」
「そうだな」
「カズトさん。ログハウスに行かないと!」
「あぁそうだったな」

 支度を済ませてから、ログハウスの食堂に向かう。
 俺とシロの朝食が用意されていた。

 皆はすでに済ませたと言っている。

 執務室に向かうと、ルートガーが立ち上がって俺を見ている。
 ルートガーにはどこから説明しなければならない?

 オリヴィエとリーリアが、奥に入っていって、飲み物を用意してくれるようだ。
 俺とシロがルートガーの正面に座る。

「ツクモ様。魔の森の問題は終息したと思っていいのですね」
「あぁ問題はティリノとアズリだ引き起こしていたからな」
「わかりました。それで、魔の森をどうされるのですか?」
「ん?どうとは?」
「ペネムと同じ様にされるのですか?」
「ルートはどうしたらいいと思う?一応、橋頭堡は作ろうとは思っているのだけどな。あと、海に出た所に港は作るぞ」

 ルートガーは、やれやれという雰囲気を出してから

「ツクモ様。それは開発を推し進めるという事ですか?」
「え?あっ違う違う海からの恵みがほしいから”ロックハンド”という港は作ろうとは思うけど、魔の森にかんしては・・・。ルートなら問題ないな」

 ルートに、今回の問題になったティリノとアズリを紹介する。
 エルダー・リッチとダンジョン・コアの組み合わせで、魔の森をダンジョン化していた事や、魔物核(イミテーション・コア)の話をした。

「あんた・・・。そんな事をさらっと言わないでくださいよ」
「え?ルート。お前がペネムと同じとかいうから大丈夫だと思ったのだぞ?」
「そこじゃありませんよ。アズリさん?の権能の話ですよ。魔物核を作られるのですよね?」
「おっおぉ」
「そういう事は、低位のスキルカードが簡単に手に入るということですよね?」
「そうだな。上位種や進化種も呼び出せるらしいけどな」

 ルートは、額に手を当てて、頭を左右にふる。何かを忘れたいようだ。

「いいですか。ツクモ様。アズリさんの権能に関しては、俺以外には話さないでください。できれば、俺も忘れたい」
「え?」
「まさか、誰かに話していますか?」
「それは大丈夫・・・だよな?シロ?」

「え?あっ大丈夫です。眷属内でとどまっています」
「そういう事だ。ルート」

「それはしょうがないでしょう。それから、ツクモ様。アズリさんの権能は偽装をしておいてくださいね。見えなくするのは当然だとして、名前も普通のスキルに見えるようにしておいてください。いいですか?」
「おっおぉ」

 ルートガーの勢いに押されたわけじゃないぞ?
 普段以上に怖かったのは事実だけどな。

「ふぅ・・・まだお気づきになりませんか?」
「だから何だよ?」

 ルートガーは、俺とシロを見比べるように目線を動かして

「色に溺れたわけじゃないようですね。本当に、その権能の異常具合に思い至らないようですね」

 ルートガーが言いたい事がわからない。
 呆れているのは解る。

「ツクモ様。アズリさんの権能を使えば、たとえばツクモ様達にしか討伐はできないかと思いますが、ギガントミノタウロスあたりの希少な魔物を生み出す魔物核を作って、魔物を倒し続けたらどうなりますか?」
「どうなるって、そりゃぁ・・・あぁそうか、スキルカードや魔核が大量に入手できてしまうのだな」
「そういう事です。まさかもう配置したりしていませんよね?」
「・・・」
「したのですか?」
「眷属の集落の食糧事情の改善のために、ホーンラビットが産まれる魔物核を作って配置した」
「ホーンラビットだけですか?」
「そうだ」

「ホーンラビットだと、スキルカードはレベル2かレベル1ですよね」
「そうだな。スキルカードも魔核も殆ど出ないな」
「・・・それなら大丈夫でしょうけど、ペネムダンジョンに配置なんて絶対しないでくださいね。いろいろ問題が有りすぎます」
「わかった。わかった。実験する時には、魔の森かチアルダンジョンでやることにする」
「・・・実験もしてほしくないのですけど、それは無理なのでしょうね」
「あぁ無理だな」

 実験はするし、便利なスキルは使わなければもったいない。
 認知した魔物しか出せない事から、未知のスキルカードを出す魔物は無理だろう。
 でも、魔核は大量に取得できるようになる。

「カズトさん」
「なんだ?」
「ルートガー殿の言っている事もそうなのですが、僕としてはスキルカードがあまりにもカズトさんの所に集中しているのが気になります」

 ルートガー。その我が意を得たりの顔をやめろ。俺の嫁だぞ!クリスにいうぞ!

「なぜだ?」
「カズトさん。僕たちは、魔の森探索でかなりのスキルカードを使いましたよね?」
「あぁ使ったな。かなりの赤字だっただろう?」
「・・・。やはりですか・・・。僕とリーリアとステファナで覚えている限りまとめました。ルートガー殿。カズトさんが持っていったスキルカードはだいたい認識していますよね?」
「えっ。そうですね。新しく得た物はわかりませんが、スーン殿からの報告もありますので、概ねは認識しています」
「そうですよね。これを見て、カズトさんが言った”かなり使った”という言葉を説明してください」

 シロが、ルートガーに紙の束を渡す。
 あんなに使ったのか・・・。かなりの赤字になっているのかもしれないな。

「あんた馬鹿だろう?」
「あ??使いすぎか?」
「逆だ。あんなに持っていくから、全部使ってくるかと思ったら、1/10も使ってないな?最低でも1/3程度は使ってきたかと思ったのに!!」

 え?使わなくて怒られるの?
 シロもそう思っていたのか?

「奥様。この資料は正しいのですか?」
「概ね正しいと思ってください」
「思った以上に魔物が少なかったのですか?」
「逆です。多すぎました。一日平均で5,000体を倒していました」
「はぁ?それじゃ?」
「はい。ルートガー殿の思っているとおりです。カズトさんは、新しく得たスキルカードを優先的に使っていました。ステファナやリーリアが最初に持たされたスキルカード以上になって帰ってきました」
「・・・そういう事は、増えているのですね?」
「えぇ残念ながら」

 え?なに?俺が悪いの?
 魔物が思った以上に弱かったからしょうがないよね?

「奥様。魔物が弱かったのですか?」

 ルートガーに先回りされてしまった。

「カイ兄さまやウミ姉さまがでなければならない程度には強かったですよ。僕の記憶が正しければ、一度も治療も回復も使っていませんけど・・・」
「ちょっと待ってくださいね。奥様。強さはどの程度ですか?」
「そうですね。オーガの進化体がいましたから、そこそこの強さですね」
「・・・。冒険者では手が出せない状況だったのですね」
「そうなると思います」

「そうなると、スキルカードは?」
「得ています。レベル6程度ですね。レベル7を数枚程度は取得していると思います」

 ルートガーが頭を激しく振ってから、俺を見る。

「ツクモ様。いい奥様ですね」
「そうだろう!最高の嫁だぞ!何を今さら?」
「えぇツクモ様。どこが赤字なのですか?単純に枚数比較だけしたのですか?」
「え?」
「魔核も大量に持って帰ってきていますよね?」
「あぁ穴あきは分けてあるぞ?」
「聞いています。工房区から喜びの声が聞こえてきました」
「ほら、良かっただろう?」
「だから・・・。ツクモ様。この街にスキルカードが集まりすぎているのです」
「そう思って、今回も使ったぞ・・・。(足りなかったかもしれないけどな)」
「何か言いましたか?」
「いや、なんにも」
「それでですね。スキルカードを集めすぎています。アナタが、珍しいスキルカードを集めるのはこの際は認めましょう。しかし、収集目的以外はなるべく使ってください」
「それじゃ、冒険者に配ればいいだろう?」
「何の名目で?」
「名目?必要なのか?」
「当然です。このスキルカードは、アナタと奥様と眷属の皆さんで得た物です。チアル街が得た物ではありません。それに、冒険者に配っても酒屋か甘味処で使われて結局は多少減らしてアナタの所に戻ってくるだけです」

 そんな酷い事になっているのか?

「そんなにか?」
「えぇそうですね。ミュルダ殿やシュナイダー殿が困り果てていました」
「そうなのか?」
「えぇ攻撃系のスキルカードは、守備隊の備品として与える事ができますので守秘されますが、それ以外のスキルカードを給与して渡しても、街中で使うので戻ってくるのです」
「そりゃぁそうだよな。この大陸全部がチアル街なのだから自然と中央に集まってくるのだろうな」
「そういう事なのです。それに、他の大陸から買い付けにやってきますから、増える一方です。ゼーウ街の支援で多少減りましたが、その分パレスケープの交易が増えてすぐに取り戻しました」
「え?もう取り戻したの?」
「はい」

 シロやルートガーの言っている事がわかってきた。
 でもなぁしょうがない部分は認めてほしいよな。

「シロ。アズリを呼んでくれ、それから、ルートガー。魔核が集まるのは問題ないよな?」
「まったく問題が無いわけではありませんが、スキルカードが集まるよりはいいです」
「アズリですね。隣に控えています」

 シロが席を立って、控室に声をかける。

「旦那様。奥様。お呼びでしょうか?」

「アズリ。ルートガーだ。俺の命を狙ったクズだけど、俺の右腕だ」

 瞬間的に、アズリから殺気が漏れる。

「あんた。何を!」
「事実だろう?アズリ。大丈夫だ。コイツの嫁は、お前の姉さんになるクリスティーネだ。仲良くする必要はないが殺す必要はない。それに、俺に勝てない程度のゴミクズだからな」
「わかりました。旦那様。ルートガー(ゴミクズ)と覚えておきます」
「おぉそうだ。アズリ。お前の魔物核生成だけど、スキルカードを産まない魔物を出す事はできないか?」
「やってみた事はありません。そんな物が必要なのですか?」
「あぁそれができたら、配置して冒険者が苦しむだけの罠ができそうだからな」
「わかりました、実験は必要だとは思いますが作ってみます」
「頼む。実験には、エーファたちを連れて行ってくれ、安全を考えて、カイかウミのどちらかにも同行を頼んでくれ」
「かしこまりました。それでは、実験をしてきます。旦那様。奥様。失礼いたします」

 ルートガーに視線を移さずに俺とシロだけを見て退出していった。

「あんた。やっていいことと悪い事があると習わなかったのか?」
「習ったぞ?習ったから、嘘を言わないで”本当の事”だけを説明したのだが、ダメだったのか?」
「はぁ・・・。まぁいいですよ。それで?スキルカードを産まない魔物が・・・そういう事ですか?」
「そうだ。ペネムダンジョンの一つで踏破したら、大量の魔核が入手できるダンジョンを作成して、そこの魔物はスキルカードを産まない。冒険者が踏破しても得られるのは、魔核だけだ」

「それだけじゃなくて、既存のダンジョンの中にもそういうトラップを何箇所か設置すればいいだろう?」
「そうですね。足りませんが、やらないよりはましでしょう。お願いできますか?」

 足りないなどと言ってきやがった。
 どうしろというのだ?

「足りない?」
「そうですね。それでも、街の財政には響かないでしょう。そもそも、冒険者が持っているスキルカードですから意味は殆どないです」
「そうだよな。この前作ったようなフードコートや遊技場を大量に作っても意味がないよな」
「えぇ意味ないですね」
「細かく削るか?」

 ルートガーに説明する。
 さすがに、魔の森の中に作る橋頭堡はスーンたちに一気に作らせるが、橋頭堡は、木の上の高さまで持ち上げる事を考えている。そこまでは作るけど、それ以上は作らない。俺がスキルカードを出して、内装工事を行わせる。ロックハンドに関しても、港の基本的な構造までは作るけど、それ以降は時間をかけて作らせる事にする。
 これだけでは足りないのはわかっている。
 そこで、新しく俺の持ち物になったゼーウ街のスラム街の開発を進めて、コロッセオのような物を作る。毎月なのか、隔月なのかは相談になるが、闘技大会を行う。その優勝賞品の一つとしてスキルカードを提供する。
 客席と闘技場の間は、防壁と障壁と結界で覆えばある程度は安全になるだろう。
 そこで、賭けを行う。胴元に集まったスキルカードは、そのまま優勝者に還元されるようにすれば、永遠に赤字経営になるだろう。

 俺達の大陸でスキルカードが足りなくなってきたら、還元率を絞ったり、優勝賞品を変えればいい。

 細かい修正は入ったが概ね納得してくれた。
 書類にまとめてくれるという事だ。来週の全体会議で議題に載せる事が決定した。

 ルートガーが、入れ直した珈琲を飲んでから退出していった。

「カズトさん。ごめんなさい」
「なにがだ?」
「僕が余計な事をしたばかりに・・・」
「ん?余計な事なんてなかったぞ。シロが気がついてくれなかったら、問題が先送りになって取り返しが付かない事になっていたかもしれないからな」
「うん。僕、カズトさんの役に立ちたくて・・・」
「わかった。わかった。シロ」
「はい?」

 シロを抱きしめた。

「シロ。ありがとう。これからも、俺が足りないと思った事をやってくれ、俺はお前を頼りにしている」
「はい!」

 軽くキスをして身体を離す。

『マイロード』

 ティリノが何か有るのか?

「どうした?ティリノ?」

 シロに聞かせるという意味もあるが、念話ではなく普通に答える。

『はい。魔の森のダンジョンはどうしましょうか?それと、この建物はダンジョンにしないのですか?』
「え?ダンジョンにする?どういうこと?」

 ティリノがいきなりぶっこんできた。

「ティリノ。ダンジョンにする?どういう事だ?」
『建物をダンジョン化しておけば、移動が楽に出来ます』
「どういうことだ?移動は、転移門が必要だろう?」
『え?マイロード。ペネムからそう聞いたのですか?』
「あぁ」

 ティリノの認識では、ダンジョンは飛び地でも作られるようだ。
 そして、作ったダンジョンは空間を繋げる事ができるという事だ。

「ペネム。聞いた事はあるか?」
『我が主。我はそのような事は聞いた事が有りませぬ』

 どうやら同じダンジョン・コアでも権能に若干の違いがあるようだ。
 知識量もそれに合わせて違っているのかもしれない。

「ティリノ。でも、このログハウスは、チアルダンジョンの上に立っているぞ?できるのか?」
『やってみましょうか?』
「うーん。副作用が怖いな。洞窟で試してみるか?ペネムはどう思う?」
『我も、その方が良いと思います』

 シロを見るとうなずいている。
 話の断片だけしかわからなかったのかもしれない。念話での会話は、聞かれる事がないが、誰が聞いているのかわからない事が困るのだよな。

「ティリノ。ペネム。お前たちを身に着けている場合には、念話ができるよな?」
『マイロード。触れている者や近接のサブ・コアには意思が伝わります』

「それなら。ティリノ。ペネム。お前たち、サブ・コア作られるよな?イヤーカフスの形で複製を作ってくれ」
『はい』『かしこまりました』

 ティリノとペネムがイヤーカフスを作り出す。
 戸惑っていたので、シロの耳に付けてやる事にした。

 これで、近接にいる場合に、ペネムとティリノの会話がシロにも伝わるはずだ。

 ログハウスにいる面々に洞窟に戻る事を告げて、シロと洞窟に戻る。アズリだけは連れて行く事にした。何か有った時の戦力としては、下の階に、カイとウミとライとエリンが残っているので問題は無いだろう。

 洞窟に戻って、ティリノに話しのつづきをしてもらう
「それで、ティリノ。ダンジョン化する事のメリットとデメリットは?」
『メリットは、ダンジョン内の任意の場所と繋げるので、移動が出来ます』
「それは、距離は関係ないのか?」
『もうしわけありません。わかりません。しかし、魔の森?で試していた程度の距離では問題ありません』
「そうか、わかった。要確認だな。それで?」
『はい。ダンジョンへの侵入者がわかります。常にスキル探索がかけられていると思ってください』
「確かに便利だな」
「カズトさん。それなら野営のときに使えば!」
「なぁティリノ。そのダンジョン化は解除できたりするのか?」
『いえ・・・。まだできません』
「そうか、シロ。ダメなようだ」
「そのようですね」
「設置できる数には制限はあるのか?」
『魔力量に依存します』
「それでデメリットは?」
『移動時に、移動者の魔力を使います』
「ん?設置は、お前の魔力を使って、移動時にはお前の魔力と移動者の魔力を使うのか?」
『そう考えていただいて問題ありません』

 たしかに便利だけど、俺やシロの部屋をダンジョン化するメリットにはならないな。
 ログハウスも除外だな。あまり長距離移動には適さないようだし、転移門の代わりができると思ったけど、どうやら俺達専用の移動手段の一つと考えたほうが良さそうだな。

「そうなのか・・・。使い所が難しいな」
『マイロード。魔力は微々たる量です。魔の森?でゴブリンなどが移動できていました』

 その程度でいいのなら、各区を繋ぐゲートには使えそうだよな。

 よし、ペネムと一緒にティリノの魔力増強計画を立てよう。
 ペネムにはもっともっとダンジョンを拡張してほしい。ティリノには、安全面を考えて、チアル大陸全域を覆うくらいになってくれたら、いろいろ考えられる。

「ティリノ。(ゲート)のような物を作って移動する事は可能なのか?」
『できます』
「そのときに、(ゲート)を使える者を定義する事はできるか?」
『具体的には?』
「そうだな。魔力の登録は人数が多くなると管理が煩雑になりそうだよな。シロ何かいい方法はないか?」
「カズトさん。魔核を埋め込んだ、勲章のような物は作られませんか?」
「勲章?」
「はい」

 シロの説明は、代官になるときに俺と面通しをするのだから、そのときに、代官だという証を渡す事にして、その証に魔力を流し込むと、ゲートが使えるようになる仕組みだという感じだ。
 ティリノに聞いても、ペネムに聞いても、問題ないという事なので、採用する事にした。
 細かい調整は、来週に話し合う事にした。

 その上で、現在ペネムの認証も全部変更しようと思っている。
 今の魔力登録型では面倒に感じている。主に、俺の手間の意味で・・・。勲章方式なら、最悪偽ツクモに代役をやらせる事もできる。

 大きな方針は決まった。
 (ゲート)は現地に行かなければできないという事なので、SAやPAには配置しない。行くのが面倒だからだ。
 そのかわり、各区と道の駅にはゲートを繋げる場所を用意する。

 まずは、俺が必要としている所だけを繋いでいけばいいだろう。その後、訪問時に増やしていく事にする。
 眷属の部屋の下に新たにゲートだけの部屋を作る事にする。俺専用のゲートだ。それ以外は、来週の全体会議で決める。

 まずは、ロックハンド港と繋いでおけば作っている最中の場所だし都合がいいだろう。
 勲章の準備はしておこう。使う使わないは別にして有って困るような物では無いだろう。

「カズトさん?」
「ん?あぁ悪い。考え事をしてしまったようだ。ティリノ。まずは、この下の階層を作るから、そこをダンジョン化してくれ、あとは追って指示を出す」
『かしこまりました』

 ダンジョン化の件はこれで大丈夫だろう。
 あとは、眷属達に任せる事にしよう。

「シロ。エーファたちの事を考えるか?」
「はい!それで、カズトさん。僕、考えたのだけど、まず、エーファたちにスキルカードをもたせて、戦闘訓練をしてはダメですか?」
「ダメじゃないけど?大丈夫なのか?」
「大丈夫だと思います。僕もいるし、アズリはかなり強いと思います」
「そうだな。スキルカードを使わせて、特性を見るという事だな」
「はい」
「わかった。それでやってみよう」
「ありがとうございます」

 そうだよな。
 エリンも付いてくるだろうし、大所帯での戦闘訓練になるだろうから、何かある事は考えにくいよな。

「チアルダンジョンの30階層付近で大丈夫だろう」
「はい。大変そうだったらまた考えればいいですよね?」
「あぁそうだな」

 カイとウミとライは、賛成したのだが階層を50階層付近にしたほうがいいと提案してきた。
 オリヴィエは、準備をしてからにしたほうがいいと言ったのだが、リーリアがシロの眷属に準備が必要ないという事から、”即刻出発でも問題ない”としか、言えない状況になっていた。

 エリンは、戦える事が嬉しいのか賛成している。
 ステファナとレイニーは、シロが行く所についていくだけだという反応を示している。

 簡単にいうと、何の問題もなく()()()()から試す事になった。
 ウミとエリンは自分たちの出番が有るだろう事を予測しているが、あくまで新しく眷属になった者たちの戦闘訓練だという事を忘れないようにしてほしい。無駄だろうけど・・・。
 まずは、ウミとエリンとアズリを全面に出して戦闘訓練をさせる。特に、アズリはスキルが豊富についているので、その訓練も兼ねている。

 その後、30階層付近まで戻ってきて、眷属たちの戦闘訓練を行う事になるだろう。

 スーンに連絡をして、予定を伝える。
 ルートガーにも伝えておく。

 今回は、それほど長くダンジョンに潜らない事を伝える。
 来週の全体会議には出席しなければならないからだ。

---

「そろそろ戻るぞ?」

 30階層で戦闘を繰り返す事で、眷属たちが経験を積むことができた。
 今回は出た魔核はそのまま吸収させた。持って帰る必要は無いと判断した。

 眷属たちも進化して、新しい固有スキルを得た者も出てきた。

// 名前:エーファ・ブルーホルツ
// 種族:フォレスト・ノーヒューム・フォックス
// 称号:シロ・ヴェネッサ・ヴェサージュの眷属
// 固有スキル:魅了・誘引(レベル3)
// 固有スキル:憑依(レベル2)
// 固有スキル:人化(レベル1)
// 体力:D
// 魔力:D

 エーファは人化を取得した。
 レベル1だと、狐耳と狐しっぽが消せないようで、すごく可愛い感じになってしまう。
 妙齢の女性に耳としっぽが生えているのだ。種族も”ノーヒューム”という新しい物がついている。

 攻撃手法は、状態異常攻撃を好んだ。
 俺やシロからの指示を聞いて、エーファが子供や他の眷属達に伝えるという感じになる事が多い。人化できた事で、指示がしやすくなった。カイとウミとライが俺とシロの周りで護衛のような形になった時でも、眷属達への指示が的確に出せるようになる。

 司令塔の役目だろう。
 そういえばエーファのしっぽは二本に増えている。
 もしかして、九尾まで増えるのかもしれない。それはそれですごく楽しみだ。

// 名前:エーファ・ブルーホルツ
// 種族:イリーガル・フォレスト・ノーヒューム・フォックス
// 称号:シロ・ヴェネッサ・ヴェサージュの眷属
// 固有スキル:魅了・誘引(レベル3)
// 固有スキル:憑依(レベル2)
// 固有スキル:人化(レベル1)
// スキル:念話
// スキル:状態異常攻撃
// スキル:詠唱破棄
// スキル:回復
// スキル:---
// スキル:---
// スキル:---
// 体力:D
// 魔力:D

 エーファの子供達は体力や魔力が上がってきている。経験が足りないのか、固有スキルを取得出来なかったようだ。
 スキルをつけるのは進化してからの方がいいだろうという事だったので、現状は保留する事になった。

 そのかわり、狐の姿でも身につけられる首輪にスキルを付与して、体力向上や速度向上や攻撃力向上を付けて戦闘で困らないようにする事になった。エーファが、自分の子どもたちに付けられた首輪を羨ましそうにしていたけど、俺は妙齢(24-5歳に見える)の女性に首輪をつける趣味はないので却下した。そのかわり、シロと一緒に服を買いに行かせる事にした

// 名前:ティア・ブルーホルツ
// 性別:オス
// 種族:フォレスト・フォックス
// 称号:カズト・ツクモの眷属
// スキル:念話
// スキル:---
// スキル:---
// スキル:---
// スキル:---
// スキル:---
// 体力:E
// 魔力:E

// 名前:ティタ・ブルーホルツ
// 性別:メス
// 種族:フォレスト・フォックス
// 称号:カズト・ツクモの眷属
// スキル:念話
// スキル:---
// スキル:---
// スキル:---
// スキル:---
// スキル:---
// 体力:E
// 魔力:E

 レッチェとレッシュは、種族進化した。
 カラーが付いた進化だった。風鎧の派生なのだろうか、イエローがついた。雷属性が芽生えるかもしれない。

// 名前:レッチェ・ブルーホルスト
// 性別:オス
// 種族:フォレスト・イエロー・イーグル
// 称号:シロ・ヴェネッサ・ヴェサージュの眷属
// 固有スキル:爪斬撃(レベル1)
// 固有スキル:風鎧(レベル2)
// スキル:念話
// スキル:速度・命中超向上
// スキル:---
// スキル:---
// スキル:---
// 体力:D
// 魔力:F

// 名前:レッシュ・ブルーホルスト
// 性別:メス
// 種族:フォレスト・イエロー・イーグル
// 称号:カズト・ツクモの眷属
// 固有スキル:風鎧(レベル1)
// スキル:念話
// スキル:速度・命中超向上
// スキル:---
// スキル:---
// スキル:---
// 体力:D
// 魔力:F

 2人からの要請で、速度・命中超向上だけをつける事にした。
 もう少し訓練をしたいという事だ。

// 名前:エルマン・ブルーヴェルト
// 性別:オス
// 種族:イリーガル・インビシブル・フォレスト・デス・アウル
// 称号:カズト・ツクモの眷属
// 固有スキル:不可視(インビジブル)(レベル1)
// 固有スキル:夜目(レベル2)
// スキル:念話
// スキル:即死
// スキル:影移動
// スキル:体力・攻撃力超向上
// スキル:速度・命中超向上
// スキル:詠唱破棄
// スキル:---
// スキル:---
// 体力:D
// 魔力:C

// 名前:エステル・ブルーヴェルト
// 性別:メス
// 種族:イリーガル・インビシブル・フォレスト・シャドー・アウル
// 称号:カズト・ツクモの眷属
// 固有スキル:不可視(インビジブル)(レベル1)
// 固有スキル:夜目(レベル1)
// スキル:念話
// スキル:影移動
// スキル:体力・攻撃力超向上
// スキル:速度・命中超向上
// スキル:詠唱破棄
// スキル:---
// スキル:---
// スキル:---
// 体力:D
// 魔力:D

 エルマンとエステルは、種族進化した後で、希望したスキルを付けたら、二段階目の進化をしたようだ。

 スキル枠を全部埋めなかったのは、カイからの提案だった。
 30階層くらいの魔物との戦闘で決めてしまうのはもったいないという事だ、これから最下層まで目指す段階で強い魔物が増えてくるだろうし、スキルカードのレベル9や10も出てくるだろう。そうしたら再度調整しなければならない。それなら、今は戦えるレベルまで持っていけばいいだろうという事だった。

 眷属達も同意したので、必要最低限の強化を行って、今後に得られるであろうスキルカードで再強化を行う事にした。
 そのかわり首輪にチャームを付けて、そこでスキルを付与する事にした。

 エーファだけではなく、シロやリーリアやアズリが欲しそうにしていたので、ブレスレットやアンクレットを作成して、そこにチャームをつけるようにした。エーファの場合は、人化していない時としている時の2つを与える事になってしまった。
 ステファナとレイニーは言葉に出しての要望はなかったが、欲しそうにしているのがわかったので、シロと色違いで小さめで目立たない物を作ってやった。正直な話・・・。戦闘よりも疲れてしまった。

 エリンが竜体の時にできる物を欲しがったが勘弁してもらった。

 眷属達の強化も一応目処がたった。

 あれから、エーファはシロの隣で人化して過ごす事が多い。人化での戦闘に慣れるためだと言っているが、どうやら食事が気に入っているようだ。別に、狐形態でも同じ食事をさせるぞと言ったのだが、人化を解こうとしない。どうやら他にも理由が有るようだ。

 俺が気にしてもしょうがないだろうと思って、エーファの好きにさせている。

 今日、シロとエリンとステファナとレイニーとエーファで買い物にでかけた。
 下着は、メイド(ドリュアス)が持ってきているが、服は自分で選んでみたいという事だ。ついでに、エーファの武器と防具も揃えてくるようにお願いした。シロにスキルカードを渡しても良かったのが、なんとなく心配だったので、ステファナとレイニーに分担して持つように頼んだ。
 シロが不貞腐れていたが、スキルカードを持つよりも、エーファの武器と防具をしっかり選べるのはシロだけだと言ったら機嫌をなおしてくれた。

 カイとウミとライは、エリンとアズリとティア/ティタ/レッチェ/レッシュ/エルマン/エステルと何故か巻き込まれたナーシャを連れて、チアルダンジョンの探索をすると言ってでかけた。

 ナーシャが、”えっえっえぇぇぇぇ”と叫んでいたが、誰も同情もしなければ、助ける事もしなかった。

「それで、イサーク。言い訳を聞こうか?」
「ツクモ様。申し訳ない」

 イサークとガーラントとピムが揃って頭を下げる。

「何度目だ?」
「本当に、申し訳ない」

 イサークたちとはカイとウミとライたちの初期眷属の次の次くらいに長い付き合いになっている。

「ナーシャも何気なく・・・は、ダメですよね」
「そうだな。今回は、行政官がすぐに動いて、大きな問題にならなかったけど、対応が遅れたら結構たいへんだったぞ」
「わかっている。わかっている」

「ふぅ・・・オリヴィエはどうおもう?」
「そうですね。イサーク殿たちは冒険者ですよね?」
「あぁ」「はい」

 イサークが相槌を打っている。

「もう行政官にしてしまって、どこかの代官にしてしまったらどうですか?」
「お!確かにそれいいかもしれないな」
「ナーシャも、今の身分で知っている事が多いから問題になるのだから、身分を与えて、自由を減らせばいいと思いますよ」
「そうだな。ポストは沢山あるのだし、やってほしい事も沢山ある。それに内情をある程度知っている人間を野放しにしていた今の状況が異常だな」
「はい」

「ツクモ様。俺達の意思は?」
「ん?言えると思うか?」
「・・・。思いません。でも、ナーシャだけで・・・。ダメですよね。はい。わかっています。謹んでお受けいたします」

「ガーラントとピムは?」
「ワシか?ワシも、イサークに付き合う」
「ありがとう」

「僕も、同じ考え。イサークに付き合うよ。どうやら、それが一番面白そうな事だからね」
「ありがとう」

「さて、イサーク。ナーシャは多分来週まで帰ってこないだろう」
「え?」
「エリンとアズリが戦い足りないと言っていたからな。ナーシャが初めてだと解れば、低階層から60階層くらいまで連れ回すはずだぞ?ライもいるから食事には困らないだろうからな」
「うへぇ・・・」「よかった」「そうじゃな。ナーシャ・・・。自業自得だな」

 イサークが俺の方を向いて

「それで、ツクモ様。俺達の職場は?」
「ちょっと待て・・・。オリヴィエ。あそこがいいと思うのだけどどうだ?」
「大丈夫だと思います。ナーシャには罰の継続にもなりますし、イサーク殿たちなら大丈夫でしょう」

「おい。イサーク。ワシは嫌な予感しかしないのだけど気のせいか?」
「ガーラント。俺も同じだ」
「僕もだよ。ツクモ様のあの笑顔はきっとろくでもないことを考えているに違いない」

「おいおい、ピム。俺は、いつでも優しいぞ?ナーシャの甘味抜きとカイたちの運動不足解消に付き合うで許したのだからな」
「それを言われてしまうと・・・」

 3人は諦めたような表情をする。
 連帯責任は好きでは無いのだが、今回ばかりはそうも言ってられない。今まで秘匿していた、居住区の存在を話しそうになったのだ。居住区がバレル事は問題に無いのだが、獣人族の街は行政区と商業区と自由区が基本となっている。居住区は、そこに住めない者たちが住んでいる事になっているのに、ナーシャは何気ない雑談で他の大陸から来ている商隊にその事をバラしそうになったのだ。
 商隊が居住区の存在を知れば、そこから素材の本当の入手先がバレてしまう可能性がある。それを隠すためのペネムダンジョンで、ダンジョン内の街なのだ。ナーシャは根幹部分をバラしそうになったのだ。
 近くに居た行政官が間に入った。この時点で、”まずい”と思ったイサークがナーシャの口を塞いで、俺の所につれてきたのだ。
 その後、居合わせた行政官からの報告が上がってきた。商隊には、居住区の事をぼかすために、ブルーフォレストの内部に小さな集落があり、その集落からの素材も入ってきているという事で納得させたようだ。

「イサーク。お前には、新しく作る港の代官になってもらう。そこで、ナーシャを嫁にしろ。結婚しろ」
「は?」
「これからは、お前一人がナーシャの全責任を追うことになることがわかるよな?」
「・・・。承ります。ですが、俺が代官でいいのですか?」
「あぁ大丈夫だ。ガーラント。ピム。お前たちも一緒に行ってもらうぞ?いいな」
「はい。承ります」「腐れ縁じゃ。ツクモ様の話を受けよう」

「でもよ。ツクモ様。代官なんて俺やったこと無いぞ?」
「大丈夫だ。俺でも領主のマネごとが出来ている。お前にも代官くらいはできるだろう。最初に、話を聞いた時には、お前とナーシャでチアル街全部を見させようかと思ったのだけどな・・・」

「ツクモ様。イサークとナーシャだと3日で街が潰れますよ」
「ピム!」
「俺もそう思って考え直した、そして新しい港の代官にする事にした」
「ツクモ様も酷いですよ」
「そうか?なら、チアル街の領主をやるか?今なら全部任せるぞ?」
「謹んで辞退申し上げます。分不相応でございます」
「それなら、代官は受けるのだな」
「わかりました。それから、ナーシャとの結婚は・・・」
「なんだ嫌なのか?」
「いえ、そういうわけじゃないのですが・・・」

 煮え切らない男だな

「ツクモ様。イサークは、考えすぎなのです」
「だろうな」
「内心では、ツクモ様のご命令なので、嬉しいという気持ちを全面に出せなくて困っているのです」
「なんだそりゃぁ?!まぁいい。イサーク。ナーシャが帰ってきたら、結婚と代官夫人になる事をナーシャにも説明しておけよ」
「・・・。はい」

「ピム。ガーラント。その時の様子を後で教えてくれよ。なんならスキル道具をもたせるからな。後でじっくり鑑賞しような」
「はっ!」「承ります」

「おっお前たち!ツクモ様も、そりゃぁ無いですよ」

 ひとしきりイサークをからかって笑ったあとで、赴任先になるロックハンドの説明を行う。
 ロックハンドは作ったばかりで入植が行われていない事を説明した。

 その上で今後の計画として魔の森の資源化を行う事も説明する。
 橋頭堡は休憩場所だがそれだけでロックハンドが魔の森に入るための玄関口になる。

 ユーバシャールでは魔の森まで距離がある。湿地帯は、集落が点在している上に湿気が多いのでなれない者には辛いだろう。
 ロックハンドは軍港の意味合いもあるが、魔の森からの資源の集積場の意味合いもある。
 港から各大陸に持っていく事も可能だろう。ロングケープやパレスキャッスルに持っていってもいいかもしれない。

 まずは、イサークたちが中心となって街を作っていく必要がある。
 基本的な部分や設計は出来ているので、あとは管理と運用をしていく事になる。最初の頃は、魔の森からの魔物の襲撃にも備えなければならない。文官と武官を両方共派遣するよりも、少しは頭がつかえる、武官を派遣した方がいいだろう。
 それに、イサークとナーシャならロックハンドが大きくなってきて、代官に求められる資質が変わった場合に、交代を申し付けても文句を言わないどころか嬉々として交代する可能性が高い・・・。と、思っている。

「ツクモ様。すぐに移動開始しますか?」
「イサーク。お前、何を聞いていた。ナーシャをおいていくのか?」
「え?あっ!」
「それに、さっき言ったよな?来週の全体会議で任命してからになるってな」
「あっ」
「大丈夫か?オリヴィエ。やっぱり、お前が行くか?」
「ダメです。マスターの側を離れる事は出来ません」

 懸案事項だった。ロックハンドの人事が決定した。
 ナーシャがタイミングよく問題を起こしてくれた。謹慎処分と言っても、冒険者である彼らにはそれは意味がない。

 意味がある形にしてやればいいだけだったのだ。

 イサークたちが、何かを諦めた表情になって執務室から出ていく。
 俺の前には、オリヴィエが新しく淹れて湯気が出ているお茶が置かれている。

「マイマスター。よろしかったのですか?」
「ん?最善の策だと思うぞ」
「はい。でも、彼らは他にもいろいろやっています。それを外してしまっても良かったのですか?」
「どうだろうな。でも、彼らが抜けて崩れてしまうようなやわな体制にはしていないよな?」
「もちろんです」
「それなら大丈夫だろう。それよりも後始末は問題ないよな?」
「はい。問題ありません」

「ナーシャに声をかけてきた商隊の正体は解ったのか?」
「はい。マイマスターの予想通りでした」
「・・・。そうか、厄介な事にならなければいいな。できれば、仲良くしたいのだけどな」
「そうですね。それで、どう対処いたしましょうか?」

 面倒だけど、面倒だと逃げるわけには行かない案件だよな。

「わかった、オリヴィエ。メリエーラ老を呼んでくれ」
「かしこまりました」

 ふぅ面倒事にならなければいいのだけどな
 偶然だと思えないし、偶然だとしたら、ナーシャの罰を重くすればいい。

 20分ほど決裁が必要な書類を眺めていると、ドアがノックされた。

「マイマスター。メルエーラ殿をお連れしました」
「わかった、入ってもらえ、オリヴィエ。お茶を頼む」

「ツクモ様。ワシに何か用だと聞いたが?」
「まぁメルエーラ老。座ってくれ、長い階段を歩かせて申し訳ない。お茶でも飲んで一息いれてくれ」
「ホッホホホ。ツクモ様。お気遣い感謝する。しかし、不要じゃ本題に入ってくれ」

 腹の探り合いをするつもりはないという事だな。

「そうか、先日一つの商隊が、俺が前から親しくしている冒険者に話しかけた」
「・・・」
「そのときに、どうやら周りから聞いている限りでは、商隊が答えを知っていて、その冒険者に喋らせるようにしたのではないかという事だ」
「・・・」
「メリエーラ老。何か言いたい事はあるか?」

 オリヴィエがお茶を持ってきた。
 俺には少し熱めで、メリエーラ老にはぬるめにしている。

「ふぅツクモ様。その商隊は、エルフだったのかえ?」
「あぁ聞いた話だし、偶然居合わせた行政官が執り成してくれて問題にはならなかった」
「そうかえ・・・。あの馬鹿共・・・」

 メリエーラ老を見つめる。
 まだ何か言葉を続けてくれるはずだ。

「ツクモ様。間違いなく、エルフ大陸から来たものじゃろう」
「あぁ」
「あやつら。ワシが言った事を信じていないようじゃ」
「どういう事だ?」

 メリエーラ老の説明では、チアル街とチアル大陸の事を説明して、手出しするなと伝えて有ったそうだが、それを一部のエルフが、メリエーラ老とその一派が有りもしない街をでっち上げて、ブルーフォレストと魔の森の資源を独占しようとしていると思っているようだ。
 ダンジョンの恵みではなく、森の資源の方がエルフとしては大事だという事だ。エルフの大陸では、森の木が大量に枯れたり土砂崩れで一部の集落が移動を余儀なくされたりしたそうだ。
 それで、資源が豊かな(だと思える)ブルーフォレストや魔の森に移住を考えていた所に、チアル街が出来上がったから、一部のエルフ達はメリエーラ老とその一派が人族や獣人族と手を汲んで、豊かな森を独占しようとしていると考えたようなのだ。
 一部のエルフ達は確かめるために、商隊に混じって情報収集しに来たという事らしい。

「なぁそれで、ナーシャを扇動する意味があるのか?」
「それは、さっき言った通りに、森の恵みがほしいのじゃよ」
「あぁそれで?」
「森の中にはエルフ以外に居てほしくないのじゃよ」
「あぁそれで、実は森の中に、集落があって、獣人はエルフが得る森のめぐみを不法に採取して財を得ているって事にしたかったのだな。扇動相手にナーシャを選んだのは偶然の要素が強かったという事だな」
「そうなる。そもそも、奴らがあの森の中に入って、半日以上生きていられるとは思えぬ」
「そりゃ弱いな20階層くらいで死にそうだな」
「ダンジョンなら、10階層を越えられないだろうな」
「わかった。戦争を・・・。紛争を前提とした偵察や扇動じゃないのだな?」
「それは、ワシの老い先が短い命をかけてもいい。もし、そんな事になったら、ワシがエルフ大陸に行って奴らを滅ぼしてくる」
「そこまでする必要はない。敵意を向けたら、敵意で返すだけだからな」
「わかった。肝に銘じておく、奴らにもそう伝えておく」

 偶然が重なった結果だな。
 今の所は、メリエーラ老の言い分を信じる事にしよう。

 もし違ったら、そのときに対処を始めても問題は無いだろう。
 エルフ大陸は距離が離れているし、どうやら話を聞くと一部の者だけだし、なんとかなるだろう。

 メリエーラ老が執務室から帰っていった。
 帰りは、執事(エント)の一人が送っていくようだ。

「オリヴィエ」
「はい。マスター」
「シロ達は暫く帰ってこないよな?」
「奥様が皆を引きづり回していると報告が来ています」
「そうか、それじゃ帰ってくるのは、夕方になるな」
「はい」

 本当に久しぶりだな。
 オリヴィエがいるけど、一歩も二歩も下がっているから存在を認識できない時もある。

 エントの特性が出ているのだろうか?

 溜まっている決裁書類を読み込んでいく。

「なぁオリヴィエ。犯罪者が増えているけど、これって管轄する場所が増えたからだよな?」
「はい」
「年齢が高い犯罪者が多いけど・・・。この犯罪者の総数の書類を作ったのはどこだ?」
「・・・」
「シュナイダー老のところか・・・。話を聞けないか?」
「かしこまりました。予定を確認しておきます」
「あぁ頼む」

 統計上の問題というわけではなさそうだな。
 人口を見てみても、それほど偏りが有るわけではない。俺が作った場所に、スラム街が発生したという話は聞かない。
 それ以前に、仕事は本当に腐るほどあるのだ。

 確か、仕事をまとめた者も出てきているはずだ。
 仕事が不足しているわけではなさそうだ、人気の違いは有るけど、まんべんなく求人の方が多い形で推移している。この資料も、シュナイダー老の所が作成した書類だ。

 他にも提出された資料を見比べている。
 うーん。Ex○elとは言わないけど、電子計算機がほしい。AS/4○○でいいのだけどな。M-16○○なんてあれば最高なんだけどな。

 現実逃避していてもしょうがない。
 メモ用紙代わりにしている。羊皮紙にペンを走らせる。やはり、年齢が高い者の犯罪率が突出して高くなっている。低年齢層と比べると、3倍から4倍くらいだ。

 ドアがノックされた。

「マスター。シュナイダー殿とリヒャルト殿がおいでです」
「リヒャルト?まぁいいわかった。入ってもらってくれ」
「はい」

 2人が執務室に入ってきた。
 手慣れているので、何もいわないでもソファーに座る。

 タイミングよく、メイド(ドリュアス)が俺の前には珈琲をおいて、シュナイダー老の前には緑茶をおいて、リヒャルトの前には紅茶を置く。俺にはミルクだけを、リヒャルトには砂糖とミルクを持ってきて、シュナイダー老の前には、最近開発を始めた”まんじゅう”が置かれる。まんじゅうから和菓子まで持っていきたい。お茶請けは和菓子が最高だからな。

「いつもながら、ツクモ様の所で出される物は刺激的ですな」
「そうか?実験に突き合わせて悪いな」
「こんな実験なら、いくらでも言ってくだされ。それで、本日はどのような御用でしょうか?」
「老に、話をする前に、リヒャルトがいる理由を聞いてもいいか?」

 紅茶のカップをおいたリヒャルトが俺を見る。

「ツクモ「シュナイダー様。俺から話させてください」」

 シュナイダー老が説明しようとしたのを、リヒャルトが遮って自ら説明してくれるようだ。

「ツクモ様。俺、商隊を今の番頭に譲ることにしました」
「ほぉ・・・。それで、お前はどうする?」
「それを相談に来ました」
「そうか、どこがほしい?」
「え?あっ・・・。魔の森を」
「欲張るな。あそこはまだ着手したばかりだぞ?ゼーウのスラムでは満足できないか?」
「え?よっよろしいのですか?」

 やはりな、本命は、スラム街なのだろう。
 魔の森は確かに魅力的なのだろうけど、これから開発を始める。俺が手を貸さない限り、数年は必要だろう。魔物の脅威を排除しなければならない。人手も無い、資金は有るけど十分かどうかわからない、広大な土地と未来の資源は約束されているがまだ夢物語に近い。
 そんな場所よりも、スラム街の開発の方が魅力的なのだろう。
 人手の確保はできる。構想も出来ている。街は協力的だ。街の中に属しているが、街とは違う理論で動かす事ができる。そして、大陸の中心になれる場所なのだ。街の中に街を作って、チアル街からの支援でゼーウを飲み込んでしまえばいい。

「あぁいいぞ?誰か、信用できる人を派遣しようと思っていたからな。代官扱いでいいか?全権委任でもいいぞ?」
「代官でお願いします。全権委任は重すぎます」
「わかった。次の全体会議で告知しよう」
「それでツクモ様。スラム街の解体と港の整備は同時進行でやるのですよね?」
「もちろんだ。ゼーウ街には筋は通している。港からの街道の整備も任せるぞ」
「はい。こちらと同水準にするのですか?」
「いや、SAやPAの設置は必要ないだろう。街道の整備だけでもだいぶ違うだろう?」
「もちろんです」

 スラム街の再生計画を伝える。
 商隊の協力も必要だったから、リヒャルトが申し出てくれたのは渡りに船だ。俺の事を、俺達の事を理解してくれている者が、大陸に打った楔を見てくれる。これほど心強いことはない

 シュナイダー老とオリヴィエを交えて、リヒャルトとスラム街再生計画を詰めていく。
 スラム街の解体とスラムの住民たちを使った産業の創出だ。目処は立っている。あとは実行に移すだけだ。

「リヒャルト。頼むな」
「はっ!」
「あっそれから、リヒャルト。元スラム街の名前な”カーマン”に決定したからな。もう変更は受け付けない。いいな」
「え?」
「いいな!」
「はい。承りました」

 シュナイダー老が笑っているが気にしてもしょうがない。
 リヒャルトを遊ばせておくほうが問題だったのだ。これで大きな問題が2つとも片付いた。

「さて、リヒャルトの件はこれでいいだろう。老?」
「はい。問題ありません。それで、ツクモ様」

 シュナイダー老が少しだけ怪訝な表情を俺に見せる。
 俺がテーブルに報告を広げたからだ。

「老。これらの報告書をまとめたのは、老のところだよな?」

 シュナイダー老が書類に目を走らせる。
 読み込んでいると言うよりも、記憶との整合性を確認しているようだ。

「はい。間違いありません」
「そうか、犯罪者の、それも高齢者の犯罪者が多いと思わないか?」
「え?」

 シュナイダー老は気がついていなかったようだ。
 リヒャルトも書類を覗き込んでいる。別に秘匿しているデータじゃないし、行政区に行けば誰でも見られる情報なので問題はない。ただ、まだこの世界では情報を閲覧して商売に結びつけるような発想にはなっていない。そのために、まだ公開情報の閲覧者は出てきていない。

「ツクモ様。高齢者の犯罪者の数は、それほど多くないと思いますけど?」

 数字だけを見て答えるのは想定している。

「リヒャルト。さすがは商人というところか数字は強い」
「ツクモ様。嫌味を言わないでくださいよ」
「悪い。嫌味のつもりはない。この資料を見てくれ」

 リヒャルトとシュナイダー老に、ミュルダ老とメリエーラ老がまとめた人口の推移と総数を書いた物を見せる。
 年齢は種族によってかなり違っている。そのために、種族ごとに幼年/少年/青年/老年/高齢と分けるようにしている。もう少し細かく分けたかったのだが、年齢的な事よりも精神的な部分が大きいので、この程度で十分だと判断した。

「あ・・・。ツクモ様。そういう事ですか?」

 やはり先に気がついたのは、リヒャルトだ。すぐに、シュナイダー老も気がついたようだ。

 さっきまで作っていた資料を2人に見せる。
 100人辺りの犯罪者の割合を記述した物だ。

「ツクモ様。これは?」
「俺が作った、わかりやすいだろう?」
「申し訳ない。計算方法を教えてもらえないか?」

 シュナイダー老とリヒャルトの食いつきがすごい。
 簡単な割合を出す方法を教える。それだけではなく、統計に関して、知っている事を教えておく、係数の考え方も教えて、全数調査を基本とするけど、抽出調査でもある程度の精度が出る事を教える。あとは、地頭がいいやつらがやってくれるだろう。

「話が横道にそれたな。これを見て、高齢者の犯罪が多いと感じて、シュナイダー老に話を聞こうと思った。これは数字的な事しか書かれていなくて、内容がわからなかったからな」

 シュナイダー老が覚えている限りだという前提で説明してくれた。
 ”不敬罪”そんな罪を作っていたのか?

 どうやら変わりゆく常識に付いてこられなかった者たちが高齢者に多いようだ。最初は、既得権益を壊された者たちが犯罪に走っているのかと思っていた。そうでは無いようだ。”不敬罪”なんて罪は存在しない。すくなくても、俺が関係している場所では、そのような罪はない。

 公然と上層部の文句が言えない社会は不健全に歪んでいく、上層部は反対意見にこそ耳を傾けるべきなのだ。

 不敬罪なんて都合がいい罪を作っても何の意味もない。

 スーンに念話で、不敬罪で捕らえられている者がいたら即刻開放するように伝えた。
 そして、捕らえられていた期間をしっかり保証するように伝える。これは、俺のミスだ。しっかり伝えていなかったからだ。

 幸いな事に、不敬罪で捕らえた者は、注意だけで終わらせていた。
 鉱山送りや洞窟送りになった者はいなかった。執事(エント)メイド(ドリュアス)に状況を確認して謝罪の意思がある事を伝える。

 シュナイダー老ももう少し情報を精査してみるという事だ。
 リヒャルトもスラム街と大陸の事で必要な物をまとめると言って、執務室から出ていった。

 俺は、不敬罪で捕らえられていた者全員に会っても良いと伝えたが、2人の老人だけが、俺との面談を望んできた。
 一人は、完全に外れだった。ただのやっかみで自分にも利益を寄越せと言ってくる人物だった。

 少しのスキルカードを渡して、リヒャルトの所におくる事にした。リヒャルトには、使えなければ放り出して良いと伝えてある。あそこなら、ゼーウ街が旧体制的な考え方の受け皿になってくれるだろう。ゼーウ街の改革にもついていけなければ、他の街にでも行けばいい。それは()()なのだからな。

 もうひとりは面白い老人だ。
 文句の方向が明後日の方向に向いている。俺の方針に文句を言いたかったのかと思ったが違った。もっと独裁的にやってもいいくらいだと言われてしまった。議会制の話も問題なし、それ以上に議会制の意味がわからないやつがいたら自分が説明してやるとまで言われた。

 この老人が求めたもの
「若造!」
「はい何でしょう」
「女性や子どもばっかりに媚を売りおって、老人を敬う事をしらないのか?」
「知っておりますが、その老人たちの要求が私が求めている方向と違うのです」
「馬鹿者。そんな愚か者の事ではない。ワシらの様に、若造に協力的な者への報酬じゃよ」
「報酬とおっしゃられても・・・。行政官などで、ご協力頂いている方には、かなりのスキルカードを渡しております」
「馬鹿者。ワシ等がそんな物(スキルカード)で動くとでも思っておるのか?」
「若輩者ゆえ、ご老人のお望みがわかりません」

 ソファーに座っている老人は俺の顔をまじまじと見てから
「若造。本当にわかっていないのか?ワシを焦らしているのか?」
「すまない。本当にわからない」

 老人を睨むように見つめる。
「かぁーーー本当のようだな。若造。ワシを試しているのかと思ったぞ。取り調べをされているときに、執事から出された料理の飲み物はなんだ?」
「なんだと言われても、ここの標準的な食事です」
「なんだと!あれが標準だと言うのか?」
「えぇ宿屋などはもっといい物を出していると思います」
「そうか、そうか、それならいい。それよりもだ!酒精が入った飲み物はなんだ!」

 えぇぇぇそっち?
 ドワーフでも無いのに、そこにツッコミを入れるのか?
「・・・」
「あれも、この街では標準的な物なのか?」
「えぇそうですね。食事のときに、レベル3数枚程度で飲めるようにしています」
「なっあの酒精がレベル4以下なのか?」

 俺は一つの疑問を老人に投げかける
「すまん。ご老人。一つお聞きしてよろしいか?」
「なんだ?」
「あの食事にしろ酒精にしろ、この街にいれば普通に手に入ります。なぜそれをご存じなかったのですか?」
「簡単な事だ。この大陸を離れていた」
「そうか」
「驚かないのだな?」

 驚かせたかったらもう少し情報を小出しにすればいいのにいきなりぶっこみすぎだ。それに・・・
「ご老人。アトフィア教の大陸に行っていたのだろう?強硬派とは思えないし、穏健派なのだろう?教皇派とも思えない」
「カッカカカ。若造。ここで、その話をするか?」
「えぇそうですね。タイミングは悪くないと思うのですが?」
「もう一歩じゃな」

 ・・・
 まだ俺は何かを見逃しているのか?
 ご老人が、アトフィア教ならここまで入り込むのは難しい。”不敬罪”で捕らえられるだけで済むわけがない。

 そうか・・・!!

「ご老人。失礼した。コレッカ教の枢機卿だとは思い至りませんでした」
「ほぉ・・・」

 ご老人は、目を細めて孫でも見るかのように俺を見る。
 そして嬉しそうに

「鑑定を使わなかったのは合格じゃよ。カズト・ツクモ殿。いや使徒様と呼んだほうがいいか?」
「使徒?さ・・・ま?」