ここは?
だるい。
ん?草の匂い?
あぁ・・・。
眩しい。ダメだ。俺は、天を空を感じていいのか?
俺は・・・。
生き残ってしまったのか?
手が動く、腕も動く・・・。
天を・・・。”天”なぞいらない。俺を庇って死んだ・・・。アルバン、カルラ・・・。アーシャを・・・。
「アル!」
誰だ?
俺の手を握るのは?
「アル!?」
また、違う奴か?
頭が痛い。
思考に靄がかかっているようだ。考えたくない。起きるのも・・・。
「アルノルト・フォン・ライムバッハ!」
誰だ?
そうだ。
俺は、”アルノルト”。
違う。
俺は・・・。
「いい加減に起きろ!アル!」
アル?
アルバン?
「お前!勝手に死ぬのは許さん!俺との・・・」
煩い。
疲れた。黙れ!俺に命令をするな!
煩い奴だ。お前、誰だよ?
死ぬ?
誰が?
俺か?
俺は、死なない。
アーシャに言われた。
俺の本懐を・・・。
そうだ、俺は、やらなければ、ルグリダを、ラウラを、カウラを、アルバンを、アーシャを・・・。そして、父さん。母さん・・・。ユリアンネを!
クラーラ!
そうだ、クラーラを・・・。その為に、力を求めた。
求めた結果・・・。アルバンを、アーシャを、俺は愚かだ。
愚かだからこそ、止まることは許されない。誰が許しても、俺が許せない。
「アルノルト・フォン・ライムバッハ!いい加減にしろ!」
煩い奴だ。
起きているよ。
少しは休ませろ。
煩いのは一人ではないのか?
俺を呼んでいるのか?
叫ばなくても聞こえている。
大丈夫だ。
俺は、俺だ。
わかっている。やるべきことはわかっている。
疲れている。
休息が必要だとはおもわないのか?
「アルノルト様。エヴァとの約束はどうするのですか?」
「アル!いい加減に起きろ!」
エヴァ?
エヴァンジェリーナ・スカットーラ
そうだ。
迎えに行くと・・・。
眩しい。これは、俺を照らして・・・。皆を、照らしているのか?
皆?
俺は、アルノルト・フォン・ライムバッハ。
皆?
エヴァ?エヴァンジェリーナ・スカットーラ。エヴァは、元気にしているか?俺の・・・。俺が、愛した女性だ。俺を必要だと言ってくれた女性だ。待っていてくれると・・・。
皆?
ユリウス?リウス・ホルトハウス・フォン・アーベントロート。皇太孫。ユリウス。クリス?
クリス?クリスティーネ・フォン・フォイルゲン。ユリウスの婚約者で、フォイルゲン辺境伯の娘。
皆?
ギードとハンス?
ユリウスの護衛でついてきたのか?
ギルは?ギルベルトは?居るのか?
皆。
そんな顔をするなよ。
俺は、生きる。生きている。生き残ってしまった。
「アル!アル!」
「ギル?煩い」
「アル!!」
ギルベルトが俺に抱き着いてくる。
煩いよ。
生きているよ。
「アルノルト!」
「ギードとハンス?我儘な皇太孫の護衛か?」
ハンスが、俺の手を握って身体を引っ張り上げる。
立つのは無理だな。身体を起こすのがやっとだ。
「我儘を言い出した殿下についてきた」
「そうか、ご苦労なことだ。ギード。どうした?」
「ザシャに命令された」
ザシャ?ザシャ・オストヴァルト
エルフ族の女性だ。
「命令?」
「お前を連れてこいと言われた。連れてこなければ、別れると言われた。俺の為にも、お前を連れて帰る」
「ははは。それは、大変だな」
「あぁ大変だ。だから、協力しろ」
「わかった」
ギードが差し出した手を握る。
剣だこが出来ている素晴らしい手だ。ギードも修練を積んだのだろう。
「アル。イレーネが、エヴァを抑えている。俺の為に、早く帰るぞ」
イレーネ?イレーネ・フォン・モルトケ。
モルトケ男爵の娘だ。そつなくこなすバランサー的な女性だ。
エヴァを抑えている?
そうか、イレーネに迷惑をかけたのか?
「ハンス。悪いな。お礼は、精神的に返すことにするよ」
「わかった。今は、思いつかないから、貸しとく」
「そうか、取り立ては、手加減してくれ・・・。借りを返すのは、俺の目的を果たした後でいいか?」
「あぁ・・・。わかった。それでいい。いいか、俺の取り立ては激しいぞ!だから、一緒に帰るぞ」
ハンスが手を出してきた。
しっかりと握る。そのあとで、拳を合わせる。
ハンスも、護衛として力をつけたのだろう。
拳が硬くなっている。
「アル。ディアナが、アクセサリーの量産を希望している。頼めるか?」
ディアナ?ディアナ・タールベルク。
ドワーフ族の女性だ。魔法力がドワーフ族にしては高かった。
アクセサリー?
エヴァに渡した奴か?違うよな?
「量産?」
「そうだ。地金は用意する。ディアナが、叩いて不純物を取り除いた物だ。それで、チェーンを作って欲しい。らしい。俺には、解らない。だから、アル。お前をディアナの前に連れて行くのが俺にできる最善な方法だ」
「わかった。ディアナと会って話をする」
「作った物は、俺が扱うからな」
ギルベルトが手を出してくる。
しっかりと握る。慣れない剣でも握ったのか?やけに汚れている。
手を広げる。
俺の前に手をだしてきた。手のひらを勢いよく合わせる。
乾燥した心に、心地よい音が響いてくる。
俺は・・・。生きている。守られた。アルバンに、アーシャに・・・。皆に会う事が出来た。
エヴァに会う事ができる。
「アル。随分、遅い目覚めだな」
ユリウスが来ていたのか?
”来ない”という選択肢は無いのだろう。逆か?ユリウスが来たから、これだけ大げさな陣容になっているのだろう。
「あぁ。それよりも、ユリウス。カールは大丈夫なのか?」
「安心しろ。ヒルダが相手をしている」
ヒルダ?ヒルデガルド・ローゼンハイム・フォン・アーベントロート。
ユリウスの妹だったか?
「殿下。報告は正確に行いましょう。アルノルト様。ヒルデガルド様だけではなく、お屋敷の皆が、お帰りを待っております」
クリスの言葉で納得した。
カールは、家の者に預けてきたのだろう。イレーネとディアナが居るのなら安心できる。ザシャは、王都か?エヴァは、王都にいるはずだ。
違うのか?ライムバッハの領都に来ているのか?
エヴァが居るのなら、カールも安心だ。
「クリス。カルラは・・・」
「わかっている。あの子を褒めてあげて」
「褒める?」
「あの子は、貴方のアルノルト様の護衛になる為に、カルラ衆を私に預けてきたわ」
「え?」
「詳しい話は、領都で話しましょう」
「わかった」
「アル。立てるか?」
「大丈夫だ。魔力も回復している。もう・・・。大丈夫だ」
立ち上がる。
ふらつくが、ここで無様に倒れない。倒れたら、アルバンとアーシャに笑われてしまう。
両足で踏ん張って、大地を掴む。
もう大丈夫だ。
立ち上がって、天を見る。
「(アーシャ。アルバン。見ていてくれ!無様な姿はこれで最後だ)」
二人の声が聞こえた気がした。
「アルノルト様」
「事情の説明か?」
「はい。ある程度は、クォート殿から聞きましたが・・・」
「クォート。シャープ。ありがとう」
二人が綺麗に頭を下げる。
エイダが俺の所に何かを持ってきた。
『報告書です。襲撃者の記憶を再構築した物です。マスターの記憶を含めてあります』
エイダから報告書を受け取って、読んでから、クリスティーネに渡す。
クリスティーネは、報告書を読んでからユリウスに渡す。
「アル!」
好戦的な視線で、ユリウスが襲撃者たちを睨みつける。
「・・・。アルノルト様」
「どうした?」
「この者たちは、アルノルト様を襲ったのでしょうか?それとも、王国のウーレンフートにあるマナベ商会を襲ったのでしょうか?」
「ウーレンフートのマナベ商会が襲われた。アルバンとアーシャ。カルラを襲った時には、俺は名乗りを挙げている。クラーラが居たからな」
「え?クラーラ?あの?」
「そうだ」
クリスティーネがユリウスを制する。
今は、クラーラを追うのは不可能だ。力が足りない。追跡も不可能だろう。帝国に行ければ足蹠程度はわかるかもしれないが・・・。
「アルノルト様。この件は、ライムバッハ領で預かっていいですか?」
「もちろんだ。ウーレンフートは、ライムバッハ領にある都市だ。そして、マナベ商会はウーレンフートに拠点を構える商会です。ライムバッハ辺境伯にお預けいたします」
言葉遣いがごちゃごちゃになってしまった。
クリスティーネは、”いい”笑顔で笑っている。
「アル。共和国に報復を行う。ライムバッハを一時的に預かっている身としては、ウーレンフートの商会に対する攻撃は看過できない。これより、少数による報告を開始する。アルトワと最初の宿場までは確保するぞ!」
ユリウスの宣言で、侵攻が決定した。