異世界でもプログラム


 黒ドラゴンの正体が、人を核にしたキメラだった。

 煙が天に上がる。
 森の木々を越えたあたりで、煙が霧散する。

 それぞれ・・・。待つ人の所に向かっているようにも思える。

「兄ちゃん?」

「アル。お疲れ。カルラは?」

「姉ちゃんは、防具をまとめている」

 さっそく動き出している。
 アルバンの視線を追うと、カルラが防具をまとめている姿が目に飛び込んできた。

 俺とアルバンは、攻撃をかわすために、全力だった。スキルを使わない戦いは辛かった。
 途中からスキルを全開で使わなければならなかった。

 本当に、嫌らしい敵だ。

「旦那様」

 止まっていた。クォートとシャープが背後から声をかけてきた。

「お!」

 スキルの恩恵で動いているクォートとシャープは、黒ドラゴンの周りでは、スキルの発動が阻害されていた。(クラーラ)が何かを仕掛けたことも考えられるが、俺たちが居るとは知らなかったはずだ。

 動きが停止していた状況で、スキルが漏れ出さなかったら、黒ドラゴンから狙われなかったのか?

 動かなくなったのが、(クラーラ)が仕掛けたことで無ければ・・・。過剰電流ではないけど、過剰にスキルの発動が確認された時用のセーフティーネットが動いたのか?俺が組み込んだセーフティーネットとは違う動きだが、動かなくなるのは想定していたパターンの中に含まれている。

 あとで、調査だな。
 検証は難しいが、調べて対策を考えなければ、次に(クラーラ)と遭遇した時に・・・。木龍たちと同じように、対応が取られる可能性が高い。(クラーラ)には初見殺しを用意しなければ・・・。それも、複数の系統だ。(クラーラ)たちの上をいかなければ、狩られるとは俺になってしまう。

「旦那様。自己検査を行いました」

「何か、異常の発見がされたのか?」

「はい。一万六千九百一回の介入が発見されました」

「は?」

「いちまん」「数字は、いい。介入は?ハッキングという意味でいいのか?」

「はい。コアへの介入です」

「大丈夫なのか?」

「はい。介入前に、表層部分のスキルが負荷に耐えられずにフリーズしました」

 DoS攻撃を受けて、システムがシャッドダウンしたのか?
 対策を考える必要はあるけど、クォートとシャープは対策を行っている。それを突破されているのも問題だけど、負荷をかけることができるスキルが解らない。

 ん?

 表層部分のスキル?
 あれは、内部を守る為のファイアウォールの役割を持っている。攻撃を防ぐ目的もあるのだが、内部から外部にスキルが漏れ出さない様にする役割もある。

「クォート。表層部分の負荷で、内部へのスキル干渉ではないのだな?」

「はい。表層部分への負荷です。攻撃ではありません」

「鑑定やスキャンに近い物か?」

 ポートスキャンか?
 スキルで同じようなことができるのか?
 そもそも、外部インターフェースが違うから、意味があるとは思えない。

 クォートとシャープはスキルで構成されているが、根本部分は・・・。

 (クラーラ)は、”傀儡子”と表現した。クォートとシャープがスキルで動いている事を認識して、対応をおこなった。
 俺の知らないスキルを使ったのか?
 それとも、何か方法があるのか?

「詳細は不明です」

 飽和攻撃か?

「わかった。何か、問題はあるのか?」

「自己診断を行いましたが、問題は発見されませんでした」

「そうか・・・。カルラを手伝ってくれ、カルラが集めた防具を、アルトワ・ダンジョンに向っているエイダに届けてくれ、そのままウーレンフートに送るように伝えて欲しい」

「わかりました」

 クォートとシャープの動きを阻害するだけのスキャン?

 今は、調べられない。
 設備もなければ、手持ちの道具もない。

 そして、黒ドラゴンの本体と戦う時に、スキルを全開で使ったために、これ以上はスキルが使えない。俺だけではなく、カルラもアルバンもスキルを使い果たしている。半日くらいは使えない感じだ。

 継続戦闘には自信があったが、俺たちはまだまだ弱い。
 ダンジョンを攻略して、強者になったつもりになっていただけの弱者だ。

 もっと、力を・・・。
 (クラーラ)を殺せるだけの力を・・・。

---

 クォートとシャープがカルラを手伝って、防具を馬車に詰め込んでいる。

 ユニコーンとバイコーンは、離れた場所で止まっていたようだが、起動して戻ってきた。

 二体には、クォートとシャープにない情報があった。

 行動ログが生成されている。
 正確には、クォートとシャープにも行動ログは生成されているのだが、コアに連動した形になっていて、機能を停止してメンテナンスモードにしなければ、見られない。簡単に言えば、ウーレンフートやコア・ルームでメンテナンスを行う時にしか見る事ができない。

 ユニコーンとバイコーンのログをW-ZERO3で受け取った。

 ユニコーンとパイコーンは、クォートとシャープと一緒にアルトワ・ダンジョンからウーレンフートに戻る事が決定している。
 防具を積み込んだ馬車を曳いていくのには、ユニコーンとバイコーンが必要だ。クォートとシャープのログは、後日に確認するとして、まずは同等の機能を持っているユニコーンとバイコーンを調べる事にする。

 ログは、大きかったが、いくつかの情報を下にフィルターをかけたら、かなり情報を絞る事ができた。

 本格的に調べるのには、端末が必要だけど、辺りをつける位なら、この場所でもできる。

 ”この場所”で行う必要はないことは解っている。気になってしまっているのも事実だ。
 そして大きな理由は、俺もアルバンもカルラも黒ドラゴンとの戦いで疲れてしまっていて、身体が休憩を求めているからだ。

 何か食べたいとは思うけど、何も食べたくない。
 黒ドラゴンの核を思い出すと・・・。

 すぐに気持ちが落ち着くとは思うが、今は座っているだけの時間が欲しい。

 座っているだけでも、ログを見るくらいはできる。
 大きな理由として・・・。頭を動かしていないと、心が悲鳴を上げてしまう。

 クラーラの姿を思い出しては、心を奮い立たせるが、黒ドラゴンにされてしまった人たちの表情を思い出すと・・・。

 ログからは、推測が成り立った。

 大きくは外れていないとは思う。
 黒い靄が、纏わりつくと、スキルを吸収していた様に思える。

 スキルの吸収が、黒い石が持っている権能だと仮定する事もできる。

 黒い石を取り除いた、黒ドラゴンの本体はスキルの吸収ができていなかった。

 靄がコンバーターの役割を果たしていたのだろう。
 ログには、いろいろな攻撃が加えられたような痕跡が残されている。

 別の推測になるが、靄はスキルを吸収していたのではなく、スキルを相殺していた可能性がある。

 ”相殺”と考えても、全ての現象の説明は不可能だ。
 だけど、仮説として考えの始まりとしては、いいのかもしれない。

 ログからだと、ユニコーンとバイコーンは、弱いスキル攻撃を受け続けて、スキルが停止した。DoS攻撃を受けたサーバの様な動きだ。
 再起動時に、何かを仕込まれる可能性があるのかは解らない。内部に侵入された形跡はない。何かを持っていかれた可能性の否定はできないが、重要な情報は存在しない。直近の命令を持っていかれた可能性があるが、盗まれても困らない情報だ。

 今後の事を考えると、DMZを作るのは当然だとして、ハニーポットを置いておく必要があるかもしれない。
 コアをダブルにして、フォレンジック用のスキルを起動させた方がいいかもしれない。コストが倍になるが、クラーラたちを相手にするのなら必要な投資だろう。クラッキング対策の抜本的な見直しをしよう。

 クラーラが言っていた、帝国にも行かなければならないようだ。

『アルノルト様。私は帝国に帰ります。皇都に来られる時には、妖精の涙(ティアドロップ)を訪ねてください。盟主と共に歓迎いたします』

 皇都?帝都ではないのか?
 妖精の涙(ティアドロップ)は、奴が属している組織の名前だろう。
 盟主の存在。

 俺が目指すべき物が朧気ながら見えてきた。

---

 俺とアルバンとカルラは、休憩を選んだ。

 そして、俺は休憩を選んだことを・・・。

 戦闘は終わった。

 体力も気力も限界だ。
 精神的に疲れたので動きたくない。

 カルラも珍しく座り込んでいる。アルバンは、横になって目を閉じている。

 確かに、周りには脅威になるような物はない。

 クォートとシャープもユニコーンもバイコーンも機能が十全に使えるようになって、確認をしてから移動を開始した。

 クォートたちが帰って来るまで休憩する。
 さすがに、疲れた。

 葬送を終わらせて、やっと終わった感じがしている。
 辺りは、先頭の余韻が漂っているが、しばらくしたら消えるだろう。

 自然が戦闘を隠して、元の状態に戻すだろう。
 無残に奪われた命は、大地を撫でる風が拡散してくれている。

 クラーラへの復讐は、俺がやらなければならない。
 奴には奴なりの正義があるのかもしれない。

 ”正義のため”などというつもりはない。俺が行おうとしているのは、俺の我儘だ。傲慢な考えだと思っている。奴が属している組織にも興味が出てしまった。目的が解らない。共和国での”黒い石”の実験を行ったようだが、クラーラは関わっていないと言っていた。組織と言っても、皆が同じ方向を見ていない可能性もある。大きな組織や、トップが絶大なる力を持っている組織では、下が上の顔色を伺いながら別々の方向を向いてしまう。

 身体を起こして、足を投げ出して座る。
 風が心地よい。

 開発だけをして過ごしたいのに・・・。

---

 いきなり暗くなった?
 俺は寝ていたのか?

 違う。
 記憶が飛んでいる?
 何も見えない。

 二人の気配がしない。

 違う。
 二人だけではない。感じていた風も、大地も、何も感じない。

 スキルが何も反応しない。
 どうなっている?

「カルラ・・・?」

 自分の声が聞こえない?
 音が吸収されている?

 違う。
 声が出ていない。

「アルバン!カルラ!」

 二人が居ない。
 違う。俺が隔離された?

 どうやって?
 スキルか?

 解らない。
 解らない。

 解らない。

 考えろ。
 考えろ。

 ダメだ。
 思考を止めるな。

 何故だ。
 何があった?

 俺は・・・。

「アルノルト様!アルノルト様!」

 誰だ!
 俺は・・・。

「アルノルト様!」

 そうだ。
 俺は、アルノルト。アルノルト・フォン・ライムバッハ。

 背中・・・。

 違う。脇腹が熱い。
 刺された?

 誰に?

 カルラとアルバンは無事なのか?

 身体が動かない。

「カ・・・ル・・・ラ?」

 大丈夫だ。声が出る。
 音も聞こえる。

 風も感じる。

「あぁ・・・。アルノルト様。申し訳ございません」

「なにが・・・」

 俺は、倒れているのか?
 大地を感じる。

 カルラは片腕で俺を支えている?

 カルラの顔が血で染まっている。カルラの血か?

「アル・・・バン・・・は?」

「・・・。さい・・・しょ・・・に、・・・アル・・・バンが・・・。か・・・ば・・・」

 カルラは、何を言っている?

「っ!」

 動けよ!
 俺の身体!

 動け!動け!動け!

「アル!アルバン!」

「にぃぃ・・・。ちゃん。よ・・・かっ・・・た」

「アル!アル!アルゥゥゥゥゥゥ!!!目を瞑るな。アル!アルバン!まっていろ!いま、治して」

「にぃぃ・・・ちゃん。おい・・・ら、にいちゃんを、まもれ・・・た」

「もちろん。アル。だから、だから、だから、アルバン!」

「よ、かっ・・・た。にい・・・ちゃん・・・あ、りが・・・とう。おい・・ら。がん・・・ばった」

「アル!アル!カルラ!アルの近くに、俺を、俺を、いそいで・・・。え?カルラ?」

 なんで、カルラまで・・・。

「ア・・・ルノル・・・トさ・・・ま。わた・・・しも、おいと・・・ま、を・・・いただ・・・きたく・・・」

「ダメだ!カルラ!」

 なんで、アルバンとカルラを!誰だ!何故だ!

「いえ・・・。もう、わたし・・・は、アル・・・ノル・・・トさまの、おや・・く・・には・・・た・・・てま・・・せん」

「ちがう。カルラ。アルバン。おれには、お前たちが、カルラ!お前が必要だ。ゆるさ、ない」

「さいごに・・・。アルノルトさま。おねがいが」

「カルラ。さいご?ちがう・・・。これからも」

「アルノルトさま。わたしの、ほんとうのなまえ・・・。アーシャと、よんで・・・くだ・・・」

「アーシャ!アーシャ。なんどでも呼んでやる!だから・・・。だから!アーシャャャャャ!!!!」

「あり、が、と、う、ご、ざい、ます。アーシャは、しあ、わせ、もの、です」

「アーシャ。アーシャ!」

「・・・。あるのるとさま。おしたいしておりました、あるのるとさまのほんかいを・・・。おてつだい、できなく、なる、ふしま、つを、おゆ、るし・・・」

 なんで、俺は動けない!
 動け!動け!動け!

 カルラ!アーシャを!アルバンを!

 許さない。許さない。
 許さない。許さない。

---

 遠くで、誰かが笑っている。
 気持ち悪い笑い方だ。

 俺は、寝ていたのか?

 そうだ!

「カルラ!アルバン!」

『マスター。ご気分は?』

「エイダ?」

『はい。マスターの生体反応が微弱になったために、ウーレンフートに向かうのをキャンセルしました』

「・・・。カルラとアルバンは?」

『遺体は回収いたしました。私たちが到着した時には、手遅れな状態でした』

「・・・。エイダ。嘘だよな?」

『クォートとシャープが確認をおこないました。カルラ。アルバン。両名の生体反応が停止しているのを確認いたしました』

 揺れている所を見ると、馬車か?

「エイダ。どこに向っている?」

『国境です。捕えた者は、処分しますか?』

 俺は、こんなに冷静に考えている。
 頭の中は、冷めきっている。

 心がざわついている。

「そもそも、何があった?カルラとアルバンは、誰にやられた?」

 少しだけだけど、身体が動くようになっている。

「エイダ!」

『現在、調査を行っております』

「調査?何か残されていたのか?」

『暗殺に使われたと思われるナイフが残されておりました。カルラが始末したと思われる遺体が多数。辛うじて生体反応が残されていた者が5名。手足の腱を切られた状態で放置されていました』

「ナイフ?」

『はい。詳細な調査を行っております。簡易検査の結果をお伝えしますか?』

「あぁ」

 エイダの報告を聞いている。
 心がざわついて気持ちが悪い。頭だけがどんどん冷めていき・・・。そして、遠い世界からの言葉を聞いている気分になってくる。

 俺は、慢心していたのか?俺の油断で、カルラとアルバンを失ったのか?
 油断はしていなかった。

 ナイフには、”黒い石”と同じ成分が使われていた。
 問題は、ナイフに塗られていた毒だ。

 これが、利用者をも蝕んでいた。
 俺が刺された、黒い石を細かく砕いた物が塗られていた。どんな作用があるのか解っていないが、人を死に至らしめる毒になっているのだろう。

 簡易的な検査によると、黒い粉は、人の憎悪を増幅する作用があるらしい。
 俺は、刺されて、黒い粉が身体の中に入った。それで、”殺したい程”に憎んだのか?

 今は、その反動でざわついているけど、頭が冷えて、どこか他人事のように感じているのか?

 エイダの報告では、俺が助かったのは、偶然の産物らしい。
 カルラとアルバンは、持っていたポーションやワクチンを俺に使用した。自分たちにも使用すれば・・・。違うな。俺が刺された事で、俺を助けようと動いてくれた。順番は解らないが、俺が刺された。致命傷にはならなかった。次の攻撃をアルバンが防いだ。アルバンが、傷をおいながら俺を助けている間に、カルラが敵を殲滅した。

 解らないが、カルラとアルバンなら・・・。

 何が作用したのかわからないが、俺は助かった?
 でも、俺を助けるために、カルラとアルバンは・・・。絶対に、仇は取る。

『マスター。一部の記憶ですが、捕えた者たちからの抜き取りが成功しました』

「クォートを呼んでくれ」

『はい』

「生き残った奴らを尋問する」

『わかりました』

 尋問を始めようとしたが、”意味がない”と解ってしまった。

 生き残っている奴も壊れてしまっている。
 まともに会話が出来ない。苦痛を与えられても、”へらへら”と笑っている。指を切り落としても、足の骨を折っても反応がない。痛みを感じないのか?
 うめき声を上げるから、痛みは感じるのだろうけど、言葉が通じない動物や魔物を相手にしているような感覚になる。

「エイダ。死んでも構わない。記憶を抜き取ってくれ」

『了』

 クォートとシャープの後をついてきた奴らだと報告を貰った。

 俺を襲ったナイフの解析を進めている。大本は解ったのだが、まだ不明な部分も多い。
 やはり、帝国が使っていた”黒い石”が材料のようだ。鋭くはないが、スキルが付与されている。毒の様な物も付与されていた。毒は、解析中だが、俺たちが知らない毒のようだ。
 聞けなくなってしまったが、カルラが知っていなかったのだろう。知っていたら、自分にも対処を行っているはずだ。

 エイダが抜き取った記憶から襲撃の様子は大まかに解ってきた。

 俺は刺された。
 脇腹だ。いきなり刺されて、俺は倒れた。

 そして、追撃をしてきた奴らを、カルラが一掃した。

 第二撃に来た奴らを、アルバンが対応した。

 カルラは、俺を助けようと持っているポーションやワクチンを俺に使い始める。
 ここで効果があったのか解らない。

 アルバンが倒しきって戻ってきた。
 その時に、倒したと思っていた奴なのか?伏兵なのか?存在は解らないが、俺たちに襲い掛かってきて、カルラが俺を庇って刺された。カルラを刺した奴を倒そうとしたアルバンが別の奴に刺された。

 刺されながらも、アルバンは反撃をして、二人を無力化した。

 順番は理解が出来た。
 問題は、目的だ。

 ナイフを落とした時点で、こいつらの精神が壊れて、動かなくなっている。

 ”ひゃはひゃは”笑っている奴は居る。
 よく見れば、アルトワ町の町長の妻だった奴だ。他にも、俺たちを襲撃した奴らの家族だ。

 復讐なのか?

 復讐と言われれば、理由は解るが、どこからかナイフを入手した。
 本数も、27本?探せばまだあるかもしれない。全部、回収しておく必要があるだろう。こんなナイフは存在しないほうがいい。

 帝国というか、やつら(クラーラ)の組織が作っていたのだとしたら、何か対策を考える必要がある。
 必ず、対峙する時が来る。今は、まだ対峙できない。俺には力がない。

「マスター」

 クォートが、周りの探索から帰ってきた。安全の確保は絶対だ。何度でも確認をしておこう。カルラとアルバンをこれ以上の傷をつけずに連れて帰る。俺ができる最大の行いだ。絶対に、連れて帰る。

「クォートは、奴らの回収が終わったら、ナイフの探索と回収を頼む」

 クォートには、散らばっている奴らの回収を頼む。
 奴らは、捨てておきたい気持ちがあるが、”黒い石”に浸食されている場合に、放置したらどんな影響があるか解らない。共和国がどうなろうと構わないが、アルトワ・ダンジョンに居る連中に被害がでる可能性を考えれば、放置はできない。

「かしこまりました」

 クォートには、俺たちを襲撃した奴らの回収をシャープと行ってもらっている。
 散らばっている奴らも居る。魔物に襲われた奴らも居る。アルバンが無力化した奴らは、精神は壊れているけど、身体は大丈夫だ。動けなくはなっているが、生きては居る。人としては、死んでいるかもしれないが、生命活動は続いている。

 どうやら、俺には天罰が下ったようだ。

 笑い声を上げている人物が、俺に天罰を与えたと騒いでいる。
 気持ち悪いうえに、気分も悪い。

「煩い。黙れ!」

 顔を蹴り上げる。
 歯が数本折れる音がするが気にしない。簡単には死なせない。殺さない。なんとか、精神を戻す方法を探す。戻したうえで、罪と罰を与える。それこそ、死んだ方が”まし”だと思えるような苦しみを与える。与え続ける。カルラもアルバンも望んでいないことは解っている。俺は、俺のために、こいつらを許せない。

 そして、こいつらは道具だ。
 ナイフで人を殺して、ナイフが訴えられて、罰せられることは考えられない。だから、道具を使った奴らを探して殺す。

 壊れたレコードの様に、同じことを繰り返す。

「エイダ。こいつら、精神支配とか、精神系のスキルは見られないのだよな?」

『是』

 やはり、秘密はナイフか?

「なぁこいつら、生きているよな?」

『生命活動の確認は出来ています』

「そうだよな・・・」

 何か、違和感がある。
 生きているのは、生きているのだろう。精神が壊れただけなのか?

 ナイフに付与されていたスキルが原因なのか?
 俺が、ヒューマノイドタイプに行っているように、人格のインストールができるのか?
 そんな事ができるとは思えないが・・・。精神を壊したうえで、上書きを行う。同調する。スキルか?

 ナイフの解析を進めないと解らないことだらけだ。

 そして・・・。

 大きな問題も存在している。

 カルラとアルバンの死を伝えなければならない。
 ヒルデガルドに何と言って詫びればいいのか・・・。詫びて済むような話ではない。ユリウスにも、報告をしなければ・・・。

 クォートと一緒にナイフを集めていたシャープが戻ってきた。

「マスター。ナイフは、全部で31本です」

「そういえば、捕えた奴らは?」

「死者を含めて、31名です。私とシャープの後ろに居た者は、30名です」

「一人増えているのか?」

「はい」

「シャープ!こいつらの服装で、一人だけ違った奴は居ないか?」

「調べます」

「居たら、そいつだけは、別枠で頼む。もし居なかったら、手を調べてくれ」

「”手”ですか?」

「あぁ手が綺麗な奴が居たら、そいつが主犯格の一人だ」

「わかりました」

 シャープに任せておけばいいだろう?
 服や手を調べて行けば、わかるはずだ。

 クラーラが言っていたことがヒントになるとは・・・。

 俺の予想が当たっていたら、俺はまた奴に乗せられたことになるのか?

「マスター。一人だけ、手が綺麗な者が居ました」

 ダメだ。
 感情が抑えられない。

 爆発しそうだ。

「エイダ。シャープが見つけた奴は・・・」

『死んでいます』

「だろうな。そいつが、ナイフを作って、黒い石をばらまいた奴だ。名前は解らない。クラーラが”殺した”と言っていた奴だ。そいつだけは、最初から死んでいたのだろう」

『わかりません』

「大丈夫だ。俺が、”そう”と考えているだけだ。正しくても、正しくなくても、どちらでも構わない」

 エイダとクォートとシャープには答えられない。
 当たり前だ。感情が芽生えていると言っても、元はAIだ。答えが無いのは解っている。必要もない。納得が出来れば、十分だ。

 死んだ奴は、帝国の人間なのだろう。
 クラーラの言葉からは、妖精の涙(ティアドロップ)とかいう組織の人間なのだろう。席次があるようなことを言っていた。何番目なのか解らないが、クラーラに簡単に殺される程度だとしたら、実力は俺と同じくらいなのだろう。

「エイダ。クォート。シャープ。奴らはスキルで運ぶ。国境を目指すぞ」

「はい」

 クォートが代表して答えている。
 カルラなら・・・。
 違う。考えても仕方がない。

---

 国境までは、行商も居なかった。

 国境の壁が見え始めた。
 カルラとアルバンは、何としても一緒に帰るとしても、問題は死にかけている奴らだ。国境を越えられるとは思えない。

 いくら、共和国の国境が緩くても、通過は無理だろう。
 俺たちだけなら、俺の身分を明かして、強行突破が可能だとは思う。

「なぁカルラ・・・」

 そうだな。
 これからは、俺が考えて、俺が動かなければ、エイダもクォートもシャープも動かない。

 わかったよ。カルラ。

 明日になれば、何かが変わるとは思えないが、今日は休もう。

 国境の検問が見える丘で、休息を取ろう。

 疲れた。

 俺は、ここで何をしているのか?
 何日が経った?

 ここは?

”クスクス”
”クスクス”

”おきた”
”めざめた”

”久しぶり!”
”久しぶり”

 え?
 久しぶり?俺は、ここは・・・?

 前にも、こんなことがあった・・・。よな?
 あれは・・・。

 そうだ。

 エリとエトか?

”そう”
”おもいだした?”

 思い出した。
 アリーダ様は?

”もうすぐ”
”くるよ”

 何か、準備をしているのか?

”準備!”
”準備?”

 疑問で返されても困るのだけど?

”困る”
”困って”

 わかった。
 待っていればいいのか?

”うん”
”そうだよ。待っていて!”

 待つのはいいけど、ここは?

”ここ?”
”どこ?”

 精霊宮なのか?

”ちがうよ?”
”ちがう。ちがう。精霊はいないよ?”

 そうか・・・。ちがうのか?
 何もないのか?

”あるよ”
”あるけど、ないよ”

 どういうことだ?

”アルノルト・フォン・ライムバッハ”

 お久しぶりです。
 アリーダ様

”アリーダ様だ”
”アルノルトだ”

”エリ。エト。しっかりと歓待できたのですか?”

”できたよ”
”うん。大丈夫”

”そうですか、私は、アルノルト・フォン・ライムバッハと話があります。呼ぶまで、下がっていなさい”

”は~い”
”うん!”

”パタパタ”
”パタパタ”

 口で言っても意味があるとは思えないけど、必要なのでしょうか?

 目の前に魔法陣が出現する。
 その場所から、空間がはっきりと視認できる状態になっていく・・・。

 最初は、床が現れて、次に壁が、白い部屋になって、床にも壁にも、天井にも色が着いて行く・・・。

 椅子が現れて、テーブルが現れる。
 窓があるけど、外は見えない。

 本棚が現れて、上段から本が埋められていく・・・。最初の頃は、背表紙の色が20冊くらいで色が変っていた。一段目が終わって二段目からは同じ色が続いている。40冊くらいで、次の色に変った。その色で、本が並ばなくなった。何か、意味があるのか?

 天井には、ライトがないが部屋は明るい。
 窓からも採光はされていない。

 不思議な空間だけど、不思議に思うのは今更だな。

「え?」

 椅子に、一人の女性が座っている。
 話の流れから、アリーダ(精霊神)様なのだろう。でも、どことなく、ユリアンネが大人になったらこんな感じの美人になっていただろう。と、思える。母上とは違う。なぜか、ユリアンネを思い出す。何故だろう。

「座ってください」

 女性が、アリーダ様だと仮定をすると、俺の考えが読めているはずなのに、反応がない?
 読んでいないのか?

「はい」

 言われた通りに座る。

「紅茶でいい?」

 紅茶なんて久しぶりに聞いた。

「はい」

「砂糖は必要なかったわね。ミルクだけあればいいのよね?」

 そうだな。
 砂糖を入れるのは邪道だとは言わないが、たっぷりのミルクとブランデーがあれば・・・。

「はい」

 ん?
 甘くするよりも、ミルクを入れて飲むほうが美味しいと感じる。

 ん?
 アルノルト?え?ん?

「ごめんなさい。混乱させてしまいましたね」

「いえ、アリーダ様。そろそろ、説明をお願いしたいのですが?」

 姿が、アルノルトではない。
 真辺真一でもない。

 誰の姿を借りている?

「そうですね。でも、紅茶を飲むくらいは大丈夫でしょ?お茶菓子に、クッキーを用意したのよ?」

「はぁ」

 用意された紅茶を口に運ぶ。
 美味しい。ブランデーが入っていないのが少しだけ残念に思える。

「ブランデーは今後の課題にさせて」

「はい」

 やっぱり、考えが読めるのですね。

「本題だけど、いい?」

「はい」

 なぜか、真剣な表情に切り替わる。
 何か、悪い状況なのか?

「そうね。アルノルト・フォン・ライムバッハ。貴方は、死にかけていました」

「え?」

「身体の死ではありません。心の死です」

「・・・」

「心当たりがあるようですね」

「はい。ご存じなのですか?」

「いえ、私は頼まれただけです」

「頼まれた?」

「そうです」

「誰にですか?」

「それは言えません」

 言えない?
 それは、解っているという事だな。

「対価は?」

「既に頂いております」

「え?」

 対価が必要な事だったのか?
 それにしても、俺が死にかけていたのはなんとなく想像ができる。
 そのうえで、俺が死にかけている理由が解って、対価を払って俺を救おうとする人が居るのか?

「正確には、対価はお金や物ではありません」

「アリーダ様。わかりやすく説明をして頂けると助かります」

「そうですね。どこまでの記憶がありますか?」

 記憶と言われても、カルラとアルバンを失って、エイダとクォートとシャープでゴミを片づけて、尋問らしい尋問にはならなかったけど、情報を抜き出して・・・。王国に帰ろうと、国境を目指した。
 国境が見える丘の上で疲れて、休んだ。国境を見ながら、何かを考えていた。
 考えていたのは、覚えているけど、何を考えていたのか思い出せない。

「・・・」

「国境の見える丘で、貴方は5日間に渡って座っていました」

「え?5日?」

「そうです」

 普通は死ぬよな?
 何かを食べた記憶も飲んだ記憶もない。

「ちなみに、アルノルト・フォン・ライムバッハとしての体調は大丈夫です。10日ほどなら食べなくても、飲まなくても、大丈夫でしょう」

「え?」

「今は、その話は横に置いておきます。貴方の心が死にかけていたのを心配した者が、対価と引き換えにこの部屋を希望しました」

「??」

「ここは、貴方の心です」

「は?」

「最初は、何も無かったのですが、二日目に貴方が戻ってきました」

「??」

「風も光も闇も音も匂いも色も何もなかった部屋に、色がついて、部屋になって、物が産まれて、過去と未来が出来上がった」

 意味がわからない。
 ここが、俺の心だというのか?

「そうです。本棚には貴方の歴史が刻まれています。貴方は読むことは出来ません」

「え?読めない」

「そうです」

「この部屋は何のために?」

「それは言えません。でも、貴方の心を修復するために必要な処置でした」

「よくわからないが、ありがとうございます」

「いいのですよ。対価は頂いています」

「聞いていいですか?」

「このような部屋は皆が持っているのですか?」

「持っています。この部屋で、最終面談が行われます。貴方は、その時では無いので、安心してください」

 皆が持っている?
 この部屋の役割があるのか?

 地獄に行くか、天国に行くか、分かれ道みたいな場所か?

「そう、考えていただければいいでしょう」

「あっ。ありがとうございます」

 時々、考えを読んでくるのがよくわからない。
 読まれていると考えていればいいのだろう。

 ユリアンネに似た姿で現れたということは、対価を払ったのは、ユリアンネか?ラウラかカウラということも考えられるけど、二人は俺を恨んでいるかもしれない。父上か母上というのも考えられる。ルグリダは?
 カルラとアルバンは、俺を恨んでいるのだろう。
 俺が、もっとしっかりとしていたら・・・。

「アルノルト・フォン・ライムバッハ」

「はい。今、名前を上げた者は、貴方を恨んでいません。間違っては行けません」

 アリーダ様の表情が、今まで以上に柔和になる。

「・・・」

「・・・。わかりました。アルノルト・フォン・ライムバッハ。貴方の心を修復して欲しいと依頼してきたのは、ラウラとカウラの二人です」

「え?」

「対価は、彼女たちの修業期間です」

「え?修行?」

「そうです。ラウラとカウラ。及びユリアンネは、精霊に転生します」

「精霊に転生?」

「そうです。本来なら禁則事項なのですが、貴方には話して構わないと言われました」

 構わない?
 アリーダ様の上位者が居るというのか?

「・・・」

「修業期間というのは?」

「ラウラとカウラは、数百年の修行で、精霊に転生できる予定でした」

「修行は何を?」

「禁則事項に該当して話せません」

「そうですか・・・」

「ユリアンネは、精霊に転生しているのですか?」

「・・・。しています」

「何か、条件が・・・。教えてくれそうに無いので、聞きません。ユリアンネは、俺の様に記憶を残しているのですか?」

「残しています。本人の希望で、最後まで・・・」

「え?最後?」

「はい。死に間際までの記憶は消されていません」

「・・・。ありがとうございます」

「・・・。何を考えているのかわかりますが、いばらの道ですよ?」

「解っています」

「加護を1以上にしなさい。それから、闇の上位加護と守の上位加護を得なさい」

「ありがとうございます。何の事か解りませんが、わかりました」

---

 懐かしい声が聞こえる。
 3人?
 違うな。5人?6人?

 あぁ俺は、こんなにも・・・。

 ラウラ。
 カウラ。
 ありがとう。

 ここは?

 だるい。
 ん?草の匂い?

 あぁ・・・。
 眩しい。ダメだ。俺は、天を空を感じていいのか?

 俺は・・・。
 生き残ってしまったのか?

 手が動く、腕も動く・・・。

 天を・・・。”天”なぞいらない。俺を庇って死んだ・・・。アルバン、カルラ・・・。アーシャを・・・。

「アル!」

 誰だ?
 俺の手を握るのは?

「アル!?」

 また、違う奴か?

 頭が痛い。
 思考に靄がかかっているようだ。考えたくない。起きるのも・・・。

「アルノルト・フォン・ライムバッハ!」

 誰だ?
 そうだ。
 俺は、”アルノルト”。

 違う。
 俺は・・・。

「いい加減に起きろ!アル!」

 アル?
 アルバン?

「お前!勝手に死ぬのは許さん!俺との・・・」

 煩い。
 疲れた。黙れ!俺に命令をするな!

 煩い奴だ。お前、誰だよ?

 死ぬ?
 誰が?

 俺か?

 俺は、死なない。

 アーシャに言われた。
 俺の本懐を・・・。

 そうだ、俺は、やらなければ、ルグリダを、ラウラを、カウラを、アルバンを、アーシャを・・・。そして、父さん。母さん・・・。ユリアンネを!

 クラーラ!
 そうだ、クラーラを・・・。その為に、力を求めた。
 求めた結果・・・。アルバンを、アーシャを、俺は愚かだ。

 愚かだからこそ、止まることは許されない。誰が許しても、俺が許せない。

「アルノルト・フォン・ライムバッハ!いい加減にしろ!」

 煩い奴だ。
 起きているよ。

 少しは休ませろ。

 煩いのは一人ではないのか?
 俺を呼んでいるのか?

 叫ばなくても聞こえている。

 大丈夫だ。
 俺は、俺だ。

 わかっている。やるべきことはわかっている。

 疲れている。
 休息が必要だとはおもわないのか?

「アルノルト様。エヴァとの約束はどうするのですか?」

「アル!いい加減に起きろ!」

 エヴァ?
 エヴァンジェリーナ・スカットーラ

 そうだ。
 迎えに行くと・・・。

 眩しい。これは、俺を照らして・・・。皆を、照らしているのか?

 皆?
 俺は、アルノルト・フォン・ライムバッハ。

 皆?
 エヴァ?エヴァンジェリーナ・スカットーラ。エヴァは、元気にしているか?俺の・・・。俺が、愛した女性だ。俺を必要だと言ってくれた女性だ。待っていてくれると・・・。

 皆?
 ユリウス?リウス・ホルトハウス・フォン・アーベントロート。皇太孫。ユリウス。クリス?
 クリス?クリスティーネ・フォン・フォイルゲン。ユリウスの婚約者で、フォイルゲン辺境伯の娘。

 皆?
 ギードとハンス?
 ユリウスの護衛でついてきたのか?
 ギルは?ギルベルトは?居るのか?

 皆。
 そんな顔をするなよ。
 俺は、生きる。生きている。生き残ってしまった。

「アル!アル!」

「ギル?煩い」

「アル!!」

 ギルベルトが俺に抱き着いてくる。
 煩いよ。
 生きているよ。

「アルノルト!」

「ギードとハンス?我儘な皇太孫の護衛か?」

 ハンスが、俺の手を握って身体を引っ張り上げる。
 立つのは無理だな。身体を起こすのがやっとだ。

「我儘を言い出した殿下についてきた」

「そうか、ご苦労なことだ。ギード。どうした?」

「ザシャに命令された」

 ザシャ?ザシャ・オストヴァルト
 エルフ族の女性だ。

「命令?」

「お前を連れてこいと言われた。連れてこなければ、別れると言われた。俺の為にも、お前を連れて帰る」

「ははは。それは、大変だな」

「あぁ大変だ。だから、協力しろ」

「わかった」

 ギードが差し出した手を握る。
 剣だこが出来ている素晴らしい手だ。ギードも修練を積んだのだろう。

「アル。イレーネが、エヴァを抑えている。俺の為に、早く帰るぞ」

 イレーネ?イレーネ・フォン・モルトケ。
 モルトケ男爵の娘だ。そつなくこなすバランサー的な女性だ。
 エヴァを抑えている?
 そうか、イレーネに迷惑をかけたのか?

「ハンス。悪いな。お礼は、精神的に返すことにするよ」

「わかった。今は、思いつかないから、貸しとく」

「そうか、取り立ては、手加減してくれ・・・。借りを返すのは、俺の目的を果たした後でいいか?」

「あぁ・・・。わかった。それでいい。いいか、俺の取り立ては激しいぞ!だから、一緒に帰るぞ」

 ハンスが手を出してきた。
 しっかりと握る。そのあとで、拳を合わせる。

 ハンスも、護衛として力をつけたのだろう。
 拳が硬くなっている。

「アル。ディアナが、アクセサリーの量産を希望している。頼めるか?」

 ディアナ?ディアナ・タールベルク。
 ドワーフ族の女性だ。魔法力がドワーフ族にしては高かった。
 アクセサリー?
 エヴァに渡した奴か?違うよな?

「量産?」

「そうだ。地金は用意する。ディアナが、叩いて不純物を取り除いた物だ。それで、チェーンを作って欲しい。らしい。俺には、解らない。だから、アル。お前をディアナの前に連れて行くのが俺にできる最善な方法だ」

「わかった。ディアナと会って話をする」

「作った物は、俺が扱うからな」

 ギルベルトが手を出してくる。
 しっかりと握る。慣れない剣でも握ったのか?やけに汚れている。

 手を広げる。
 俺の前に手をだしてきた。手のひらを勢いよく合わせる。

 乾燥した心に、心地よい音が響いてくる。

 俺は・・・。生きている。守られた。アルバンに、アーシャに・・・。皆に会う事が出来た。
 エヴァに会う事ができる。

「アル。随分、遅い目覚めだな」

 ユリウスが来ていたのか?
 ”来ない”という選択肢は無いのだろう。逆か?ユリウスが来たから、これだけ大げさな陣容になっているのだろう。

「あぁ。それよりも、ユリウス。カールは大丈夫なのか?」

「安心しろ。ヒルダが相手をしている」

 ヒルダ?ヒルデガルド・ローゼンハイム・フォン・アーベントロート。
 ユリウスの妹だったか?

「殿下。報告は正確に行いましょう。アルノルト様。ヒルデガルド様だけではなく、お屋敷の皆が、お帰りを待っております」

 クリスの言葉で納得した。
 カールは、家の者に預けてきたのだろう。イレーネとディアナが居るのなら安心できる。ザシャは、王都か?エヴァは、王都にいるはずだ。
 違うのか?ライムバッハの領都に来ているのか?

 エヴァが居るのなら、カールも安心だ。

「クリス。カルラは・・・」

「わかっている。あの子を褒めてあげて」

「褒める?」

「あの子は、貴方のアルノルト様の護衛になる為に、カルラ衆を私に預けてきたわ」

「え?」

「詳しい話は、領都で話しましょう」

「わかった」

「アル。立てるか?」

「大丈夫だ。魔力も回復している。もう・・・。大丈夫だ」

 立ち上がる。
 ふらつくが、ここで無様に倒れない。倒れたら、アルバンとアーシャに笑われてしまう。

 両足で踏ん張って、大地を掴む。
 もう大丈夫だ。

 立ち上がって、天を見る。

「(アーシャ。アルバン。見ていてくれ!無様な姿はこれで最後だ)」

 二人の声が聞こえた気がした。

「アルノルト様」

「事情の説明か?」

「はい。ある程度は、クォート殿から聞きましたが・・・」

「クォート。シャープ。ありがとう」

 二人が綺麗に頭を下げる。
 エイダが俺の所に何かを持ってきた。

『報告書です。襲撃者の記憶を再構築した物です。マスターの記憶を含めてあります』

 エイダから報告書を受け取って、読んでから、クリスティーネに渡す。

 クリスティーネは、報告書を読んでからユリウスに渡す。

「アル!」

 好戦的な視線で、ユリウスが襲撃者たちを睨みつける。

「・・・。アルノルト様」

「どうした?」

「この者たちは、アルノルト様を襲ったのでしょうか?それとも、王国のウーレンフートにあるマナベ商会を襲ったのでしょうか?」

「ウーレンフートのマナベ商会が襲われた。アルバンとアーシャ。カルラを襲った時には、俺は名乗りを挙げている。クラーラが居たからな」

「え?クラーラ?あの?」

「そうだ」

 クリスティーネがユリウスを制する。
 今は、クラーラを追うのは不可能だ。力が足りない。追跡も不可能だろう。帝国に行ければ足蹠程度はわかるかもしれないが・・・。

「アルノルト様。この件は、ライムバッハ領で預かっていいですか?」

「もちろんだ。ウーレンフートは、ライムバッハ領にある都市だ。そして、マナベ商会はウーレンフートに拠点を構える商会です。ライムバッハ辺境伯にお預けいたします」

 言葉遣いがごちゃごちゃになってしまった。
 クリスティーネは、”いい”笑顔で笑っている。

「アル。共和国に報復を行う。ライムバッハを一時的に預かっている身としては、ウーレンフートの商会に対する攻撃は看過できない。これより、少数による報告を開始する。アルトワと最初の宿場までは確保するぞ!」

 ユリウスの宣言で、侵攻が決定した。

「ユリウス!」

「アル。俺は、お前にも文句を言いたい。共和国に行くのは、お前の自由だ。だが、困ったことがあれば、なぜ俺を俺たちに連絡を入れない!」

「ん?なんの事を言っている?」

「お前!」

 ユリウスが、何故か怒り出した。
 昔から変わらない。何か、説明が抜けている。俺が持っている情報と、ユリウスが持っている情報に差異が生じているのだろう。

「ユリウス様。アルノルト様には、それでは伝わりません」

 頼りになるクリスティーネがユリウスの怒りを抑えるように嗜める。

「アルノルト様」

 クリスティーネは、ユリウスが落ち着いたのを確認して、俺の方を向いた。

「おぉ」

「アルノルト様は、アルトワ町でしたか?町の近くにあったダンジョンを攻略なさいました」

「あぁ」

「そのダンジョンの周りに集落を作って、実効支配を行っています。相違ないですか?」

「実効支配というか、まぁそうだな」

 言い訳は無駄だ。
 カルラから情報が渡っているのだろう。それと、ウーレンフートから大量の物資が移動していれば、クリスティーネが調べないわけがない。

 他の面子はニヤニヤしている。
 学校での様子を思い出しているのだろう。

「ユリウス様は、その事をおっしゃっているのです」

「え?実効支配した場所を、ユリウスに任せる?」

「違います。なぜ、そういう話になるのか・・・。ユリウス様は、アルノルト様が、ご自分の資産で実効支配する集落を作ったのを言っているのです」

「すまん。クリス。解りやすく説明してくれ」

「はぁ・・・。ユリウス様も悪いのですが・・・」

 ユリウスが、クリスティーネの言い方に文句を言っているが、無視して話を続けた。

 資材の提供や、人材をウーレンフートからではなく、ライムバッハ家からも出す準備をしていた。準備をしている最中に、ウーレンフートから大量の物資と人材がアルトワ町に移動を開始してしまった。
 ユリウスは領主代行の権限で、止めようと思ったが、周りから反対された。

 その為に、俺がユリウスを頼っていれば、違う形での支援が出来たと考えているようだ。

「それは悪かった。ライムバッハ家にも余裕があるとは考えていなかった」

「アル!」

「アルノルト様。勘違いされては困ります。ライムバッハ領は、ユリウス様がお預かりしていますが、領主は違います」

「そうだな」

「本来なら、アルノルト様」「クリス!」

 クリスティーネが口を抑えて自分の発言が失言だったと気が付いた。

「ユリウス。それに、クリスも、一つだけ俺の考えを聞いて欲しい」

「なんだ」「はい」

 クリスティーネは、俺が何を言いたいのか解っているのだろう。
 だから、ユリウスの後ろに下がった。

 あとは、ユリウスが納得してくれれば・・・。

「ユリウス。俺は、ライムバッハ領で療養をしている」

「・・・」

「その俺が、アルノルト・フォン・ライムバッハとして、ライムバッハ家に救援を出せるか?」

「・・・」

「その顔が答えだ。俺は、ライムバッハ家の人間ではない。だから、救援を出すのは、おかしいよな?マナベが行えるのは、ウーレンフートからの支援物資の輸送だ」

「しかし・・・」

「”しかし”はない。”マナベ”が物資の輸送を頼めるのは、ウーレンフートだ。それか、商会として付き合いがある。ギルだけだ」

「それなら、ギルを頼れば」

「ユリウス。解っているのだろう?」

「・・・」

「ユリウス様。完全に、アルノルト様が正しいです」

「・・・。だが、今回は、ダメだ」

「そうだな」

 収まりが付かない状況だというのは間違いない。
 それに、皇太孫が国境を越えたのは記憶されている。それも、ウーレンフートに属している商会が襲われたという情報と一緒に伝わってしまっている。

 実効支配は別にして、アルトワ町を陥落させなければ、体裁が整わない。

「アルノルト様。アルトワ町の近くにあったダンジョンの状況を教えてください」

「ん?状況?」

「はい。脅威度や、現在の状況です」

「あぁ」

 簡単に状況の説明を行った。
 エイダに任せようかと思ったが、エイダの説明をしていなかったことや、いきなり全部を説明するのも面倒に感じてしまった。

 特に、まだユリウスが怒りの感情が勝っている状況では、説明を聞かないで質問をしてくる可能性が高い。

「わかりました。順番を入れ替えましょう」

「ん?」

 クリスティーネの考えでは、このままアルトワ町や近隣の町を占拠しても、共和国は切り捨てる可能性が高い。

 ダンジョンが絡むと、資源の問題があるので、面倒な交渉になる可能性が高いようだ。

 俺たちを襲ってきた、アルトワ町の住人たちを、連れてアルトワ町を占拠する。そのあとで、アルトワ町の近くに野盗たちが集まる場所があり、その場所を占拠したらダンジョンが近くにあって、拠点の構築を行うことになる。

 同時に、近隣の町を占拠する。
 これは、ライムバッハ領から連れてきた兵を使う。

 正規軍による電撃のゲリラ戦だ。
 相手が攻められると解る前に、戦闘を終わらせる。

 それに、俺が行った共和国のダンジョンの調整が効いている。
 ライムバッハ領に訪れる共和国からの商隊が求める物が、食料が多くなっているようだ。

 それらを提供する代わりに、領土の割譲を求めるのは、無理な話ではないと考えているようだ。
 領土を貰っても、ライムバッハ領としては、メリットは少ない。デメリットの方が多いかもしれないが、国内へのプロパガンダの意味が強い作戦になっているようだ。

 皇太孫であるユリウスの実績に繋がる作戦だ。
 クリスティーネが多少の無理筋を通すのも、実績を重ねる意味が強い。皇太子が、そのまま即位して、ユリウスに王位が譲られるとは思うが、それでも煩い貴族は居る。そんな奴らを黙らせる必要がある。
 今回の電撃作戦は、そんな連中を黙らせるのに丁度いいのだろう。

「ユリウスは、アルトワ・ダンジョンに向かうのか?それとも、アルトワ町の占拠に向うのか?」

「俺たちは、アルトワ町に向う」

「わかった。捕虜の数名を・・・。前村長の妻が居たはずだ。そいつを連れて行ってくれ、他の連中は、アルトワ・ダンジョンで・・・。使いつぶす」

「他に、何人か連れて行きたい」

「わかった。適当に、選んでくれ、俺は、アルトワ・ダンジョンで指示を出してから、ライムバッハの領都に向う」

「そうだな。ギル!」

「わかった。俺は、アルに着いて行く」

「頼む。アル。アルトワ・ダンジョンから、アルトワ町に人を向わせてほしい」

「ん?」

「俺たちは、アルトワ・ダンジョンの場所を知らない。道案内を・・・。ちがった、野盗の野営地を落とすための道案内が欲しい」

「ははは。わかった。誰か向かわせる」

 この場所で、ギルと俺が残って、他のメンバーは、アルトワ町に向う。
 ユリウスが連れてきた兵から数名を借りて、アルバンとカルラの遺体を運んでもらう。どこで眠るのが適当なのか解らないが、共和国ではない。悪いけど、ライムバッハ家の墓で眠ってもらうことになると思う。アルバンは面白がるだろうが、カルラは恐縮するだろう。だが、俺を残して死んだ罰として受け入れてもらう。

「ギル!」

 ユリウスたちが、アルトワ町に向った。

「あぁ悪い。さて、アル。あの熊と執事とメイドと馬?はなんだ?」

 皆がチラチラ気にしていた。
 ユリウスは説明を求めようとしたが、クリスティーネに止められていた。ライムバッハの領都で合流した時に、説明を求められるだろう。
 クリスティーネは、報告を聞いているから知っていると思ったのだけど・・・。どうやら、カルラは、言葉を濁していたようだ。

 ギルベルトは、これから一緒に移動するので、質問してきたのだろう。

 隠すような事でもないので、正直に説明はするが、間違いなく欲しがるよな?
 欲しがっても、やらない。これは、俺以外が使ってはダメな技術にしておこうと思う。そうしないと、際限なく必要とされてしまう。

 そういえば、クラーラが傀儡とか言っていたのが気になる。帝国でも同じような技術を開発したのか?
 帝国の情報が欲しい。

 共和国に攻め込む者たちを含めて、アルトワ・ダンジョンに移動した。
 実効支配している場所を確認してから、落としどころを考える事になった。

 俺たちが見聞きしてきた情報を、皆に伝えたところ、今なら共和国の半分は無理でも、1/3くらいは取れると考えているようだ。
 経済戦争を行うのには、お互いに準備が足りていない。

「ユリウス。共和国への対応だが・・・。適当な落としどころを決めてくれ、王家に渡すにしても、飛び地では管理が難しいだろう?」

「それは・・・」

「アルノルト様。大丈夫です。考えがあります」

「え?」

 クリスティーネが、”大丈夫”だと言い切る。

「まず・・・」

 クリスティーネの計画が解った。
 ”ぶっ飛んでいる”計画だけど・・・。確かに、領土の割譲よりも、共和国としても飲みやすい上に、デメリットが少ない(ように見える)。俺たちのメリットは少ないように見えて、長期的に見れば大きなメリットに繋がる。それに、共和国には知られていない情報がある。クリスティーネの考えは、オープンになっていない情報を上手く使った”詐欺”のような行為だ。

 クリスティーネの考えでは、共和国にあるダンジョンで、俺が攻略したダンジョンを接収する。

 共和国からもぎ取るのは、ダンジョンの周辺の権利だけだ。近隣の村や街は、王国の領土にはしない。ダンジョンから産出する物の権利も主張しない。商取引の優先権は取得する予定だが、絶対に必要な権利ではない。

 共和国は寄り合い所帯なので、クリスティーネの提案も受け入れる土壌が出来上がっている。
 俺たちが攻略したダンジョンは、共和国内では力が弱い国の領土になっている。共和国は、その国を切り捨てる可能性もあるのだが、疲弊した国を貰っても、王国としては困る。ライムバッハとしても荷物が増えるだけでメリットがない。

 そこで、ダンジョンとダンジョンの周辺を割譲する。
 アルトワ・ダンジョンの様に、塀で囲んでしまう。

 ウーレンフートのノウハウということで、押し通すつもりのようだ。
 スタンピードに備えて、周辺の村や町に被害が行かないようにする為だと強弁するようだ。

「クリス。代官というか、ダンジョンを管理する者たちには、心当たりがあるのか?」

「それこそ、ウーレンフートにいる者たちや、辺境伯領にいる者たちを派遣すればいい。」.

 最悪は、ヒューマノイドに管理を行わせればいいだけか・・・。

「ん?素材の買い取りはするのか?」

「それこそ、商人が来ているわよね?」

 ギルベルトがいい笑顔で頷いている。
 どうやら、既に手配をしているのだろう。ギルベルトの商会なのか、親の商会なのか、マナベ商会なのか解らないが、既に入り込んでいるのだろう。マナベ商会でダンジョンの素材を買い取るのは・・・。あまりメリットに感じない。
 そうか、値段調整を行う役割を持たせたいのだな。
 共和国内に安い採取品が回るのを防ぐのだな。それなら、マナベ商会でも大丈夫だ。話が決まったあとで考えればいい。

「あぁ」

「別に、王国としては、元々無いダンジョンだから、そこで儲けようと考えなければいいのよ。もし、王国の商人が商売をしたいと言えば、許可を出してあげる程度でいいと思うわよ」

 戦略拠点としての意味と、共和国との緩衝地帯を作るのが目的だ。
 共和国が一致団結して、王国に攻め入ることは考えにくい。共和国がこのまま進むと暴動が発生する可能性がある。その時に、王国にまで飛び火しないようにしたいのだろう。

「そうか・・・」

 そうなると、メリットは、ダンジョンを自由にできることと、リソース稼ぎになることか?
 共和国には知らせていないけど、ダンジョンの採取を絞っているから、以前と同じように採取を行おうと思ったら、4-5倍の人間が必要になる。

「クリス。ダンジョンへのアタックには、奴隷を禁止したいけどできるか?」

「どうして?」

「共和国のダンジョンにアタックしている時に、奴隷を壁の様に運用している者たちが多かった」

「・・・」

「奴隷を否定するつもりはないが、使いつぶす前提の奴隷運用は認められない」

「アル。奴隷の解放条件に繋がるから・・・。ダンジョンへの入場を禁止するのは・・・。難しい」

 ユリウスの言葉は正しいのだろう。
 王国では、ダンジョンの中で得たものを主人に渡すことで、奴隷から解放される場合がある。その為に、ウーレンフートでは、奴隷だけでダンジョンにアタックしている者たちも存在している。

 しかし、奴隷を使いつぶす輩が、共和国のダンジョンでは多い。ウーレンフートとは比較にならない。ウーレンフートと同じではどこかで破綻してしまう。

「アルノルト様。ダンジョンにアタックする時に、ウーレンフートの様に、メンバーの登録は可能ですか?」

 メンバー?
 ダンジョンに潜る前に登録するようにしている帰還予定を記入して、それまでに帰還しなければ、捜索隊を派遣する場合もある。

「ん?ウーレンフートで運用している仕組みなら組み込めるぞ?」

 あの仕組みは、ホームでカードを発行しているから、似たような仕組みなら運用が可能だ。

「それなら、奴隷以外には、ダンジョンのアタック前に、アタック料を取りましょう。ダンジョンの保護を理由にすればいいでしょう」

「あぁ。それで奴隷は?」

「奴隷は、無料にします。その代わりに、奴隷の”価値”を提示してもらいます」

「ん?”価値”」

「そうです。ロストした時には、提示された”価値”分の支払いを命じます。従わなければ、王国が管理するダンジョンへの入場を禁止して、王国への入国を禁止します」

「ほぉ・・・」

「クリス。それでは、奴隷の価値を低く提示するのではないのか?アルが求めているのは、奴隷のロストを防ぐことだ」

「ユリウス。クリスの案で大丈夫だ」

「なに?」

「ユリウス。愚かな奴が、奴隷を銅貨1枚の価値と提示した場合。ダンジョンにいる管理人や人手が欲しい者が、奴隷を銅貨1枚で買い取ることができる。それに、提示された価値が低ければ、奴隷はその場で自分を買い取ることもできるだろう?ダンジョンの管理所から、奴隷に銅貨1枚を貸し出してもいい」

「・・・。クリス?」

 クリスティーネが頷いている。
 俺の推測で大丈夫なようだ。

 ユリウスも納得していることから、基本方針をクリスティーネがまとめることに決まった。

「アルノルト様。是非、教えていただきたいことがあります」

「なんだ?」

「ダンジョンのコアを攻略したら”何が”出来るようになるのですか?」

 やはり聞いてきたのか?
 報告は受けているのだろう。

 エヴァンジェリーナの名前を出して、まだ教えていないから、先に”エヴァンジェリーナに教えてから”と言えば引いてくれるだろう。

 周りを見ると、話を聞きたいと思っている顔が揃っている。
 クリスティーネやユリウスは報告を呼んでいるから知っていることも多いだろう。アルバンやカルラから話を聞いている人も居るだろう。いろいろ不可解な事が多いけど、報告とすり合わせれば結論には達しているのだろう。

 隠してもメリットには繋がらない。説明しても、デメリットにはならない。

 アルトワ・ダンジョンからウーレンフートに移動してもいい。
 共和国への強襲が終了したら、アルトワ・ダンジョンに戻ってきてもらって、実際に見てもらったほうがいいかもしれない。

 エヴァンジェリーナの約束を考えれば、アルトワ・ダンジョンからウーレンフートに移動して、王都に向かったほうが早いかもしれない。
 新しく作った馬車が使える。
 それに、ユニコーンとバイコーンが使えるのも大きい。国境で問題は発生するとは思えないが、電撃的な作戦でも難民が発生する可能性はある。難民が国境に押しかけたら・・・。

 ダンジョンの説明と一緒に、現状の説明をした方が・・・。俺も楽だ、効率もよさそうだ。

 ユリウスはまだ何か言っているが、クリスティーネが納得したので、ダンジョン・コアの説明は、共和国を落としてからに決まった。

 俺が攻略したダンジョン以外にも、共和国内にはダンジョンが存在している。現在は緩やかにだが、俺が攻略したダンジョン以外のダンジョンで共和国の屋台骨を支えている。共和国の弱体を狙うのなら・・・。ダンジョンは攻略しておいた方がいいかもしれない。

 クォートとシャープがヒューマノイドタイプの戦闘員を連れて戻ってきた。

 共和国への侵攻計画を共和国の領土で練っている。
 すでに進入を果たしているので、どうやって動くのか?

 戦力は、ヒューマノイドタイプを貸し出す。ヒューマノイドなら、コアに繋がる人格を守っていれば・・・。

 共和国内にある国で近いのは、デュ・コロワ国だが、アルトワ・ダンジョンのこともある。確実に落とす。

「アル!」

 ユリウスとクリスティーナには、デュ・コロワ国を落とすのは、違う意味があるようだ。

「ん?」

「いいのか?」

「あぁ俺は・・・。クォートとシャープを連れて、ダンジョンを回る。一度、王国に帰ってからにするけど、大丈夫だよな?」

「エヴァか?」

「そうだ。約束の期日まで、まだあるけど、攻略を行っていたら間に合わない」

「そうだな。しかし・・・」「アルノルト様。エヴァを国境に呼びましょうか?」

「できるのか?」

「はい。王都には、手の者がいます。エヴァンジェリーナ様も動けるようになっていると聞いています」

「わかった。国境ではなく、ウーレンフートの方が嬉しい。エヴァを、ウーレンフート経由で連れて来る」

「わかりました。確かに、時間的にも無駄がなくてよいと思います」

「悪いな。クリス。頼めるか?」

「承りました」

 クリスティーネは、俺とユリウスに軽く頭を下げて、この場を離れた。
 王都にいる者に伝令を出すのだろう。距離から考えれば、数日の猶予が出来た。

 共和国の・・・。デュ・コロワ国の近くの街を落とすまでは一緒に居られそうだ。

「アル!」

「どうした?準備はいいのか?」

「俺たちは、デュ・コロワ国の首都を急襲する。お前の用意した兵士たちには負担を掛けるが、指揮権を俺たちに渡して欲しい」

「それは・・・。いいが?」

「お前は、すぐに準備をして、ウーレンフートに向かえ!」

「ん?移動は・・・」

「アルノルト様?確かに、少しは余裕が出来ましたが、アルノルト様には、やるべき事があります」

 ”やるべき”こと?

「・・・。ん?あぁ・・・。そうか、国境を越えた証拠を残す必要があるのだな」

「はい。あと、カルラとアルバンの移送も、アルノルト様の役割です。ライムバッハ領の領邸に届けてください」

 俺は、俺の役割か・・・。
 確かに、ユリウスたちは信頼している。しかし、カルラとアルバンを運ぶのは、俺の役割だ。他の誰にも渡したくない。

「わかった。クォートとシャープは、俺に着いて来てくれ、他はユリウスの指示に従ってくれ」

 これで大丈夫だろう。

「アル。人の欠員も作らないことを誓おう」

「ユリウス。違う。違う。お前たちの誰かが犠牲になるのを、俺は望まない。それに、ヒューマノイドタイプは、魔物でも人でもない。俺の為に、俺の目的のために動く者たちだ。乱暴に扱っていいとは言わないが、お前たちが犠牲になって助ける存在ではない。この者たちも、解っている。それに、お前たちに奉仕することを望んでいる。俺が言えたセリフではないが、ユリウス。頼む。無茶をしないでくれ、共和国は、放置で構わない。共和国は・・・。弱体化が始まる。いいか、絶対に無理するな」

「アルノルト様?」

「クリス。お前はどうする?」

「私は、丁度いいことに、アルトワ・ダンジョンに拠点として使える施設があります。アルノルト様のご許可が頂けるのなら、この場所を拠点として、活動を考えております」

「わかった。皆に紹介して、アルトワ・ダンジョンにいるメンバーを使ってくれ、無茶だけはさせるなよ?」

「わかっております」

 行動方針が決まった。
 全体の指揮は、ユリウスが行う。当然と言えば、当然な処置だ。

 ギルベルトは、アルトワ・ダンジョンに残って、周辺の地図や交通網の構築を行う。主に、国境からの整備を優先する。配下は大量のヒューマノイドタイプだ。力技で解決を行う。まっすぐに、アルトワ・ダンジョンに来られるように道を作るようだ。最初は、反対意見も出たのだが・・・。
 ギルベルトが行商人をむざむざ共和国に渡すのは愚かな事だから、まずはアルトワ・ダンジョンに拠点を作らせて、そこから共和国に商いを行わせて、アルトワ・ダンジョンを戻ってくる場所として認知させるようだ。
 共和国のデュ・コロワ国以外との経済戦争の拠点にするようだ。

 クリスティーナは、アルトワ・ダンジョンに残って、諜報活動を行うようだ。内容は教えてくれなかったが、”笑顔”で説明を拒んだので、大丈夫だろう。
 諜報戦だけでは崩壊しないと思うが、やりすぎないように釘をさしておく必要はあるだろう。クリスティーナは、諜報活動と同時に欺瞞情報を流すようだ。
 俺の情報は、既に流れてしまっている。国境を越えた情報は消せない。ダンジョンを攻略して回ったのも周知な情報だ。

 そして、今回の侵攻を正当化する情報は隠せない。
 俺が共和国の一つ”デュ・コロワ国”の者に、”襲われた”のは事実だ。

 話を聞いていると、隠せないのではなく、隠す必要がない情報だ。クリスティーネは、報復を正当化する情報を流すようだ。

 ユリウスが率いるのは全体の1/2だ。
 他は、ギードとハンスがそれぞれ1/4を率いて、王都の周りにある村や町を侵攻する。他の町や村は無視することに決めた。補給の必要がないヒューマノイドタイプが居て、ユリウスとギードとハンスは、アイテム袋を持っている。もちろん、それぞれのパートナー向けに作られた袋も持っている。これが、周りを無視して王都を直撃する理由だ。補給が伸びても、ある程度なら耐えられる。
 そして、アルトワ・ダンジョンからの補給は実質的に”無制限”だ。
 ユリウスたちに問題が発生した時には、俺に連絡が来る。その為に、エイダをクリスティーナに預けておくことに決めた。

「アルノルト様。本当なのですか?」

「あぁ攻略したダンジョンなら、ドロップの調整が可能だ。ダンジョンの力・・・。まぁ魔力だと思ってくれ、魔力は必要だが、ドロップをある程度なら弄れる」

「攻略とは?」

「最終層のボスを倒して、その先にあるコアに触れる。アルトワ・ダンジョンも、ウーレンフートのダンジョンも、あと共和国にあったダンジョンの多くは、コアルームに入るために、”なぞかけ”が設置されていた。正解を答えると、扉が開かれる。場所によっては、数回の”なぞかけ”が設置されている」

「”なぞかけ”とは?」

「・・・。説明は、難しい。特殊な知識が必要だ。俺は、偶然・・・。その辺りの知識があったから答えられた。アーティファクトや関連の知識が必要だ」

「わかりました。私たちでは、突破ができないのですね?」

「そうだな。簡単に言えば、イヴァンタール博士と同じような知識が必要だ」

「え?アルノルト様は?」

「似たような系統だが、俺は魔法の力を上げた先に得られた知識で代替えが出来た」

「・・・。わかりました。それと、ドロップの調整を行う場合には、どうしたらいいのですか?」

「試したけど、クリスに権限の委譲は無理だった。補助権限でも無理だ。エイダを置いていく、エイダに頼んでくれ」

「わかりました。エイダ様。お願いいたします」

「エイダ。ドロップの調整は、アルトワ・ダンジョンだけだ。他は、必要ない」

”了”

「ドロップを変えてしまうと、ダンジョンの魔力が減るのですよね?」

 その疑問は、クリスティーネからだされたが大丈夫だ。

「大丈夫だ。俺が攻略したダンジョンは繋がっていて、ウーレンフートで余っている魔力をアルトワ・ダンジョンに回せる」

「そうなのですね。詳しい話は、教えてもらえるのですか?」

「全部の説明を始めたら、時間が必要だから、簡単に説明をするぞ?」

「はい」

 クリスティーネに、ネットワークの概念をのぞいて、簡単に説明を行った。
 理解は出来たが、納得が出来ない事が多いとの話だったが、今の所は、アルトワ・ダンジョンの設定を変更しても、全体では大きな問題にならないとだけ理解をしてもらった。実際に数値を示して見てもらわないと解らないだろう。理論を説明するのにも、実際に見てもらう必要がある。

 ライムバッハ領の領都には、私たちが執務を行っている邸がある。ライムバッハ辺境伯の邸とは別に用意された場所で、私たちが生活する場所が一緒になっている。

 私の執務室は、邸の入口に近いが場所にある。
 客人対応が多いのが私だ。ユリウス様に客人対応を任せられない。当代のライムバッハ辺境伯はカール様だ。私たちが支えるべき人物だ。しかし、ユリウス様の現在の肩書は別にして”皇太孫”という立場があり、権限を持っていると思われてしまう。他の者たちでは、客人が爵位を持っている場合に、”軽く見られた”と言い出す者が居る(可能性が高い)。その為に、私が客人への対応を引き受けている。
 お父様から、正式にカルラ衆を貰い受けた。お父様からは、カルラ衆は好きにしてよいと言われている。私が良ければ、解散しても良いと言われている。お父様は、お父様で別の情報網を作られているのだろう。武闘に寄っているカルラ衆は使いにくくなっているのかもしれない。

 そんなカルラ衆の次期カルラに、執務室で報告を受けている。
 人払いと遮音の魔道具の起動をお願いされた。カルラ衆が私を害するメリットはない。信頼ではなく、”利”を見せている限りは大丈夫だ。

 そして、報告を聞いた。
 想定していた最悪を簡単に越えてしまった。

「・・・」

 声が出ない。
 私は、どこで間違えた?

「クリスティーネ様」

 そうだ。
 まだ、報告の途中だ。

「大丈夫。聞こえているわ。その報告に間違いは?」

 テーブルに置いた手が信じられないくらいに震えている。
 自分でも制御が出来ない。手の感覚が無くなっていくのが解る。冷たい。足下で何かが崩れている。

「・・・。ありません。”目”が確認を致しました」

「・・・。そう。指や耳は無事?」

 報告では、告げられなかった事だ。

「はい。欠損は・・・。頭のみ。他は、重傷者もなく離脱しております」

 命令には従ってくれている。
 辛い命令を出している自覚はある。でも・・・。

「今は?」

「指が周辺を探っています」

「もう一度だけ、聞きます」

 間違いであって欲しい。
 嘘だと言って欲しい。

 叶わないことだと解っている。

「はい」

「アルノルト様が襲われた。襲われる前に、カルラ衆に攻撃を仕掛けてきた者が居た」

「・・・。はい。頭の指示があり、カルラ衆は離脱を優先しました」

 頭。頭はカルラの名を持つ。
 カルラ衆の名を持つ者は一人だけ・・・。

「そう・・・。それで、離脱を始めたら、襲ってこなかった?」

 先の報告は、アルノルト様とカルラとアルバンに関する報告が主体になっていた。
 カルラ衆を襲ってきた者が居た?

 確かに、命令は守った。しかし、頭を失っている。
 カルラ衆としては、失態と言われる覚悟なのだろう。
 そして、自分たちで報復を行いのだろう。次期カルラも堅く握られている拳が語っている。

 失態だとは思わない。
 私は、カルラ衆に”死ぬな”と命令を出している。命令を守れなかったのは、一人だ。

「耳と目には、攻撃を仕掛けてきませんでした」

「貴方の見解は?想像でもいいわ?」

 目と耳を先に潰すのなら理解ができる。
 指や腕は、ウーレンフートのダンジョンで、中層を越えられる者が揃っている。

「はい。戦闘を得意とした者が狙われたと考えております」

 見解は正しい。
 しかし、指と腕は、目と耳と行動を共にしていた。その中から、指と腕だけを狙った?
 違和感を覚える。しかし、確証がない。

「戦闘は、カルラ衆が圧倒したのよね?」

「はい。目と耳では対処は不可能だと判断して離脱。指と腕は、敵の攻撃に対処しました」

「共和国の者?」

「いえ、目からの報告では、”帝国の剣術に似ている”との話です」

 目が見ていたのなら、帝国なのだろう。

「・・・。また、帝国なの?」

「はい」

 帝国の中には入り込んでいない。
 お父様なら何か情報を持っている可能性がある。

 帝国内部で何かが変わろうとしているのか?
 国境に兵を出して、牽制してくるのなら、今までの帝国と同じで、対処は難しくない。

 しかし搦め手を使いだしたのか?
 それとも・・・。

 情報が少ない時に、想像で思考を加速させてはダメ。情報が出てきたときに、間違った方向に進んでしまう。

 帝国だとしても、今までの帝国だと考えない方がいい。間違いなく、何かが変わろうとしている。

「ふぅ・・・。わかったわ。ユリウス様に・・・。いえ、私が、ユリウス様にお伝えします」

「わかりました」

 カルラの・・・。妹が頭を下げて部屋から出ていく、後ろ姿を見送る事しか出来ない。
 慰めの言葉を投げかけることは出来ない。彼らは、彼女は・・・。こうなる事を・・・。違う。私が、”なんと”声を掛けていいのか解らない。ただ、それだけだ。アルノルト様の時にも、今回も、私は何も出来ない。カルラ衆を任されて、情報を把握して・・・。

 それで何が変わったの?

 頭を振っても、罪悪感だけが残されてしまう。
 アルノルト様は、また心を寄せていた者を失った。きっかけを作ったのは、私だ。私が、アルノルト様を・・・。

 ノックの音で、現実に引き戻された。

「クリス!」

 部屋に入ってきたのは、先ほどまで報告をしていたカルラ衆の・・・。
 それと、ユリウス様だ。

「え?ユリウス様?」

「クリス。共和国に行くぞ!」

「え?ユリウス様?アルノルト様を救出に?」

「違う。話は、カルラ衆から聞いた。アルが、やられるわけがない。今、アルは迷っているだけだ。アルなら自分で立ち上がる」

「え?それでは?」

「共和国を攻める」

 意味が・・・。
 そうか、アルノルト様は、シンイチ・マナベとして共和国に入国しているけど、王国の貴族家の者だ。
 それも、ライムバッハの現当主であるカール様のお兄様だ。そして何よりも、私たちの大切な仲間だ。

 国内では、邸に居る事にはなっているが・・・。

 共和国は、知らなかったことだとは思うが、アルノルト様を”殺そう”とした。

「わかりました」

「カール様とザシャとディアナとイレーネへの説明は任せる」

「はい。ユリウス様は?」

「俺は・・・。エヴァに会ってくる。アルの事情を説明する。その後で、ウーレンフートで兵を集める」

「え?あっ・・・。はい。お願いします」

 本当に・・・。
 一番、嫌な役割を自ら・・・。
 エヴァンジェリーナ様への説明は考えていた。私の役割だと・・・。でも、どう説明していいのか解らなかった。

「エヴァは、連れて行かない。エヴァも付いてくるとは言わないだろう」

 ユリウス様を見ると、エヴァンジェリーナを連れて行きたい気持ちが溢れている。
 でも、連れて行かないのは、私も賛成だ。私たちが国境を越えるだけでも、大事(おおごと)なのに”聖女”という名声が付き始めている、エヴァンジェリーナ様を連れて国境を越えるのは・・・。共和国に行くのは難しい。
 それに、エヴァンジェリーナ様はアルノルト様が迎えに来ると信じている。自ら動かない。あの人は、そういう人だ。アルノルト様との約束を守る為だけに頑張っている。そして、”聖女”と呼ばれるまでになった人だ。

「・・・。はい」

「クリス。カルラ衆を借りたい。エヴァに付けたい」

 そうだ。
 帝国の狙いが、”アルノルト様”にあるのなら、エヴァンジェリーナ様が狙われる可能性がある。

「わかりました」

 ユリウス様は、ギルベルト様も連れて行くようです。
 ギルベルト様はウーレンフートで、アルノルト様の代わりにホームを取り仕切っている。確かに、ギルベルト様が今回の話を聞いたら、飛び出してくるでしょう。制御を行う意味でも、ユリウス様がウーレンフートに行くのがベストなのでしょう。

 私は、こちらに残ることになる。
 ザシャとディアナとイレーネに説明をしなければ・・・。

 私は、もちろんカルラ衆の管理者として、ユリウス様と一緒にアルノルト様に会いに行きます。
 帝国が仕組んだ可能性が高いのは解っています。しかし、ユリウス様がおっしゃっている通り、アルノルト様に攻撃を仕掛けて、大切な仲間を殺したのは、共和国の者です。報復をしなければ、私たちが舐められてしまいます。カール様の為にも、きっちりとしなければなりません。共和国には、私たちの為に踊ってもらいます。国内にも、帝国にも・・・。必要な事です。アルノルト様は望まないでしょう。

 アルノルト様が、共和国で何をしていたのか・・・。
 そして、何を得ているのか?
 今から、話をするのが楽しみです。

「クリス!邸は任せる!」

「はい。お気をつけて」

「解っている。行ってくる!ギードとハンスを連れて行く」

「はい」

 次のカルラを、ユリウス様に預けます。そのまま、エヴァンジェリーナの護衛についてもらいます。