送ったら帰るつもりでいたのに、柊碧人の家に近づくと突風が吹いて、傘が折れてしまった。雨具を貸すというから、結局、彼の家まで着いて行くしかなかった。
マンションのエレベーターを降りて、四つ目のドアの前に立ち止まると、柊碧人は施錠を外した。
「誰もいないから、ゆっくりしていって」
「ゆっくりって、傘貸してもらえればいいだけなんだけど」
「今出て行ったら、また風で折れちゃうんじゃないの」
「それは……そうかもしれないけど」
確かに借りた傘を折ってしまうのは気まずい。仕方なく家に上がり、彼の部屋に行くとわたしのポケットが揺れた。
携帯だってわかったけど、柊碧人の前でなんとなく携帯を気にしたくなかった。
トイレと言ってわたしは足早に向かう。きちんと施錠をしてから、携帯を開いた。
タケちゃんからのメールだった。
『今日、家に来て』
たまに思う。タケちゃんは、わたしとするメールの文章を定型文にでも登録してるのかなって。
タケちゃんの文章はいつもどことなく素っ気なくて、変わらない。
感情の変化なんて感じられない。
『いいよ。今、友達の家にいるから、帰ったらメールするね』
数分待つと『わかった』とだけ、返事がきた。
携帯をポケットにしまい、聞かれてるわけもないのにトイレのレバーを回した。
柊碧人の部屋の前に立ってみたけど、開ける気にならなかった。
楽しくお喋りをするためにわたしを招いたとは思えないし、打ち解けてもいない彼とそんな時間を過ごせるとも思えない。
このまま、素通りして玄関まで行って、帰ってしまおうかな。
ああそうだ、ダメだ。鞄、さっきの部屋の中に置いてしまった。
後先を考えない自分の行動を後悔する。
普通に考えて昨日の今日で、柊碧人の家に来ることはおかしい。
気配を感じて振り返ると、すぐ後ろに柊碧人が立っていた。