ミルは、妖精の姿を気に入っていて、元のサイズに戻ったときにも、背中に羽を生やそうとしていた。

「ミル。やっぱり、羽は・・・」

「僕には、似合わない?」

 可愛く言っても・・・。確かに、似合っている。似合っているが、人ではないのが解ってしまう。

「似合うよ。すごく、可愛い。でも、これから、王都に行くのに、スキルやステータスは隠蔽でごまかせるけど、羽は無理だからね?」

「うん。わかった」

 ミルは、服の袖を握りながら、目を閉じた。
 羽だけを消すようだ。

「これでいい?」

「完璧!」

「よかった」

 ミルが腕を絡めてくる。
 社から出て、街道に向って、森を歩いている。皆と相談はしたが、社への道は整備しないことにした。社の場所を隠したいという意図もあるが、それ以上に整備を行うのが面倒だという話をした。整備するメリットが思いつかなかったのも理由の一つだ。

 俺とミルがゆっくりとした移動を行っているのは、次に”社”を作るとしたら、どこにするのかを見定めるためだ。
 絶対の条件は、アゾレム領ではないことだ。実は、候補は上げている。あとは、王都で確認を行うだけだ。村長に聞いたことがある。社がある森は、王家の直轄領になっている。他にも、街道(を含む)から中央の湖までの間は、王家が所領としている。村を作るのに適していない為に、価値がないと思われている場所だ。それに、村を作る為の資材は、アゾレムから持ってくるか、国境を越えて共和国から運搬をするか、マガラ渓谷を越えなければならない。諸々の事情から、コストに見合う税収は難しい。

「ねぇリン。ギルドに、神殿を解放するのはいいとして、どうやって説明するの?」

「そうだよな・・・。それが最初に困るところだよな。茂手木が合流していたら、俺の素性をばらした上で、協力を求めてもいいとは思っている」

「ねぇ前にも聞いたかもしれないけど、なんで、茂手木君にそこまで拘るの?」

「うーん。ミル。この世界に来ている同級生を覚えている?」

「うん。バランスの話だよね?」

「そう。茂手木だけが、特別な感じがしている」

「うん」

「人数にも関係しているけど、茂手木はジョーカーだ」

 考えれば、考えるほど、茂手木が鍵を握っているように見えてくる。
 立花たちグループと、女子の対立だ。俺は、立花サイドには立たないから、必然として女子サイドになる。茂手木を懐に入れて、活用したほうが、人数で上回る。多数決ではないが、最終的には、支持を集めたほうが”よい”に決まっている。

「そう?」

「それだけではなく、茂手木だけは、異世界に来て喜んでいると思う」

「え?」

「茂手木は、異世界に行ったら、何をするのか考えていた。知識もある。それに、趣味はキャンプを含めたサバイバルだ」

 茂手木のプロフィールを思い出しながらミルに説明を行う。それ以上に、アイツは”ハーレム”願望があった。エルフやケモミミの女の子を従えたいとか言っていた。

「あ!」

「意外と近いな」

 途中から、小走りで移動した。
 夕方くらいには、アロイに到着したかったからだ。でも、小走りが思った以上に早かったのかもしれない。アロイが見えてきた。

「リン。なんで、アロイは、町の柵があんなに貧弱なの?」

「アゾレムに聞かないと本当の所はわからないけど、前に調べたときには、魔物が発生するのは、マガラ渓谷側だけだから、守備隊が行動しやすいようにしているとか説明されていたよ」

「ふーん。ウソくさいね」

「多分、嘘なのだろう」

 嘘なのはわかるが、何のために、わかりやすい嘘を説明として使っているのか・・・。理由が、わからない。

「リン?」

「なんでもない。ナナの店は覚えている?」

「うん。大丈夫」

 アロイの中央広場から少しだけ離れた場所に、三月兎(マーチラビット)がある。

 以前に来たときと変わらない。

「いら・・・!リン君!それに、ミトナルちゃん!」

 カウンターテーブルを乗り越えて、駆け寄ってきてくれた。

「ナナ。心配をかけた。俺は無事だ。マヤは、ちょっと・・・。あとで何があったのか・・・」「いいわ。いいわ。リン君が無事なら・・・」

 ミルが後ろから、俺の服を引っ張る。
 ナナが力強く、俺を抱きしめてくれている。

「いいのよ。リン君。無事なら・・・。何が、合ったか、教えて・・・。ね」

「あぁそのつもりだ。それで、少しだけ相談にも乗って欲しい」

「もちろんよ!サビニにも頼まれているから、何でも言って!あの腐った男を殺すのなら、手伝うわよ」

 ん?
 腐った男?多すぎてわからない。

 ナナが、俺を解放してから、ミルを抱きしめる。そのまま、奥の部屋へ移動する。

 声が外に漏れない状態にしてから、椅子を勧めてきた。
 俺の横には、ミルが座って、正面にはナナが座った。

「それで?ミトナルちゃんには、簡単に事情を聞いたけど、何が有ったの?」

「あぁ・・・」

 俺は、王都での出来事から、話をした。
 長い話だが、ナナは黙って聞いてくれた。

 マガラ渓谷で、殺されそうになった所では、ナナから発する”気”のような物で、室温が下がるように感じた。背中に汗が滴るのがわかる。

 村長に復讐して、愚かな親に娘たちの死に際を伝えた所で、話を切った。

「そう・・・。やっぱり、サビニは・・・」

「わからない。わからないけど・・・」

「ありがとう。リン君のほうが辛いのに、ごめんなさいね。新しい、飲み物を持ってくるわ。少しだけ待っていてね」

 ナナが、冷めた飲み物が入ったカップを持って部屋から出る。なにか、思うことが有ったのだろう。俺とミルを見比べるようにして見てから、立ち上がっていた。
 ナナは、魔道具を切ってから部屋を出ていった。

「リン」

「ん?」

「ナナさん。いい人だね」

「あぁ」

 店の厨房からだろうか、ナナの声が響いてくる。

「リン君。ミトナルちゃん。果実水でいいわよね?」

「あぁ」「はい。手伝います!」

「いいわよ。座っていて!」

 戻ってきたナナは、コップを3つと、魔石を1つ持ってきた。

「それは?」

「魔道具の魔石が無くなりそうだったからね。予備を持ってきただけよ。入れ替えておけば安心でしょ!これから、話の本筋なのでしょ?」

 十分に、問題な行動を話している。
 ミルとマヤの話と、今後の話が残っているだけだが、たしかに、今まで以上に問題になりそうな話題だ。

「リン君も、ミトナルちゃんも、今日は、泊まっていくのでしょ?」

 ナナは、魔道具の魔石を入れ替えながら予定を確認してきた。

「そのつもりです。部屋は、空いていますか?二部屋なければ、一部屋で二つのベッドがあれば・・・」

 ナナは、俺の言葉を聞いてから、ミルを見る。ミルは、ナナの視線に気がついて、頷いた。

「残念。ベッドが2つある部屋が空いているわ」

「よろしくお願いします」

 何が、残念なのか、わからないが、部屋の確保ができた。

「明日は、渓谷を超えるの?」

「そのつもりです」

 ナナの手元での作業が終わって、魔道具を元の位置に戻して発動した。

「ふぅ・・・。リン君。ミトナルちゃん。渓谷は注意してね」

「はい。わかっています」

「うん。特に、リン君は素性がわからないようにしておいたほうがいいでしょう?」

「どうでしょう。もう死んだことになっていますし、問題はないと思いますが?」

「そうね。でも、用心はしておいたほうがいいでしょう。私の店からVIPチケットを出すから、使って」

「え?VIPチケット」

「そう、アゾレムのクズが始めたことで、渓谷の関所を超えるときに、荷物がなければチェックされないのよ」

「え?いいのですか?」

「あいつら、この辺りの店に無理やり買わせているよ。それも、通常の入場料の5倍以上の値段。買わないと、”店を出す許可を取り消す”と脅迫してね」

「なりふり構わない感じになっているのですね」

「そうなの、それで入場料もまた上がったのよ」

「・・・。ちょうどいいかもしれない。ナナ。ポルタ村の後の話だけど・・・」

 神殿に戻った後の話をナナに聞いてもらった。
 マヤの復活と、ミルとの関係を含めて、全てを語った。俺の懺悔になってしまったが、ナナは黙って聞いていてくれた。