「ふっふん!いいよ!ミル。リンに確認してもらおう!」「わかった」

 マヤがミルの肩に移動している。
 二人で一緒に詠唱を始める。

 ん?魔法やスキルの呪文ではないな。はぁ・・・。フュ○ジョン?誰の仕込みだ?7つの珠を集めて、ギャルの(以下、自粛)。

 光が二人を覆った。眩しいほどではないが、直視していると目が痛くなりそうだ。光は、それほど長い間は光っていなかった。

「え?」

 間抜けな声が出てしまったが、しょうがないだろう。
 光が収まったところに立っていたのは・・・。

「マヤ!」

 それも、全裸の状態に戻っている。

「ただいま!リン!」

「リン。僕も居るよ?」

 マヤが、俺に抱きついてくる。抱きつかれて、確信した。柔らかさだけではなく、雰囲気も匂いも感触もマヤだ。俺の大切な家族だ。
 そして、マヤの肩には、妖精の姿になっているミルが居る。先程までとは逆に、マヤが人の姿になって、ミルが妖精の姿になっている。

 シャツは、マヤが居た場所に落ちている。ミルが拾い上げて、マヤに上から着せている。

「フュ○ジョンとは違うけど、マヤ!ミル!」

 二人を抱きしめる。

「リン。痛いよ」

「ごめん。マヤ。説明をしてくれるのだよね?」

「うん。ミル。任せた」

 マヤに聞いたのだが、ミルが答えてくれるようだ。マヤは、胸に顔を埋めてスリスリしている。

「わかった。でも、最初は僕に譲ってくれるのだよね?」

「うー。約束だし・・・。いいよ」

「ん!」

 ミルが、マヤの肩に乗りながら説明してくれた話は、事象から予想できる範囲だった。

「マヤであり、ミルであるってことなのか?」

「うん。今は、僕が身体の外に出ているけど、僕も身体の中に入られる」

「ん?妖精は、意識だけなのか?」

「うーん。僕たちにもよくわかっていない。でも、僕もマヤも、一つの身体に居る。主人格で、姿が変わる。そして、妖精に意識を移動できる」

「そうなると、妖精になる必要はなくて、今はマヤだけど、ミルの意識が同居することも可能なのか?」

「うん」

「意識の入れ替えは、さっきの詠唱が必要なのか?」

「必要ないよ。雰囲気?リン。好きでしょ」

「・・・。ミトナルさん?」

「ごめん。少しだけ悪ふざけした。でも、詠唱が必要ないのは本当。詠唱すると、光が出る仕組みになっている。らしい」

「そうか、”神”の悪ふざけだな」

「うん。そう、説明された」

「なぁミル。一つの身体に、二人の意識がある時に、スキルの発動はどうなる?」

「どうだろう?マヤ。解る?」

 ミルが、マヤに話題を振り分けるが、マヤは俺の腕の中で眠たそうにしている。

「ん?なに?僕、眠いよ。疲れちゃった。リン。抱っこ!一緒に寝よう」

 昔から、こうなるとマヤは何を言ってもダメだ。起きてから話を聞けばいいか・・・。

「はい。はい。お姫様。ミルはどうする?」

 抱きついているマヤを抱きしめて、所謂お姫様抱っこ状態にする。シャツが大きかったから良かったが、小さかったらまずかったかもしれない。

「僕も、疲れたから、リンと一緒に寝る」

「そのまま?」

「うーん。その時の気分かな」

 そういうと、ミルは俺の肩に腰を降ろした。

 マヤを抱っこしながら、扉の前まで来ると、自然と扉が開いた。
 ロルフを先頭にして、ヒューマ/アウレイア/アイル/リデル/ヴェルデ/ビアンコ/ラトギが左側に並んで、右側には種族別に眷属が並んでいる。

「ブロッホは?」

「リン様。ブロッホは、ヴェルデの眷属と一緒に、リン様とマヤ様とミトナル様の寝所を整えに行っております」

「そうか、待っていればいいのか?」

「いえ、ご案内いたします」

 ロルフではなく、ジャッロが答えてくれた。ロルフは、マヤから目線が外せないでいる。よほど嬉しいのか、顔を上げてマヤを見つめながら涙を流している。待ち望んだ”マヤ”の復活だ。感極まっているのだろう。

 ジャッロが、指示を出すとアイルの眷属が数体前に出てくる。どうやら案内役のようだ。
 ミルが、俺の肩からスコル()の頭に移動する。嫌がる様子がないことを見ると、ミルやマヤを上位者として扱ってくれるようだ。

「ヒューマがご一緒します」

 護衛のつもりなのか、ヒューマが眷属の列から一歩前に出て、俺に頭を下げる。

「頼む」

「はっ!」

 ヒューマは嬉しそうにした。荷物は無いが、ヒューマはどこから持ってきたのかわからないが、ミルが使っていた剣や防具を持っている。

「ミル?」

 スコルの上に居るミルが振り返る。

「なぁヒューマが、防具を持っているけど、ミトナルさんが使っていた防具を身につければ、裸になることはないよな?」

「え・・・。あっ・・・。そうそう、サイズが違って」

「嘘だよな?」

「う・・・。だって・・・」

「ミトナルさん?」

「走ったし、汗臭い・・・。かも、しれない・・・。それに・・・」

「わかった。わかった。ごめん。ヒューマ。ミルの防具だけど、ビアンコに洗ってもらってくれ、あと剣だけではなく杖の用意も頼む」

「はい」

 ヒューマに従っていた、リザードマンがヒューマから防具一式を受け取って、眷属たちが居る場所の戻っていく、剣は別のリザードマンが持って別の場所にむかった。

「リン!ありがとう」

「ミル。もう一つ、教えて欲しいけど、いいか?」

「うん。何?」

「入れ替わる時に、裸になるのは、わざとやったよな?」

「え?なっなんで?ちっちがうよ!」

「多分だけど、スキルかなにかで、服を着替えられるよな?」

「え?」

「そうしないと、ミルとマヤが入れ替わる時に不具合が生じるよな?」

「むぅ・・・」

「どこまでできるのかわからないけど、ある程度は可能なのだろう?」

「・・・。うん。入れ替わる時に、装備品を含めて変更できる。でも、でも、妖精の袋に入れていないとダメで・・・」

「ん?妖精の袋?」

「うん。リンに、わかりやすく言うと、アイテムボックス」

「俺が持っている。魔法の袋(マジックポーチ)みたいな物か?」

「そう、僕とマヤで共通になっている。あっそうだ!リン。あとで・・・。マヤが起きてから、妖精の僕かミルを眷属にしてよ!」

「え?」

「そうしたら、僕たちが使える、アイテムボックスをリンが使えるようになる」

「わかった。でも、俺もいろいろあって、眠いから・・・。起きてからでいいよな?」

「うん。僕も、眠いから寝る」

 ミルは、宣言してからスコルから飛びだって、俺が抱えているマヤの上に乗った。
 俺にウィンクをしてから、マヤの中に吸い込まれるように入っていった。

 そうか、寝るのなら、マヤの中に入ったほうがいいのか?

「旦那様」

 ブロッホが扉の前で待っていた。

「ありがとう」

「はい。どうぞ、お休みください」

 扉を開けると、中には大きめのベッドが一つだけ置かれていた。
 マヤをベッドの中央に寝かせる。

 マヤなのか、ミルなのか、わからないけど、俺の腕にしがみついてくる。
 護衛でついてきたヒューマを探すが、すでに部屋の外に出ている。ブロッホは、扉を閉めようとしている。声を出そうとするが、マヤが起きてしまうかもしれない。
 いいか、マヤは眠っている。ミルも中に入っているし、外に出てくるにしても妖精の姿だろう。
 二人の話は、まだなにかを隠している様子はあるが、俺に害があるような感じはしない。

 寝ているマヤは、俺の左腕に抱きついている。
 片手で、掛け布団をかける。かけた布団の上に横になる。左腕だけは、マヤと一緒の布団に入っている。

 マヤが帰ってきた。ミルが一緒に居る。
 これだけで、俺は安心できる。起きたら、眷属にするという話をしてから、今後の対応を考える必要があるだろう。

 眷属が調べてくれている話も聞かないとダメかもしれないし、この神殿の使い方を確認して、状況を整理しないと・・・。

 敵は、アゾレムだ。これはわかっている。
 そう言えば、ギルドの設立は終わっているだろう・・・。王都に顔を出しに行く必要があるかも・・・。重久や瞳たちが、どんな情報を握ったのか・・・。

 だめだ、抱きつかれている腕からマヤの体温が伝わって、眠くなってくる。