「マ、マ、マスター」
「マママスターって、俺は、ロルフのママじゃないぞ?」
「わかっています!そんなことを行っているのではありません!」
「わかっているよ。それで、この魔核は魔力に還元できるのか?」
「マスター。それは、どこから?」
「ん?マジックポーチからだけど?」
「だから!そういうことを言っているのでは無いのは、わかっていますよね?わかっていて、からかっているのですよね?マスターは鬼畜ですか?そうですか?鬼畜なのですね」
「悪かったよ。ロルフ。そんなにいじけないで、実際、どうやって入手したのかわからない。渡されたマジックポーチに入っていただけだからな」
「ふぅ・・・。それで、そのマジックポートは誰から?」
「父さんになるのかな?母さんかもしれないけど、俺とマヤの両親だと言えばいいのかな?」
多分、父さんだろうとは思っている、あんな手紙を残すのは、父さんくらいだろう。
「そうですか・・・。その魔核は、神殿の為に作られた物だと思います」
「え?」
「10年ほど前に、神殿の外層部で怪我をした女の子に適合して、マヤ様は女の子を助けることにしました。そのさいに転移ミスが発生してしまいました。そのときに一緒に転移してしまった魔晶石です」
「・・・?魔晶石?魔核ではないのか?」
「明確な違いがあるわけでは有りませんが、大きさや純度から、魔晶石で間違いはありません」
「そうなのか?それで、使えるのか?」
「施設の魔力には使えますが、マヤ様への充填には不適合です」
「そうか・・・。全部、ロルフに渡すから好きにしてくれ」
マジックポーチの中から、魔核を取り出そうとしたら、ロルフに止められた。
ロルフが貰っても吸収させられないらしい。
「どうしたらいい?」
「先程のパネルに吸収させてください。それで、魔力として還元されます」
「わかった」
パネルのある場所まで戻った。
パネルの表示方法を変えたほうが良いと言われて、ロルフに言われたとおりに操作をおこなった。
パネルに、所有者と管理者以外からのアクセスを禁止する。表示を、神殿全体の操作を可能にするメニュー機能に変更する。
上部には、施設の魔力が表示される。充填の完了予定時間が表示されているが、考えるのも面倒な位の数字になっている。12桁以上の数字なので、考えるのを放棄した。
全体の地図が表示されているのが嬉しい。
施設の増改築ができるようになっているようだ。階層を作ったりもできる。
魔物が出ないダンジョンのような感じだな。
以前の管理者が何を目的にした施設なのか、想像ができた。宿泊施設を兼ねた神殿になっている。
パネルの使い方は、それほど難しくない。マヤが復活してから、二人で考えればいいだろう。
まずは、魔核を吸収させる。取り出した魔核をパネルに押し当てる。ゆっくりと魔核がパネルに吸い込まれていく。
「お?」
「マスター。魔力の充填が6%になりました」
「1個で5%程度か・・・」
多いのか、少ないのかわからないけど、人を殺すよりはいいのだろう。
次々に魔核を吸収させる。
「マスター!待って!」
「え?」
遅かった。
コボルトの魔核がパネルに吸収されてしまった。
「・・・」「・・・」
”魔核に準じた生物の召喚が可能になりました”
「え?」
ロルフがびっくりしたような声をあげる。
「ん?ロルフは知らなかったのか?」
「はい。魔物の名前が付いた魔核は、吸収出来ないと教えられていました」
「出来たぞ?でも、魔力には還元しなかった」
実際に、魔力の充填率を見ると、86%のままで変わっていない。もしかしたら、端数が変わっているのかもしれないが、パネルの表示は変わっていない。
「そうですね」
「ロルフ。召喚とか言われたけど、どうしたらいい?」
「え?」
「今、”魔核に準じた生物の召喚が可能になりました”とか聞こえたぞ?」
「何も聞こえませんでした」
「そうか・・・。検証は後だな。ひとまず、86%もあれば、暫くは大丈夫だろう」
「はい」
パネルから手を離すと、先程の声が聞こえた。
”施設の活性化を再開します”
パネルには、施設の活性化に必要な時間が表示された。
カウントダウンが始まっている。1秒でカウントダウンしているようなので、表示されている数字が80万程度なので、9-10日間で活性化される。
「ロルフ。魔力が、100%を越えても問題はないのか?」
「問題はありません」
よし、あと10個ほど吸収させよう。
表示は、100%を越えても大丈夫だった。10個のつもりだったが、なんとなく吸収を続けて、165%まで増えている。1%ほど何かで消費したのだろうか?施設の活性化で、使われている可能性もある。これだけ大きな施設なのだから、活性化すれば魔力も消費されてしまうのだろう。
もう少し吸収させておく、活性化されても次に来た時に、また足りなくなっていて、同じように活性化の時間を待つのも無駄に思える。
活性化に魔力が使われるのがわかったので、追加で100%分の魔核を吸収させる。
ゴミのような物も、魔力の足しになると言われたので、二人が寝かされていた場所に移動した。魔法陣が表示されているので、そこに、マジックポーチ内にある必要がないと思われる物を出す。ロルフが処理をしてくれる。
「さて、地上に戻ろう」
「本当に?行き先が不明の転移門を使うのですか?」
「あぁ神殿に居ても、餓死する未来しか見えない」
なぜか、ロルフが残念そうな顔をする。
「わかった。1日だけ、1日だけ、ここで過ごそう。ロルフ。どこかで休める場所はあるのか?」
「!!あります!!マスター!」
嬉しそうに尻尾を振って案内するロルフの後ろをついていく。尻尾が可愛く揺れている。歩いているのを見れば、普通に猫だな。
案内されたのは、こじんまりした部屋だが、綺麗に掃除がされている。ベッドが一つ用意されているだけの部屋だ。
「ロルフ。ここは?」
「はい、いつマヤ様が戻られてもいいように用意されている部屋です」
「掃除もされているようだが?」
「はい。誰も入っていない時には、時間が停止していますマジックポーチと同じ原理だとお考え下さい」
「わかった」
食事はないが寝られる場所があるだけでもありがたい。
ロルフは、枕元で丸くなって眠るようだ。”精霊なのに寝るのか”と思ったが、聞いてもしょうがないと思ったので、聞かなかった。
翌朝、寝床を綺麗にしてから、パネルを見る。魔力の消費は10%ほどなので、施設の活性に必要な魔力には問題はないだろう。
「ロルフ。転移門は?」
「本当に使うのですか?」
「あぁそれに、同じ転移門なら戻ってこられるのだろう?」
「はい。問題はありません。一度、使えば魔力が登録されます。登録者と一緒でなければ、来られません。転移門が発動しません」
「それなら問題はないな。ロルフ。行くぞ」
「はい。どこに出るのかわかりませんよ?」
「何度も聞いたが、他に手段がない」
「そうですね。マスター。こっちです」
パネルの部屋に続く通路の途中にある扉を開けて中に入る。
「マスター。扉に魔力を流してください。それで開くはずです」
「わかった」
扉に手を置いて、魔力を流す。
扉がゆっくりと開く。
門とはよく言ったものだ。”門”だけが部屋の中央に置かれている。
「ロルフ。転移門は、他にもあるのか?」
「はい。しかし、この門以外は使えない状況です」
「なぜ、使えないと解る?」
「扉が空きませんでした」
「・・・。そうか、この門だけ残った理由は、わからないよな?」
「はい。不明です」
「それは、後で調べればいいな。それで、使い方は?」
「門の前まで進んで下さい。今なら、施設の魔力がありますので、何もしなくても起動するはずです」
「わかった」
門の前まで進むと、足元に魔法陣が現れる。暫く待っていると、門が光り始める。
「マスター。準備が出来たようです。門の先と繋がりました」
繋がったという言葉から、門の先が見えるかと思ったが、見えなかった。
「いくぞ!」
「はい」
ロルフは、俺の肩に飛び乗った。そのまま、転移門に足を踏み入れた。