「宮杜さん!」
「はい?」

不意に呼ばれて顔をあげると目の前に学級委員の高木ユメミが立っていた。

「ねぇ?宮杜さんも一緒に行かない?」
「え?えっと…どこに?」

急に話しかけられて焦った千夜子はおろおろと視線を泳がせる。

高木のすぐ脇には同じクラスの永田みずきと山下あかねがいて、主語の抜けた高木をフォローすべく小夜子に一枚のチラシを差し出してきた。

そこには数日前にオープンしたばかりのジェラート屋さんの美味しそうなメニューがびっしりと写真付で紹介されていた。

なるほど、みんなはジェラート屋さんに行く相談をしていたわけか…

やっと理解する。

高木ユメミは学級委員だが、ちょっと抜けた所があって普段からちょいちょい主語の抜けた会話を突然始めるのである。

春にこの小野谷女子高等学校に入学してからの付き合いで、なんとなくそう言う子なのだと理解したつもりでいてもなかなか慣れない。

「えっとジェラート屋さんに行くんですか?私は夕方山の神社の掃除に行かなくちゃいけないんだけど、それまでで良ければ、ご一緒します。」

毎日の日課で小夜子が山の神社に掃除に行く事は、クラスの生徒には周知の事実なので誰もそれを不審には思わない。
と言うか町に住む町民ならみんな知っている。
千夜子は代々山の神社を管理していた一族の妙子の孫だからだ。