しん…と静まりかえった室内。
その重い空気を斬り返す様に、一慶は、真っ直ぐボクを見据えた。

「…いいか、薙?未来を選ぶ権利は、お前自身にある。その気が無いなら、このまま出て行ったって構わないんだ。好きな所へ行って、好きな事をすりゃ良いんだよ。簡単だろ?」

 『未来を選ぶ権利』──
ボクは、その一言に打たれた。

なんて力強い『言葉』だろう。
一慶の気持ちが、直接伝わって来る。

「自分の生き方は自分で決めろ。大事な判断を、他人に委ねるな。他の奴はどうだか知らないが…俺は、ヤル気のない首座に仕える程、お人好しじゃないんでね。だからお前も、周りの思惑なんて考えなくていい。」

 そう語る一慶の目は真剣だった。
どこか、怒っている様にも見える。
熱く憤るその眼差しは、先程から黙り込んでいる、おっちゃんにも向けられた。

「親父…。首座がいなけりゃ困るのは、総代連中の都合だろう?そんなつまらないプライドに、何故コイツが付き合わなきゃならない?それじゃあ、娘を巻き込んで欲しくねぇっていう、伸さんの遺志はどうなるんだ──首座の遺志は!?」

「いち──」

「いいんじゃねぇか、別に? 首座が立たないなら、それはそれで。一座の代表が、金から火に遷るだけだ。六星そのものが無くなる訳じゃない。万一それで無くなる様なら、それも時代の流れってヤツだろう。」

「…………。」

 沈黙の帳(トバリ)が降りて来る。

息詰まる様な空気の中で、一慶は、吐き棄てる様に呟いた。

「…そもそも、人生棒に振ってまで尽くす価値があるのか、この国に?当主だ首座だと祭り上げられた處ろで、俺達は所詮、ただの生け贄なんだ。」

「言葉が過ぎるぞ、いち!」

 おっちゃんの目が、珍しく剣呑な光を帯びた。広間は忽ち、水を打った様に静かになる。

各々の思惑、各々の事情。
様々な感情が渦巻いていた。

 ボクは、未だ混乱していたけれど──。
何故、本家に呼ばれたのか…その理由だけは、ハッキリと理解した。

 全ては一族の為──
《金の星》が、六星の総元締であり続ける為に、ボクは必要な『駒』だったのだ。