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愛の賛歌

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翌日 12月16日(日) 11時45分。

お昼ご飯、何にしようかなぁと思っていると、携帯が鳴った。

ゆうくんからのメッセージ。

『今から昼飯作るから、食べに来いよ。』

いいのかな?

ゆうくんだけど、一応、男の人の部屋に行くって事だよね?

どうしようかなぁ!?


私は、迷いに迷ったが、

ま、いっか。
昼間だし。
ゆうくんだし。

と考えて行くことにした。

『楽しみ((´艸`*))
502だったよね?
今から行くね(^∇^)』

と返信して、部屋を出た。


ピンポーン ♪

─── ガチャ

ドアが開いて、ゆうくんが顔を覗かせた。

「いらっしゃい。上がって。」

「お邪魔…しまーす。」

靴を脱いで部屋に入ると、ゆうくんは、すでにキッチンに立っていた。

初めてのゆうくんち。

「ゆうくんち、広いね。」

「そう? まぁ、奏んちみたいに防音室入れて
ないから、余計にそう見えるのかもな。」

リビングの隅に置いてあるのは、電子ピアノとバイオリンと細長い黒いバッグ。

「ゆうくん、これ…?」

私は思わず立ち上がってそこに近寄った。

「あぁ。いいだろ?
p BONE って言うんだ。
出して吹いてみていいよ。」

そう言われて、バッグを開けると、中には真っ黒なプラスティック製のトロンボーン。

「こんなのあるんだ。音は? いいの?」

「んーー。
趣味でやる分には、これで十分かな?
ほら、ピアノだって、電子ピアノだし?」

と言って笑うゆうくんは、一緒に吹奏楽をやってたあの頃のままのような気がした。

「奏、もうすぐできるから、こっちのサラダ
運んでもらっていい?」

「分かった。」

ゆうくんが作ってくれたのは、パスタ。

私が1番好きなカルボナーラだった。

「どうぞ。」

私の前にお皿を置くと、ゆうくんはまたしても向かいではなく、隣に座った。

「私、ゆうくんにカルボナーラが好きって
言った事あった?」

「ないけど、みんなで出かけた時、いつも
食べてたじゃん。」

「よく覚えてたね。」

「ずっと見てたからな…… 」

うそ!?

ほんとに?


それから、何を言っていいのか分からず、私は俯いて無言でカルボナーラを口に運び続けた。



「………ごちそうさまでした。」

「お粗末様でした。」

ゆうくんは、やっぱりにっこりと微笑んでいた。



「ねぇ、ボーン吹いてみてよ。」

「いいけど、防音室じゃないから、ミュート
付けるよ?」

「いいよ。聴きたい。」

ゆうくんが吹いてくれたのは、聖者の行進。

とても楽しそうだった。

「私、ピアノ弾いていい?」

ゆうくんが頷いたのを見て、電子ピアノの電源を入れる。

ゆうくんのトロンボーンのメロディに合わせて、ピアノで伴奏を紡いでいく。

あの頃に戻ったみたい。

楽しい。



ジャズの定番曲を何曲か演奏すると、ゆうくんがボーンを下ろした。

「ちょっと、休憩。
これ以上吹いたら、唇腫れそう。」

「まだまだ、修行が足りないね〜。」

私が茶化すと、

「バイオリンに変えてもいい?」

と聞いてきた。

「いいよ。
バイオリンも聴きたい。」

「でも、やっぱり休憩してから。
奏、お茶飲むだろ?」

そう言って、ゆうくんはキッチンへ行った。


「どうぞ。」

ゆうくんが出してくれた紅茶には、ミルクが添えられていた。

ゆうくんが自分の手に持っているのは、コーヒー。


「……… これも覚えててくれた?」

「………あぁ。」

私は、子供の頃からコーヒーが苦手で、いつもミルクティーを飲んでいた。

もう、胸がいっぱい。



2人で静かにお茶を飲み終えると、ゆうくんが立ち上がった。

バイオリンを取り出し、調弦していく。

調弦を終えると、ひとつ深呼吸をして、演奏を始めた。



愛の讃歌


バイオリンの音色に心を揺さぶられる。


……… これは、ゆうくんの想いだ。

ゆうくんの心が伝わる。

私の自惚れじゃない。

ゆうくんからの愛の告白。


ありがとう………




演奏を終えたゆうくんが近づいて来て、バイオリンを置くと、右手で私の目元を拭った。

「奏、愛してる。
ずっと、奏だけを想ってた。」

そう言って、ゆうくんは、私の肩を抱き寄せ、優しく包み込んでくれた。



私が泣き止むのを待って、ゆうくんは、私の耳元で囁いた。

「返事は今じゃなくていいから、俺との事、
ゆっくり考えて。
俺は、ずっと奏を想ってた。
この気持ちは、きっともう変わらないから。
慌てなくてもいいから、考えてみて。」


「うん… 」


私は、放心状態のまま、自分の部屋に戻り、考える事も出来ずに翌日を迎えた。