体には浮遊感がある。
何がどうなったのか、僕には分からない。
でも、どうしてか僕は漆黒の世界にいる。
どこをどう見渡しても何も無い。

電柱も、コンビニも、何も無い。

「ここは……一体どこなんだ?」

何も無い暗転の世界に放り出され、不安を覚える。
そんな時だ。
僕の前に、僅かな光が現れる。

「えっ……」

激しい光ではないが、周囲が真っ暗であるために、眩いと勘違いしてしまう。
目を細め、両腕で目を隠そうと努める。
しかし、それも一瞬。

「やぁ」

どこか暗さを感じる声が耳に届き、僕は顔を上げる。真っ暗で、周囲など見えるはずもないのに。
何故か、宙に浮いた少女だけははっきりと捉えることが出来た。

「君は……?」

黒衣のワンピースに身を包み、長く伸びた黒髪はポニーテールでまとめている。また、周囲に溶け込んでしまいそうな漆黒の瞳は僕を見据えており、手には大きな鎌を持っている。

「私はハデイス・トロン。死神だよ」

ハデイスと名乗った少女は、鎌を一振りする。

「死神……。じゃあ僕は……」

「君はもう死んだよ。通り魔に襲われたんだ」

あまりに唐突の事実。実感のないことに、僕は二の句が告げないでいる。すると、ハデイスは静かに訊ねた。

「君は……やり残したことはないかい?」