あれからしばらく経つが、柚月はハローくんと会えずじまいだ。

バイトを終え、家に向かう途中、柚月はこのまま会えないのかもしれないなと立ち止まり息を吐いた。
仰ぐとまばらに星が見える。
同じ空を見ているはずなのにな。
ふと彼と行った公園が脳裏に浮かび、もしかしたらあそこに行けば会えるかもしれないと思い立って踵を返した。

いるかな、いるかなと急に気がはやってきて、気づけば足早になっていた。

芝生を抜けると、この前一緒に座ったベンチが街灯に照らされている。
人影がある。

そこに座っていたのは、ハローくんだった

「ハローくん?」

驚いたように彼が振り返る。

「あれバイト帰り?」
「あ、うん。バイト帰り」

ベンチの前に行くと彼は横にずれ、隣に座った。

「どうしたの? 帰り道じゃないよね、こっち」
「私もハローくんを見習って散歩でもしようかと思って。ダイエット兼ねて」
「別に痩せてるじゃん。それに女の子一人は危ないんじゃない?」
「痩せてないよ。あ、そっか、危ないのかな?」

あ、とハローくんは思い出したように言う。

「この前、買ったスイートポテト、風呂上りに食べようとしたら、母親に全部食べられた」
「え、本当に? 一口も食べてないの?」
「うん。ありえないよね。おいしかったありがとうって。俺のために買ってきたのにさ」

がっかりしているのがおかしかった。
もしかしてハローくんは甘いものが好きなのかもしれない。
食べられてしまったことは残念だけど、ハローくんのママも喜んでくれたのかと思うと自分が店員として提供しているものに愛着が湧いてくる。

「じゃあ、これ良かったら食べない?」

柚月はバックの中に入れていた紙袋を手渡した。

「もしやこれは」

先祖代々から伝わる古文書でも譲り受けたかのように丁重に受けとる。