夜の八時が近づき、ココナは閉店作業に取り掛かる頃だ。

柚月も残った商品を片付けようとすると
「柚月ちゃん、見てみて。なんか怪しいイケメンが覗き見してるんだけど」

社員の鹿石(シカイシ)さんに声をかけられて、顔を上げた。確かにガラス窓の奥からこっちをじーっとのぞき込むように見ている白い学ランの男の子が見えた。もしかしてと思った瞬間、扉が開き

「ココナちゃん」
「え、ココナちゃん」と鹿石さんが困惑するのも無理はない。お店の名前であって、柚月の名前ではない。それに気づかない様子で彼はレジに近づいてくる。

「あ、この前の……」
「この前はありがとう」とぶんぶんと柚月の両手を掴んで上下に振る。

思わず小声で「あの……ココナじゃないです。私の名前、柚月です。羽野(ハノ)柚月」と言い返した。

「柚月ちゃん。そっか、了解。ゆづちゃん。食べに来てって言ったから。まだ大丈夫?」
「あ、うん。本当に来てくれたんだ。大丈夫だよ。お店八時までだし」
「あ、じゃあもう終わりなんだ」と壁の時計を見る。

商品の数は多くはないが、簡単に説明をして聞かせた。男の子だし須長くんのように焼き芋とスイートポテトは同じようなものだと思っているかもしれない。